17 約束やぶりの彼女たち
- 1 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:34 ID:D58nXrWE
- 17 約束やぶりの彼女たち
- 2 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:35 ID:D58nXrWE
- 50.
中年男は朝食を食べ終えると、お茶をすすった。
新聞を開いて、まだ起きかけの脳を覚まそうと活字を追う。
株価は相変わらず緩やかに上昇を続けているが、男の会社にこれといった影響は見られない。
ここ一週間、娘のれいなと話をしていないことに、ふと気がついた。
階段を上る。正面にある、娘の部屋をノックした。
「れいな、入るぞ」
「なに?」
れいなは思い切り不機嫌に答えた。
外から帰ってきたような格好で、ベッドに転がっている。
男はため息を抑えて、優しい声を出そうと努めた。
「お前、このところ、高校いってないって本当か?」
「あー、いってない」
れいなの気の抜けた返事に、男は怒りが噴出しそうになる。
「……高校からはちゃんとやるって、約束したよな」
「なんか合わん」
「合う合わないの問題じゃないだろう」
「もう出かけるし、出てって」
れいなはだるそうに言うと、男を追いそうとする。
「どこ行くんだ」
「バイト」
「……」
男は、驚きで言葉にならない。
「高校いってもつまらんしバイト始めた。
無駄なことしてるよりいいっちゃろ。
着替えるし出てって」
男は無理矢理追い出された。抑えていたため息を、部屋の外でついた。
- 3 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:35 ID:D58nXrWE
- 鏡を見、ネクタイを締め、首もとの位置を正す。
鏡越しに、テレビの情報番組が目に入った。
星座占いをやっているところだった。
『おひつじ座 12位』
男は目を伏せ、わずか左右に首を振る。
男の星座はおひつじ座だった。
『運勢は絶不調。
親しい人とまったくうまくいかない日。
こんな日は一人静かに過ごそうね。
ラッキーカラーは、赤!』
男は、鏡に映る自分のネクタイを見る。深緑地に青のドットを配した模様。
やにわにネクタイを外し、紺地に細い赤のストライプのものに代えた。
- 4 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:36 ID:D58nXrWE
- 30.
喧騒のおしゃれ居酒屋。長身を生かし大股で忙しく歩き回る三十男。
ここの店長だったが、その表情には疲れが見えていた。
ちゃんとした休みを取ったのはどのぐらい前だろうか。一ヶ月、いやもっと前。
男はビールジョッキを10個運びながら、そんなことを考える。
かんぱ〜い! と大学生らしき集団の叫びが響く。
大学生は酔客の中でもダントツにマナーが悪い。ついで中年客。
しかしこのマナー悪き集団こそ、一番お金を落としていってくれる。
平日の夜だというのに客入りが良い。
料理が遅れたり、ドリンクが届かなかったりと、
店内の苦情が店内に薄く積もるように増えていく。
男は額に汗して小走りながら、先ほどの電話を思い出していた。
「亀井さん、昨日こなかったのどうして?」
「……えと、その、あの……」
「出てくれる約束だったよね」
「……」
「亀井さんは勝手に休むような子じゃないって思ってたのに、残念だよ」
「……」
「じゃ忙しいから」
いつもは真面目に遅刻することなく来てくれるバイトの子が、
何も言わずに欠勤したのだ。
代わりのバイトもつかまらず、男は休みを返上して仕事にあたった。
バイトの子、亀井は、おとなしい性格で明るいとはいえず、
接客向きとは思えなかったが、働き振りは真面目だった。
仕事の覚えも決して早くはなかったが、その真面目さを買っていた。
今日何度目かの頭を客に下げて、レジに並ぶ会計の列を手早く処理すると、
改めて店を見回す。ピークは過ぎたようだ。
平日の夜、これからいきなりまた混むということは、経験からいってまずない。
すまんちょっと休む何かあったら呼んで、とバイトに言い残し、
奥の座敷、使われてない部屋の座布団に突っ伏した。
- 5 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:36 ID:D58nXrWE
- 10.
