13 借りパク
- 1 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:11 ID:JNEsiHeU
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13 借りパク
- 2 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:19 ID:JNEsiHeU
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最初は確か、消しゴムだったと思う。
◇◆◇◆◇
- 3 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:22 ID:JNEsiHeU
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じゃあ、ばいばい。またね。
たった一言で終わった。
むしろ、その一言で終わらされた?
どうして…なんていくらか冷静になった頭に
その疑問はいくらでも浮かんできたけれど、
それに答えてくれる人はもう居ない。
もう二度と聞くことなんか出来ない。
そんなことは分かっていた。
ただ、あのふにゃりとした笑顔だけが忘れられないのだ。
あの子にもう会えないなんてタチの悪い冗談だとしか思えない。
現実味のないままに重い足を引きずりながら
家に帰って薄暗い部屋でいつもの習慣どおりに
携帯電話を取り出すと、あの子から一件、メールが届いていた。
じゃあ、ばいばい。またね。
たった、一行。それだけ。
字数にしてみてもたったの十三文字。
彼女の遺言はそれだけだった。それ以下もそれ以上もない。
何に気をつけろというのも無ければその意味も表示されていない。
自殺した友人からのメール。その言葉。思わずゾッとした。
親友に残していく言葉がこれだなんて、あまりにも後味が悪すぎる。
受信時刻を見てみると14時38分。私があの子を見たのは放課後だったから確実に16時は過ぎているわけだ。
おそらく彼女は私に会えないつもりだったから私の携帯電話にこの言葉を残していったのだろう。
- 4 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:23 ID:JNEsiHeU
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一番最期。
私はあの子の死んだその瞬間を見ている。
最も高いところの屋上、フェインスの向こう側。
彼女は私を見つけると少し驚いた顔をして直後、ふにゃりと嬉しそうに笑った。
真っ赤な色をした薄い唇がゆっくり動く。その意味は結局分からないままで、
フィエンスに絡んだ指がほどける。
斜めに傾いたオレンジ色の太陽に溶けるようにゆっくりと地に落ちていった彼女。
その後にじわりじわりと咲いた真っ赤な花。あのとき、彼女は確かに笑っていた。
- 5 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:26 ID:JNEsiHeU
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◇◆◇◆
- 6 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:26 ID:JNEsiHeU
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「じゃあ、席は新垣の隣だな」
ぼんやりと窓の外を眺めている時、
不意に名前を呼ばれて思わず肩が跳ねた。
慌てて教壇を見るとそこには見慣れた黒板と担任と、
見慣れない少女がひとり人見知りをしているように薄くはにかんでいた。
肩までの黒い髪の毛に八の字眉、少し上がった口角。
純和風という言葉が良く似合う顔の作りをしていて、
割と男好きのしそうな風貌だと思っていたら
案の定一番前の席の小林君あたりは
彼女に見惚れているのが丸分かりだった。
そのまま担任に促されて、少し戸惑いながらその空席に腰を下ろした彼女は
私の顔を見るとやっぱり困ったように笑う。それにつられて会釈をすると
ぎこちない笑顔がほっとしたように緩められた。
「はじめまして、よろしくお願いします」
甘い声をしているな、と思った。
- 7 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:28 ID:JNEsiHeU
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- 8 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:31 ID:JNEsiHeU
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「ガキさんガキさんガキさん!!!!」
「あーうるさいなあぁー。聞こえてるってば」
初対面の印象はなんのその。
4年経った今、彼女はあの真っ黒な長い髪をばっさり切って茶髪のショートにしてみたり
色を戻してみたりまた髪の毛を伸ばし始めてみたり色々イメチェンをしていたらしいが
紆余曲折を経て、結局は今の黒髪のセミロングに落ち着いている。
どうやら、当時の幸薄い印象がイヤだったらしい。
まあそのイメージを払拭したという点では大成功だったのかもしれないけど、
今度はただのアホだという印象になっている事については
おそらく彼女自身、気づいてないと思う。
「大変だよガキさん!」
「…何が?」
「絵里消しゴム忘れちゃった!!!」
そんな彼女が恐ろしく真に迫った顔をしていたので
何かあったのかと思わず身構えてしまったのに
その口から吐き出された言葉に思わず落胆してしてしまった。
やはり、ただのアホに違いない。
それに、今日は試験の日だ。
なのにこんな日に消しゴムを忘れてしまうなんて
全くおっちょこちょいにも程がある。
おっちょこちょいなんて久しぶりに聞いたよーなんて
