12 湯煙旅情地獄変

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:00 ID:RcfaHW/6

12 湯煙旅情地獄変
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:01 ID:RcfaHW/6

目の前が白い。
まるで煙にまかれたようだと辻は思った。
過呼吸になったように息が苦しくてなんだか身体が焼けるように熱い。
全身から止めど無く汗があふれ出している。
このままでは死んでしまう。もちろん死ぬのは嫌だ。
「助けてあいぼん・・・・」
その呟きは誰の耳にも届かなかった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:02 ID:RcfaHW/6
「あー良いお湯だったね」
お湯は少し熱いけど薬効は高いとの評判の浴場から出ると
自然と吉澤の口から出た。隣の藤本もそれに同調した。
藤本はなんだか照れ臭い様な、くすぐったい様な気分だった。
前は松浦以外の人とお風呂に入るのは好きではなかった。
それは藤本の肉体的な劣等感が理由にあった。
けれどこのメンバーなら少しはその気持ちが和らいだ。
藤本は辻の姿を探した。居た。
同じ事を思っていたのかどうなのか知らないが
辻と目があったので思わず笑いあった。
仲間っていいな。みんなの全身から呑気に発せられる湯気を見ていたら
なんだか幸せな気分になった。湯気は幸せの象徴なのかも知れない。

辻はいつも以上に楽しい気持ちだった。
貸しきりだから泳ぎまわっても怒られない安心感。
灼熱地獄から開放された爽快感。丸裸である事の開放感。
このまま全裸ではしゃいでいたいくらいだった。
「ねえねえ、お風呂出たらい〜っぱいゴハンを食べようね」
「辻さ・・・・のんちゃんまた食べるの?」
「え?是ちゃんは食べないの?だってお腹空かない?」
是永は呆れて何も言えなかった。
さっきみんなでお鍋と焼肉を食べたじゃないか。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:03 ID:RcfaHW/6

是永はまだ不思議な気持ちだった。
フットサル仲間とはいえ普通の大学生である自分と
芸能人であるハロプロのメンバーが一緒にお風呂に入るなんて。
前に泊まり込みのフットサルの合宿があったが、今日はそれとは違い
スタッフは誰もついて来ていない完全にプライベートな旅行だ。
真っ白な湯気に包まれてお風呂に入っているとなんだか幻想的で
本当に夢の中に居るみたいだった。
伏し目がちにこっそり周りを見ると辻、吉澤、藤本、石川、
柴田、里田、あさみ、みうな、ガッタスのみんなが下着姿でわいわい騒いでいた。
こんなところに一般人である自分が居て本当にいいのだろうか?
是永はなんだか申し訳ないような妙に居心地が悪い気分になって
壁のほうを向いてそそくさと浴衣に袖を通した。

「ええええええええ!ちょっと!何で何で無いの!」
羽目をはずしてはしゃぐのはいいけれど
いくらなんでも騒ぎすぎじゃないだろうか?
是永が声のほうを見ると藤本が大騒ぎしていた。
「ちょっとマジ無いって」
「ジャージの下じゃないの?」
「見たけど無いんだって」
藤本と吉澤が着物を入れるカゴをひっくり返してわいわい騒いでいた。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:05 ID:RcfaHW/6

「なになにどうしたの?」
石川が騒ぎを聞いて小走りで駆け寄って二人の肩の間に頭を突っ込む。
「なんかミキティのブラが無いみたい」
「へー。小さいから無くなったら見つけにくいよね」
「なに梨華ちゃん?ケンカ売ってるの?」
藤本は石川を睨み付けた。石川は「そんな怖い顔しないでよ」
と言いながら吉澤の腕に抱きつこうとしたが
吉澤も慣れたもので限りなく自然に石川の腕は払いのけられた。

「ちょっとぉ。誰か隠したでしょ?早く出してよ。
くしょんっ。うう。風邪気味なのにいい加減にしてよ。
ちゃんとここに脱いで置いたんだから。誰か知ってるでしょ?」
藤本は腹立ち紛れに手元にあったカゴを床に叩きつけた。
木製のカゴは木目調のビニールで出来た床で鈍い音を立てて跳ね
そのまま壁まで転がっていった。
やばい。八つ当たりされる。全員が目をそらした。
こうなった時の藤本には関わってはならない。