とある高校の昼休み、わりと陽射しのやさしい、屋上。
少年はたった一人、壁にもたれて座っている。
膝に置いた鞄に、ルーズリーフを一枚広げ、シャーペンを構えたまま動かない。
もうしばらくこの体勢だ。
21世紀には珍しい、ラブレターというやつを書こうとしているのだ。
あて先は、少年が憧れてやまない、新任の音楽教師。
テレビのニュース番組に出ていそうな、上品さ。
『 園部先生へ
』
と書いただけで全身から汗が吹き出た。すぐさま消しゴムで消す。
シャーペンを放り出し、雲がまばらに散る空を見上げて、ため息をついた。
ガコン、と重い扉が開いて、一人の女子高生が屋上に降り立つ。
「なにしてんの?」
と、野太い声で話しかけてきた女子高生は、少年のクラスメイト、道重さゆみだった。
小中高と同じ学校で、しかも家も近所。いわゆる幼馴染である。
「べべべつになにもしてねーよ」
ルーズリーフを隠そうとするが、近づいてきたさゆみにさっと取られてしまう。
- 6 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:37 ID:D58nXrWE
- 「ふーん」
さゆみはルーズリーフを日にすかすように眺める。
消しゴムでしっかり消したし大丈夫、と少年は思う。
さゆみは、コンクリの地面に転がった少年のシャーペンを手に取り、
ルーズリーフをシャカシャカやりはじめた。
しばらく続け、目を凝らす。
「園部、せんせい?」
「はあ?! なにいってんだお前ばかか返せ」
なぜだ、ありえねえ、はずい、と少年の頭を複雑な感情が渦巻く。
「消してもね、こーやって、うすーくなぞると、
書いたところはへこんでるから字が分かっちゃうんだ」
「……なんてこった」
「へへへ」
「お前人に言うなよ!」
「なにを?」
「いや、だから……」
「人に言われたくないってことはなに、ラブレターでも書いてたの?」
ずばりそのままを当てられ、顔を真っ赤にしてしまう少年。
「うるせ!」
「あれ、あたっちゃった」
「マジでいうなよ! 誰にも言うなよ! 約束だぞ、な?」
「はいはーい」
嬉しそうに笑うさゆみに、一番まずいやつに知られてしまったと、
人生を嘆く少年であった。
- 7 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:38 ID:D58nXrWE
- 50.
中年男は、職場に着いてからも何度となくネクタイを気にした。
いつも使わない色だからか、胸元を眺めては確かめる。
「課長、3番にお電話です」
部下の声で、素早く電話に出る。
受注した仕事のクライアントからだった。
昨日新入社員が処理したはずの書類に不備があったらしい。
まず謝り、折り返し電話すると伝える。
新入社員を呼びつけると、ひどく緊張して顔を青ざめさせている。
怒る気も削がれて、気をつけるように、とだけ告げた。
昼を社食で簡単に済ました。
娘のれいなの様子が気になり、妻に電話をする。
やはり朝からバイトに出かけて行ったらしい。
妻も詳しいことは分からないという。
ガラスの向こう、ビルの隙間に曇り空が見える。
中年男の気持ちもどんよりしてきた。
今日の仕事を片付けたら、帰り一杯飲んで行こうと考える。
- 8 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:38 ID:D58nXrWE
- 30.
座布団によだれをたらしたのに気付いて、男ははっと長身を起こした。
座敷を出て時間を確認すると、15分も寝てはいなかった。
客は減っている。平常より暇な、店の光景だ。
「店長、もうあがったらどうすか。
あと俺らだけでなんとかなりそうなんで」
バイトリーダーでもある、大卒のフリーターにそう声をかけられた。
バイト歴は5年超。店長代理、といってもいいほどの存在だ。
店長である男はこのところ疲れが溜まっていた。
「じゃわりいけど、先あがらせてもらうな。
まかない好きなもん食っていいから。
豪華メニューも食え」
「遠慮なくいただきます」
男は先に更衣室へひっこむと、さっさと着替え始めた。
狭いロッカールームで私服に袖を通し、赤ベルトの腕時計をはめながら、
バイトリーダーでもある青年のことを思う。
働きからすれば、もっと時給をあげてやってもいいと思うのだが、
所詮自分はフランチャイズ店長。
時給の決定権などあるはずもなく、すべてはマニュアル化されている。
壁に掛かるシフト表、亀井、の文字が目に映る。
真面目な顔が思い浮かんで、かき消した。
シフト表の横にある、鏡を見た。寝癖がはねている。
座敷で寝ているときについたようだ。
手で治すが整わない。
髪をくしゃくしゃっとすると、男は更衣室を出た。
- 9 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:39 ID:D58nXrWE
- 10.
