21 世界の果て
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:56 ID:AS2oiP52
- 21 世界の果て
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:57 ID:AS2oiP52
- 「世界の果てを見てくるよ」
それがごっちんの口癖だった。
帰ってきたごっちんにあたしはいつも聞く。
「果て見れた?」
ごっちん目を細めて遠くを見て
たいていこう言った。
「世界は広いねぇ」
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:57 ID:AS2oiP52
- まさかこんなことになるとは。
あたしは救急キットや簡易テントやその他もろもろが入ったリュックを背負いながら、
ぼーっと立っていた。
きらきら光る何かの降る、見渡す限りの白銀の世界を見ながらずっと震えていた。
しばらく呆然としていたが寒い。
動かないと。
今は風がないけどいつ風や嵐や何かがあるかわからない。
その時に体温を奪われる状況にあれば待っているのは凍死だ。
遠くに見える森のようなものを目指してあたしは歩き始めた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:57 ID:AS2oiP52
- いくつかの太陽いくつかの朝。
ごっちんは過ごしただろうけれど、あまりそのことをしゃべらなかった。
最初、同じ房に後から入ったあたしは色々なことに慣れるのに一所懸命で、
あまりしゃべらないごっちんのことは気にかけていなかった。
どこかに出かけているか、寝ているか。
人としゃべっているのをあまり見たことがなかった。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:58 ID:AS2oiP52
- 動いていれば体温が上がって楽になるけど、
エネルギーを簡単に使ってしまう気がして走ることはしなかった。
食料は一食分しかない。
幸い、楽に息をすることはできる。
森を目指す。
そこに何があるかなんて考えるだけ無駄だ。
何かがあればあるようにやっていくしかない。
じりじりと歩いていく。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:58 ID:AS2oiP52
- ごっちんがバンジーと呼ばれる刑務所内の仕事の
最多帰還者であることを知ったのは、かなり経った後のことだった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:58 ID:AS2oiP52
- 空間を一瞬で移動する技術が開発されたのは二世紀も前のこと。
しかし、物質を一瞬で長距離を移動させるのはよいが
なぜか数十時間後には元の場所に戻ってしまう。
帰ってくる時間に幅もある。
科学者や物理学者は何とか移動したままにしたいと色々手を尽くしたが、
かなわなかった。
今は一般の人には簡易な旅行の道具として使われている。
人類はすでに宇宙に飛び出した。
太陽系の人が住むのに適さない星の開発には大変な時間と金と手間がかかったらしい。
最初の人類に適した環境の星での開発は大変楽に行われた。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:59 ID:AS2oiP52
- 人類に適した環境の星を探すにはどうすればいい?
答え 人が住めるかどうかまず送り込んでみればいい
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:59 ID:AS2oiP52
- バンジー。
なぜそう呼ばれるのかは知らない。
最初はひどいものだったらしい。
死刑囚の死刑の代わりとして、まだ人の降りたことのない星へ強制的に瞬間移動。
体内、体外に仕掛けられた様々なセンサーの情報を
体内に埋め込まれたチップが記録していく。
あらかじめ、動物で実験しているにもかかわらず、
ほとんどが死への記録だったそうだ。
死んでも物体として数十時間後には帰ってくる。
生きて帰ってきても隔離して死ぬのをまつ。あるいは死刑にする。
チップのみを取り出して、隔離した空間の機械に入れたチップから情報を収集する。
チップから情報を収集した後の物体はゴミとして宇宙へ廃棄。
未知なる疫病、生物、毒物を恐れた結果だった。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:59 ID:AS2oiP52
- 数をこなすうちに次第に傾向と対策がつかめてきて、
人類に適していれば適しているほど開発が楽だという事もわかってきた。
囚人の数にも限りがある。
今は、飛んですぐ死ぬような星はまず選ばれない。
死ぬ理由は、生物、毒物がほとんどだ。
しかし、そこにいるだけでは何が危険で何が毒かわからない。
囚人たちは最初の一食のみ持たされて食べ物は現地収集するように言われる。
何もしないで数十時間待てるような場所にも送り込まれない。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 23:59 ID:AS2oiP52
- 同房のあたしたちが仲良くなったのは、別の囚人に絡まれているあたしを
みんなに一目置かれているごっちんが助けた時から。
ここの中ではとてもとてもありふれた話だ。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:00 ID:YBEz6q9Y
- 寒さの中で近づいてくる森を見ながらどうやって暖をとるか考える。
ごっちんはバンジーのことはあまり話さなかったな。
いや。
話したけれどそれは不思議な空の話だったり、
ありえない生物の話だったり、
抽象的な生きていく術の話だったり。
まじめに聞いていると、ごっちんはいたずらっぽく目を輝かせて
「まあでもほとんど嘘なんだけどね」
とか言って
「よしこはすぐ信じるよね」
とか言ってふわっと笑ったりする。
本当か嘘かよく分からない。
でも多分ごっちんの話したことは全部覚えてる。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:00 ID:YBEz6q9Y
- 「よしこー。
どんなにカードが乏しくても手の内にあるカードを使うしかないんだよ。
最大限に発揮させるだけ」
ごっちんの声がする。
でもそれは気のせいだ。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:00 ID:YBEz6q9Y
- バンジーでとてもたまにだが、帰ってこない囚人がいる。
死体や物体やチップとしても帰ってこない囚人が。
世界の果ての意味する事を知ったのは、
ごっちんがバンジーから帰ってこなかったその後だ。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:01 ID:YBEz6q9Y
- 形見分けと称してごっちんの使っていた物に群がる囚人達。
まるでいなかったかのように片付いたごっちんの房。
もしかしたら最初からいなかったのかも知れないな。
そんなことを思っていた時声がした。
「あー紗耶香ん時と変わらないねー。何もないや」
振り向くと背の小さい金髪の人がいた。
「紗耶香も帰ってこなかったんだよね」
あたりを見回して言う。
「ごっつぁんと仲良かったんだってね」
慣れ慣れしいその人を無視することに決め、自分の房に寝転がった。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:01 ID:YBEz6q9Y
- しばらくごっちんのいた房を見ていたその人がぼそりとつぶやいた。
「ごっつぁんは世界の果てを見れたのかねー」
心臓が鳴ってその人を見た。
自分を見たのを確認してからその人は何かを出した。
「はい、これ。」
四つに折りたたまれたそっけない白い紙。
「自分が帰ってこない時は渡すように言われてた」
そういって紙を渡すとじゃあと手を振ってその人は房から出て行った。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:01 ID:YBEz6q9Y
- 紙をひらくと
「世界の果てを見たよ」
とそっけない紙にそっけなく。
でも紛れもないごっちんの字で書いてあった。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:01 ID:YBEz6q9Y
- 森のようなものと思っていたのはどうやら土(と呼べるのかどうか)
で出来た塔のように高い何かだった。
自分の思う物とはまったく違うものだった。
本当のこの世界はどんな世界なんだろう。
一番高い塊に登りぐるりと見回す。
地平線の向こうでこの星の太陽が昇り始めた。
遠くでキラリと光るものがある。
川だろうか。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:02 ID:YBEz6q9Y
- 「世界は自分を見てないよ。世界を見てる自分だけ」
真実を見抜けないと生きていけない。
世界をしっかり見て生き抜けば、世界の果てが見えるだろうか。
あたしは塔を降り装備を確かめ川への一歩を踏み出した。
生き抜く決意を込めて。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:02 ID:YBEz6q9Y
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- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:02 ID:YBEz6q9Y
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- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 00:02 ID:YBEz6q9Y
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