へらへら笑ってるこの目の前の人間にはやはり危機感というものが
欠落しているようにしか見えない。
「じゃあ、はい」
ひとつためいきをついたあとに
予備に持っていた消しゴムをその手に乗せる。
と、彼女は驚いた顔をして私を見た。
「しょーがないから貸してあげるよもー」
そう言うと驚いた顔は一瞬で緩められる。
たった、それだけの仕草だったんだけど。
はじめて出会ったあの日の事が思い浮かんだ。
くにゃくにゃした嬉しそうな笑顔。
薄い唇から漏れる声は
「ありがとぉ、ガキさん」
やっぱり、甘いままだった。
- 9 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:32 ID:JNEsiHeU
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◇
二回目はお気に入りのDVD
◇
- 10 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:35 ID:JNEsiHeU
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「ねえ、ガキさん」
「んっ?」
ある日、彼女の家に行った。
友達とはいえ他人の家に上がりこむことが
あまりなかった私からしてみればそれはすごく珍しいことだった。
といっても、それは彼女の強引さのせいだ。
最初は単なる雑談にすぎなかった。
その内容と言えばとりたてて珍しい話題だったわけでもなく
わりとよくある世間話のひとつで、確か最近の映画の話だったと思う。
彼女が見たいと言っていた映画のDVDを持っていると言ったら
その瞳がものすごく輝いたところまでははっきり覚えているんだけど、
あれやこれやと話しているうちに気が付けば彼女の家に行くことになっていた。
だから、決して自分から彼女の家に
行きたいなどと言ったわけではない。
- 11 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:37 ID:JNEsiHeU
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なのに、私が彼女の家のインターフォンを鳴らした時、
彼女は赤いチェックのパジャマ姿に寝癖がついた頭で目を擦りながらドアを開けてきた。
そして、しばらく目をしぱしぱさせたあとに私の顔をまじまじと見ると
面白いくらいのテンパり具合を披露してくれたのだ。
どうやら自分で家に誘っておいて
そのことをすっかり忘れていたらしい。
常識で考えればありえない話なのだが、
彼女なら納得できてしまうのが悲しいところだ。
しばらくして、見苦しいものが
一気に押し込まれた背後のクローゼットを
気にしながら私が鞄の中からそのDVDを取り出すと
彼女は凄く期待に満ちた表情でそれを見ていて、そこまで喜んでくれるのなら
持ってきて良かったかなと少しぬるくなった麦茶を飲みながらそう思った。
「これ、気に入ったんなら貸すよ」
だから帰りがけに
そのDVDを彼女に手渡したのだ。
ずいぶん気に入ったようだし、
何度も見たほうがまた新しい楽しみができる。
するとやっぱり彼女は少し驚いた顔をしたあとでふにゃっと笑った。
思えば私はこの屈託のない笑顔がとても好きだったのかもしれない。
そして、また言うのだ。
「ありがとう、ガキさん大好き」
そう、あの甘い声で。
- 12 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:38 ID:JNEsiHeU
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◇
三度目は好きな人
◇
- 13 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:41 ID:JNEsiHeU
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「ガキさぁーん…」
「はいはい?」
冬は人肌恋しくなる季節だと聞いた。
だからなのかもしれない。彼女が急にそんなことを聞いたのは。
ガキさんって、好きな人いるの?
その質問に思わず飲んでいたコーラを噴き出した。
今まで全くそういう話をせずにここまできたのだ、
いきなりそんな事を聞かれたら動揺するに決まっている。
「ちょっ、きたないなぁ」
「アンタねぇ」
誰のせいだと思ってるんだと抗議しようとしたら
で、どうなの?と話を戻された。
正直なところを言うと、まあ、
周囲に散々色気がないだのなんだの言われている
私も一応女子高生なわけで。一応それなりに青春しているわけで。
だから恋のひとつやふたつくらいしてもおかしくないわけで。
「あっ、居るんだ!誰?絵里の知ってる人?」
「あぁーもぉーいいじゃん別にそんな事」
いくらかわそうとしてもやたらと
食いついてくるから、結局私は観念してその名を口にした。
すると彼女は少しきょとんとした顔をする。
どうやら知り合いだったようだ。
ふぅんと彼女が小さく呟いたのが聞こえた。
少し、つまらなさそうな顔だった。
- 14 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:49 ID:JNEsiHeU
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「でも安倍さんのどこがいいの?」
「は?別にいいじゃんそんなの」
「あ、ごめんウソウソ怒らないでってば」
「でも安倍さんねぇ…安倍さんかー…」
それからしばらくしてのことだ。
彼女があの人と付き合ったことを聞いたのは。
最初は少し驚いたけれど少ししたらなんとなく納得した。
それを彼女に伝えたら何故か彼女は心なしか悲しそうな顔をした。
なんだかそれが凄く悲しそうだったからその顔に向かって笑顔を作って、言った。
「大丈夫、気にしなくていーから」
本音を言えば少しだけさびしかったけど、
そこに憎悪だとか嫉妬だとかそいうものは浮かび上がらなかった。
