16 シネマ

1 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:20 ID:zqlttumE
16 シネマ
2 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:21 ID:zqlttumE
木枯らしが吹き抜ける真冬の公園の木の下、長いマフラーをくるくると首元に巻きつけて
スカートをはためかせて私の目の前で、血まみれのナイフを片手に
ぼんやりとした黒目で私を見つめる加護ちゃんは、まるでなんかの映画の登場人物みたいだった。
「わざわざ呼び出してすまなかったね、でもこういうことだから」と加護ちゃんはこんな状況
とは思えないくらい落ち着いた声で言った。
「どうしてこんなこと」と私は尋ねた。もうすぐ死ぬんだ、と言うことに対しての
恐怖や焦燥は感じなかった。逃げようとも警察を呼ぼうとも思わなかった。
ただ純粋にそこにいる加護ちゃんという存在が不思議でならなかったのだった。死ぬ前に
解き明かすべき謎みたいに思ったのだった。
3 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:21 ID:zqlttumE
「わたしは復帰したかったのであった。」とさらりと加護ちゃんは小説口調で喋りだした。
そしてそんな加護ちゃんの足元で辻ちゃんがビクっと痙攣した。どうやらまだ辛うじて
生きているみたいだったが、ドクドクと胸から噴出している血の量からするとおそらくそう
長くはないだろうと思われた。そしてそんな辻ちゃんを軽く見下ろしながら加護ちゃんは
痛ましげに笑って見せた。
「みんな死ねば、わたしが復帰出来る。シンプルな発想だよ。」
4 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:21 ID:zqlttumE
「復帰したいから殺したの」と私はたずねた。
「それだけじゃないけど。」と加護ちゃんは答えた。
きっと二人の間には私なんかが知らない色々なことがあったのだろう、と改めて
感じさせるような表情を加護ちゃんはしていた。しかしそんな表情もすぐに消え、こちらを
向いた加護ちゃんは小悪魔としか表現出来ない悪戯っぽい顔で笑うのだった。
「で、もうすぐ君も死ぬわけだけど、何か悲鳴とか遺言とかないの」
5 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:22 ID:zqlttumE
「特に無いけど」と頭を振った。言われてみたらそんなものかもしれなかった。芸能人である
私たちにとって死ぬこととは一体なんだろう、そんな関係ありそうでないことを一瞬、考えた。
それから「辛くないの」と私は聞いた。加護ちゃんは一瞬なんのことか分からなかったらしく
戸惑った顔をしてから、ニッコリ笑って「大丈夫です、お気遣いありがとう、ごっちん」と言った。
「冗談じゃないよ」と、不意に足元で弱弱しい声がした。
6 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:22 ID:zqlttumE
見ると辻ちゃんが薄く目を開いて加護ちゃんを見上げていた。
「ソロ組皆殺しにすればアイボンが復帰ってこと?……なんであたしが……。」
瀕死の辻ちゃんはそうぼやきながら、しかしどこかこの状況を楽しんでいるみたいにも
思えた。確かにそんな風に見えたのだった。
「ごめんね。でもあたしノノのおかげで分かったんだ」と加護ちゃんは辻ちゃんを見下ろしながら
甘えた声で笑った。「やっぱ人殺すのって大変だなあって。あたし向いてないかもって。」
「人のこと、殺しといて、笑ってるよ。アホだよ。この人。」と辻ちゃんは言った。そして笑おうと
したらしいが声にはならずに血のかたまりのようなものをゆっくりと吐き出して、照れくさそうに
首だけで私のほうを向いた。
「ごっちんもぼーっとしてないで救急車っくらい呼べよなあ」と言って辻ちゃんはこときれた。
7 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:22 ID:zqlttumE
「死んじゃったね」と私は言った。
「そうだね」と加護ちゃんは答えた。
そうしたら急に静かになったような気がした。
私たちを包む空気が死の臭いに変わったような、そんな気がした。そんな風に言おうとも
思った。けれど加護ちゃんは言わなくても分かったみたいだった。
「そろそろ終わりにしてもいいかな」と加護ちゃんは言った。「もういい加減疲れたし」
8 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:22 ID:zqlttumE
私はぼんやりと頷いた。何も言うべき言葉が見当たらなかった。加護ちゃんはそれで
安心したように今までブラ下がっていた木の枝から片手を離した。木の枝が軋み
木の葉がサラサラとこすれあう音を立て、マフラーがなんとも形容しづらい音を立てて締まった
ほかは何一つ音もしなかった。遺言一つ残さずに、悲鳴ひとつ上げずに木枯らしが吹きぬける
真冬の公園の木の下、長いマフラーをくるくると首元に巻きつけて、スカートをはためかせて
私の目の前で、血まみれのナイフを片手にぼんやりとした黒目で私を見つめる加護ちゃんは、
まるでなんかの映画の登場人物みたいだった。
9 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:23 ID:zqlttumE
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10 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:23 ID:zqlttumE
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11 名前:16 シネマ 投稿日:2007/01/10(水) 06:23 ID:zqlttumE
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