18 あなただけを〜一途すぎる彼女

1 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:08 ID:14DDvJ0U
18 あなただけを〜一途すぎる彼女
2 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:09 ID:14DDvJ0U
『おおきくなっても、あたしがまもってあげるから。だから、なかないで』
『……うん』
『ゆびきりしよ。ゆーびきーりげーんまん、うそつーいたらはーりせーんぼんのーます。ゆーびきった!』
3 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:12 ID:14DDvJ0U

梨華は机の上に写真立てを見て小さくため息をついた。
幼い頃の自分と、仲の良かった友達が引っ越す直前に撮った写真だ。
必死に泣くのを我慢している自分とは対照的に、その少女は満面の笑顔を浮かべている。

梨華はその少女のことが大好きだった。
元気ではつらつとしていて、梨華がいじめられたりしたら必ず助けてくれた。泣いている梨華を笑顔で励ましてくれた。
嫌いな蛇を見つけた時は一目散に逃げ出したが、梨華はそんな少女のことが大好きだった。
ピンポーン

梨華が物思いにふけっていると、玄関のチャイムが鳴った。そして、
「梨華ちゃ――ん、がっこー行こ―――!」

玄関越しから、元気ではつらつとしたお誘いの声が聞こえた。
荷物を持ってドアを開けると、そこには梨華の初恋の人兼大学の後輩兼隣の部屋の住人の吉澤ひとみが幼い頃と変わらない笑顔で立っていた。
4 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:14 ID:14DDvJ0U
二人が再開したのは、4月の初めの頃だった。
梨華が部屋でくつろいでいると、隣の部屋から物音が聞こえてきた。
空き部屋のはずだったので不審に思った梨華は、恐る恐る玄関のドアを少し開けて外の様子を覗いてみる。
すると、段ボールを持った女性が隣の部屋に入っていくのが見えた。
(あ、そういえば……)

梨華は昨日、アルバイトに行く途中に引越し業者のトラックとすれ違ったのを思い出した。
(お隣に来る人だったんだ〜)
「よしこ〜、隣の人いるみたいだよ〜〜」
「マジで!? どいて、まいちん!」
「ちょっ! 危ないでしょ!」

そんな会話が聞こえた直後、部屋主と思われる女性が満面の笑みで走り寄ってきた。
「え?」
梨華が驚いている間に、新しい隣人は目の前で止まった。
そして、梨華の両手を握ると嬉しそうな顔で言った。
5 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:17 ID:14DDvJ0U
「久しぶりー! 元気だった?」
「あ、あの……どちら様ですか?」

梨華の当然といえる何気ない答えに、隣人の顔はまるでこの世の終わりのような表情になった。
そして、そのショックの大きさに、少し後ろによろめきながらツッコミどころのあるセリフを呟いた。
「う、うそ…………あたし……梨華ちゃんのこと、ベーグル食べてる時と、フットサルやってる時以外、1秒だって忘れたことないのに…………
蛇見つけた時、梨華ちゃんのこと置いて逃げたから!? それとも、絶叫マシンが苦手だから!?」
(……蛇?)
「もしかして……ひとみ、ちゃん……?」

その言葉に、ひとみの顔はまるで台風一過の空のように一点の曇りもない明るい表情になった。
「そう! 吉澤ひとみ! よかった〜、思い出してくれて〜〜〜!!」
「ちょっ、ひとみちゃん、苦しい……」
「あっ、ごめん梨華ちゃん! 大丈夫!? 怪我しなかった!?」

嬉しさのあまり、思いっきり梨華のことを抱きしめたひとみは、慌てて身体を離した。
「うん、大丈夫。でも、ひとみちゃん、すごい綺麗になったから最初全然分からなかった」
「あたしも、梨華ちゃんのこと見た時、すっごい綺麗になってたから、一瞬見とれちゃったよ」

