01 空が軋む

1 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:00 ID:b/n.Dz32
空が軋む
2 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:01 ID:b/n.Dz32
現在、20XX年はアンドロイド、ガイノイドというものが存在する。
定義すると、アンドロイドとは男性型人造人間であり、女性型人造人間がガイノイドである。
どのようなものかを説明などしなくても、幼児でも当たり前に受け入れている事実。
研究所に隔離されたような閉鎖的なものではなく、ごく日常的に存在している。

機械は感情回路を与えられた。
機械は強い身体を持っている。
機械は、XXX
3 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:01 ID:b/n.Dz32

4 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:02 ID:b/n.Dz32
歩道にトラックが突っ込んできて、轢きつぶされたところで美貴の記憶は一旦途切れている。
隣を歩いていた真希は、幸いにもかすり傷だけの軽症だった。
その時、亜弥は月へ行くための訓練を特殊施設で受けていた。
一緒に月へ行こうよ、と亜弥は美貴に再三訴えていた。しかしその願いは完全に断たれることになる。

美貴は死んだ。
ココロは機械に移された。
亜弥はそれを知らない。いま存在する美貴は、生きていた美貴のままだと思っている。
人造人間は規則により月へ行くことができない。美貴は、機械として目を覚ました時それを悲しんだ。
真希は知っている。美貴が一度死んだことを。

そして、美貴と亜弥は一緒に暮らしている。
5 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:02 ID:b/n.Dz32

6 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:02 ID:b/n.Dz32
美貴が瞼を開けると、亜弥の顔がまず目に入った。

「……亜弥ちゃん、近づきすぎ」
「にゃは。たん、よく寝てるなーと思ってさ」

右手で亜弥の左肩を押しやり、密着しそうな身体を離させた。
ソファで横になっていたら、どうやら意識が途切れたらしい。
身体には毛布が掛けられていた。室内は暖房がほどよく効いて暖かいが、亜弥の配慮だろう。

「やべ。いま何時? 美貴ちょっとでかけなきゃ」
「え? なんか用事? そんなん言ってなかったじゃん」
「いま思い出したんだよ」

亜弥が教えてくれそうにもないので、美貴は自分で掛け時計を見て時刻を確認する。
真希からの呼び出しをすっかり忘れてしまっていた。
走れば間に合うと踏んで、慌てて部屋を出ようとすると亜弥に呼び止められた。

「たん、寝癖ひどいよ」
「あーいいのいいの」

晩御飯までに戻って来てね、という亜弥にわかったよ、と短く返答して、夕闇の街へ繰り出した。
真冬の夕方は冷える。関節が軋むようにも感じる。陽は落ちてしまったようだ。
ガァー、っとなにか鳥が鳴く声が聞こえた。
7 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:02 ID:b/n.Dz32

8 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:02 ID:b/n.Dz32
そのドアを押しやると、カランカランとベルが鳴る。
店内に客の姿はない。そういえば、ドアのプレートも「closed」になっていたか。

「やあ、ミキティ時間に正確だね」
「急いで来た」

カウンターには真希がひとりで腰掛けていた。
美貴の姿を認めると、奥に引っ込みなにかを用意してくれるようだった。
しばらく立って待つと、真希ははにこやかに紅茶を振舞ってくれた。
スツールに腰掛け、それを美貴は飲んだ。

小さな喫茶店。つややかな髪をなびかせる女マスター。
ここは真希の店だった。
9 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:03 ID:b/n.Dz32
「美貴、あんま時間ないんだよね。なんの用事?」
「それがさあ、ちょっとお願いなんだけど」

カウンターを挟んで、美貴と真希は向き合っている。
真希が微笑んだ。

「ミキティ、ちょっと消えてくんないかな?」
10 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:03 ID:b/n.Dz32
反応が遅れた。
美貴が立ち上がると同時に入り口から黒服の男が何人かが入ってくる。真希の仲間だろうか。
真希はカウンターから離れ、奥に行ったようだ。
所詮、人間だ。殴れば一撃で息の根を止められるのをわかっているのだろう。

普段は憎憎しいが、こういう荒いこととなると機械の身体はありがたかった。
黒服の男たちは人間だった。腕を一振りして、寄ってくる男どもをなぎ払う。

なぜ美貴は機械として再び生まれた。
どうして偽りの温もりしか得ることができない。

美貴は自分への憎さを込めて、腕を振り足を振り殴りながら、入ってきたドアから外へ向かう。
11 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:03 ID:b/n.Dz32
当たり前に存在しても、受け入れられるとは限らない。
人間が汚い虫を忌み嫌うのと同じに、人造人間は一部にしか認められなかった。
都合が悪ければ消してしまえ。人造人間なら、いっそう躊躇うことなどない。

20XX年、人間は月でも暮らしているらしい。
数十年前までお伽話でしかなかったことが、行われている。

美貴は走った。
ガァガァと鳥が鳴いている。急げ急げ、と警鐘を鳴らすかのように。
12 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:04 ID:b/n.Dz32
追っ手はいなくなっただろうか。
美貴は足の動きを緩めた。

瞬間、横への重力。
殴られたと気づくのに要した時間は、数秒か数時間か。

終わったな、と思う。
アンドロイドのお出ましだ。戦闘用の、アンドロイド。

美貴は地面に倒れ、紺色の空を仰ぐ。ギッ、と視界が軋んだ。

晩御飯までに帰れないや、ごめんね。
13 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:04 ID:b/n.Dz32

14 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:04 ID:b/n.Dz32

15 名前:空が軋む 投稿日:2006/12/28(木) 00:04 ID:b/n.Dz32
end

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