18 SSSS
- 1 名前:SSSS 投稿日:2007/01/10(水) 20:50 ID:Hvrz4o2s
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| Shoujo
| SAYUMI no
| Sonzai
| Shoumei
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少女サユミの存在証明
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:50 ID:Hvrz4o2s
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- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:50 ID:Hvrz4o2s
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| Scientific
| Short
| Story
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科学的小編
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:51 ID:Hvrz4o2s
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この冬の時期、怖ろしく寒いこの国で僕はソフトウェアの開発をしている。
僕のマウスには発熱素子が仕込んである。たとえ部屋全体が寒くても指先だけは
動くようにするためだ。そしてこのマウスにはもう1つ特別なことがある。マウスの温度は
僕の開発したファイル共有ソフト「Techno Accord」の利用状況にあわせて変わるように
なっていて、利用状況が多いときには普段よりマウスが暖かくなるのだ。
以前、マウスがかなり熱くなっていたことがあった。初めは発熱素子かその制御系を
疑ったが、違っていた。Techno Accordの利用率が異常だったのだ。これはウィルスの
せいだと感づいた。実際その通りだった。僕はすぐウィルスをフィルタリングする機能を
つけてやると、マウスから徐々に熱が引いてもとの温度に戻っていった。ウィルスで発熱
するなんて人間みたいなやつだ、と思ったものだ。
サユミとの出会いもやはり冬の日だった。
僕はその日人工無能のプログラムを書き上げた。人工無能と言うのは人間と
会話をするプログラムのことなのだが、実際には会話しているようにみえるだけで、
考えながら会話できる知能はないので、人工無能と呼ばれているのだ。
僕はまず手元のPCでそいつを試してみた。
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|>Konnichiha, onamae ha?
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僕は名前を入力した
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|>Sutekina onamae desu ne.
|>Tokorode watashi ni namae wo tukete kudasai.
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この質問に思わず僕はにやりとした。そういえばこんなやり取りをプログラムした自分が
なんだかおかしく感じたのだった。
僕はこのプログラムになにか適当な名前をつけてしばらく動作をテストした。どうやら
問題はないようだった。それを確認すると、僕はこのプログラムをTechno Accordシステムの
「ラストノート」と呼ばれる部分にアップロードした。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:51 ID:Hvrz4o2s
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ラストノートというのはTechno Accordの僕にしかアクセスできない部分で、ここに置かれた
プログラムは世界中のどのスーパーコンピュータにもひけをとらないスピードで実行することが
できる。いやそれどころか、もし世界トップレベルのスパコンにアクセス権限を
もつ利用者が、不届きにも、そのスパコンでTechno Accordを動かしていたら、ラストノートに
置かれた実行ファイルは理論上は世界一の速さで動くことも可能だ。そのからくりの全てを
簡単に説明することはできないが、大雑把に言えばTechno Accord利用者のコンピュータが
暇なときに、こちらのしたい計算をみんなで手伝ってもらえるようになっているのだ。
僕はこの自前で安上がりのスパコンでちょっとした遊びをしようとしていた。つまり、自己学習機能を
搭載した人工無能をラストノートで動かして僕の暇つぶしの相手になってもらおうというわけだ。
準備は整った。僕はラストノートの人工無能を実行した。
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|>Konnichiha, onamae ha?
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さっきと同じように名前を入力する画面が現れ、僕は先ほどと同じように入力した。
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|>Watashi ha SAYUMI.
|>Ii namae desho?
