11 君に一言言いたくて
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/02(火) 15:38 ID:G3iVwrqE
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11 君に一言言いたくて
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/02(火) 15:39 ID:G3iVwrqE
- 「はぁ・・・・・。」
私は無意識のうちに今日何度吐き出したか知れない浅い溜め息を漏らす。
もうなんか言葉もなくて考えることすらできなくて、頭と心のバランスが上手くとれてないって
こういう感じをいうんだなと思った。
どうやら人間もう本当にどうしょもないときは溜め息しか出ないらしい。
でもそんな凹んでる自分が情けなく思えて不意に勢い良く顔を上げると、視界に入った
何の変哲もない夕焼け空が何だか妙に切なくて悲しく見えた。
だけど胸を締め付けるのは目の前の景色のせいだけじゃないのは知っている。
今頃みんなはあの事について話しているはすだ、っていうかそんなことでもない限り
こんなところで一人たそがれたりはしない。
でも実際はたそがれに来たわけじゃなくてその場居たくなくて逃げ出してきただけだ、
というかなんて顔をしていいか分からなくて泣いちゃいそうで怖かった。
多分そういう場で泣いちゃいけないんだと思う。
少なくとも私が泣いたらいけないんだろうなと根拠はないけどそう思った。
それに泣いたら結局同情するような方向に流れるだろうからそれがまた嫌だった。
過ぎてしまったことに悩んだってもうどうすることもないのに、なのに固執してる自分は
惨めで本当にかっこ悪いと思う。
あさ美ちゃんは逃げずにちゃんと受け止めてみんなのところにいるから余計にかっこ悪い。
- 3 名前:11 君に一言言いたくて 投稿日:2006/05/02(火) 15:40 ID:G3iVwrqE
- 「はぁ・・・・ホント情けないなぁ、自分。」
私は深い溜め息を一回吐き出すと屋上を囲むウェンスに軽く頭をぶつけてぽつりと呟いた。
しばらくその冷たい金属に額を当てていたけれど突然後方で扉が開く音がしたので
慌てて後ろに振り返った。
こんな情けない姿なんて人には見られたくなかったから。
振り返るとそこにはよく見慣れた人物が立っていた。
「よぉ麻琴、元気してる?」
「吉澤さん?!」
片手を上げて軽い感じで声を掛けてくる吉澤さんは私にはちょっと予想外の人物だったため
声を裏返りながらその名を呼んだ。
「いやさぁ、馬鹿と何とかは高いところが好きっていうじゃん?だからきっとここかなと
思ったんだよね。」
吉澤さんは小首を傾げて思わせぶりに少し考え込んだような仕草をしながら
私の方を指差して歯を見せて笑う。
その態度が激しくムカついたので大人気ないけど揚げ足を取るように言い返す。
「あのそれ普通は煙と何とかはって言いませんか?」
「んな細かいこと気にすんな。」
「痛たたた!!はいはいはいはい、分かりました!!」
どうやら調子に乗りすぎたらしく笑顔の吉澤さんに拳骨で軽く頭の締め付けられた。
- 4 名前:11 君に一言言いたくて 投稿日:2006/05/02(火) 15:43 ID:G3iVwrqE
- でも手の力が急に弱められたので私はゆっくりと顔を上げる。
「っうかさ、本当にマジで気にすんなよ。まぁ、そんなこと言っても無理なのは
分かってるんだけどさ、でも思い詰めるのは体にも心にも良くねぇし。」
吉澤さんは急に真面目な顔になるといつもの少し低く目の声で優しく諭すように言った。
励ましてくれるのはとても嬉しかったけど、私は結局自分の不甲斐なさが招いてしまった事実が
やっぱり許せなくて拳を痛いくらい握った。
「で、でも!!メンバーにあんなに言っておいて・・・なんか・・・ダメじゃないですか?
