07 ステイ・ミラクル

1 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:26 ID:4r.snOI.
ステイ・ミラクル
2 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:38 ID:4r.snOI.
 ああ、ああ、ああ。天に召します女神様。どうかわたしをお救いください。ちょっとば
かり勉強ができるからといって、学校の先生に勧められて中高一貫の私立校に入ったのが
運の尽き。全教科満点という創立以来初めての快挙で入試を突破したわたしは、先生には
奇跡の子と期待を込めた目で見られ、生徒からはミラクルと皮肉を込めた陰口を叩かれ、
こうして一人、体育館の裏でお弁当を食べる毎日なのです。ああ、ああ、ああ。
3 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:39 ID:4r.snOI.
 心で涙しながら、箸をご飯に突き立てた時だった。この日課はこれからも続き、中学ど
ころか高校を卒業するまで続くんだと思っていたわたしに、転機が訪れた。バカなお願い
ごとのせいで、わたしは彼女を女神様だと思ったんだ。
「いでぇ!」
 だけど下品な痛がり方だったので、わたしは彼女に対する認識を改めたんだ。
「あの」わたしは恐る恐る尋ねる。「どうして空から降ってきたんですか?」
 でもその疑問は届いてないみたいだった。彼女は着地で足を捻ったらしく、手で足首を
押さえたまま、背中で地面をローリングしていた。かなり器用だ。
4 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:40 ID:4r.snOI.
 冬晴れの、青空がどこまでもキレイな日だった。空気は澄み、その瞬間まで異変と呼ば
れるものは何一つないって信じてた。信じさせるような気候だった。それを裏切るように、
聞こえが悪ければそんなことはないと教えるように、彼女はわたしの背後から前方に飛び
降りた。驚いたけれど、たくらもうと思えばできないことじゃない。問題は一つしかない
のだ。
 痛えなちくしょー、と彼女は余韻を引きずりつつ立ち上がる。そしてようやくわたしを
見たのだった。
「あれ、ミラクルさん?」
「……はい、まあ」
「っかしいな、八百屋の梅さんのとこに着くはずだったのに」
5 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:42 ID:4r.snOI.
 金髪のその女の人は、男っぽい口調とは裏腹に、それはそれはキレイだった。モデルさ
んと見紛う感じで。印象的な大きな瞳はくるくると動き、それが表情の豊かさを引き立て
ていた。一瞥でどんな人であろうと魅了してしまうのではないだろうか。その美貌のせい
で、わたしは彼女を女神様だと思ったんだ。
「っくしょん! それにしてもここ寒みー!」
 だけど豪快なくしゃみだったので、わたしは彼女に対する認識を改めたんだ。
「だってここ、思いっ切り日陰ですもん」
「見事に日陰だねえ。背中に体育館、前方には大きな名前も知らない気になる木。もしか
したら陽が当たる時間なんてないんじゃないの」
「かも、しれませんね」
6 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:43 ID:4r.snOI.
 わたしがそのおどけた言い方に笑うと、彼女の視線はもうわたしになかった。それは上
空を向いていた。そのことに少し胸騒ぎを覚えた。
「しかれども、空は見える」
 ふざけたままの口調。だけどわたしは、彼女には人の心が読めるんじゃないかと思った。
人がいないところを探し回ってたあの頃、わたしがここを食事場所に選んだのは、その小
さく削り取られた空があったからだ。ああ、ここだ、と感じたのだ。屋上でも使われてい
ない教室でもなく、この何時であろうと陽の当たらない、冷ややかな空間なのだと。
7 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:44 ID:4r.snOI.
「どうして、空から降ってきたんですか?」
 わたしは結局、最初の質問をくり返すこととなった。
「もちろんミラクルさんを待ってたんだよ」
「わたしを?」
「そうミラクルさん……違う。もっとステキな名前があるんだね。久住小春。小春のこと
を待ってたんだよ、吉澤は」
8 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:46 ID:4r.snOI.
 わたしは勉強はできるけどバカだったので、嬉しい時に起こす行動はただの一つ。きゃ
ー嬉しいーと彼女の抱きつくのだった。他人を紹介しているふうではなかったので、彼女
の名前は吉澤さんなんだと思った。吉澤さん好きー、と離さないでいると、吉澤さんはよ
しよしとわたしの背中に手を回し、そのまま自分を軸にして回った。その勢いたるや、一
瞬、恐怖を覚えるものだった。プロレス技のようにわたしの足は浮き始め、吉澤さんに手
を離されたらきっと、体育館の壁に激突。そして天国へ。そんな感じだった。でも吉澤さ
んの顔はイタズラ心に満ちたままで、「怖いかー」なんて訊いてくるので、わたしは「全
っ然怖くないー!」と応えた。さらに増す勢い。彼女は限度を知らない女性なのだ。だけ
どそのころにはもう、本当に怖くなくなっていたので、わたしは「全っ然怖くないー!」
と叫ぶのだった。比喩にもならないけど、身体が浮くような気分だった。
9 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:47 ID:4r.snOI.
 天国のあとにあるのはいつも地獄。倒れ込んだわたしたちの世界はくるくる回っていた。
吉澤さんは少し離れたところで仰向けになり、肩で息をしていて、それはわたしも同じだ
った。
「どう、して、小春まで、呼吸荒くなってん、だよー」
「あはは、笑い、すぎちゃって」
「バーカ」
 吉澤さんも大声出して笑ってたじゃん。息が乱れてる理由、絶対それもあるよ。言おう
と思ったけど、何だか今が心地よくって黙ることにした。それに言おうと思えばいつでも
言える気がした。吉澤さんはこれから、わたしの傍にいてくれるんじゃないかって予感が
した。
10 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:48 ID:4r.snOI.
「うー、よし!」
 しばらくして、吉澤さんは立ち上がった。
「うよし?」
「うよしって何だよ。気合入れたんだよ」
 吉澤さんは続いて腰を上げたわたしの頭をぽんぽんと叩く。
「あんまり乗り気じゃなかったけど、仕方ないからやるかっ」
「え? やる? 何を?」
「言ったろ、小春を待ってたって。わたしは小春を救うためにここに来たんだ」
 こともなげに言うので、思いがけず「え、あ、はい、ありがとうございます」と、こと
もなげに応えてしまった。それを吉澤さんは笑う。
「やっぱり面白いな、小春は」
11 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:49 ID:4r.snOI.
 面白いなんて言われたのは久しぶりだったので、わたしはわーいと吉澤さんに抱きつく。
そうなのだ。わたしの感情表現はバカなのだ。
「もう我慢させない。とりあえずみんなに、小春にはミラクルなんて横文字じゃなくて、
今日の空みたいにステキな、小春っていう名前があるんだって教えてやるんだ」
 ああ、この人は。わたしは抱きしめる腕に力を込めながら思った。わたしがミラクルっ
て言われても気にしないフリしてたこと、小春って呼ばれてどれだけ嬉しかったかを、ち
ゃんと気づいてくれてるんだ。
「よし、行くぞ、小春!」
「おー!」
12 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:50 ID:4r.snOI.
 吉澤さんに手を引かれ、わたしはわたしがそれまでいた場所をあとにした。振り返って
気がついたことは二つ。
 一つは薄々思っていたこと。わたしが座っていた後ろには、飛び降りられるスペースが
ほとんどない。あるにはあるけど、忍者みたいに張りついてないといけないほどの、靴の
横幅と同じくらいの出っ張りが走っているだけ。そこにいたとして、わたしが来た時に目
に入らないはずがないのだ。そうなると体育館の屋根からということになる。もちろん死
んでしまう。でないとしたら、もっと上。空。
 もう一つは完全に忘れていたこと。手をつけられていないお弁当箱は、寂しげに広げら
れたままだった。
13 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/04(木) 00:51 ID:4r.snOI.