ただ、私があの人を好きだったということは確かに事実だったけれど、
それがもう事実じゃなくなるということが悲しかった。
それでも私は彼女を許してしまう。
だって私はもう抵抗なんてできないのだ。
「…ありがとう」
こうやって、落とされる
彼女の声の甘さには…。
- 15 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:50 ID:JNEsiHeU
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◇
最後は、
◇
- 16 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:53 ID:JNEsiHeU
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彼女と撮ったプリクラを眺める。
そこに写るのは満面の笑顔。口元から八重歯が覗き込んでいた。
あの時とまったく変わらないこの笑顔のままで彼女は落ちていった。
鮮烈に浮かぶ赤とオレンジの映像。グロテスクで綺麗だった。
確かに今日のあの瞬間まで彼女は生きていたのだ。
やっぱり、彼女が死んだという事実は
ひどくリアリティに欠ける出来事だった。
もう一度、手元のプリクラを覗き込む。
このプリクラを撮ったのは確か先月中ごろの辺りだ。
今は一応一人暮らしをして東京の高校に居るから、
いわゆる実家というものは神奈川の方にある。
これはその時に彼女も一緒に連れて
地元で遊んだときのプリクラ。
なんだろう、何かがひっかかる。
何か大事なことを忘れている?
何か大切なことに気づいていない?
本当に?それでいいの?
必死に本能が訴えかけてくる。
あのとき彼女と何を喋った?
- 17 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:54 ID:JNEsiHeU
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『あっ、それ最後の一個なのに何で勝手に取るワケェ!?』
『うへへへへ油断してる方が悪いんですよー。最後のたこやきちょー美味しいー!』
『ちょぉーっとぉ!!! いつもそうやってアンタ……』
『んひひひひひひひ』
『吐けぇー!!このばかぁー!!!』
『ごめんねガキさん』
『え?』
『…絵里ガキさんのものってなんっか欲しくなるんですよねー』
- 18 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:56 ID:JNEsiHeU
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その時の瞳はまるで初めて会ったときのように
真っ黒に濡れているように見えた。
そう言った声は甘く溶けそうだった。
あの時は何言ってんの、なんてごまかしたけど
あの一瞬に彼女を本当に見た気がして、
彼女の本当の声を聞いた気がした。
ようやく言葉の意味に気づく。
よく考えたら、一度も貸したものを
返してもらった事はないのに気づいた。
いつのまにか、貸すまでもなかった事に。
どうして今更そんなことに気づいたのだろう。
どれもちゃんと大切なものだったのに。
最後に、彼女は何て言った?
傾いたオレンジ色の太陽と彼女の体。
ゆっくり動いた口元。あのメールの意味。
必然的に一番最後に残る私もの。
それは私自身のこの体でしか、ありえない。
あのときかのじょはなんていった?
みえてないわけない。きこえなくても、見えている。
ちゃんと確かにあのとき彼女の遺言を聞いた。
記憶の中の真っ赤な口元がゆっくり動く。
- 19 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:57 ID:JNEsiHeU
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『 』
- 20 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 22:59 ID:JNEsiHeU
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ドクン、と心臓が大きく跳ねた。
背中を冷たい汗が這っていく。
ごくりと唾を飲む音がした。
ギュッときつく目を閉じる。
後ろを振り返ることができない。
コツン、と踵に何かがあたった。
冷たいものがするりと私の首すじに巻きつく。
ひと、一人分の呼吸音がした。
どくんどくんドクンドクンドクドクドクドクドク
心臓はもう破裂寸前だ。
こめかみがずきりと痛んだ。
首に巻きついたものに力が入るのを感じた。
そういえばあの時、彼女は本当に死んだ?
じわりじわりと咲いた赤い花。
あれは本当に彼女だったのか?
そこで思考は停止した。
その代わりに柔らかい吐息が
耳に吹きかかったのを感じた。
「…ねえ…、いいでしょ?ガキさん…」
………耳元で、あの甘い声がした。
- 21 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 23:00 ID:JNEsiHeU
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(・e・ )
- 22 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 23:00 ID:JNEsiHeU
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( ;・e・)
- 23 名前:13 借りパク 投稿日:2007/01/08(月) 23:00 ID:JNEsiHeU
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リd*^ー^)<返すの忘れてた
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