24 お約束

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:48 ID:NKfwczrc

24 お約束
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:49 ID:NKfwczrc

眠らない街、新宿歌舞伎町。
この街にはルールだとか規則だとか約束だとかそんな物はない。
ある時は出所不明の札束が宙を舞い、ある時は理不尽な暴力が溢れ、
またある時は未成年が始発電車までカラオケボックスで時間を潰すのだ。
毎日ここではあらゆる人種が入り乱れ、夜な夜な秘密の宴が繰り広げられている。

そんな歌舞伎町は新宿コマ劇場の前で俺は何をするでもなく
昼間からぼんやりしていた。
まわりには歌舞伎町とは不釣合いなキモヲタが群れを成している。
特攻服、半裸、全身ユニクロ、黒縁メガネ、真っ白なスニーカー。
その反社会的な姿に思わずめまいがした。
こういう人は普段どこで何をしているんだろう?
少し考えたがどうせ引きこもってネットで遊んでいるのだろう。俺と同じく。

3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:50 ID:NKfwczrc

これまでコンサートなら何度か行った事があるけど
実はミュージカルを見るのはこれが初めてだ。
コンサートならまだしもミュージカルなんて退屈なものに
参加するつもりなんて今まで無かった。

だがある日の事だった。
「マコの最後の晴れ舞台を見たいか?見たいだろう?」
友人はまるで悪魔のようにそっと俺に囁いた。
「いや別に・・・・」俺は正直に答えたが友人はまあそう言わずに。と
ステージ全体とヲタの後頭部がよく見える席のチケットを
1万円っぽっきりで売ってくれた。

その時はミュージカルチケ代は高いしまあ適正価格だな。
と思ったが後で調べてみるとどうやらS席とA席があって
このチケットはA席だから普通に買えば5千円らしかった。

騙された。損をした。とガッカリしていたが
会場の前まで来たらどうでも良くなった。
モー娘。のマコを見れるのはこれが最後なんだから。
俺はあいぼんとは違う銘柄の煙草を咥えて火をつけた。
大きく吸い込んで吐き出した煙は青すぎる空に吸い込まれていった。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:51 ID:NKfwczrc

煙草を吸いながら辺りを見渡すとコマ劇場の前では
特攻服を羽織った身体の弱そうなメガネと
成人病を発症してそうなデブが楽しそうに話していた。
特攻服のほうの背中には「紺野親衛隊」と書いてある。
もう紺野はいねーんだから消えろよwwwwと言いたかったが
こう見えて俺はシャイボーイなので言わなかった。

待ち時間の間、俺はまるであいぼんの仇のように煙草を吸い続けた。
そうでもしないと間が持たないのだ。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:51 ID:NKfwczrc

会場時間が近づいているのか辺りがざわついている。
黒い服のスタッフが拡声器で何かを言っているが、
ヲタが流す曲と奇声のせいで全く聞こえない。
ヲタが跳ねる、歌う、踊る。通行人の視線が痛い。
なんだか帰りたくなっていたが、とりあえずもう時間だ。
入場の準備をしなければならない。
俺は腰のポシェットを開けて中を探った。
本当はグッズがいっぱい入るリュックサックにしようと思ったが
リュックサックだとヲタっぽく見えて馬鹿にされる傾向があるので
ポシェットにしたのだ。正解だ。おかげで周りのヲタを下に見られる。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:52 ID:NKfwczrc

ポシェットの中にはミント味のガムと煙草の予備と買ったばかりの双眼鏡。
ティッシュとハンカチーフとサイリウムと青色の封筒。その中にはチケット。
これから始まるミュージカルの最終公演のチケットだ。マコの最後の晴れ舞台だ。

こんな事を言うと多くの人は驚くかも知れないけど
実は俺はマコの事は嫌いではない。むしろ好きだ。大好きだ。
だがそれはチケットを売ってくれた友人以外に言った事は無かった。
怖かったのだ。「え?お前小川が好きなの?冗談だろ?www」と嘲笑われるのが。
そう言われて「うはww冗談だおwwwマコなんてwwww」
と気持ちを偽ってしまいそうな自分が怖かった。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:53 ID:NKfwczrc