吉澤は深いため息をついた。
せっかくの温泉旅行なんだから仲良しして欲しいものだ。
「ミキティ落ち着いて。どんなやつだったの?みんなで探すから」
藤本は吉澤にそう言われたとたん満面の笑みを浮かべた。
どんなのってよっちゃん知りたい?美貴のブラの色知りたい?
下と同じ色なんだけど見たい?見たいでしょ?ほらほら浴衣めくってほら見てよ。
早く早く。と興奮した口調で吉澤に浴衣の裾をめくりあげるように要求した。
この変態め。吉澤は藤本にそう毒づきたかったが喜ぶだけなので
仕方なく黙って浴衣をめくり上げた。水色のショーツだった。
「みんな見て、この色だから。この色のブラを探して」
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:07 ID:RcfaHW/6

吉澤の指示を聞いて全員が脱衣所を調べた。
足拭きの下、洗面台の中、体重計の下まで見たがやはり無かった。
この脱衣所はそんなに広くないしこの人数なら探すのは簡単なはずだ。

吉澤はとりあえず出入り口に立ってみた。
まず段差があってスリッパを脱いであがると
いきなり目隠しの壁があってこのお風呂の効能が書いてある。
なるほどリウマチに効くのか。いやそれはどうでもいい。
右に行くとトイレ。左に進むと脱衣所だ。
脱衣所は壁沿いに3段の棚があって衣服を入れるカゴが並んでいる。
それ以外に鏡と洗面台があってドライヤーや体重計など備品がある。
脱衣所の奥に進むと浴場があってそれ以外には何もない。

「まいちゃんトイレは調べた?」
「うん。さっき見たけど無いとおもうよ」
一応浴場のほうも見に行ったがやっぱりブラジャーは無いようだった。
湯船がいくつかあったり、サウナがあったりしてそこそこ広いが
恐らく見落としはないだろう。
ひょっとしたら誰かが隠し持ってたり、ブラを着け間違っていないかと思って
吉澤の手によって全員の身体検査や手荷物検査を行ったが
何処からも藤本のブラジャーは発見されなかった。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:08 ID:RcfaHW/6

「ゴミと間違えたて捨てられたんじゃない?」
「一応ゴミ箱も見たけどからっぽだったよ」
「・・・・ねえ。もしかして誰かに盗まれたんじゃないの?」
「ありえる。ここ他にお客さん居るし」
「そう言えばなんか変なお客さん居たよね。握手会に居るような」
「多分それうちらのファンだよ。この旅行をどっかで嗅ぎつけたんじゃない?」
「最悪。そいつらが入ってきて盗ったんじゃないの?」
「いや。それはありえないよ」
全員が声の主を探した。吉澤だった。
「なんで?」
吉澤は返事の代わりに何かを取り出した。カギだった。

「なにそれ?」
「これ、ここのフロントから預かってるお風呂の出入り口のカギ。
貸しきりにしてってお願いしに行った時に渡してくれたやつ。
私が中からカギをかけたから外から誰かが侵入する事は出来ないよ」
「って事は・・・・ここは密室!?」
「って事はミキティのブラを盗んだ人は・・・・」
全員が状況を理解して沈黙した。

この中に藤本のブラジャーを盗んだ犯人が居るのだ。
そしてここに居る全員が容疑者なのだ。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:10 ID:RcfaHW/6