どこにそんな瞬間があったのかは分からなかったが、そう言われて梨華は悪い気はしなかった。
「でも、こんな偶然ってあるんだね。ひとみちゃんとお隣さんになるなんて。
これで、大学も一緒だったら、もっと凄いんだけどね〜」
「一緒だよ」
「……え?」
「ちゃ〜んと、梨華ちゃんと同じ大学に入ったから安心して」
「…………なんで、私が行ってる大学知ってるの?」
「おばさんに聞いたんだけど」
「………………ママに?」
「うん。でも、梨華ちゃんの隣の部屋が空いてたのは、偶然なんだけどね」
6 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:17 ID:14DDvJ0U
そう言うと、ひとみは写真立ての中の写真と同じ笑顔を梨華に見せた。
「アヤカ〜、よしこ戻ってこないよ〜」
「しょうがないから、二人でやっちゃお」
「何で、よしこの引越しの片づけをあたし達だけでやんなきゃいけないのよ〜」
「せっかくの再会なんだから、我慢しなさい。後でご飯奢ってもらえばいいでしょ」
「絶対、白飯大盛りにしてやる〜」

その後、梨華のアルバイト先の喫茶店でバイトを募集をしている事を知ったひとみは、見事に同じアルバイトをすることに成功した。
7 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:19 ID:14DDvJ0U

アルバイトの休憩中――
「何で、だめなんですか!?」
「だから、何度も言わせるんじゃないの!」

ひとみは、店長の保田圭と口論をしていた。
「あたしと梨華ちゃん、一緒にするくらい良いじゃないですか!」
「シフトが一緒なんだから、いいじゃない!」
「今のままじゃ、梨華ちゃんが注文言いに来た時しか会えないじゃないですか!」

ひとみがアルバイトに採用されて依頼ずっと行われているので、他のアルバイトもすっかり慣れてしまっていて特に仲裁しようとはしない。
ただし、梨華だけは自分が関わっている事柄なので慣れる事はなかった。
8 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:20 ID:14DDvJ0U
「ちょっとあたしをウエイトレスにしてくれるだけじゃないですか!」
「そしたら、藤本を厨房に回さなくちゃいけないでしょ! 
焼肉でもないのに何でも焼けばいいって思ってる子に、料理任せられるわけないでしょ!」
「いやいや、いくら美貴でもそこまでひどくないし」
「そしたら、梨華ちゃんとごっちんをチェンジして」
「確かに藤本よりましだけど、石川とごっちんを比べたら、
ごっちんのほうが圧倒的に料理の腕が上なんだから、無理に決まってるでしょ!」
「え? 美貴、梨華ちゃんより料理下手なの?」
「そんなもの、あたしと梨華ちゃんの愛のパワーでカバー」
「できるわけないでしょ!!」
「ごめんね、いつも」
「んあ〜、気にしなくっていいよ〜。見てて面白いし〜」
「ちょっとー、美貴のこと無視しないでよー。
梨華ちゃんより料理下手って言われて、へこんでるのに〜」
「あ、圭ちゃ〜ん、お客さん来たよ〜」
「え!? も〜、早く言いなさいよ! 石川、席に案内して。
よっすぃーとごっちんは厨房に戻って。藤本は、何へこんでるんだか知らないけど、早く立ち直りなさい」
「……は〜い」
 美貴は少し疲れたふうに返事をした。
9 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:21 ID:14DDvJ0U

こんな喫茶店だが、この店はそれなりに繁盛していた。
メイド喫茶ではないが、アルバイト見たさの客や店長のキャラ目当ての客も多く、料理の味もいいので常連が多くいるのが理由だ。
「3番テーブル、ミックスサンドとミートソースね」
「んあー」
「5番テーブルに、カルボナーラとミニサラダお願い」
「任せて、梨華ちゃん!」

テーブル数が多くないため、少人数でも切り盛りできるがピークを過ぎた頃にはたまにこんなことも起こってくる。
「圭ちゃん、圭ちゃん」
「何よ」

真希に手招きされて、圭は厨房に入った。
「ちょっと、材料きれそうなのあるんだけど」
「ちょっと待って。石川、こっち来て」
「はい」
「あのさ、ちょっと買出しに行って欲しいんだけど」
「はい、わかりました」
「あたしも!」
「クビにするわよ」
「う、それは……」
「じゃあ、これお願いね」