6時限目、退屈な古典のが終わり、少年は部活に行こうと鞄を肩に引っ掛ける。
次々と教室を出て行くクラスメイトに続こうとすると、
「ねえねえ」
女二人に呼び止められた。
二人で顔を寄せてニヤニヤしている。嫌な笑いだ。
「なんだよ」
一人の女が小さな声で、
「園部先生が好きってホント?」
と言った。
思わず目を見開くが、それ以上顔に出さないように気をつける。
「なにいってんだよ? なわけねーじゃん」
少年は平静を装いながら、道重のやつ喋りやがったな、と道重の席を横目で見る。
もういない。帰ったか。
「なーんだー」
「ゆーこ、違うんだって!」
女の一人が、教室の外の女に向かって嬉しそうに言った。
少年が目をやると、クラスメイトじゃない女が恥ずかしそうに下を向く。
「じゃーな」
「あ、ちょっと!」
少年は女二人をほっぽって教室を出る。
道重のやつ、誰にも言わないっつったのに……。
部活終わって家帰ったら、直接文句言いにいってやる。
- 10 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:40 ID:D58nXrWE
- 50.
残業を手早く片付けた中年男は、会社のビルを出る。
静かに飲みたいから、会社の人間と絶対会わないところがいい。
男は駅まで続く大通りから小路へ入り、暗がりを進む。
店にこだわりはなかった。一人になれればそれでいい。
スナックの派手な電飾が、小さな路地のあちらこちらにある。
男の前方、赤く輝く立て看板が目に入った。
『 スナック 麗奈 』
自分の娘と同じ名前に、思わず足を止める。
しばし考えた後、男はスナックの扉をくぐった。
いらっしゃいませー。年はいっているが綺麗なママが迎えた。
革張りの丸椅子に腰掛けると、ウィスキーをロックで頼んだ。
カウンターの背、棚の上に小さいテレビ。流れる番組を眺める。
店内を見回した。客は男以外にいなかった。
掃除が行き届いている。雰囲気も悪くない。当たりだったようだ。
スッとウィスキーが差し出され、ロックグラスを手にとって、カランと音を立てる。
喉を洗うように一口飲んだ。
鞄からケイタイを取り出し、メールを確認する。
一件届いていた。妻からだ。
娘のれいなが、やっとバイトから戻ってきたらしい。
男はケイタイを閉じると、ウィスキーをもう一口飲んだ。
- 11 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:40 ID:D58nXrWE
- 30.
ショーウィンドウに映る自分の頭、寝癖をやっぱり気にしながら、
男は街を大股で歩く。ゆっくりと歩くことに慣れていない。
メンズウェアのセレクトショップが目に留まる。
このところ服を買っていないことに気がついた。
金はあるが、使う暇がない。働きづめの三十代の悲哀だ。
自分の店が気になり、一応電話をする。
バイトリーダーが、2回のコールで電話に出た。
「どう、変わったことは?」
「全然。心配ないですよ。
ああ、さっき亀井ちゃんから店に電話ありました」
「へえ、なんだって?」
「店長は、って言うんで、いないって言ったら、すぐ電話切っちゃいましたけど」
「ああ、そう」
不機嫌さを隠さずに答えた。
「店長、あんまり怒らないでやってくださいよ」
「怒るよそりゃ。あーあ亀井さん真面目だと思ってたのになあ」
「あの子へこみやすいんで」
「俺がへこんでるよ」
「あっはっは」
「それじゃよろしく。おつかれー」
「はい、お疲れさんですー」
電話しながら歩いている間に、思ってもない場所にきていた。
普段歩くことのない狭い路地。
スナックの赤い電飾看板が、男の目の間にある。
男は、赤色が好きだった。
居酒屋には飽き飽きしている。こういう店で気晴らしもいいか、と思った。
- 12 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:41 ID:D58nXrWE
- 10.