「じゃあちょっと整理してみようっか」
吉澤は静かに話し始めた。

「夕ご飯を食べた後、全員でお風呂場に向かった。
みんながスリッパを脱いで中に入ったのを確認してから
私が出入り口の引き戸のカギを閉めた。
さっき確認したけど確かに引き戸のカギは閉まっていた。
この引き戸は外から開けるのも中から開けるのも不可能なはず。
なぜなら私がお風呂に入っている間もカギは持っていたから」
「え?なんで?中からなら開けられるんじゃない?」
吉澤は石川の質問に首を横に振った。
「いや、中からも外からもこのカギがないと開け閉め出来ないんだ。
もしこのカギ無しで中から開け閉め出来る種類のにしたら
子供がイタズラで閉めたりする恐れがある。
ここは普通ならこの旅館の誰もが出入りする場所だからね。
あと、あの出入り口を通らないで外に出るのは不可能。
なぜなら他に通路はないはずだから。
ちなみに窓は覗き防止のためか随分高い所にあるし閉まっていた。
下手に開ければ冷たい空気が入って誰かが気づくだろうから開けられた可能性は低い。
仮に開けたとしてもあの高さだ。多分、仮にこんこんが投げても
空気抵抗の大きなブラジャーを外に投げ出すのは無理だろうね」
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:11 ID:RcfaHW/6

「じゃあよっちゃんさあ。一体誰が犯人なの?」
「さあね。まだ全然わかんない。よし。じゃあみんなのアリバイを聞くよ。
えっとじゃあ梨華ちゃんから」
吉澤に指名された石川は待ってましたとばかりに即座に答えた。
話によるとどうやら柴田とずっと喋っていたらしい。
柴田も否定しなかった。これなら疑うほどじゃないな。

「えっとまいちゃんは?」
「私はあーさと喋ったり、辻ちゃんと遊んだり色々な人と話してたんだけど。
あのね、ねえ、よっちゃん。ちょっといい?質問っていうか疑問っていうか」
疑問。一体なんの話だろう。
吉澤がどうぞ。と言うと里田は吉澤の持つカギを指差した。
「ここを開け閉めするカギはよっちゃんが持ってたんでしょ?
じゃあ出入り出来たのはよっちゃんだけって事なんじゃないの?」
吉澤は驚いた。まさか自分が疑われるとは思っても見なかった。

「ちょっとまいちゃん、よっすぃを疑ってるの?」
里田の言葉に石川が噛み付いた。
「なんでよっすぃが美貴ちゃんの下着を取る必要があんのよ」
「そうだよ。よっちゃんになら美貴のブラなんかいつでもあげるし」
「いや要らないし。でもまいちゃんの言うのも確かだよね。
カギを持っていた私が一番あやしいよね」
「あ・・・・あのいいですか?」
誰かと思ったらみうなだった。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:13 ID:RcfaHW/6

「なに?みうなどうしたの?」
「あのアリバイなんですけど。ちゃんとあります。
お風呂に入っている間、みうなはずっとひとみさんを見てました」
吉澤の顔が凍った。変な視線を時々感じたが
まさかみうなの視線だとは思わなかった。

里田が呆れたようにみうなに言った。呆れていたのだ。
「あんたね。それ誰のアリバイになんの?見てただけでしょ?
ずっと見てたって証拠はないし、よっちゃんが見られてた証拠もないし」
「証拠はあります!みうな、お風呂に入ってる間ずっと
ひとみさんのほくろの数を数えたんです。だからそれが証拠になると思うんです」
吉澤は寒気を通り越して吐き気がしてきた。はははは、と乾いた笑いが漏れた。
みうなに憧れの目で見られているのはわかっていたが
そんな目でも見ていたなんて思いもしなかった。

みうなの発言を聞いて血相を変えた里田が胸ぐらを掴んだ。
「あんたがおかしいのはさ、今更どうこう言っても仕方ないけど、
そういう事はしないでって前から言ってたのに」
それに続いて石川と藤本も参戦する。
「ちょっとちゃんとほくろの数を言いなさいよ」
「早く言えよ。でないとおめーが犯人だから」
「痛い。痛いです。言います言いますから。ごめんなさい」

とりあえず吉澤とみうなは犯人ではない。
ほくろの数を聞いて満足した3人はそう結論付けた。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:14 ID:RcfaHW/6

「他にあやしそうなのは・・・・」
全員の視線が自然と是永に集まった。
「あ、いや、コレティごめんね。別にみんなも疑ってる訳じゃないけど」
吉澤が必死でフォローしたけど遅かった。
是永は下を向いてブルブルと震えていた。目には涙が滲んでいた。
是永自身がそういう立場なのはわかっていた。
いくら仲間だと言っても所詮はフットサルだけの関係なんだから。

