14 promise
- 1 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:18 ID:d.MF8ctA
- 14 promise
- 2 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:19 ID:d.MF8ctA
- ぐしゃり。
手に、感触が伝わる。なんか湯剥きしたトマトを手が滑ってつぶしたときみたいな―そんな、感じ。
倒れて這いずるソレに、もう一度振り下ろす。
飛び散る液体。
ソレ、の住んでいた部屋のわけわかんないインテリアだったキャンドルは、明かりをつけられなかったときより今のほぅがずっと役に立ってると思った。
もう、目が見えないのか、ソレはフローリングの床を意味なくなでまわしている。
目を向けたその先に、あるのは携帯電話。
あれ、持ってないんだよね。
クラスの子の半分ぐらいがもってるけど、まだ買ってない。
なんかむかついたので、その手を踏んずけてやった。
ぐけっ。
鶏みたいな声で鳴く。
「ばいばい。センセ。」
そう言ってさっきよりも強めにキャンドルを叩きつけた。
一瞬の痙攣のあとの沈黙。
キャンドル、折れちゃった。
意外に弱いもんだ――へっ、ほんとは安物なのかも。
投げ捨てると来ていた雨合羽を脱ぎ、手袋も外してまるめてゴミ袋に入れる。
どっかで捨てないとね。
ま、気づかれることはないと思うけどね。
指紋は残さないようにしないとね。
鼻歌を歌いながら、触れたかもしれないところを拭って、美貴は部屋を出た。
動かなくなったメスイヌに一瞥もやらずに。
- 3 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:20 ID:d.MF8ctA
-
Promise.
- 4 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:21 ID:d.MF8ctA
- 060412.
「あ」
「――あ。」
声をあげたのは彼女だが、気づいたのは美貴が先だった。
大学の事務所。
書類を出しにきたのは彼女。
書類を受け取るのは美貴。
「久しぶり。」
「…うん、久しぶり。」
どうやって声をかけたらいいかわからなかったんですごくよくある挨拶をした。
どうやら。彼女もそうだったみたい。
「―――でもさ、びっくりしたよ。美貴ちゃん。連絡もらってもなんか返事しそびれちゃってさ、ごめんね。」
「いいけどさ、その美貴ちゃんはやめてよぉー、もう、なんかくすぐったい感じ。」
「じゃ、美貴ちゃんさんで。」
「へッ、ナニソレ。意味わかんないんですけど。」
「藤本サンがいい?」
「…ん、美貴ちゃんさんでいいよ、よっ・ちゃ・ん・さ・ん」
「変わんないなぁ。そのものの言い方。」
- 5 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:22 ID:d.MF8ctA
-
いつからここで働いてんの?去年は見なかったからさ。
うん、派遣だから。今年からこの大学の事務室にまわされてさぁ。
へー。びっくりしたよ。
よっちゃんさんが大学に来てるほうが美貴にはびっくりだよ。
積み重なる言葉。
重ねるごとに、感じる。
彼女がここにいること。そして私が彼女に――
感じていたキモチ、
感じているキモチ。
講義だから。
そう言って彼女は立ち去った。
さりげなく支払いをすませておくところも変わってない。
だから、誤解されるんだ。
だから、勘違いされるんだ。
――バカなオンナたちに。
風が、桜の花びらを散らした。
積み重なる花びらは、踏まれてしまえば汚い、ただのゴミだ。
そういえば、あの時も、桜が咲いていた。
- 6 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:22 ID:d.MF8ctA
- 000507.
咲いていた桜も、もう瑞々しい葉にその場所をゆずるころ。
「名前、なんていうの。」
「…」
「私はね、ひとみ。吉澤ひとみ。」
彼女は私に話しかけた。
「…知ってる。」
「じゃさ、きみは?」
「…なんで言わないといけないか、わかんないから。ていうかさ、名簿みればいいじゃん」
「キィミの口かぁら聞きとわぃいなー」
「…美貴。藤本美貴。…これでいいでしょ。じゃ、私用事あるから。」
薄っぺらいヤツ。
それが第一印象だった。
高校の初日、入学式の時からその顔立ちで話題になってたから知ってた。だけどキライだ。
「キミ」とか、笑わせる。下級生からキャアキャア言われてさ、いい気になってんじゃねえよ。
だから、無視した。
でも、いつも絡んできた。
すごく、ムカついた。
だから、目にとまる。
そして、分かった。
あれは――仮面だ。
彼女は、演技をしている。
だから、私は。
- 7 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:24 ID:d.MF8ctA
- 000923.
