01 やくそく
- 1 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:08 ID:Pq/X1606
- 01 やくそく
- 2 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:09 ID:Pq/X1606
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れいなは走っていました。
お姉ちゃん、に会うために。
- 3 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:09 ID:Pq/X1606
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- 4 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:09 ID:Pq/X1606
- 10年前、れいながまだ6才だったころ。となりの家には、えり、という名前の子が住んでいました。
れいなは1つ年上のえりちゃんのことを、「えりお姉ちゃん」と呼んでいました。
れいなとえりちゃんはとっても仲良しで、いつも一緒に遊んでいたものです。
れいなが「かくれんぼしたい!」とか「おにごっこしたい!」とか言うのを、えりちゃんは全部きいてあげました。「れいな鬼はやりたくないっ!」なんてわがままを言っても、えりちゃんは怒らずにニコニコ。
いつでもニコニコしていて、かわいくて、やさしい。そんな「えりお姉ちゃん」を、れいなは大好きでした。
そしてえりちゃんも、やんちゃでかわいらしいれいなが大好きだったのです。
「大人になったら、けっこんしたいね。」
こんな無茶なやくそくも、何度も交わしました。とっても純粋な気持ちで。
- 5 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:10 ID:Pq/X1606
- れいなが福岡に突然引っ越すことになったのは、小学校にあがる少し前のことでした。お父さんのお仕事の都合です。
れいなにとっては天地がひっくり返るような大事件でした。大好きなえりお姉ちゃんと離ればなれになってしまうのですから。
引っ越しの日、行きたくないと泣きじゃくるれいなを見て、えりちゃんはいたたまれない気持ちになりました。えりちゃんも本当は悲しかったのですが、えりはお姉ちゃんだから泣いちゃいけない、そう思ってがまんしました。
「れいな、これ、あげる。」
れいなに泣きやんでほしいと思ってえりちゃんが差し出したのは、かわいらしいカメのぬいぐるみ。とても大切にしていた宝物です。
- 6 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:11 ID:Pq/X1606
- それでも、れいなは泣きやみません。ぬいぐるみをもらって嬉しかったのですが、その嬉しさもえりちゃんと会えなくなる悲しさにはとうていかなわなかったのです。
「そうだ、れいな。」
さらにえりちゃんが、何かをひらめきました。
「10年たったら、いっしょに遊んだ公園の、さくらの木のところで会おう?やくそくだよ?」
まだ泣き続けているれいなの手をそっとつかんで、ゆびきりげんまんをしました。
- 7 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:11 ID:Pq/X1606
- れいながえりちゃんとよく遊んでいた公園は、春になるときれいなきれいな桜がたくさん咲きました。えりちゃんは、その場所で10年後にまた会いたいと思ったのです。10年。7才のえりちゃんにとってそれは未知の長さでしたが、その未知の長さに神秘的なものを感じたのかもしれません。
そうしてたった1つのやくそくを交わして、れいなはえりちゃんのもとをはなれていきました。
- 8 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:11 ID:Pq/X1606
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- 9 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:12 ID:Pq/X1606
- そして、10年後。
福岡で小学校の6年間をすごし、中学校の3年間をすごしても、れいなはえりちゃんとのやくそくを忘れていませんでした。
高校は、東京の高校―――6才までをすごしたあの場所から、あまり遠くないところにある高校を選びました。
えりちゃんに会うため、ただそれだけのために。
- 10 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:12 ID:Pq/X1606
- ゆびきりをしてからちょうど10年後の、やくそくの日。
れいなは走っていました。お姉ちゃん、に会うために。
腕には、かわいらしいカメのぬいぐるみをかかえています。えりちゃんとの絆そのものである、大切なぬいぐるみです。
- 11 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:13 ID:Pq/X1606
- 10年前までれいなが住んでいたあたりの場所も、すっかり変わっていました。今では、高いビルがいくつもそびえ立っています。
道に迷いながら、れいなはとうとう小さな公園にたどりつきました。