「是ちゃんは違うよ」
辻だった。いつもより真面目そうな顔をしていた。
「だってのんと是ちゃん一緒にお風呂に入ってたもんね」
「・・・・う、うん」
「のんと是ちゃんはね。背中流しっこしたんだよ。本当だよ。
それに是ちゃんは絶対そんな悪い事しないから」
辻の言葉を聞いて本当にそんな気がしてきた。
それもそうだよね。全員が口々に是永に謝った。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:16 ID:RcfaHW/6

どうやらアリバイらしきものは全員にあるようだった。
しかしこの中に犯人が居るのは間違いない。

吉澤はどういう人物が犯行を行うのか考えてみた。
「犯人はおそらく・・・・ミキティに恨みを持っている人物だと思う。
例えば練習中に罵声を浴びせられたとか、陰で酷いことされたとか
そういう人がミキティを困らせるために・・・・」
吉澤は言いながら全員の顔色の変化を見た。駄目だ。
どうやら全員が藤本からなんらかの酷い仕打ちをされた
覚えがあるようだった。ある者の顔は暗くなり、
ある者は苦笑いし、ある者は思い出して涙目になっていた。
やれやれ。全員に動機があるのか。吉澤は深いため息をついた。

吉澤はもう完全に混乱していた。落ち着け冷静になれ。
こういう時に一番落ち着いて行動するのがキャプテンじゃないか。
吉澤は自分にそう言い聞かせた。
「じゃあさ。違う方向で考えてみよう。
誰かお風呂に入ってる最中にお風呂場から出た人は?
その人ならミキティのブラをどこかに隠せるだろうし」
「ああ。そういえば。梨華ちゃん途中で」
「ちょ、柴ちゃん言わないでって言ったのに。あ」
そう言った瞬間、しまったという感じで石川の顔色が変わった。
限りなくあやしい。全員が石川を取り囲んだ。
「ねえ梨華ちゃん良かったら説明してくれる?」
藤本はコブシをパキパキと鳴らしてみせた。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:18 ID:RcfaHW/6

石川は顔を真っ赤にして言いたくなさそうだったが
珍しく周りの冷たい空気を読んで観念したのか渋々話し始めた。
「あの・・・・おしっこ」
「え?」
「だから・・・・お風呂に入ってたら急にしたくなったの!」
「えーちょっと勘弁してよ。そんなのお風呂に入る前にすませて」
「なんかせっかくお風呂に入ったのに汚されたような」
「どおりでお風呂が臭いと思った」
「のの。硫黄の匂いだからそれ」

お風呂に入ってる最中にひとりで脱衣所に居た。
これはどう考えても怪しい。
吉澤は逸る気持ちを必死で抑えて石川に質問した。
「で、すぐ帰ってきたの?」
「う、うん。ね、柴ちゃん。ね」
「そうだっけ?多分20分くらい帰って来なかったけど」
「柴ちゃん!」
おしっこで20分。どう考えても不自然だ。
大体おしっこならお風呂の中で出来る。いやしないけど。

吉澤は時計を見た。お風呂に入ったのが21時。
柴田が言うには入って10分後に石川は浴場の外に出た。
そして戻って来たのが20分後、21時30分。
ガッタスのために無理を言って借り切っていたのが
21時から22時の1時間だけだったから21時40分になった時点で
そろそろ出ようと声をかけて全員で脱衣所に向かった。
その時には間違いなく全員居たはずだ。

「梨華ちゃんトイレで本当は何をしてたの?」
全員の疑惑の視線が石川に注ぐ。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:19 ID:RcfaHW/6