部活を終えて自分の街に帰ってきた少年は、自宅の三軒隣、花屋の戸をカラカラと開ける。
道重さゆみの家はここなのだ。
さゆみの母さんが奥から出てきて、あらこんにちは〜、と笑いかける。
「あの、えーと」
「さゆみ?」
「はい」
「さゆみー! ちょっと」
大きい声で2階へ叫んだ。
てん、てん、てん、と下りてくる足音がする。
階段を下りきらずに、さゆみがひょこっと顔だけ出した。
「あれ、どうしたの」
「いいからちょっと」
少年は親指で外を指す。
さゆみは短パンにTシャツといったラフな部屋着に、
つっかけを履いて、少年と一緒に玄関先へ出る。
「お前さあ、言っただろ、クラスのやつに」
「なにを?」
「なにをじゃねーよ。クラスの女にさあ、
園部先生のこと好きなの? って聞かれたんだよ」
「え?!」
わざとらしく驚きやがって、と少年は思った。
「お前がいったんだろ!」
「言ってないよお。ほんとに、言ってない」
ほえほえしたさゆみの態度はいつものことだが、今日は無性に腹が立った。
「うるせばか! 約束したのによ! もう俺に話しかけんな!」
少年は捨て台詞を吐き、さゆみを残して、自分の家へと帰っていった。
- 13 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:43 ID:D58nXrWE
- 90.
スナックに長身の男が入っていく。
綺麗な女性がカウンターに立っていたが、男の好みではなかった。
しかしなかなか店の雰囲気はいい。
客が一人だけ。中年男性。
それほど広くない店内。二つ席を空けて座る。
腰を落ち着けた男は、自分の腹がすごく減っているのに気がつく。
このすきっ腹にアルコールはきつい。
とりあえず、なにか食物を胃に放り込むことにした。
「なんかご飯モノで美味しいのもらえる? 腹減っててさ。
あとビール」
「はーい」
突き出された枝豆を、速いペースで口にほかり込みながら、
もう一人の客、中年の男を観察する。接客業をやっている人間の癖だ。
仕立ての良いスーツを着ている。物腰からして仕事はできそうだ。
どうぞー、と男の目の前に焼きおにぎりが出てきた。
男の店でもあるメニューだが、これは出来合いのものではないようだ。
そんなことを考えながら、口に運ぶ。美味しい。
- 14 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:44 ID:D58nXrWE
- カランカラ〜ン、と入り口の鈴が鳴り、もうひとり客が飛び込んできた。
どかっ、と慣れた様子でカウンターに座る。
男はチラッと横目にみて、驚いた。どう見ても未成年だ。
「ビール」
いかにも少年らしい声で、そういった。
「ばか」
カウンターの女性が親しげに返す。どうやら親子のようだ。
「じゃ、ジュースでいいや」
「自分で取って」
「いいの?」
「小遣いから引いとく」
「ちっ」
少年は舌打ちしながら、店の端にある冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、
栓を抜いてグラスに注ぐ。
座りなおすと、ちょっと聞いてくれよ、と女性に切り出した。
「道重がさあ、最近おかしいんだよ」
「さゆみちゃん?」
「そう。なんかよー、言うことはっきりしねーし。
今日も、言うなって約束したのにあっさり破りやがって」
約束、という単語に、長身の男と、中年男の動きが一瞬止まった。
- 15 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:44 ID:D58nXrWE
- 「もうさゆみちゃんも17でしょ」
「うん、俺と同い年だしな」
「女はいろいろあるんだって。言えないこと出てくる年頃なんだよ」
「なんだよそれ」
「もう一回、話聞いてみたら?