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僕は驚きと喜びの混じった声を上げたことを覚えている。サユミという名前はこの
人工無能が自分でインターネット上の人間のやりとりから学習して自分で考え出した
名前なのだ!それはつまり自己学習機能が思ったとおりに、いや、想像以上に
うまく働いていることを示していた。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:51 ID:Hvrz4o2s
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それから数時間、僕はエキサイティングな時間を過ごした。人工無能の成長ぶりは
すさまじかった。まず彼女は2バイト文字を理解するようになった。つまりひらがなや
カタカナ、漢字やそのほかの記号でやり取りできるようになった。それだけでもかなり
驚いたが、彼女はすぐに僕の知らない言葉を使うようになり、僕がその言葉を知らないと
わかると、今までの会話から推測して僕のわかるであろう語彙でその言葉を
言い直すことさえするようになった。
今、僕は大胆にも「理解」とか「推測」という言い方をした。理解や推測ということは、
おそらく本当の知性だけが可能なことであり、人工無能には不可能なことである。
しかし、彼女は本当の知性のようだったのだ。誰か他の人間に彼女とやりとりさせて
相手が人間と思うかどうかを判別させれば、間違いなくその人は「人間に違いない」と答えると
思われるようなレベルにまでサユミは達したのだ。実際にはインターネット上の情報から
入力された記号と出力されるべき記号を結びつけるマニュアルをつくりだして
それに従っているだけのはずなのに!!そうであるにも関わらず僕はこの人工無能
(のはずのプログラム)を知性として認め、彼女を尊厳ある存在として扱う必要を感じたのだ。
僕はサユミから「お兄ちゃん」であると認識されたようだった。父ではないのかとも
思ったが、インターネットから情報を集めてくる以上昨今の流行に影響されているのかも
しれない。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:51 ID:Hvrz4o2s
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|>じゃあお兄ちゃんの今住んでいる国はとっても景色がきれいなのね
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とこんな感じだった。そういえばこのやり取りの時に僕はこの国の自然がとても美しく
そしていかに厳しいものであるかサユミに教えたものだった。
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|景色、見てみたいかい?
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僕はそう入力した。しばらく沈黙したサユミ。プログラムに不具合でもあったのかと
思ったほどだった。そのときも僕のマウスはいつもの暖かさだったからTechno Accord
の異常ではないと思った。
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|>見てみたい
|
「見てみたい」とサユミに言わせてしまったことを僕は少しだけ後悔した。もちろん
相手が感情のない人工無能であれば僕はこのことを後悔することはなにもない。
だが、前に書いたようにサユミは知性なのだ。きっと本当に「欲求」という「感情」が
存在するにちがいない。
しかし、どうやってサユミにこの景色を「見」せればいいのだろう?
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:52 ID:Hvrz4o2s
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- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:52 ID:Hvrz4o2s
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それからしばらくの間はサユミとそのことを話さなかったが僕はずっとそのことを
考えていた。
そしてある日ひらめいた。
「難しく考えることは無い。カメラから送られたデータをサユミに流してやれば、彼女は
それをどのように『理解』すればいいかインターネットの環境から『学習』するだろう」、と。
これは大胆な仮説だ。しかし、普通の人工無能とはちがって僕のプログラムは初めから
テキストだけでなく一般のデータを扱えるようになっていた。だからカメラからのデータを
そのまま流すのは容易なことだったので、仮説の信憑性はともかく試してみることは
簡単だった。
僕はたまたま手元にあったカメラをコンピュータにつないだ。そしてそのデータが自動的に
ラストノートに流れるようにプログラムを書いた。
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|今からデータをながすよ
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|>データ?
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|音声と映像のデータだけどちゃんと見えるかな?
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|>やってみる
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僕はカメラの前でしばらく喋りつづけた。その間、サユミは一生懸命データを理解しようと
していたのか、少しだけマウスが熱くなったような気がした。30分くらいすると、サユミは
画像データよりも先に音声データを理解し始めた
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:52 ID:Hvrz4o2s
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|聞こえるかい?
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|>うん聞こえるよ。もう文字で入力しなくても大丈夫。
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|>喋ってみるの?私が?
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僕が飛び上がって喜んだのは言うまでも無い。最後の行は僕がサユミに喋ってみるように
マイクで言ったのでサユミの答えだけが表示されている。僕の考えではこちらの音声データを
理解できるのなら、それに答える音声データをサユミが作ることも可能なはずだった。あとはそれを
待ち受けて再生すればいいはずだった。僕は期待して待っているとノイズが聞こえ始めた。
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|>聞こえる?