石川は力が抜けたのか床に崩れ落ちた。
「おしっこしようとしたら・・・・あの・・・うんこも」
最悪。馬鹿じゃないの?道理でうんこ臭いと思った。石川さんってうんこするんですか?
是ちゃんは信じられないだろうけどするよ。驚いた?正直ショックです。
全員が口々に呟いた。
「で、でもね。美貴ちゃんのブラは知らないから本当に!」
「でもさあ確か梨華ちゃん、さっきはおしっこしたって言ったよね?」
「言ったね。梨華ちゃんって平気で嘘をつけるんだね」
「もしかして犯人って梨華ちゃんじゃないの?」

吉澤は冷静に考えてみた。
この中でミキティに最も恨みを持っているのは梨華ちゃんだ。
ガッタスやハロプロでふたりの近くに居れば
よっぽど鈍感な人でも気づくほどふたりの関係はこじれきっている。
ブラジャーが無いと騒ぐミキティ、無いのはブラジャーじゃなくて胸じゃん。
なんなら貸してあげようっか。あ。サイズ合わないよね。と笑う梨華ちゃん。
そのやりとりを見て笑うメンバー。
昔の梨華ちゃんならそんな事はしないだろう。
だけど美勇伝になってからの梨華ちゃんは変わってしまった。
今の梨華ちゃんならやりかねない。犯人は・・・梨華ちゃんだ!
吉澤はそう判断した。

「梨華ちゃん冗談はもういいから。
そろそろお風呂を借りてる時間終わりだから出ないと怒られるし。
お願いだからいい加減ミキティのブラジャー出してあげて」
吉澤がそう言って優しく頭を撫でると
床に屈み込んでいた石川が顔をあげてゆっくりと立ち上がった。
血相を変えるとはこんな顔を言うのだろう。
怒りのためだろうか顔は紅潮しアイドルとは思えないほど歪んでいた。
まさしく阿修羅のようだった。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:20 ID:RcfaHW/6

「ちょ・・・り、梨華ちゃんアイドルだから・・・・」
「やっとやっと全てがわかった。聞いてみんな!
これは罠よ!私を容疑者にして美貴ちゃんとの仲を裂こうとする卑劣な罠よ」
「いや別に美貴、梨華ちゃんと仲良しなんて思ってないし」
「まあまあ一応聞いてあげようよ」

石川は目を閉じて何かを思い出しているようだった。
「確かに私はお風呂に入ってる最中に外に出た。
だから状況としては美貴ちゃんのブラジャーを盗む事は出来た。
でも、急に便意をもよおした私にはそんな余裕はなかったし、
そもそも美貴ちゃんがブラジャーをしてるなんて考えつかなかった」
「失礼な」
「まあまあ。で、何が罠なの?」
「おかしいと思わない?ここ1週間ちっとも出なかったものが
急に。しかもお風呂に入っている時に出てくるなんて。
ほら思い出してよ。お風呂の前に食べたご飯の時のこと」
「お鍋と焼肉だったよね」
「そうそうタレがあんまり美味しくなかったよね」
「ふたりとも違うよ。そうじゃなくて席の話。確かテーブルがふたつあって
片方はよっすぃー、美貴ちゃん、まいちゃん、あさみちゃん。
そしてもう一方は私、柴ちゃん、のの、是ちゃん、そしてみうな」
「うん。それのどこが罠なの?」
「あの時なぜか一切お鍋に手をつけなかった人が居た。
あんなに美味しいカニ鍋を食べない人が・・・・みうな!あなたよ!」
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:22 ID:RcfaHW/6

全員がみうなを見た。
みうなは突然の事にキョトンとしている。
「私、気づいてたんだから。あなただけお鍋を全然食べなかったでしょ?
みんなが楽しくお鍋を食べてる隙をついてみうな、あなたが
こっそり鍋の中に下剤を入れた。そうでしょ?はっきり言いなさいよ」
「み、みうなそれって本当?」
みうなは参ったなあという感じで頭をかいた。
はっきり言う事をためらっているようだ。
「・・・はい。確かに食べませんでした。だって石川さんとお鍋したくないじゃないですか」
「ほら!ついにシッポを出した!この子が真犯人なんだって!
私はみうなのせいで私は急にうんこをしたくなって
それが原因で容疑者にされた。うんこする事までバラされた!
よっすぃのほくろの数を数えていたなんて嘘でしょ?はっきり言いなさいよ!
鍋に下剤を入れて、私がトイレに居る隙をついて外に出て
美貴ちゃんのブラジャーを隠せたのはあなたしか居ないの!」