どうせあんた、短気起こしてちゃんと聞いてないだろうし」
「……」
少年は黙った。あたってる、という顔。
長身の男が身を乗り出す。
「ちょっとすいません」
少年と、カウンターの女性が長身男のほうを見る。
「実は僕も、若い女の子に約束破られましてね」
男は苦笑しながら言った。
「あら、デートの約束ですか」
「いや、そんないいものじゃないんですけどね。
いま横で聞いてて、僕ももう一度話をしてみようか、と思いました」
「そうですよ〜。女性にはいろいろあるんですから」
中年男がハハっと低い笑い声を上げた。
みんながそちらを見る。
「失礼。私も、女性に約束を破られたところでして」
男は渋い声でそういって、苦笑する。
「あらあら」
「やはり話をする機会を設けるべきでしょうか」
「だと思います。
女性が約束を破るというのは、それはそれは深い理由があってのことなんですよ」
「ほんとかよー」
演技がかった言葉回しの女性に、少年が突っ込んだ。
- 16 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:45 ID:D58nXrWE
-
- 17 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:45 ID:D58nXrWE
- RES.
3日ぶりにバイトの休みをもらったれいなは、カラオケボックスへと向かっていた。
久しぶりに中学のときの友達と会うのだ。
中学の頃よく通ったカラオケボックスへたどり着く。
予約を取ってくれているはずだ。受付で店員に確認する。
「亀井、で予約あるとおもうんすけど」
「はい、219です」
「どもー」
迷路のような廊下を歩いて、角の219の扉を開ける。
大塚愛の新曲が耳に飛び込んできた。
絵里がノリノリで、ソファーの上に立って歌っている。
れいなは扉を閉めて、絵里とは反対側のソファーに腰掛け、足を組んだ。
絵里が決めポーズと共に歌い終わり、にこにこしながら座る。
「れいな久しぶりだね〜」
「ひさしぶり。あいかわらずノリノリだね」
「でも、れいなとかの前ぐらいでしか出来ないよ?」
絵里は仲間内だと明るくて元気で面白キャラだが、
初対面とか他人とかにものすごく弱いのだ。仲間内弁慶。
- 18 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:46 ID:D58nXrWE
- 「ちょっと低音あやしいのも、かわってないね」
「いわないでよー」
「さゆは?」
「もうすぐ来るって」
絵里はケイタイの画面を見ながら、そういった。
「さゆ来てからでもいいんだけど、まいっか」
「えー、なになに?」
「そんなたいしたことじゃないけど。
昨日親父とちょっと、話、したんだ」
「高校のこと?」
「うん。ただ辞めるんじゃなくて、大検とって大学行くってのも言えた」
「そっかー」
「なかなかいえんかった。世間的にはいい高校だし。
お嬢様学校だし、そのまま大学までエスカレーターってのもわかってんだけどね」
「れいなだったら大丈夫だよ。頭いいし」
「まーがんばってみる。
しかし親父のやつ、なんか急にちゃんと話聞いてくれたなあ。
納得はしてなかったけどねー。また話はしてみる」
れいなは、なにか一つ階段をあがったような顔をしていた。
- 19 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:46 ID:D58nXrWE
- 「あのさあ」
と絵里が切り出す。
「ん?」
「私も、ちょっとねー」
「なになに」
「バイトのことなんだけど」
「あーあの、結構かっこいい店長いるとこね」
絵里は笑った。
「かっこいいかなあ。その店長なんだけどね。
私あんまり、はっきり意見いえないじゃん?