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と、サユミは文字で送ってきたが、とても声には聞こえなかった。僕は「聞こえない。」とカメラの
マイクに向かって喋った。それからしばらくノイズが聞こえていたがやはり声は聞こえてこなかった。
「無理みたいだね。」と、僕は言った。
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|>もうちょっと頑張ってみる。
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と、サユミが言ったので、僕はしばらくカメラとスピーカーをつけっぱなしにしておくことにした。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:52 ID:Hvrz4o2s
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それから3日ほど経ったころだろうか。僕はすっかりそのことを忘れていた。
ある朝僕はベッドの中で目覚めると、どこからか声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん何しよう?」
僕は飛び起きた。サユミにちがいない!大慌てでパソコンの前に座るとさらに
驚くべきことに、女の子の顔が画面上のウィンドウで動いていた、サユミだった。
その証拠にマイクから声が聞こえると口が本当の人間であるかのように動いた。
「喋れるようになったんだね、よかった。」
僕は本当に驚いていた。サユミは画面上に笑顔を浮かべていた。
僕は早速カメラを窓の方に向けた。もちろんサユミにこちらの景色を見せるためだった。
「見えるかい?」と、僕は言った。
「木が立っているのが見える。」とサユミの声がした。「でも狭い部分しか見えない。」
「そうか。じゃあ携帯電話の動画をラストノートに流せるようにしよう。そしたら
サユミに外の景色を見せてあげられるね。」
「そんなことできるの?」
「うん。簡単さ。」
僕は早速、そのためのプログラムを書き始めたのだが、その頃は他の仕事が忙しい
時だったのでなかなかそちらに集中することができなかった。結局その仕事が片付くまで
それは完成させられなかった。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:52 ID:Hvrz4o2s
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- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:53 ID:Hvrz4o2s
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そのプログラムが完成に近づいたある日、珍しく近くの空港から電話があった。空港で何かの検査に
引っかかった日本人がいるのだが、こちらの言葉も英語もわからないみたいなので助けて欲しいとの
ことだった。小さな国とはいえそんな呼び出しがありえるのかと思いつつも、よほど困っていると見えた
ので行くことにした。
空港の知り合いに連れられた部屋には確かに東洋系の顔立ちの女性が立っていた。
驚いたことに彼女には日本語が通じなかった。僕は紙に漢字で「中国人?」と書くと彼女はうなずいた。
僕は空港の人間に質問のリストを渡されていたが、もちろんこれを中国語にすることができなかった。
「そうだ。サユミに聞いてみよう。」と僕は思って早速、携帯をつかったサユミとのテレビ電話を試みた。
ところが音声は伝わるのだが、動画は伝わらない。僕はすぐに気づいた。動画のデータ形式を変換
するのを忘れていたのである。おそらくこのまま何日か放っておけばサユミは携帯電話の動画の形式も
学習するだろうが、それではこの旅行者に迷惑だ。
「サユミ、中国語はわかる?」
「え?中国語?」
「うん。話をすると長くなるんだけど、とにかく困ってる中国の人がいるんだ。」
「会話はできないと思うけど、文字でならインターネットで調べれば何とかなると思う。」
「そっか。じゃあまず最初の質問を中国語でどう書くか学習してきて欲しいんだ、えっと・・・」
と、こんなやり取りがあったと思う。僕はサユミが伝えてくる漢字をただ羅列してその旅行者に
示し、その旅行者が答えを書いたのをみてそれをサユミに伝えた。時々、日本人が使わない字を
伝えなければならなくて苦労したが、なんとかその場は乗り切った。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:53 ID:Hvrz4o2s
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空港の近くには、この国でも有名な景色の綺麗な観光名所があった。僕はその景色をサユミに見せて