石川が凄い剣幕で一通り喋ると是永が申し訳なさそうに言った。
「あの・・・私も一緒にお鍋食べたんですけど」
「のんもい〜っぱい食べたよ」
「みゅん」
「・・・・あ、ほら是ちゃんはほら気をつかってあんまり食べなかったじゃん!
のんは・・・・えーとのんは特別じゃん。柴ちゃんはえーとほら
えっとちょっと待って・・・・・ほらうんこしないじゃん。ねえ柴ちゃん」
みんなの目が白い。誰かの舌打ちが聞こえる。もちろん藤本だ。

「えーと梨華ちゃんが犯人って事でいい?美貴は別にブラなんか
正直どっちでもいいし。いや付ける必要はあるんだけどね。
美貴こう見えてけっこうあるほうだから肩がこったりして色々」
「ミキティなにひとりでブツブツ言ってるの?
いや犯人は梨華ちゃんでいいけど・・・・あ。でもブラ見つかってないし」
そうだ。まだ肝心のブラジャーは見つかっていない。
見つからなければ事件は解決とは言えないのだ。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:24 ID:RcfaHW/6

「梨華ちゃん。もういいでしょ?どこに隠したの?」
「だから私じゃないって!」
「あ。そういえば・・・・」
里田がポンと手を叩いた。
「どうしたの?」
「思い出した。さっき探している時にそこのトイレも見たんだけど
フタが閉まってて紙がなんかいっぱいフチからはみ出してる便器があったよ。
気持ち悪くて触るのも嫌だったから中は見てないけど」
「何かあやしいね。梨華ちゃん何か知ってる?」
「し、知らないよ。壊れてるんじゃないの?」
あやしい。
トイレ行ったのならその便器を絶対見ているはずだ。
何も知らないなんて事はないだろう。

「あのう・・・・ちょっといいですか?」
みうなだった。
「どうしたの?」
「推理してみたんでちょっと聞いてください」
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:25 ID:RcfaHW/6

みうなはいつ書いたのか知らないがメモ帳を取り出して
それを見ながら話し始めた。
「石川さんがトイレに行った20分で何が起こったのか?
多分石川さんは普通におしっこをしたかったんです。
でも脱衣所に出たときに藤本さんのブラジャーを見てしまった。
石川さんはそのブラジャーを隠して困らせたくなったんです。
つまりこの事件は計画的なものではなく衝動的に起こったんです。
でも、こんな狭い脱衣所じゃ探せばすぐ見つかってしまう。
他の場所に隠したい。例えばこのお風呂場の外とか。でも外に出す事は出来ない。
そこで外に出ずにここでも外でもない場所に隠す方法を考えたんです」
「まさか・・・・」
「そうです。トイレの水で流してしまえばブラジャーは二度と出てこない。
でも思わぬ事態が起こってしまった。便器が詰まったんです。
考えれば当たり前ですよね。いくら藤本さんのブラジャーが
小さくてもそれはカップの話であって大きさは普通のとそんなに変わらない」
「おいお前。後で覚えとけよ」
「い、石川さんは必死で流そうとした。でも無理だった。
そこで仕方ないので便器の中のブラジャーを上から
トイレットペーパーで覆って隠した。
やっぱり石川さんの藤本さんへの憎しみは水に流せなかったんです!」
「いや、みうな全然上手くないからそれ」

なるほど。みうならしい実に理論的に見えて推測だらけの推理だ。
とにかくその便器を調べれば全て解決するはずだ。
吉澤は早くこんなどうでもいい揉め事は終わらせたかった。
「じゃあみんなでその便器を調べに行こうっか」
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:27 ID:RcfaHW/6

まさか9人もの大所帯で連れションなんて思わなかった。
全員がトイレに向かって歩き出した時だった。
「待って!みんな行っちゃだめ!動かないで!」
誰かと思って見ると石川だった。
手にはドライヤーを持っていた。凶器だ。凶器のつもりだ。