れいなとかには言えるけど。なかなか他の人だと」
「うん」
「こないだ、おじいちゃんの法事でバイト出れなくなったときに、
なんか休む理由言えなくて。
ちゃんとした理由だってわかってるんだけど、
休むことにはかわりないじゃん? 私が空ける分大変なわけだし」
「うん」
「それでうまく言葉に出来なくて、店長怒らせちゃったんだ。
そしたら、こないだ店長から電話かかってきて。
なんか、ちゃんと理由聞いてないのに一方的に切っちゃって、とかって、
ゆっくり聞いてくれたんだ、なにかわけがあるんじゃない? って」
「そっか」
「それで、しっかり理由言えた。
そしたら分かってくれて。よかったーと思って」
「よかったね」
「うん! なんか、話わかってもらえると嬉しいー」
「だね」
- 20 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:47 ID:D58nXrWE
- そのとき、カラオケボックスの扉が勢いよく開いた。
れいなと絵里が、ぱっとそっちを見る。さゆみだった。
ひらひらしたスカートを履いて、髪を可愛く結んでいる。
「久しぶりー」
さゆみはピンクの小さい鞄をテーブルに置いて、絵里の隣に座った。
「さゆ、また背伸びた?」
れいなが聞いた。
「かなあ、たぶん」
「くそーいいなあ」
悔しがるれいなを、さゆがなだめる。
「いいじゃん、れいな、ちっちゃくて可愛いんだし」
「ちっちゃいっていうな」
「えーでもいいよお。さゆみ身長ほしくないもん」
「あーなんで神様は、のぞむ人に身長くれねーんだああああ!」
れいなは叫ぶと、立ち上がった。
「田中れいな歌います。
絵里、入れて」
「なに、誰ー?」
「2236の、06」
暗記している番号を言った。
れいなは相当なカラオケ好きなのだ。一人カラオケもどんどんするタイプ。
- 21 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:47 ID:D58nXrWE
- 曲前の無音時間。
暗がりの中、れいなは目を閉じ、両手でマイクを口の前に持ってくる。
パッと照明が点くと同時、イントロでスネアが弾けるように鳴る。
「ウェ、ダウラベッショ、ナーーーイッ?! いえーーーーーーーーぁ!!」
れいなはシャウトをかました。
激しいドラムに乗せてかき鳴らされるギターに合わせ、
ふわふわの茶色い髪を揺らしながら、小さい手を掲げて大熱唱。
この曲はれいなの持ち歌なので、絵里とさゆみは何度も聴いているのだが、
洋楽なので、誰の歌なのかはいまだに分からない。
れいなの美声と派手なパフォーマンスの中、絵里とさゆみは話をする。
「やっぱれいな、うまいねー」
「歌手なれるんじゃないのかなあ」
「だねー」
絵里は、次の歌を入れようと、歌本をぱらぱらめくる。
- 22 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:48 ID:D58nXrWE
- さゆみが絵里の耳元で話しかけた。
「あ、あのね、さゆみね、ちょっといいことあったんだ」
「なになにー?」
「いいことっていうか、誤解がとけたっていうか。
さゆみんちの近くの、松田いるじゃん」
「松田君? うん」
「あいつがね、なんかすごい怒っちゃったんだけど。
結局ちがっててね。謝ってくれたんだ、へへ」
「へー」
絵里は話の内容を理解できてなかったが、
それはどっちでもいいやと思った。さゆみが嬉しそうだったからだ。
「でね、今度、おわびとかいって、
なんか可愛いものくれるんだって」
「へーよかったねー」
「うん楽しみ」
- 23 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:49 ID:D58nXrWE
- 曲が激しく盛り上がり、ぶった切るようにして終わった。
れいなはマイクを掲げたまま、やりきった表情をしている。
さゆみはぱちぱちと拍手をした。
次は絵里。マイクを握って立ち上がる。
れいなは座って、早速次の曲を入れようとリモコンを持った。
さゆみは歌わない。人の歌を聴いているのが好きなのだ。
それをれいなも絵里も分かっているから、
遠慮せず二人で曲を入れていく。
彼女たちの時間は、始まったばかりだ。
- 24 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:50 ID:D58nXrWE
- Girls
- 25 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:50 ID:D58nXrWE
- Step
- 26 名前:17 約束やぶりの彼女たち 投稿日:2006/05/05(金) 14:50 ID:D58nXrWE
- Go!
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