そう言って、真希は梨華にメモを渡した。
「それじゃ、行ってきます」
「梨華ちゃ〜ん、早く戻ってきて〜」
10 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:23 ID:14DDvJ0U
「いらっしゃいませー」

美貴の声が聞こえた。
「よっちゃーん。まいちゃんが来たよー」
「まいちん?」

呼ばれたひとみは、厨房から顔を出した。
「お〜、いらっしゃい。どうしたの?」
「お客に向かって、どうしたのはないでしょ」

まいがつっこむ。
「ところで、梨華ちゃんいる?」
「なれなれしく梨華ちゃんって呼ぶな」
「んあ〜、梨華ちゃんなら、今買い出しに行ってもらってるけど」
「今いないって」

まいが入り口の外にいる人物に向かって声を掛けた。
「あ、のの」
「どうしたの、辻ちゃん。まじめな顔して」
「勝負しにきました」
「勝負?」
「……まさか」

希美の言葉に、真希は小首をかしげ、圭は少し顔を引きつらせる。
「スペシャルチャレンジれす」

スペシャルチャレンジとは、簡単に言えば大食いチャレンジのことだが、この店では制限時間内の全メニュー制覇のことを指す。
失敗すれば三万円払わなければならないが、成功すれば一ヶ月間タダというご褒美つきなので、主に体育会系の学生がチャレンジするが、成功した者はほとんどいない。
特に、女性では希美とまいの二人きりだけだった。
11 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:23 ID:14DDvJ0U
「でも、のの。あんた成功したじゃん」
「だから勝負なんれす」
「そ。どっちが早く食べきれるかって勝負」
「それで、梨華ちゃんがいるか訊いたんだ」

美貴の言葉に希美は頷いた。
放っておけばついつい食べ物に手が延びる希美を見かねた梨華が以前に注意したことがある。
それ以来、梨華の目の前ではスペシャルチャレンジができなかった。
「梨華ちゃんが帰ってこないうちに、お願いします!」

希美はさっさと席に座ってスタンバイした。
12 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:25 ID:14DDvJ0U

「少し遅くなっちゃったな〜」

前と後ろの籠に食材が入った買い物袋を入れたママチャリをこぎながら梨華は呟いた。
(それにしても、ひとみちゃん……)

再開して以来、ひとみは1秒たりとも梨華から離れたくないオーラを撒き散らしていた。
アルバイトのシフトはもちろん、帰宅してからは梨華の部屋に入り浸る。もしくは自分の部屋に誘う。
大学の講義は梨華が説得して受けさせているが、そうでなかったら自分の受ける講義を放り出していた可能性が高かった。
(ああじゃなかったよね……)

幼い頃は自分のほうがべったりしていた。少なくとも梨華の記憶の中ではそうだった。
それが気になってつい少し引いた態度をとってしまっている。そして、そんな自分に少し嫌悪感も持っていた。
「近道しよ」

しかし、悩んでいても仕方ないので、気を取り直すと少しでも早く店に戻るため近道である路地へと入っていった。
13 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:26 ID:14DDvJ0U
路地を少し進むと、自動販売機のそばに派手なスクーターを止めてたむろしているジャージ姿の三人のヤンキーがいるのが見えた。
目を合わせないようにしながら梨華はヤンキーたちの前を通り過ぎた。
「ちょっと、待ちなよ」

ほっとしたのもつかの間、声をかけられてついママチャリを止めてしまった。
恐る恐る振り向くと、三人のヤンキーたちが近づいてきた。
「あ、あの……何か?」
「挨拶がなかったよね?」
「挨拶……ですか?」
「そう。ここ通るのに、あたいらに挨拶するのが決まりなんだよ。あと通行料もね」
「何で、ですか…?」
「うっさいなー。んなもん、うちらが決めたからにきまってんだろ! ごちゃごちゃ言ってないで、通行料払えばいいんだよ!」
「……いやです」

素直に払うと思っていた三人は、予想外の梨華の返事に一瞬ぽかんとした。
「何で、あなたたちにお金払わないといけないんですか! 
ここはみんなの道路で、あなたたちだけの道路じゃないんですよ!」