「それ以上動かないで。あの中に詰まっているのはブラジャーじゃない。
あの中には私の・・・・見たら・・・・下手したら死んじゃうよ」
脅しだ。きっと便器にはブラジャーが隠してあるに決まっている。
だがもう完全に石川のペースになっていた。
全員の脳裏に石川の恐ろしいものが浮かんで消えなかった。
「う、嘘でしょ?そんな便所に詰まるようなうん・・・・」
と言いながらも吉澤はその可能性はゼロではないと思った。
梨華ちゃんのならありえる。吉澤の全身は震えに震えた。

それは他の全員がそうだった。
そんな恐ろしいものを見て正気で居れる自信がなかった。
かつてない緊張感が全員を襲う。

「だ、誰か代表して行ってよ」
「よ、よっちゃんリーダーでしょ?行ってきてよ」
「えっとじゃあ・・・のん。ぶりんこうんこの最後のひとりとして頑張って」
「の、のんはもうそういうの卒業したから。えっと柴ちゃん」
「なんで私なの。絶対無理だから」

藤本は歯軋りをした。
ここまで犯人を追い詰めておいて逃げられるなんて。
少し勇気を出せば真実に触れる事が出来るのに。
このままこの事件は闇に葬られてしまうのか!
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:28 ID:RcfaHW/6

「私が・・・・私がいきます!」
まるであの試合のPKの時のように迷い無く挙手するその人は
みうなでは無かった。是永だった。
「こ、是ちゃん駄目だよ。自分のやろうとしている事わかってる?
もしかしたら死ぬかも知れないんだよ」
「そうだよ。是ちゃんは仲間だけどそこまで巻き込めないよ」
全員で必死で止めた。是永は解ってないのだ。梨華ちゃんの恐ろしさを。

「恐ろしさはわかってます。今も脚が震えて怖いです。
でもお願いです。やらせてください。だって私はガッタスの一員なんです。
ずっと一緒に戦ってきた・・・・仲間なんです」
仲間。そうだ。もう是永は立派な仲間なんだ。
「是ちゃん・・・わかった。でも無理しないでね」
吉澤は是永を抱きしめた。強く強く。そのぬくもりを忘れないように。

「それじゃ行ってきます」
トイレに向かう是永の背中が大きく見えた。
吉澤の目には自然と涙が溢れ出た。仲間。なんて素敵な言葉。
なんて素敵な関係なんだろう。
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:30 ID:RcfaHW/6

数分後、トイレのほうから是永のこの世のものとは思えない悲鳴が聞こえた。
「是ちゃん!行かなきゃ!」
「待ってミキティ。行っちゃ駄目だ。犠牲者が増えるだけだ」
「止めないでよっちゃん!早くしないと是ちゃんが死んじゃう!」
吉澤は羽交い絞めにして是永の元に向かおうとする藤本を止めた。
だがそれでも藤本は吉澤の手を振り払おうと必死でもがいた。

「美貴の、美貴のブラのせいで是ちゃんが・・・・助けなきゃ美貴のせいで」
藤本は泣いていた。卒コンでも泣こうとしないあの藤本が泣いていた。
全員の目に自然と涙が溢れ出た。藤本は是永の名を必死で叫んだ。
だが是永はもう二度と帰ってこなかった。

「やっぱり中身は梨華ちゃんのだったのか」
「だからだから最初から言ってるのに。あんなの見たら気が狂っちゃう。
私が私があんなのをしなかったら是ちゃんは・・・・私が私が!」
「やめろ!それ以上言うな!終わったんだ。忘れよう」
吉澤は石川を抱きしめた。そう全てはもう終わったのだ。

だがそれは愛の始まりでもあった。
「よっすぃ・・・・こんな私でもいいの?」
「ああ。もちろんだ」
ふたりはみんなが見守る中いつまでも抱きしめあった。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:32 ID:RcfaHW/6

色々している内にタイムリミットの22時前になったので
カギを開けて外に出た。
出ると私たちと入れ替わるように慌てて清掃員らしき女の人が
中に入っていった。ファンらしき人は居なかった。
清掃員に注意されたのかも知れない。