それに約束したんですよ?だから・・・守りたかったのに・・・・・。」
そして一度唇を噛み締めてから搾り出すように一言一言をゆっくりと口から吐き出した。
「約束なんてどうでもいいじゃん。大事なのは麻琴の心じゃね?それが見えてくれば
みんな納得すんじゃねぇの?」
吉澤さんはあっけらかんとした口調でそう言うと目を細めて笑いながら
私の頭を乱暴に撫でた。
その言葉を聞いた途端、胸が急に熱くなって泣きそうになったから慌てて顔を俯けた。
そしてこのタイミングこういうことを言い出すこの人が好きだなと思った、
それと同時に今まで一番強く吉澤さんに憧れを抱いた。
私は目尻に溜まっていた涙を軽く指で拭うと気を引き締めるために両頬を手で張った。
「それじゃ行きますか!!みんなところに行きます、吉澤さんのおかげで何か踏ん切りが
つきました。楽屋に戻ってみんなと話してきます。」
気合を入れて顔を上げるとまっすぐ目を見つめてはっきりとそう宣言した、
そして背を向けて屋上の出口に向かって足を踏み出そうとする。
- 5 名前:11 君に一言言いたくて 投稿日:2006/05/02(火) 15:45 ID:G3iVwrqE
- けれど私が前に進もうとした瞬間後ろに引き寄せられたため体はその場から動けなかった。
せっかく清々しい気持ちで楽屋に戻ろうとしたのに腕を掴んで邪魔した奴を
首だけ後ろに向けて睨みつけようとした。
でも悪戯っ子のように笑っているかと思いきや予想は外れて吉澤さんは頭を少し下げて
どこか気落ちしている様子だった。
変な雰囲気だなとは思ったけれどとりあえずなぜこんなことをするのか分からなくて
文句を言おうと口を開いた。
「何するん????」
「っうかさ、ちょっと早くね?もう少し居ろって。」
けれど吉澤さんはどこか沈んでいるような見た目とは裏腹に明るい声で言葉を遮る、
そして顔を上げないままただ私の腕を掴む力を強めた。
すぐに言葉が出てこなくて屋上を沈黙が包み込んだ、私は必死に言葉を探していたけれど
全く浮かんでこなかったし吉澤さんも未だ俯いて顔を上げない。
どれくらい黙り込んでいたのか分からないけれどとりあえずこの場を茶化すことで
沈黙を破ることにした。
「・・・・そ、それって誘ってんですか?」
完全に後ろに振り返ると胸に手を当てて上目遣いをしながら可愛い声で言ってみた。
「ごめん、麻琴それキモイわ。」
でも溜め息混じりに頭を上げたかと思うと露骨に顔を顰めて女の子に対して失礼すぎる
暴言を吐く、その吉澤さんはいつもの吉澤さんだった。
だからきっと大丈夫なんだろうなと思ってそのことに関しては突っ込まないことにした。
「普通にひどいんですけど、この人。」
と楽屋で普段話しているみたいに私はわざと無表情になると冷たい声で悪態をついた。
こんな方法しかできない自分はまだまだ子どもでバカだなと思った、
でもこれが精一杯で情けないけれど悪くないかなと思えた。
- 6 名前:11 君に一言言いたくて 投稿日:2006/05/02(火) 15:48 ID:G3iVwrqE
- 吉澤さんはしばらく普通笑っていたけれどまた不意に表情を暗くする、そして何か言おうとして
言うに言えない様子だった。
しばらく悩んでいたけれど少しして大きく溜め息を吐き出すとその重たい口を開けた。
「っうかさ・・・・・っうかマジぶっちゃけるとケーキを初め食べたのウチなんだよね。」
「はぁ?」
私は予想外の突然の告白に言葉の意味が分からず顔を顰めて問い返した。
吉澤さんは見事なまでにうろたえながら少し早口で必死に言い訳をする。
「違う!最初は知らなかったんだよ?冷蔵庫でたまたまカボチャケーキを見つけて
誰かの差し入れかと思ったんだって。で、そんときかなり腹減っててさ、
そんなときケーキ見つけてみ?食うじゃん普通の人間は!」
どうにかして自分の行動を納得させようと頑張るその姿を見て、こんな人に憧れていた自分は
今まで一番バカだなと思った。
「そりゃ食べるかもしれませんけど・・・・・私とあさ美ちゃんは小春ちゃんの為に