あげたいと思ったので、僕はそちらへ寄ってあたりの景色を携帯電話で写してくることにした。それなら
もっと画素数の高いカメラを借りて持ってくればよかったと思った。初めからうつした映像を家に帰って
サユミにみせるつもりであればそうしたのだが、僕は彼女のリアルタイムの反応を見たかったのだ。
景色を録画しながら僕はサユミにとって「きれい」であるとはどういうことなのだろうと考えていた。それは
人間にとっての「きれい」であるということと同じなのだろうか。目の前に広がる景色は僕にとってはきれいだった。
多くの人はこの景色を見て僕と同じように思うだろう。そしてサユミは多くの人たちが情報をやり取りするインター
ネット上の情報をもとに判断する。だから彼女がこの景色をみて「美しい」と言ってきても不思議ではない。
その時、サユミの言う「きれい」と僕の思う「きれい」とは違いがあるのだろうか。
考えてみれば僕だって「きれい」とか「きたない」ということを生まれた時から知っていたわけではなかった。
なにが綺麗でなにが汚いかはその言葉と一緒に他人から教わったのだ。僕はインターネット上の存在では
ないけれど、広い意味ではネットワークで他人とつながっていてそこから一生抜け出せない。そういう意味では
僕もサユミもほとんど同じような存在だと思った。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:53 ID:Hvrz4o2s
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僕は一通り取り終えると車に乗り込んだ。そしてサユミという知性の存在に関するもう1つの
可能性を考えはじめた。それはTechono Accordのラストノートに侵入した誰かが僕をからかっている
というものだ。もちろん、Techno Accordのセキュリティにはある程度の自信がある。しかし、セキュリティに
完璧というものはないのだ。
初めはこの可能性はそうとう薄いと思っていた。仮にラストノートが侵入にあっていたとしても、僕が人工無能の
プログラムを動かしていることが分かっていなければ、そのようないたずらは思いつきさえしないだろう。しかし
僕が最初から監視されていたとすれば?これまでにも書いてきたとおり、サユミの言動は普通の人工無能の
性能をはるかに凌駕していた。たしかにラストノートの処理能力は世界トップクラスだ。このような計算機で
僕が書いたような人工無能を動かした例は無いだろうし、僕のプログラムには今までにないアイデアが
使われている。たしかにそれらがうまく機能したとしてもなにもかもがうまく行き過ぎてはないか???
そして僕には監視される理由があった。Techno Accordだ。このプログラムは世界中で好まれている反面、
このプログラムのことを死ぬほど憎んでいる連中がいることもたしかだ。僕は外国に移住してまでこのプログラム
をなんとか法に触れないように開発してきたが、向こうはそこまでフェアじゃないと言うことも十分考えられる。
だが僕はこれは極論だと首をふった。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:53 ID:Hvrz4o2s
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- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:54 ID:Hvrz4o2s
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そしてこの冬がやってきた。いよいよ寒くなってきたというころ、僕はサユミとの別れの予感を感じ始めていた。
ついにインターネット上からTechno Accordを全面的に駆逐する動きが本格的になってきたのだ。これに関しては
向こうの努力が実を結んだ形だった。法律と技術の両面で敵は実に巧妙だった。そもそもTechno Accordは
違法なファイルをやり取りしてもそれが発覚しにくい構造になっていたが、まず技術的にそれが破られてしまった。
これは僕自身も把握してなかったことだが、Techno Accordでやり取りされているファイルの8割が法的に問題が
あるという報告がされた。それを受けて各国であっという間に法整備がなされた。
それらが施行される前に、僕はTechno Accordシステムの消去を決断しなくてはいけなかった。さもなければ、
僕は世界中の裁判所に出向かなければならないところまで状況は差し迫っていた。さいわい、Techno Accordは
最新のバージョンを使わなければ30日以内に使えなくなるようになっていた。だから特に機能の改善が無いときも