すごく当然の理屈だったが、それがかえってヤンキーたちの怒りを買ってしまった。
「ちょっとかわいいからって、いい気になってんじゃないよ!」

今の話題とまったく関係のない理由でヤンキーの一人が梨華を突き飛ばした。
「きゃっ!」

何とか踏ん張った梨華は、自転車から降りるとスタンドを起こして、
「なにするんですか!」
「生意気なんだよ、てめえ!」

別のヤンキーが自転車を倒そうと手を伸ばした。
14 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:28 ID:14DDvJ0U
「り――か――ちゃ――――――ん!!」
「「「「え?」」」」

いきなり聞こえた声のほうを梨華とヤンキーたちは同時に振り向いた。
声の主は、ものすごい勢いで自転車をこいで近づいてくるひとみだった。
「ぐえっ!」

そして、そのままの勢いでヤンキーの一人をはねた。
「梨華ちゃん、大丈夫!?」

ひとみは乗っていた自転車を放り出すと、
突然の出来事に呆然としているヤンキーたちを放置して梨華に声をかけた。
「怪我してない!?」
「う、うん。大丈夫」

梨華もヤンキーたちと同じく呆然としていたが、なんとかそれだけは返事をした。
「いって〜〜……なにすんだよ、てめえ!!」

はねられたヤンキーが叫んだ。慌てて他のヤンキーたちが近寄った。
「大丈夫!?」
「なんなんだよ、てめえ!」
「梨華ちゃん、ちょっと離れてて」

ひとみに言われて、梨華はママチャリを押してひとみたちから少し離れた。
それを確認するとひとみはヤンキーたちに向かって、
「あんたたち、この世で一番やっちゃいけないことやっちゃったね」
「はあ? 何訳わかんないこと言ってんだよ!」
「やっちまえ!!」

そう叫ぶと、三人はひとみに殴りかかった。
15 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:30 ID:14DDvJ0U
 梨華は驚いていた。ケンカ慣れしているはずの三人の攻撃が、ひとみにまったく当たらないからだ。
軽快なフットワークで相手を翻弄し、パンチに対しては手首を狙って弾く。
格闘技にまったく興味のない梨華が見ても、ひとみとヤンキーたちのレベルの差ははっきりと分かるほどだった。
これが幼い頃のひとみだったら、相手が年上の男の子だろうと、がむしゃらに向かっていって、めちゃくちゃに殴りかかっていたはずだ。
それが、今のひとみは相手を確実に自分のペースに巻き込んでいる。

そんなひとみの動きに梨華が見とれていると、一台のスクーターが近づいてくる音が聞こえてきた。
「こらー! お前ら、何やってんだー!」

その声にヤンキーたちとひとみは動きを止めた。ヤンキーの一人が叫ぶ。
「あ、総長! こいつが、あたいらに因縁ふっかけてきたんですよ!」

すると、スクーターを運転している青いスカジャンを着たヤンキーの後ろから、真っ赤なジャージのヤンキーが降りてきた。
「おいらは、この辺り一帯をしめてるレディースの3代目総長の矢口真里だ! うちのもんが世話になったみたいだな!」
「ちょっと、そっちから」
「中学生が総長なの?」

間違いを訂正しようと梨華が言い終わる前に、ひとみがぽろっと呟いた。
それを聞いた、スカジャンのヤンキーが頭を抱え、ほかのヤンキーたちの顔が青くなる。
「あちゃ〜」
「あー! お前、今言っちゃ駄目な言葉を!」
「総長は、身長のことを言われるのが大ッ嫌いなんだぞ!」
「お前、どうなっても知らないからな!」
「…………てめー、誰が小学生よりちっちゃいだと!? ゆるさねー!! てめーなんか、おいらのカポエラでけちょんけちょんにしてやる!!」

そう叫ぶと、真里はひとみに向かって飛び蹴りをしてきた。
16 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:32 ID:14DDvJ0U
「うおぅ!?」

ひとみはとっさに体を開いてかわした。
着地と同時に、真里は右足を後ろに蹴り上げる。今度は、ひとみの身体をかすめた。
(あっぶね〜〜。でも、これって……)

ひとみは、ある事に気がついた。
カポエラは、元々黒人奴隷が自由を求めて生み出したもので、白人に練習を見られても平気なようにダンスに見せかけられており、他の格闘技には見られないトリッキーな技が多いのが特徴だ。
例えば、側転しながらの蹴りは踵落としと同じく頭の上の死角をつく攻撃なのだが、
「とりゃー!」

真里の場合、その身長の低さのせいで丸見えだった。
「このー!!」
(今だ!!)

