08 黄色い傘
- 1 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:05 ID:wHvigfVQ
- 08 黄色い傘
- 2 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:06 ID:wHvigfVQ
- あたしには今、気になる事が一つある。
それは部屋の窓の外に見える、電信柱の下に立ってる女の子。
朝見ても、昼見ても、夜に見てもいつもあそこに立っている。
あたしの住むアパートに誰か好きな人でもいて、
それを狙うストーカーちっくな女の子なんだろうか、とか思っていたんだけど────。
- 3 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:06 ID:wHvigfVQ
- ある日、出かけてると突然の夕立。急いであたしは家へと走っていた。
家の手前の角を曲がると土砂降りの雨の中その子は立っていた。
さすがにちょっと放っておけなくて、たまらなくあたしは話しかけてしまった。
「びしょぬれじゃんか!あたしのうちおいで、いくら最近暖かくなったとはいえ寒いでしょ?」
すると彼女は驚いたような顔してこちらを見る。
こんな状況じゃさすがのあたしだって無視はできないよ。
彼女は何かを確かめるように口を開く。
「…みんなで飛んだら必ず三人で集まろうって約束したんです。でもみんな来なくて…」
みんなで飛んだらって何。危ない子かな。
彼女の言ってる事がいまいち理解できないがあたしは気にせずに続ける。
「でもさ、こんな雨の中にいたら体壊すって」
「大丈夫です、お母さんもよく雨に打たれてましたけどずっと立ってましたから」
親子二代でストーカーですか。いや、違うと思うけど。
ストーカーっぽくもないし、だからといって嘘とか冗談とか言ってるようには見えないし。
びしょびしょに濡れてもなお空を見上げている彼女を無理やりそこから動かす事もできない気がして。
「じゃあ、傘持ってきてあげる。あとタオルも、そこで待ってて」
あたしがそう言うと戸惑ったような表情を見せた後、はい、と返事をして笑った。
あたしのお気に入りの黄色い傘とタオルを渡すと、ありがとうございます、とペコリと頭を下げてまた笑った。
笑顔が可愛い子だと思った。
- 4 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:07 ID:wHvigfVQ
- 次の日、外を見るとまだあそこに立っていた。
家にも帰ってないようだし、さすがに何か訳ありなんだろうという事だけはわかる。
でも言葉には出さないが、頑なにあそこから離れまいとする姿を見ると無理やり保護する訳にもいかない。
あたしは困ったのでバイト仲間の梨華ちゃんに相談してみる事にした。
「うちの近くにさ、家で少女みたいなのがいるんだけどどうしたらいいんだと思う?」
「…え、何、急に。うーん…、警察とかに連れて行ったりとかは?」
「…うーん」
そういうのはなんとなくしたくない。彼女には何か目的がある。
三人で集まる、と言っていたから多分そのうち他の二人が来るのだと思うと。
「ていうかさ、美貴ちゃんそんな人想いの人だったっけ?」
「…失礼だね」
軽く小突くと気持ち悪く痛ーい、っと声を上げた。
そもそも相談する相手を間違えたようだ。
バイトが終わり、いつもの角を曲がる。
やはり彼女はまだあそこにいる。けれどいつものように立っているのではなくしゃがみこむような形で。
具合が悪いんだと思いあたしは傍に駆け寄る。すると彼女はゆっくりと顔を上げた。
- 5 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:07 ID:wHvigfVQ
- 「大丈夫…?」
「…はぃ、何とか。もしかしたら二人は別の場所に降りたのかもしれないです。
あたし、見た事なかった広がる世界に感動してゆっくりと飛んでいたから…」
「……」
放っておけないが、この子の言う事が会った時から一つも理解ができない。
だからどう答えたらいいのかも、あたしには言葉が見つからなかった。
「れいなと絵里…、多分二人で行っちゃったんです。だからもうあたしはここにいようと思って。
約束破っちゃうけど、もうあまり力もないんです」
そう言うと目の前にいた彼女は消えた。
実体から徐々に透明になった体。あたしは体の血の気が引いて急いで家へと走った。