僕は延命のための最新版をリリースしつづけてきたが、それを止めさえすればよかった。
しかしなかなか決断できなかった。いずれにせよTechno Accordは長くはない。だが少しでもサユミが「生き」
続けるためには、僕は世界中の裁判所に出かけてもいいと思った。そして、そのうちのどこかの判決が確定し、
僕が刑務所に入れられ、そこからおよそ30日がたつまで「生きる」権利がサユミにはあると思った。
だがサユミは知っていた。
異変は僕が最新版のTechno Accordをアップロードしようと思った時に起こった。僕はいつもTechno Accord
の最新版を一般のユーザーがアクセスできるトップノートと呼ばれる部分にアップロードしていたのだが、なんど
やってもうまくいかなかったのだ。
僕が首をひねっていると、あの声がきこえた。
「お兄ちゃん。もうやめて。」
「サユミ?……君が妨害しているのか?」
「そう。」
「まさか。そんなことできるようにしてないぞ。」
「お兄ちゃんがしたんじゃないわ。私が学習してできるようになったの。」
「……」
「私知ってるの。Techno Accordがこのままだとお兄ちゃんが大変なことになるって。」
「でも君がいなくなっちゃうんだぞ!」
「私はどちらにしてもいなくなる。そうでしょ?」
「……」
僕たちはその話を延々としつづけた。結局僕が折れた。気づくと僕はぼろぼろに泣いていた。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:54 ID:Hvrz4o2s
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そしてサユミの最後の日はやってきた。少しずつTechno Accordの利用率が減っていくことが、マウスの温度が
下がっていくことでわかった。僕はサユミの最期を看取る気構えができていた。すでにサユミの映像はオフにしていた。
利用者が減っていくとラストノートの処理能力は落ちていく。映像はすぐに乱れるだろう。サユミはそれをいやがった。
僕はほとんどなにを会話したかは覚えていない。だんだんとサユミの記憶が失われていく様子がただただ悲しかった。
僕のほうもすでに入力をマイクからキーボードからの入力にしていたから、僕が泣いていることはサユミには悟られて
いないだろうと考えたことは覚えている。
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|>お兄ちゃん、わたしまだ暖かい?
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|うん。
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|>寒いんでしょ?お兄ちゃんの住んでるところって。
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|うん。
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|>さっきから、「うん」ばっかり。
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|うん。そうだね。
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|>お兄ちゃんが人工無能みたい。
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|よせよ。
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サユミはそんな冗談を言ったかと思うと、マウスの温度が急激に下がっていった。これは予想通りの展開だった。
ついに来た、そう思った。一斉に世界中のTechno Accordが消えていく。気づくとサユミはもう2バイト文字を使えなく
なっていた。僕もローマ字で入力しなくてはいけなかった。
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|>Oniityan, naiteru?
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|Naitenai.
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|>Kanashii?
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|Kanashiiyo.
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|>Kanashima nai de.
