12 ヘラクレス
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:11 ID:b2KHy2FA
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12 ヘラクレス
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:11 ID:b2KHy2FA
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くあ、とごっちんがあくびをした。
青い空にぷかぷかと浮かぶ白い雲。
手に持ったクリームパンの封を切りながら、
ごっちんはぼうっとした顔でそんな何の変哲もない空を見ている。
「ひまだねえ」
「うん」
視線は向かず、私に向いているのは、あくまで声のみ。
コンクリートの上に寝っ転がった私はジャムパンの角をかじって、
ゆっくりとした空気にふっと目を閉じる。
こんなにも自由というものを強く感じられるのは、
このごっちんの隣にいる時だけだ。
束縛されるのは嫌い。自由が好き。だからごっちんが好き。
いつかそんなことをごっちんに言ってみたら、
「ネコみたい」と言って笑われた。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:12 ID:b2KHy2FA
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「そういえばさ」
「うん」
「ミキティ、ごとーのDVD借りっぱなしでしょ」
「うん」
「返す気ある?」
「うん」
そこで一旦言葉が途切れたので、うっすらとだけ目を開けてみると、
こちらを向いたごっちんは全く信用ならないといった顔をしていた。
それにほんの少しだけ笑ってから、
「ごっちんだってミキの服借りたまんまじゃん」と言い返してやると、
目で見て分かるくらいにごっちんは言葉に詰まり、
しばらくしてからまた改めて空を見上げる。
どうやら、聞かなかったことにしたいらしい。
余計な詮索は無用。踏み込みも無用。
お互いに都合の悪いことはすぐに水に流す、
それが私達にとっての常識。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:12 ID:b2KHy2FA
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「でもさミキティ」
「あ?」
「ほんというと、ちょっとは捕まえてみたいんだ」
またもやふいに飛び出た、ごっちんの不用意な発言。
一瞬その言葉が今まで考えていたこととリンクして、
私は内心ひやりとしながら素っ気無い顔で「何が」と聞き返す。
ごっちんはゆっくりとこちらを振り向き、
「ヘラクレス」
と心の底から真剣な顔でそう言った。
そういえば、彼女の夏休みの自由研究は昆虫採集だ。
「……や、だから、無理だって」
「やってみなきゃわかんないじゃん」
「つーかそもそも日本にいんの?それ」
「いるよたぶん」
「ふーん」
ムキになって言い返す気力も失せて、
最終的に面倒になった私は適当な返事を返す。
ごっちんはそのことに不服そうな顔をしながらも、
もう一度自分の膝の上に置いてあった図鑑に視線を落とした。
それから一口、クリームパンを存分に頬張る。
そうして言った。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:12 ID:b2KHy2FA
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「約束、しない?」
「……」
それは私達の頭の上をぐるぐる回る薄い雲のかけらが、
ゆっくりと風に流され始めた時だった。
私はその声を聞いて、むくりと上体だけを起こしごっちんを見る。
ごっちんは相変わらず図鑑を真剣に眺めたままだ。
「……ごっちん、ミキがそういうの嫌いって知らなかったっけ」
なんとなく開いた間に耐えることができなくて、
なんとなく嫌味ったらしくなってしまった自分の声を押さえることもできず。
それでもごっちんは平然とした様子で、その私の問いかけに、
ふと唐突に顔を上げた。
「知ってるよ」
「なら」
「だから言ってんじゃん」
ごっちんが続ける。
「ちょっとは捕まえてみたいんだ」
そのゆったりとしたテンポの言葉を聞き、
ああ、やはり先ほどのはこういうことだったのかと理解する。
ふわりと柔らかな風が吹いて。
薄っぺらい雲と一緒に、
私達の時間まで流され始めてしまったのを本能で感じとった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:13 ID:b2KHy2FA
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ぽかぽかの陽気の中、いつものように昼寝する気は起こらない。
無意識の内に厳しい顔になっていた私を見て、
ごっちんはくっと小さく喉で笑いながら。
「約束しようよ」
「約束やぶらない、約束」
そう言って、にこりと笑った。
私はその言葉の意味が掴みきれなくて、
思わず「どういうこと?」と尋ねると、ごっちんは何も答えず、
ただ私の返事を促すように頭を右へ傾ける。
ああ、そうか。
どういうことかなんて必要ないんだ。
ただ、本当にただ、
「ちょっと捕まえてみたかっただけ」。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:13 ID:b2KHy2FA
- ふとした拍子に、それまで吹いていた風が止んだ。
ごっちんと私の間にまたゆったりとした空間が出来る。
それを感じとった私はなんとなくもう返事は必要ない気がして、
何気なくごっちんに目を向けると、
彼女はすでに自分の図鑑の方へと意識を集中させていた。
真剣な横顔が見つめる先は、黄金のヘラクレス。
「そうだ」
とごっちんが不意にまた声を上げた。
「ミキティ、今度一緒に虫取りいこうよ」
「…いいけど」
「おー、やったあ」
「でもミキ時間とか全然守れないよ」
「ミキティが来てくれるんならいつだっていいよそんなの」
そんなの呼ばわりかい、と私がツッコむより先に、
「その場で寝て待っとけば万事解決じゃん」とごっちんが屈託なく笑う。
気がつけば、青い空に残っていた白い雲は、
全てキレイに消え去ってしまっていて。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:14 ID:b2KHy2FA
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「でもさ」
私がそんな青空を見上げながら出した声に、
ごっちんは残ったクリームパンを口に放り込んでから顔を上げた。
「……ヘラクレスは探さないよ」
「ケチ」
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:14 ID:b2KHy2FA
- お
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:15 ID:b2KHy2FA
- わ
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/03(水) 22:15 ID:b2KHy2FA
- り
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