だがいつの間にかみんなにマコヲタと知れ渡っていた。
「お前か?言ったのはお前だろ?恥ずかしいじゃねーか。」
友人に詰め寄ったが友人は「俺は言っていない。」の一点張りだった。
「嘘だろ?お前、言わないって約束したじゃねーか!」
「言ってないよメールだもん。」友人の言葉に俺は言葉を失った。

だが、今日なら言える。マコ好きだよ。ブサかわいいよマコって。
マコ愛しているよ。そんな恥ずかしい事を大声で叫べるのはチャンスは
マコヲタが集結する今日が最初で最後になるだろう。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:53 ID:NKfwczrc

「会場の時間です!4列で並んでください!」
黒服がアナウンスするや否や俺は真っ先に並んだ。
早く中に入りたい。こんな所を知り合いに見られる訳にはいかないのだ。

入場してすぐに席を確認する。マコが遠い。
でもこれからもっと遠くに行ってしまうんだ。
そう思うと少し悲しくなってしまったので
慌ててマコの顔を思い出してみた。少し笑った。
席に座ってポシェットからサイリウムを取り出す。
これは今日の昼前に100円ショップで買ってきたのだ。

知っている人は知っている事だと思うが、卒コンのお約束と言えば
同じ色で揃えたサイリウムを会場に居るヲタ全員で振りかざして
卒業するメンバーを祝う、いわゆるサイリウム祭りだ。
例えばなっちなら北海道の豪雪を思わせる白。
やすすなら情熱の赤だ。
これは事務所やサイリウムのメーカー主導の企画ではなく、
ネットを通じてヲタが自発的に広めていった大切な儀式だ。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:54 ID:NKfwczrc

サイリウムの色はネット上での話し合いによって決まる。
なっちの場合のようにすぐ決まる場合もあるが
ヲタそれぞれに思惑があるのでなかなか決まらないほうが多い。
マコの場合も難航するだろうと早くから何色にするかの相談が行われた。
真っ先にあがった案は「緑色」だった。
俺はそれでいいと思ったし実際それで一旦決定していた。
だが「緑色は嫌だ」と反対する勢力が現れた。
匿名掲示板2ちゃんねるなどではわざわざ状況を混乱させて楽しむような
人間がいるが、驚いた事に反対者の多くは明らかにマジヲタだった。

反対者は「マコを緑の人呼ばわりするな」と怒っていた。
確かに「緑色の人」っていう愛称には少しマコを馬鹿にしたニュアンスがあった。
だが今更マコが緑色の人だという事実を否定しても仕方ないじゃないか?
それがマコなんだから。俺はそう思った。
しかし俺よりも重症のマコヲタはそれが許せないようだった。
そのせいでネット上は大混乱していた。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:55 ID:NKfwczrc

「じゃあ何色がいいんだYO!」「新潟と言えば白とか」
「それじゃなっちの時と同じだし」「うーむ。困ったな」
「早く考えろよ俺はなんでもいいんだよ」「うーんちょっと待って」
なかなかこれという案は出なかった。
だがそこに第三者の革新的なアイデアが浮上した。
「マコは純粋無垢な人だからサイリウム無しでいいんじゃね?」
「それだ!」「あんた良い事言った!」「マコらしくていい!」

俺は絶句した。いくら何でもそれは無いんじゃないだろうか?
俺は必死で緑色を推した。必死で掲示板に書き込んだ。
だが「またアンチか死ねよ」「マコは純粋な人なんだよwww」
「正直なんでもいいよ。」と話にならなかった。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:55 ID:NKfwczrc