14 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/06(土) 19:47 ID:h8HWdo8M
 ところで、わたしが吉澤さんを先輩だと考えていたのには理由がある。わたしの通って
いるこの私立校は、中学と高校の校舎が繋がっているのだ。厳密な意味で。同じ敷地内に
別々の建物として存在しているのだけど、三階と五階に宙に浮かんだ廊下がある。そこで
繋がっている。だから体育館や校庭などへ移動する時、近道として結構気軽な行き来があ
り、部活の関係だったりで交流があったりするのだ。もっとも、それはわたしの外側の話。
わたしおかげで、中高を通じての不名誉な有名人だった。
15 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/06(土) 19:49 ID:h8HWdo8M
「あの、吉澤さん」
「ん、どうした?」
 注目を浴びるのは慣れてる。慣れてる、んだけど。
「みんな見てます」
「それはそうだろー。むしろ見てもらわなきゃ意味ないじゃん」
 可愛いと評判の中高一貫変形セーラー。その人垣が見事に二つに割れている。その中心
にいるのは二人の女の子で、一人は金髪で背の高いお姉さん。もう一人は普段評判の悪い
噂を立てられている体育館の裏が住処の子供。つまり、わたしたちだ。
16 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/06(土) 19:50 ID:h8HWdo8M
 吉澤さんはわたしの手を引いたまま、さっきから昼休みのこの時間、校舎内を歩き回っ
ていた。それは、中高を問わず。空中廊下を左から右へ、右から左へ、何度通っただろう。
「ほら小春、あの娘じっとこっち見てる。手でも振ってやんな」
 笑いかける向こうに、わたしと同じくらいの年の女の子がいた。購買部で買ったばかり
であるらしいパンを抱えて、目を見開いていた。
「わーい」
 ヤケクソは得意。アニメ『きらりん☆レボリューション』の主人公のように両手を全開
に動かす。何故か吉澤さんも同じことをして、またわたしの手をとって歩き出した。女の
子にとって、とても不可解な出来事だったと思う。
17 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/06(土) 19:51 ID:h8HWdo8M
「そろそろ、この学校の娘みんなの目に触れたんじゃない、これ」
 吉澤さんは楽し気で、ならばわたしも楽しかった。
「でもこんなの、傍目から見たら明らかにイジメなんだけどー」
「そんなことないって。かっけーって、絶対」
「今まで無視とかはあっても、こんなに積極的な嫌がらせみたいなのは受けたことなかっ
たのにー」
 ミラクルなんて横文字じゃなくて、小春っていう名前があるんだって教えてやる。そう
宣言した吉澤さんがまずしたことは、太マジックで紙に大きく「久住小春」と書くことだ
った。
18 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/06(土) 19:52 ID:h8HWdo8M
「え、まさか」わたしは言った。
「そう、まさか」吉澤さんはニヤリとした。
 わたしは間髪を入れずにその場から逃げ出して、校庭を横切った。背中から声が追って
きた。待て小春このやろー。振り返ると追ってきてるのは声だけではなく、久住小春と書
かれた紙を右手に、左手にはセロハンテープを持った吉澤さんが。校庭の隅にある背の高
い植物の植わった花壇の周りをグルグルと逃げ回り、バターになるかという頃、ついに捕
まってしまった。吉澤さんは言った。
「これを背中に貼って学校内を歩き回ること」
19 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/06(土) 19:53 ID:h8HWdo8M
 わたしがその時の口調を皮肉っぽく真似をすると、吉澤さんは満足そうに二、三度頷い
た。全然全く、これっぽっちも誉めてません。
「そんな過去があって現在に至るわけか。感動的だねえ」
「過去も何も、つい三十分前くらいの出来事で、今なおその罰ゲーム実行中です」
 そうなのだ。常套的イジメ手段。晒し者にされるというこの本末転倒プロジェクトを遂
行しているのだ。本末転倒といえば、ちゃんとした名前があると教えるって、こういうこ
とじゃないと思う。
「ほら小春、あの色っぽいお姉さんがこっち見てる」
「これからも応援お願いしまーす」
 でも吉澤さんが本気で楽しそうにしてるならやっぱり、いつの間にかわたしにとっても
本気で楽しいことになっているのだった。
「小春小春、あそこで猫みたいな顔した娘が」
「次の選挙も、どうかわたしに清き一票を」
20 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/06(土) 19:53 ID:h8HWdo8M