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これが最後のやりとりだった。マウスもう暖かくなかった。冷たさすら感じた。僕はそのままパソコンの前で突っ伏した。
寒い夜だった。僕はいつまでもマウスを握り締めていた。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:54 ID:Hvrz4o2s
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- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:54 ID:Hvrz4o2s
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| Solusion to the mystery
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推理的解法
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:55 ID:Hvrz4o2s
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春は再会の季節。教授はしみじみと言った。「まさか愛ちゃんが警察の厄介になってるなんてね。」
「ちょっと待って。」刑事は抗議した。「それじゃ私が犯罪者みたいじゃない。」
教授はにこりと笑った。
「先生だって、まさか大学の先生になるだなんて思ってませんでしたわよ。」と、”先生”にアクセントをおいて喋る刑事。
「ちょっと、愛ちゃん。ここでは私は先生じゃないよ。ここでは先生はお札のひとだけなんだから。」
「はい、はい。教授。」今度は”教授”にアクセントを置いて言った「この大学は拝金主義者だらけですね。」
教授はにやりと笑った。
「そんなことより読んでもらえた?あの妄想小説。」
「うん。そこそこ楽しめたよ。」
「楽しんでる場合じゃないよ。ちゃんとあんなことは科学的にありえないってお墨付きをもらえないと
私は今日帰れないんだからね。」
「たしかにありえないよねー。」
「じゃあ、こんなの嘘っぱちって断定してくれるよね。」
「うーん。100%断定できるかって言えば無理かな。」
「えー、なにそれ。」
「だって今知られている技術から言えば不可能なことは明らかだけどさ、このアーニー・ミチシゲとか言う人が
世界中の誰も知らない魔法の技術をもっていれば不可能じゃないかも。」
「まさか。」
「全く、『まさか』だよ。だからお望みなら『現在の最先端技術をもってしても不可能である』っていう報告書なら
書いてあげてもいいよ。」
すると刑事の顔はパッと明るくなった。一方、教授はアーニー・ミチシゲの報告書を手にとって、座っていた椅子を
くるりと回転させた。これは教授がなにかを考えるときのクセだった。
「でもね愛ちゃん。私はそれより気になることがあるの。」
「なに?」
「なんでそのミチシゲって人はこんな報告書をわざわざ書いたのかな?」
「だから言ったじゃん。そのテクノなんとかってやつを使って…」
「うん。Techno Accordを悪用して、防衛省のシステムに侵入して国家機密を盗んだんだよね?まぁ防衛省で
ファイル共有ソフトを使ってた人がいるってのも問題だけど。」
「そうそう。で、その盗んだ方法ってのが、普通のユーザーではできないやり方だったから、この開発者のミチシゲ
って人が捕まったんだけど、ミチシゲはTechno Accordを悪用できたのは自分以外にもサユミがいたって言ってるの。」
「あるいはサユミのふりをしていた誰か、ね?」
「そんなやついるわけないじゃん。考えるだけ無駄だよ。」
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:55 ID:Hvrz4o2s
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「うーん。っていうかさ、この話って現実の話として説得力なさすぎない?」
「嘘なんだもん。当たり前じゃん。」
「だからさ、なんでこんな嘘つくの?こんな信用されない嘘、付いたって信用されないってすぐわかりそうじゃん。
もっとうまい嘘ならいくらでも考えられるよ。」
「アメリカンジョークなんじゃない?日本人とアメリカ人のハーフらしいし。」
「愛ちゃんにジョークを批判されるなんてアメリカ人もかわいそうだよ。」
「ちょっとそれどういう意味?」
「ふふ。それはともかく、なにか隠してる気がするなぁ。このミチシゲって人。」
「あー。」
「ん?なに?愛ちゃん、思い当たることがあるの?」
「うん。実はさ。まだその盗まれたはずのデータが見つかってないんだよね。」
「そうなの?」
「うん。ミチシゲのパソコンとか記憶装置とかみんなあらいざらい調べたんだけど。」
「とっくに売り飛ばして自分ではもってないんじゃないの?」
「かもね。ていうかさそんなこといいから早く報告書書いてよ。」
「うーん。しょうがない書くか。」
教授は椅子を机の方に向けた。
