23 破れない約束

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:25 ID:aVV8Bkag
23 破れない約束
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:26 ID:aVV8Bkag
薄暗い店内に、小さめのボリュームの、ゆったりとした音楽がかかっている。
都内某所にある、カウンター・テーブル数席で構成された、とあるバー。
その一番奥の2人がけのテーブル席に、石川梨華と吉澤ひとみはいた。

元モーニング娘。と現モーニング娘。で第4期メンバーの2人は、もうハタチを超えている。
入った時はまだ15歳の2人だったのに、それからもう幾つもの年月が経っていた。
年月が経つと、変わる事がたくさんある。
服や食べ物の好みや、好きな人、色々。
だがそれ以上に、彼女達がいる環境は、めまぐるしく変わった。
変わる事は悪い事ではない。変わらない事も悪い事ではない。
でも、変わらないで欲しかった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:27 ID:aVV8Bkag
「今度さ………麻琴とコンコン、モーニング娘。を卒業するんだって」
テーブルの上に置かれた、それほど強くないアルコールは少しも口にしていない。
けれど、アルコールが入ったような虚ろな瞳で、ひとみは言った。
言われた梨華は「うん」と頷き、こちらもアルコールを口にせず、グラスを傾け揺らし、氷を無意味に溶かしている。
「あたしも昨日、マネージャーさんから聞いた」
「…そっか」
「よっちゃんも昨日?」
「うん」

4期にとって5期は、モーニング娘。で初めて出来た後輩。
皆努力家で勉強熱心で、真面目な4人。
自分達4人とは大違いだよねぇ、なんて希美と亜依と3人で笑ったら、梨華に怒られた事があったっけ。

「寂しくなるね」
「…うん」
梨華の方を見ず頷く瞳を横目で見て、氷が溶けて薄くなったそれを、一口。
……まずい。
アルコールなんて、飲むもんじゃない。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:28 ID:aVV8Bkag
同じ4期メンバーだが、仕事の後こうして会って、ましてや一緒に飲むなんて、初めてだった。
2人にそれぞれ、モーニング娘。ではないがハローのメンバーで仲の良い人間が別にいたから。
男っぽいサバサバしたひとみと、女っぽいネチネチした梨華は、モーニング娘。追加メンバーオーディションというものがなければ、
友達になる事もなければ、出会う事もきっとなかった。
それが今、なぜ会っているのか。
珍しくひとみが、梨華を誘ったのだ。
そのくせ、ひとみは言葉少なで、どちらかと言えば、さっきからずっと、梨華の方がよく話し掛けている。

「…よっちゃん、暗いよぉ?」
皆の前では明るく面白いひとみが、今、梨華の前では。
「……分かってるよ」
「リーダーがそんな顔してたら、どうすんの」
「それも、分かってるよ…」
分かっているけど…心が、ついていかない。

「みんなが…誰かが、娘。を卒業したり、逆に、娘。に入ってくる度、今度はこのメンバーで頑張っていこう、頑張ろうって、円陣組んで約束するじゃん。
それでもまた、今度は2人も抜けて………うちら、後何回頑張ればいいんだろ、何回約束して、破られたらいいんだろって………。
ううん、違う…卒業するのが悪い事じゃない。別の夢叶える為なんだから、みんなの今後を、応援したげたい。でも…」
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:28 ID:aVV8Bkag
モーニング娘。が大好き。
ずっと一緒。
楽しい。
歌いたい。

それは全部嘘じゃない。
でも、約束したのに。
だから頑張っていこう、頑張ろうって。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:29 ID:aVV8Bkag
薄ひとみがリーダーになって、1年と、もうすぐで1ヶ月。
その前から卒業が決まっていた梨華を除いて、初めての卒業者。しかも、2人。

「よっちゃん…」
「ねえ梨華ちゃん。……あたし、どうしたらいいと思う?」
応援したげたい。
でも寂しい。悲しい。
それでも自分はリーダーで。
泣けない。かといって笑えない。
「泣いて落ち込んでるガキさんや高橋を元気付ける事なんて、あたしに出来るかな…。
ホントは…ホントは、あたしが一番………………」
「分かってるよ。だってあたしとよっちゃんは、同期だもん」
ふんわりといい香りがしたと思ったら、ふんわりと、その肩に頭を預けられた。
堪えていた涙が、一気に溢れ出て来た。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:30 ID:aVV8Bkag
リーダーであるひとみは、皆の前で泣けない。
リーダーでなかった時も、恥ずかしいや格好悪いという思いで、泣けなかった。

「泣けない方が、つらいんだよ。だから、泣けた時は、いっぱい泣いていいよ。
メンバーの前で泣けないのは、分かるから。だから…もうメンバーじゃないけど、同期のあたしの前で、いくらでも泣いていいから…」
「っぅ、ふぇ…っ」
「…大丈夫。言わないよ?その約束は、絶対に破らないから…」
「ぅん…ぅん…」

だから次、メンバーと会う時には、ちゃんと、頼れるリーダーになってること。

ひとみにとって、破れない、梨華との約束が出来た。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:31 ID:aVV8Bkag
( ^▽^)
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:31 ID:aVV8Bkag
(0^〜^)
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 22:31 ID:aVV8Bkag
おわり

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