21 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:35 ID:BqS6Rj3g
「……ううう」
 声に出せない声でわたしは、耐え忍んでいた。あと三分。今教壇に立ってるこの担任の
先生は、時間をきっちり守ることで有名。早く終わってはくれないけど、その分、延長す
ることもない。あと二分三十秒。ううう。
 結局、昼休み終了のチャイムが鳴るまで校舎回りを強要され、じゃあな小春、午後の授
業しっかり受けるんだぞと、吉澤さんはわたしを教室まで送り出した。……違う。もう一
言あった。それからその背中の張り紙、放課後まで取っちゃダメだからな。
22 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:35 ID:BqS6Rj3g
 五時間目と六時間目、六時間目終了から帰りのホームルームのあいだにある休み時間は、
まともに顔も上げられなかった。周りを見ることができない分、色々な想像が頭の中に広
がる。今もそうだ。この先生の声だけが響く静かな教室で、ひそかに行われている生徒同
士のひそひそ話の議題はたぶん間違いなく、背中に自分の名前を貼りつけた、どんな意図
があるのか読めない女の子のことに違いない。わたしってばこういうことが起こる時、案
の定一番前の席だっていうだから、もって生まれたものに身震いしてしまう。
23 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:36 ID:BqS6Rj3g
 チャイムが鳴ると同時に、教室の空気がざわざわと緩んだ。わたしもあとは持って出る
だけにしておいたカバンをつかみ、いそいそと教室をあとにしようとした。
「ねえ、久住さん」
 廊下に出た途端、声をかけられた。同じクラスの娘だった。わたしを追いかけて来たみ
たいで、顔には興味深気な微笑みが浮かんでいる。
「背中、どうしてそんな紙貼ってるん?」
 うん、こっちが知りたい。思ったけど、そんなこと言わない。大事件発生中。わたし実
は、感動なんかしちゃってたのだ。クラスメゥィト! そう、クラスメイトとわたし、し
ゃべってるなんて!
「あ、あの、本当に、ほんっとぉぉに色々なことがあって」
「そうなんやろね」と彼女は楽しそう。「昼休みなんか、わけわからんようなってたし」
「あ……見てたんだ」
「見てたも何も、学校中で見てなかった人なんて、おらへんと思うで」
24 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:37 ID:BqS6Rj3g
 その時わたしは、うううと声に出せない声を出した。つまり、出さなかった。というの
は、学校での生活が終わるまで、とガマンしていたのは羞恥心のみではなかったのだ。む
しろ羞恥心を引き起こすそのものになりそうなこと。それを思い出してうううと、言わな
かったけれど心の中で言った。
「みんな、久住さんがおかしくなったんちゃうかって」
 ああ、やっぱりそうですか……。どこかに違和感を覚えて、だけどズキューンとくるは
ずのその言葉は、不思議と胸に刺さらなかった。彼女の笑顔が、どうしても意地悪いもの
には見えなかったから。この学校は進学校とあって、全国から人が集まって、中学生にし
て寮に入っている娘さえいる。口調からして、彼女もここらへん出身ではなさそうだ。彼
女には周辺に親戚がいるのだろうか。わたしは種類が違うかもしれない、自分のものと彼
女の寂しさを思う。
25 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:38 ID:BqS6Rj3g
「おかしくは……なってないつもりだけどぉ」
「ホンマ? ホンマにそう? ちょっと興味湧いてしゃべってみよう思うてんけど、わか
らんけど、ちょっとおかしなってる気がするー」
 どうにかしておかしくないことを説明すべく、頭に浮かんだことを試みようとした。だ
けど、どれも始めた途端にダメな気がしてくる。パントマイムを突然始めて、また突然首
を捻りながらやめる感じだ。困ったことに、どう自分贔屓に採点してもおかしくなった人
だった。さらにその瞬間――。
「ううう」
 わたしはとうとう声に出してしまった。ああ、ああ、ああ。
「どうしたの、久住さん。苦しいん?」
26 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:39 ID:BqS6Rj3g
 苦しいといえば苦しい。でもちょっと違う。わたしを無言で首を横に振りながら、でも
やっぱりガマンできなく呟く。
「……ううう」
「久住さん!? 久住さん!?」
 お腹を押さえて壁にもたれかかったわたしの名前を呼びかけ、彼女がわたしの肩を心配
そうに揺すった時だった。