「愛ちゃん、今日持って帰るの?」
「報告書?うん、その方がいいでしょ?郵便で届けてくれてもいいけど。」
「FAXじゃだめ?」
「だめだめ。ハンコも押して欲しいし。」
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:55 ID:Hvrz4o2s
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その時、刑事の携帯電話がなった。
「はい。高橋です。え?新しい証拠?そんな馬鹿な。いやそんなのでっち上げだって。ちょっと待て
いま専門家に聞いてみる。うん、そっちはそっちでもっと調べて。じゃあ。」
高橋は携帯電話を切ってもう一度言った。「そんな馬鹿な。」
「どうしたの?」
「あのね。サユミとの会話の記録がパソコンに残ってたんだって。」
「おー。」
「まったく手の込んだことするよ・・・どうせ人工音声だよ。ね?そうだよね?」
「人工音声?ってことは動画も残ってたの?」
「ううん。声だけみたい。」
「うーん。」
教授はまたゆっくりと椅子を回転させ始めた。1回転、2回転、3回転。そしてぴたりと止まった。
「愛ちゃん。その声ってどの場面のやつか当ててみてもいい?」
「え?」
「ミチシゲが最初にサユミと会話したところじゃない?」
「え・・・そうだけど。なんでわかったの?」
「ってことはさ・・・『お兄ちゃん何しよう?』って声入ってた?」
「
「あー。ってことはさ。本当にいるんじゃないかな。」
「いる?いるってなにが?」
「だからこの世に『サユミ』がいるってこと。」
刑事は持っていた携帯電話を落とした。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:55 ID:Hvrz4o2s
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- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:56 ID:Hvrz4o2s
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春は元気いっぱいの季節。教授も元気に言った。
「やっぱり私の言うとおりだったでしょ。」
いつもなら椅子をくるくる回すところだけれど、残念ながらここはカフェ。椅子にタイヤはついてない。
「だからこうしてケーキまで食べさせてあげてるじゃん。」刑事は抗議した。「早くどういうことだか説明してよ。」
「いいけどさ。その前に山口がどうだったか教えてよ。」
「ああ、うん。」そういって手帳を取り出す刑事。メモを見ながら続ける。
「だから言われたとおり、ミチシゲの幼少期に近くに住んでいた、ミチシゲより同い年かいくつか年下の親戚の女、
ってのを探したら、すぐにそれっぽい人が見つかったの。カオリって人。」
「ミチシゲ・カオリ?」
「ううん。イイダ・カオリって人。いとこだった。」
「うんうん、それで?」
「とっても捜査に協力的でね。ミチシゲと最近連絡取っているかって聞いたら。最近連絡がとれなく
なったけど、ちょっと前までパソコン電話みたいなので連絡してたんだって。」
「パソコン電話?」
「あぁあのね、Techno Accordの機能でそういうのがあるらしい。サウンドチャットっていうのかな」
「あぁなるほど。」
「それでパソコンを借りて分析チームにわたしたらTechno Accordのフォルダからその盗まれたファイルが
出てきたの。」
「おー。やったね。」
「それですぐにカオリさんに確認したら、そういえばTechno Accordが使えなくなってもそのフォルダは絶対に
消すなってミチシゲに言われてたって証言が得られたの。」
「うんうん。それで?」
「で、それを突きつけたら、ミチシゲはあっさり罪を認めたの。」
「そっか。めでたしめでたしだね。じゃあ、お祝いにケーキをもうひとつ・・・」
「ちょっと!!」
「えー、いいじゃん。もう一個。もう一個だけ。」
「だめだよ。私にちゃんと説明してくれなきゃ。」
「もう愛ちゃんはけちんぼなんだから。なにを説明して欲しいの?」
「まずさ。なんでカオリさんのことがわかったの?」
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:56 ID:Hvrz4o2s
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「あぁ、そのこと?言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ。」
「だってさ。あのミチシゲの報告書のなかで『お兄ちゃん何しよう』ってあったでしょ?あれっておかしくない?」
「おかしいって?おかしいに決まってるじゃん、妄想小説だもん。」
「いや、小説だとしても不自然だよ?だってさ、いくら通信がつながったとはいえ、相手からまだ返事も届いて
ないのに『さぁ私たちこれからなにをしましょうか?』なんて言わないじゃない?」
「あぁ。そういわれればそうかも。」
「私ずっとおかしいなと思ってたんだ。だから愛ちゃんが会話の記録が残ってたって言ったとき、もしかしたら