途中で俺以外にも、「僕も緑がいいと思うんだけど・・・・」という発言があったが
「はいはい自演自演」「必死ww」「もう無しって決まったんだよ馬鹿。」
どうやら緑色派は俺を含めて2名。完全に少数派になっていた。
恐らく反対者は緑色じゃなかったらなんでも良かったのだろう。
気が付けば俺は和を乱す悪い人、あいぼん以上の犯罪者、
空気の読めない人扱いだった。
しまいに「緑のサイリウムを使ったらあなた大変な事になりますよ。」
とビートたけしの口調で脅されてしまった。

そんな事を思い出している内にミュージカルは台本どおり滞りなく進んだ。
マコはこれが最後だっていうのにどうでもいい役だった。
でもマコらしいなと思って俺は黙って見ていた。
マコの最後のミュージカルは千秋楽らしい盛大な拍手で幕を閉じた。

12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:56 ID:NKfwczrc

続いてミニコンサートだ。
休憩時間の間に俺はサイリウムの袋を開けて折り曲げた。
じんわりと手の中で緑色が広がっていく。
俺はすぐにポケットにそれを入れて隠した。
こんなもの見られたら狂信的マジヲタに何を言われるかわからない。
もしこんな所を見られたられいなのようにパシリにされたり、
色々虐められるかも知れない。全身が震えた。

なんて考えてる間にコンサートが始まった。
相変わらずマコは最後なのに酷い扱いだった。
愛ちゃんとミキティばかり歌っていた。
でも楽しかった。軽くヲタ芸をしてみた。もっと楽しかった。
だが楽しい時間はあっという間だ。ラストが近づいて来ている。

13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:57 ID:NKfwczrc

一旦全員舞台裏に引き上げて会場が真っ暗になった。
不揃いなマコトコールが会場に響く。
今だ。ついにこの時が来た。マコのお別れの挨拶だ。
俺はポケットに手を入れてサイリウムを握り締めた。
が、周りを見てみると誰も緑色のサイリウムを出していない。
それどころかいつもよりサイリウムが少ない。
次第にサイリウム祭りの事を知らない人まで空気を読んで
サイリウムを下に下ろし始めた。真っ暗だ。
会場はまるで星の無い夜空のようだった。
真っ暗な中で力の無いマコトコールが心細く響く。

あまり盛大とは言えない拍手の中、
スポットライトに包まれて現れたマコは
ぽかーんと口を開けて立っていた。
その今までの卒コンでは見た事の無い状況に戸惑っているのだ。
恐らく矢口でもこんな目にはあわないだろう。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:57 ID:NKfwczrc

俺は緑色のサイリウムを挙げたかった。
だがこの状況で挙げる勇気は俺には無かった。
もう諦めよう。どうせ100円のだし。と諦めようとした時だった。
少し前の客席で緑色のサイリウムがあがった。
よく見るとその人はなんと緑色のシャツまで着ていた。
見つかったらマコ狂信派に酷い目に合わされるというのに
そんな事お構いなしで完全武装していた。
あのネットでの緑色推進者の人に違いない。
俺はひとりじゃない。嬉しくて泣きそうになった。

俺は緑のサイリウムを振り上げた。
「マコ愛してるよマコ!」
俺は叫んだ。ここからじゃ声は届かないかも知れない。
でも俺はありったけの声を出し続けた。
まわりの人の視線が痛い。でももうどうでも良かった。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:58 ID:NKfwczrc
「みんなありがとー」
マコが笑顔で手を振っている。俺のほうを見て泣きながら微笑んでいる。
きっと俺の思いが届いたのだ。

コンサートが終わった。

新潟の駅前まで留学しにいかないとマコと2度と会えないと思うと
せつなさで胸がいっぱいになった。
少しの間、放心状態で席に座り込んでいた。
けどこうしちゃ居られない。
俺は立ち上がって慌てて緑色のサイリウムの人を探した。
何を言えばいいのかわからないけど何か一言言いたくなったのだ。

居た。グッズ売り場で並んでいた。
俺は慌てて前に回りこんでありがとうと言った。変な顔をされた。
Tシャツにメロン記念日と書いてあった。

16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:58 ID:NKfwczrc
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:59 ID:NKfwczrc
米米
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 23:59 ID:NKfwczrc
米米米

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