 ぎゅるるるるーん、ぎゅる☆

 お腹が鳴っちゃいました。お昼ごはんを食べられなかったツケ、今ここに。
27 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:40 ID:BqS6Rj3g
「ち、違うの、違う! これはちょっと色んなこと起こりすぎてお弁当を食べる時間がな
かったというか、元々お腹が鳴りやすい体質だからよけいにというか、実はお腹がぺこぺ
こというか、小春ぺっちゃんこ、みたいな! ぺっちゃんこぺっちゃんこ」
「ぷっ」
 唖然とした表情のままだった彼女の顔が一拍後、唐突に崩れた。
「あはははは、おかしー。やっぱ変やー」
「う、そうかも。認めざるを得ない」
「ううん、ちゃうね」
「え?」
「あのミラクルさんがこんな人や思わなかったー。でもそれって、おかしかったのはあた
したち、周りが勝手に決めてたことのほうなんやろねって、今思うてん」
28 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:41 ID:BqS6Rj3g
 嫌じゃない“ミラクルさん”を、初めて聴いた。たぶんその呼び方が、過去のものの響
きだったからかもしれない。それを証明するように。
「ねえ、小春」
「ん?」
「小春でええやろ? ミラクルさんなんて呼びにくいし」
「え、ああ、うん。それはもうそれはもう」
「じゃあ、あたしは愛佳でええ。光井愛佳いうから……って、ちゃんと名前、知っとった?」
 始終笑顔だった愛佳は、疑問を投げておいて、その答えを聞くつもりはないようだった。
わたしの背中に貼ってある名前の書かれた紙を軽く叩き、教室へと戻った。これから一緒
に歩いてくことになる友達との、初めての会話だった。ぎゅるるるるーん、ぎゅる。
29 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:41 ID:BqS6Rj3g



30 名前:ステイ・ミラクル 投稿日:2007/01/09(火) 22:42 ID:BqS6Rj3g

――― おしまい
31 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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