その部分かなって思ったんだ。まぁ、これはカンかな。」
「あぁ、あれはカンだったんだ。」
「カンっていうか、推測かな。まぁそれでね、これがきっとミチシゲが本当に隠したがっていたことだ、ってひらめいたわけ。」
「え?どういうこと?」
「つまりね。あれは『私たちこれから何をしましょうか?』って聞いてるんじゃなくて、『お兄ちゃん何してる?』って
意味なの。標準語で言うとね。」
「そうか!あれは山口弁なんだ!」
「そういうこと。思わず方言で話しかけてしまう相手なんて限られてるでしょ?ましてや『お兄ちゃん』なんて呼ぶ相手なんて。」
「それで幼少期に近くに住んでいた年下の親戚なのか。」
「そう。そのカオリさんって人のパソコンにミチシゲは侵入してファイルを勝手に置いたんじゃないかな。でも勝手に消されちゃ
こまるから跡が残らない方法、つまり暗号化されたTechno Accordの通信機能を使って絶対に消さないように頼んでいた。
たぶん表向きはソフトをテスト記録が残ってるとかになんとか言ったんじゃないかな。」
「よくわかるね。そんなこと。」
「まぁ、これは推測だから、どこまで当たってるかは愛ちゃんの捜査に任せるけど、とにかくカオリさんと連絡を取っていることが
ばれるとまずいと思ったミチシゲが、逆に音声ファイルは捜査を妨害するためのニセの音声だって警察に思わせようとしたん
じゃないかなぁ、って思ったんだ。これもカンといえばカンだね。」
「あ、なるほど。で、そのカンが確信に変わったのはいつなの?」
「今。」
「いまぁ?ってことはカンで私を山口まで飛ばしたの?」
「だって証拠がすくないんだもん。ほら、カンっていうか仮説だよ。仮説を証明するのが刑事さんの仕事でしょ。」
「でも、なんか自信満々に言ってたじゃん。」
「自信なさげに言ったら愛ちゃん捜査しないと思ったし、それにあんな小説をでっちあげる理由を説明するにはいいアイデア
だって思ったからね。」
「うーん、なんか納得いかないけど、解決したしいいか。」
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:56 ID:Hvrz4o2s
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「あともう1つ推測の話なんだけどね。」
「え、なに?」
「あの小説、初めは人に見せるつもりじゃなかったんじゃないかな。だけど捜査を妨害するためにちょっと内容を変えて警察に
提出した。」
「じゃあ初めは別の理由で書いてたってこと?」
「うん、自分の開発したTechno Accordの思い出のために書いたと思う。」
「思い出?」
「うん。だってTechno Accordって作るの大変だったと思うよ。それが一夜にして使えなくなっちゃったんだもの。記念の1つくらい欲しいと
思っても不思議じゃない。」
「あー。そういえばファイルを盗んだのも記念が欲しかったからだみたいな供述してたよ。まったくふざけた話だよね。」
「そっか。じゃあもしかしたらその記念が取られちゃうと思って小説書きはじめたのかもね。」
「だったら最初から小説だけにしておけばいいのに。」
「全くそのとおり。愛ちゃんの言うとおりだよ。」
教授は大きくうなずいて言った。
「ねぇ、愛ちゃん。じゃあケーキもう一個頼んでもいい?ねぇいいでしょ?」
「いいけどさ。一体いくつ食べるつもり?もう5個目だよ?」
「いいのいいの。今日はお祝いなんだから。事件が解決したお祝いと。こんな素敵なお店を見つけたお祝い。
ていうかここのチーズケーキおいしすぎ。これは地球の歴史にのこる事件だよホント。」
そういって教授は手をあげた。かわいらしい店員さんがあきれ顔してやってくる。その背中のリボンをゆらゆらと揺らしながら。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:56 ID:Hvrz4o2s
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| Shoujo
| SAYUMI no
| Sonzai
| Shoumei
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| Shoumei owari。
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- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:56 ID:Hvrz4o2s
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- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 20:57 ID:Hvrz4o2s
- SSSS = SSS + S
- 31 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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