公園には満開の桜が咲いていました。10年前の記憶とはどこか違うようなとまどいを覚えながらも、れいなははやる気持ちをおさえてゆっくりと中に入ります。
- 12 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:13 ID:Pq/X1606
- 公園の中でもひときわ大きな桜の木の下。そこに、1人の女の子のうしろ姿を見つけました。黒い髪、れいなよりも高い背。記憶の中にある、あの笑顔がよみがえります。
れいなの緊張はピークに達していました。
「…えり………お姉ちゃん……?」
そしてとうとう、ふるえる声で、そう呼びかけました。
- 13 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:13 ID:Pq/X1606
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- 14 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:14 ID:Pq/X1606
- 「やっぱり、忘れちゃったんだなぁ……。」
そのころ、少し離れた公園では、満開の桜の木の下で、ショートカットの髪を茶色に染めた女の子がため息をついていました。咲き誇る桜とは対照的に、その表情はとても寂しそうです。
「一緒に見たかったなぁ………」
桜を見上げて悲しそうな笑顔を浮かべると、女の子は歩き出しました。
- 15 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:14 ID:Pq/X1606
- 「絵里ー!!」
名前を呼ばれた女の子が振り返ると、黒い髪の女の子が手を振りながら走ってきます。
「さゆ!どうしたの?」
驚く茶髪の女の子―――絵里に、さゆと呼ばれた女の子は笑顔を見せます。
「絵里、今日友達と会うって言ってたでしょ?」
「うん……でも来なかったから、帰ろうと思ってたところ。」
「あの子じゃない?」
さゆが指さしたその方向から、カメのぬいぐるみをかかえた女の子が歩いてきました。その女の子が近づくにつれ、最初はきょとんとしていた絵里の目が驚きで見開かれていきます。
その様子を見たさゆは満足そうに頷くと、「お友達を連れてきたお礼に、今度ケーキでもおごってね?」とイタズラっぽい笑顔で絵里にささやき、走り去っていきました。
その言葉は、呆然と立ちつくす絵里には全く届いていませんでしたが。
- 16 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:15 ID:Pq/X1606
- 公園には、2人の女の子が残されました。
「…………えり、お姉ちゃん…?」
ぬいぐるみをかかえた女の子―――れいなが、恐る恐る話しかけます。先ほど道に迷った末に見つけた公園で同じように声をかけたら、それが絵里の友達のさゆだったのです。
でも、今度は人違いではありません。髪の色が変わっても、顔はれいなの覚えているえりお姉ちゃんと同じでした。
- 17 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:15 ID:Pq/X1606
- えりお姉ちゃん、と呼ばれた絵里が、たまらずにれいなを抱きしめました。その様子を、れいなの腕にかかえられたカメのぬいぐるみが優しく見守っています。
「そのぬいぐるみ、ずっととっておいてくれたんだね。」
「……別に、とっておきたくてとっておいたわけじゃない。このカメが勝手に居座ってただけで……。」
「…そっか。」
れいなに気付かれないようにこっそりと、絵里は頬を緩めました。
- 18 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:16 ID:Pq/X1606
- 「小さい頃、いつもやくそくしてたの覚えてる?」
絵里の問いかけに、れいなはすぐに思い出したのか「うん」と言いました。そして、少し恥ずかしそうに答えます。
「大人になったら結婚したいね、って、いつも言ってたもんね。」
「……絵里、れいなと結婚したい。」
「…れいなも、えりお姉ちゃんと結婚したい。」
その言葉が本気なのか、それとも全くの冗談なのか。それは2人にさえもわかりません。
ただ、れいなも絵里も、とても幸せそうな笑顔をしています。
- 19 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:16 ID:Pq/X1606
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優しい風がふいて、桜の花びらが一枚、れいなの肩にそっと舞い降りました。
- 20 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:17 ID:Pq/X1606
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- 21 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:17 ID:Pq/X1606
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- 22 名前:01 やくそく 投稿日:2006/04/27(木) 20:17 ID:Pq/X1606
- おしまい。
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