場所が悪かった。
秋、きれいな夕陽差し込める放課後の教室、たまたま二人っきりだなんて。
なんの告白タイムだっつーの。
「吉澤さんさ。なんでそんなに無理してんの?」
「なんのこと?」
「ハッ…やっぱりそういうんだ。ならいいけどさ、あーいう薄っぺらい演技見せられるとムカつくんだよね、正直。やめてくんない?」
「…美貴ちゃんは、やさしいね。」
「ワッケワカンナイ。っていうか、あんたに名前で呼ばれる筋合いないし。」
「いいじゃん。あのさ、疲れたら、美貴ちゃんに甘えてもいいかな。」
「…そうやって誤魔化すんだ。…フん、そうやったら誰でもオチると思ってるワケ?」
「こんなこと言うの、美貴ちゃんだけだよ。」
「…」
「…」
「やっぱ、あんたサイテーだわ。」
頬ぺたをひっぱたく音はオレンジ色の教室に、よく響いた。
061023.
響いた声に、電車の中の何人かが振り返る。
「風邪ひいたぁ?」
うっさいなこっち向くなよ、美貴も自分で自分の声にびっくりしたんだよ。ハイハイわかりましたー、電車の中では通話はご遠慮下さーいってやつですね、わかってるよ美貴もよっちゃんじゃなきゃ電車の中で電話とらないよ。
形だけ謝ってるふりをしながら、心の中で毒づいて電車を降りた。
買い物の算段を立てながら、なんか、ちょっと浮かれてる自分に気づく。
お見舞いなんて、いつ以来だろ。
「…っていうかさ、よっちゃん大学の友達とかいるでしょ。」
あまり使われた形跡のない台所で、鍋を火にかけながら布団の中の病人に話かける。
「やっぱ…美貴ちゃんさんがさ、いいなと思って。」
「なに。まだ仮面王子さまやってるワケ?」
そろそろいいかな、とか火を止めてお盆の上に移す。
「…まさか、もうそんなことしてないッスよ。でもさ、やっぱ、弱いとこ見せられないなっていうか…」
「してんじゃないかよ、ほれ、おかゆですよー。コンビニのインスタントだけど。」
「ありがと…おいし。やっぱ美貴ちゃんさんだよなぁ」
ほころんだ顔にこっちまでニヤケてしまう。
「なにそれキモーい」
「ひでッ…」
秋のほの暖かい光が、小さな部屋を満たしていた。
- 8 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:25 ID:d.MF8ctA
- 「あのさ、よっちゃん覚えてる?…その。」
「ん?なんのこと。」
「いや、いいや。覚えてないなら。」
「なんだよー、気になるじゃ」
trrrrrrrrr。
――突然の。
けたたましい電話の音。
「あ」
「出るよ、よっちゃんは寝てて。」
trrrrrrrrr。
電話の音はキライだけど、今日はいつにもましてうるさくてイヤだ。
「もしもし」
「あ、よっちゃん。アヤカだけど今度」
ガチャ。
「なーにー」
「セールス。」
そう、覚えていればいい。
美貴だけが覚えていれば、いいことなんだ。
いいことなんだ。
- 9 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:26 ID:d.MF8ctA
- 010119.
「…なんだかなぁ、あんたさぁ、看病してもらう人いないの? それとも…王子さまは弱いとこみせられないとか?」
スーパーの袋をひらきながらぶつくさ言う。あのころまだコンビニって…美貴の住んでるとこじゃあんまりなかったし、だいたいなんでもあるって感じじゃなかったかな。
「そんなこと…ある…かな。」
「バカみたい。ゴハンつくってあげるからさ、着替えといてね。」
「…う…ん」
「ちょっとぉ――なにやってんの!」
倒れた体の半端じゃない熱と汗。無理やり着替えさせようとした美貴の手を、よっちゃんは握って放さなかった。
「や…だ。」
「なに言ってんの。自分で着替えられないくせに。」
「…や…だぁ!」
手を振り払う、病人とは思えない力。
必死で抵抗するのを無理やり脱がせた時、なんていうか、あれだよ、ほらことばが出ないってやつ。
背中に走るまだ生々しいいくつもの蚯蚓腫れ。
一見して異常な行為の痕だと、分かる、ソレ。
「…だか、ら、や、だ…っていった、のに…」
泣いてた。
あんなに自信たっぷりに、かっこよく校舎を闊歩してたよっちゃんが、泣いてた。
まるで別人。雨に濡れた小鳥みたい。
「…ごめん。誰にも言わないから」
「軽蔑、して、いいよ」
まだ泣いてる彼女の背中をそっと抱きしめたのは、なんだろ、きっと、それは――
「ごめんね。でもさ、だいじょうぶだよ。美貴はさ、吉澤さんの――よっちゃんの味方だからね。」
「…ほんとに?」
「うん、約束だよ。絶対によっちゃんをいじめるヤツを許さないから。」
そう。
――二人の、二人だけの約束だ。
- 10 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:28 ID:d.MF8ctA
- 061108.