真里が正面を向いた瞬間、ひとみは右腕を伸ばして真里の額を掴んだ。
「たあー! とー! このッ、このッ!」

ひとみは肘をしっかりと伸ばしたままで、真里のパンチや蹴りを身体を引いてかわし続けた。

真里の息が上がり始めたころ、スカジャンのヤンキーの携帯のアラームが鳴った。
「あーッ! 総長、大変ッす! 急がないと、バイトの時間に送れるッす!」
「なにー!?」

真里は額を掴んでいる手を振りほどくと、ひとみから離れた。そして、乱れた髪を整えて、
「今日は、このくらいで勘弁してやる! お前ら、早く行くぞ!!」
「「「ちょっ、待ってください、総長――!!」」」
17 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:33 ID:14DDvJ0U
「なんだったの……?」

スクーターで走り去る真里たちの姿を、梨華はポカンと見つめていた。
「梨華ちゃん! ほんとに怪我してない?」
「う、うん。ありがとう、ひとみちゃん」
「よかった〜〜。帰りが遅いから心配して途中で抜け出してきたら、梨華ちゃんピンチセンサーが反応したから焦ったよ」

要するに梨華専用虫の知らせのことだが、梨華にはさっぱり分からなかった。
「あ、あの、ひとみちゃん……」
「なに?」
「訊きたいことがあるんだけど」
「うん」
「何で、私とずっといようってするの?」
「…………迷惑だった?」
「ううん、違うの! 
私のこと、心配してくれたり、一緒にいたいって思ってくれるのは嬉しいんだけど……
昔はひとみちゃん、そんなにべったりしようとしなかったから気になっちゃって」
「だって、ずっと梨華ちゃんに会いたいの我慢してたんだよ? 
子供の頃、一人で会いに行こうとしたら親に止められたりしてさー」
「…………」
18 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:34 ID:14DDvJ0U
「それに約束したでしょ? 大きくなっても、あたしが守ってあげるって」
「……覚えててくれたんだ……」
「当たり前でしょ。あたしから言ったんだし」

そう言って、ひとみはハンカチを出して梨華の目からこぼれた一粒の涙を拭いた。
「私、お別れするとき、ひとみちゃんが笑顔だったから、
ずっと、私といるの、嫌だったんじゃないかって……」
「そんなことないよー。
あの時、あたしまで泣いちゃってたら、梨華ちゃんすごく泣いちゃうと思ったから、めちゃくちゃ我慢してたんだよー」
「そうだったんだ……」
「ねえ、梨華ちゃん。あの約束、これからも守り続けたいんだけど、いいかな?」
「……うん」

二人は、あの時と同じように指切りをした。
梨華はひとみのハンカチで涙を拭き終わると、晴れやかな顔で、
「早く、お店に戻ろ!」
「あ!」
「……どうしたの?」
「たぶん……今、戻っても、もう遅いかも……」
「?」

ひとみの言葉に、梨華は首をかしげた。
19 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:36 ID:14DDvJ0U

「そこまで! この勝負、まいちゃんの勝ち!!」
「あ――ッ、悔し――――――ッ!!」
「危なかった――!」
「んあ〜、疲れた〜〜」
「ご苦労様」
「よっすぃーが途中でいなくなるから大変だったよ〜」
「よっすぃーの時給3ヵ月間半分にして、その分ごっちんの時給に上乗せしてあげるから」
「ありがと〜。ところでさ〜」
「なに?」
「梨華ちゃんに買いに行ってもらってる分足しても、食材全然足りないんだけど」
「…………時給4分の1、決定ね」

20 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:36 ID:14DDvJ0U
21 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:36 ID:14DDvJ0U
22 名前:18 あなただけを〜一途すぎる彼女 投稿日:2006/05/05(金) 16:37 ID:14DDvJ0U

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