部屋まで喋りながら歩いていると、湯冷めしたのか胸元が寒いのか
藤本がくしゃみを連発した。
館内には暖房が入っていたが浴場に比べればやはり寒い。
「ミキティ大丈夫?ティッシュある?」
辻はカバンを探ってティッシュを差し出した。
「ありがとう辻ちゃん。まだ何枚かあるから無くなったらちょーだい」
藤本は思いっきり鼻をかんだ。アイドルとは思えなかった。

「それにしても結局どこに行ったんだろうね」
「わかんない。最初から無かったって事でいいや。
美貴の勘違いかも知れないし。もういいよ、その話は。
あ、あそこにも温泉があるみたい。ほら見て見て湯煙がたってる」
外の景色に目をやると白い煙がゆらゆらと空にあがっていた。
「・・・・・あ。のんわかった。ちょっと行ってくる」
「え?辻ちゃん?どこ行くの?」
辻はそれに返事しないで突然走り出した。
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:33 ID:RcfaHW/6

「辻ちゃんどうしたんだろ?何がわかったんだろう」
「わかんないけど気になる。追いかけてみよう。ごめん梨華ちゃん先に行ってて」
「え?ちょっとよっすぃどこ行くのよ」
吉澤と藤本は辻を追いかけながら辻の言葉の意味を考えた。
わかった?辻は何がわかったんだろう?

吉澤と藤本は走ったが浴衣が乱れるので速く走れなかった。
辻の姿はもう小さくなっていた。
「ねえ、ミキティ。変だと思わなかった?」
「え?何が変なの?」
「梨華ちゃんはお風呂の最中にトイレに行った。
普通なら多少は水滴が落ちるはずなのにトイレまでの道は少しも濡れてなかった。
だから私はトイレに隠したという可能性は考えなかった」
「え?それはバレないように梨華ちゃんが床を拭いたとか」
「そこまで気を使えるのならお風呂の前にトイレに行ってるよ。
可能性として考えられるのは・・・・誰かが拭いた」
「誰かってウチらで?誰?」
「いやそうじゃない。外部の誰かだ」

「え?ちょっと待ってよ。密室だったはずでしょ?」
「確かに。だけどそれはこのカギが1つしかなかった場合だよ」
「まさか・・・スペアキー?はあ?ちょっと何それ」
「多分あの清掃員だね。ウチらが入ってる時に途中で清掃しに入ったんだ。
しかも誰かが入ったって決定的な証拠がある。ゴミ箱だよ」
「え?からっぽだったし・・・あ、美貴の・・・・」
「そう。鼻をかんだティッシュが捨てられてなければいけないはずなのに
ゴミ箱には何も入っていなかった。多分ブラは清掃員にゴミと間違えて捨てられたんだね。
だから恐らくののの向かった先は・・・・」
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:37 ID:RcfaHW/6

吉澤と藤本はようやく辻に追いついた。
辻はこの旅館の片隅にある焼却炉の前に居た。
煙突からゆっくり煙が出ている。
「はぁはぁ。辻ちゃん速過ぎだよ元気だね」
「ミキティごめんね。遅かった・・・・・これ大切なブラだったんでしょ?」
辻は手に黒くなった細長い粗末な布を持っていた。
恐らく藤本のブラジャーの成れの果てだろう。
「うん。多分そうだね。見つけてくれてありがとう。
もういいんだ。こんな物より大切な物を見つけたから」
それは友情。みんなとの絆だ。

「でも辻ちゃんはなんでここに捨てられたって気づいたの?」
「さっき煙を見たとき気づいたの。煙はいつものん達の大切なものを・・・」
辻はそこで言葉に詰まった。・・・・・あいぼん。
「もう・・・・もう終わったんだよ」
3人は静かに空に昇ってゆく煙をいつまでも見ていた。
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:37 ID:RcfaHW/6
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:37 ID:RcfaHW/6
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:37 ID:RcfaHW/6
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:37 ID:RcfaHW/6

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