「…約束だから。」
トントントンと人参を切りながら、呟く。
もう、冬も近い。今日はカレーだ、温まる。
よっちゃん、喜ぶかな。
自然解凍したチキンに包丁を入れた。いい感じに解けてる。
そういえば。
眉をひそめた。
「あのとき」も冬だった。
見つけた。痕をつけた相手。
学校で、舌なめずりをするような目つきでよっちゃんを見るオンナ。
教師の中澤。
――ドウスル?
結論は簡単だ。
私は約束を守る女。
――コロシテヤル。
- 11 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:29 ID:d.MF8ctA
- あのオンナのマンション。ドアを開けた瞬間に突き飛ばして部屋に入り、手近にあったキャンドルで頭を殴った。
拍子抜けするほどあっさりあのメスイヌの頭は割れて、動かなくなった。
カレーはじっくり時間をかけるのがおいしさの秘訣。
火を調節してそのまま煮込む。
事件は、痴情のもつれとか変質者の仕業とか言われて騒がれたけれど結局そのままうやむやになった。
あの頃はまだ少年犯罪とかは話題になり始めたぐらいだったから、美貴が疑われることもなかった。
よっちゃんは少しの間ちょっと元気がなかったみたいだったけど、きっと驚いてたからだと思う。あんな奴から解放されて喜ばないはずないもの。
ソウ、ヨロコバナイハズナイモノ。
- 12 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:30 ID:d.MF8ctA
- それからずっと卒業までいい友達だった。
親御さんがあんまり帰ってこないよっちゃんのゴハンつくったり、お泊りしたり。楽しかったな。人生最高の時間ってやつ。
もちろん、美貴があのメスイヌ殺したとか言ってないよ。
約束を守ったことなんて大声で言うことじゃないと思わない?
美貴はそこんとこ、プライドもってるから。
でもさ、よっちゃんは卒業した後、あんまり連絡くれなくなったんだ。こっちから連絡しても返事こないしさ。ひどいよねー。
また出会えたのはきっと運命だよ。
美貴はよっちゃんとの約束を守らないと、いけないんだよ。
――と。
trrrrrrrrrrrr。
楽しい思い出の時間をやぶるのは、また電話。
「…はい。」
「あんた誰?ずっとよっちゃんと連絡とれないのあんたのせいで」
ガチャ。
うるさいなぁ。
ずっとかけてくるオンナ。異常じゃないの?
trrrrrrrrrrrrr。
また電話が鳴る。
きっとあのオンナも、中澤と同じようによっちゃんにやらしいことしようとしてるんだ。
そうだ、そうに決まってる。
俎板の上におきっぱなしにしていた包丁を取る。
振り下ろした先に、確かな手応え。
切れた電話線。
降りる沈黙。
- 13 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:31 ID:d.MF8ctA
- あのオンナの名前は確かアヤカだ。
住所も分かってる。よっちゃんの去年の年賀状で見たから。
ここからそんなに遠くない。
そうだ。
出かけよう。
美貴はよっちゃんとの約束を守らないと、いけない。
よっちゃんを守らないといけないんだ。
いい感じで出来たカレーの火を止め、伝言をメモする。
よっちゃん野菜食べないから、冷蔵庫のサラダも一緒に食べるよう書いておいた。
雨合羽はコンビニ。包丁は、確か100円ショップで買えたはず。
あとは――ま、いいや行く道がてら考えよう。
今日は冷える。
帰りに肉まんを買って帰ったらよっちゃん喜ぶかも。
そう思って、メモの横に書き添えた。
「肉まん買ってきます。約束ね。」
- 14 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:32 ID:d.MF8ctA
- たとえ世界を敵にまわしても
- 15 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:33 ID:d.MF8ctA
- よっちゃんは美貴が守るから。
- 16 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:34 ID:d.MF8ctA
- ――了。
- 17 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:35 ID:d.MF8ctA
- promise
- 18 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:37 ID:d.MF8ctA
- pro/miss
- 19 名前:14 promise 投稿日:2006/05/04(木) 22:39 ID:d.MF8ctA
- pro/Miss
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