買ったケーキを食べちゃってかなり凹んでたんですよ?」
と私は呆れたように溜め息をつくと真犯人をしっかりと睨みつけて言った。
こんな人気のない屋上に来て一人たそがれてたくさん後悔して自己嫌悪していたのに、
もう何だか全てがバカバカしく思えてきた。
あの出来事が起こったのは今からほんの数時間前のことだった。
その日たまたま収録中に空き時間ができたのであさ美ちゃんと軽く出掛けて少し早めに
戻ってくると、楽屋には誰もいなくてただテーブルの上にケーキが置かれていた。
私とあさ美ちゃんはそれがカボチャのケーキだと分かると迷わずそれを食べた。
でもそれが今日美貴ちゃんの誕生日パーティーの為に二人が朝来るとき買ってきた
ケーキじゃん、と気づいたときはもうすでに9割程食べ終えていた。
とにかく私達は食べてしまったことを後悔していたのとみんなが来たらどうしようとか
考えていて、改めて冷静になればケーキが普通に置いてある時点で不自然だった。
けれどあのときはどうして誰もいない楽屋にケーキが小分けで置いてあったか、
なんてそんなこと考える余裕は全くなかった。
そんなこんなでメンバーが来てしまい、私は自分が先に食べようと言い出したことも
あって顔向けできなくて上手く楽屋から逃げ出した。
- 7 名前:11 君に一言言いたくて 投稿日:2006/05/02(火) 15:50 ID:G3iVwrqE
- 私はようやくさっき吉澤さんが沈んでいた理由を理解した。
あれは多少自分のしたことに罪の意識があったからで、決して楽屋に戻りにくい自分に
気を遣ってくれたわけではなかった。
優しい先輩だなんて思ったのはどうやらかなりの勘違いだったらしい。
「それで食べたのが分からないように小分けにして楽屋に適当に放置しておいたら二人が
食べたってわけだ。でも自分達の買ってきたケーキに気づかないのも悪いじゃん。」
吉澤さんは真相を話し終えるとすっきりしたのか開き直って全く悪びれた様子がなかった。
でも私達に罪を被せて置きながら尚且つ自分のせいじゃないような言い方をされて
黙っていられず私はすぐさま反論した。
「なに責任なすりつけようとしてるんですか!明らかに悪いのは吉澤さんじゃないですか!!」
「だから悪かったと思ってるよ、みんなには後でちゃんと言うって。」
「本当にもうこういうの勘弁してくださいよぉ。」
「悪かったな・・・・・ってちょっと待ってよ!!お前こそ人のせいにすんなよ!
大体こっちは一切れしか食べてないんだぞ?半分以上食べたのはお前らだろうが!」
私は捲くし立てるような勢いに任せて微妙に責任転嫁を試みたけど失敗した。
まぁ、自分の罪を隠そうとしたのはなかなかの知能犯だけどそのあまり多くはない
知能をもっと別のことに役立たせてくださいと思う。
でも吉澤さんが初めに食べちゃったのも事実だけど、私達が半分以上食べちゃったのも
事実なわけで、そしてケーキが殆どないというのもまた紛れもない事実だった。
「まぁ、なんだ・・・・・みんなに謝りに行こうか?」
「そう・・ですね・・・・謝りに行きますか。」
私達は顔を見合わせてそう呟くと互いに肩を抱き合うと深い溜め息を吐き出した、
そして重い足取りでメンバーが待つ楽屋へと向かった。
END
- 8 名前:11 君に一言言いたくて 投稿日:2006/05/02(火) 15:52 ID:G3iVwrqE
- 6レス目にミスりました
- 9 名前:11 君に一言言いたくて 投稿日:2006/05/02(火) 15:53 ID:G3iVwrqE
- 脳内変換してください
- 10 名前:11 君に一言言いたくて 投稿日:2006/05/02(火) 15:53 ID:G3iVwrqE
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まぁ、振り幅は大きいほうが良いって誰かが言ったし
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