あの子は幽霊だったんだ。だから話もいまいち通じなかったんだ。そう思うと普通に話していた事が怖くて怖くて。
梨華ちゃんにはきっとまた柄でもない、と茶化されるだろうけれどあたしは布団をかぶって震えた。
- 6 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:08 ID:wHvigfVQ
- 次の日に見るとその場所に女の子が二人いた。
彼女と同じ歳くらいだろうか。もうあまり近づきたくはないがバイトも休むわけに行かないし、
あたしはびくびくしながらその場所を横切る。
「さゆ、こんなとこにいたと」
「こんな全然自然じゃないような所にいるから体壊すんだよぉ」
彼女たちは何かに向かって話をしている。
もうオカルト的な事は本当に勘弁してほしい。
けれど気になったあたしは立ち止まって少し遠くでその様子を見てみる事にした。
「どうしよっか、さゆもう動けなそうだよね」
「うちらもここにいるしかないっちゃね」
背の低い変わった言葉を話す女の子は腕を組みながらやれやれ、と言わんばかり。
髪の長いほわわ、と笑う女の子はまぁ、仕方ないよね、とニコニコ。
それを見るあたしは眉間にしわを寄せているだろう。
その光景を見ていると道を挟んで目の前を車が通り過ぎる。
あたしは少し避けて、また女の子たちがいた方を見る。
「……」
嫌な予感は的中。女の子たちはまたいない。車の通る一瞬で消えてしまった。
あたしはクラっとしたが何とか持ちこたえ、重い足取りでバイト先へと向かった。
- 7 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:09 ID:wHvigfVQ
- 「梨華ちゃん」
「何ー?」
「…幽霊って、昼間にも出るのかな」
「はぁ?」
訳を話すとへぇ、とだけ言い自分の仕事場へと梨華ちゃんはついた。
興味ないことにはとことん興味がない性格なのは知っていたが、そのうち半殺し。
あたしはバイトの帰りに不動産屋に寄っていた。
できれば三人も幽霊が出る土地から一刻も早く引っ越したい。
手ごろな物件の資料を片手にあたしはまたいつもの角を曲がる。
そこには誰もいなかった。内心ほっとしてそこを横切る。
電信柱の横を通り過ぎる瞬間、彼女が急に現れた。
「わぁ!」
「あ、驚かせてすみません…あの、れいなと絵里が来てくれたんです。
あたしが動けないって知って二人も残ってくれるそうです」
「…よ、よかった、ね」
後ずさりをしながら早く逃げたいと言う気持ちを抑えつつあたしは彼女の話を聞く。
「三人で約束した事叶って良かった。体力がぎりぎりで残っていたのも、
あなたがこれとこれを貸してくれたおかげだと思ってます。ありがとうございました」
満面の笑みであたしに傘とタオルを渡す。これは彼女に貸したものだ。
あっけにとられていると彼女はまた笑顔であたしの顔覗き込む。
「当分はここにいると思います。あたしはさゆみ、って言います。よろしくお願いします」
そう言うとまたゆっくりと姿が消える。しかし何度もあの笑顔を見たせいかもう恐怖はない。
彼女が消えていくのをずっと見ていると消えながら小さくなっているのがわかる。
目で追うとアスファルトの隙間にタンポポが3つ寄り添って咲いていた。
- 8 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:09 ID:wHvigfVQ
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あぁ、きっと梨華ちゃんに柄でもないと茶化されるんだろうと思ったけどあたしの顔には笑みがこぼれた。
- 9 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:10 ID:wHvigfVQ
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- 10 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:10 ID:wHvigfVQ
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- 11 名前:_ 投稿日:2006/05/01(月) 01:11 ID:wHvigfVQ
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