AFTERNOON TEA

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/22(木) 20:07
気がつけばそばに、あなたが居た。
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/22(木) 20:08
高鳴る鼓動と流れる汗。
見つめるシグナルツリーの向こうには、もう飛び終えて
余裕しゃくしゃくのまっつー。
やがてツリーの赤い光が緑に変わり、わたしはふっと息を
漏らした。歓声が上がった。

◇◆◇

放課後。ランニング後のクールダウン中にまっつーが
突然「ごっちん、賭けをしよう」と切り出してきた。
「賭け?」
「来週のインターハイ、負けたほうが安倍さんから手を引く」
「なっちから?」
わたしは後ろを向いた。やや遠く離れた場所でなっちは
ストップウォッチ片手に梨華ちゃんと笑い合ってた。
「先輩をあだ名で呼ぶのももう無しだからね」

◇◆◇

歩数を合わせるための、おまじないの意味も込めた小さな
ジャンプをした後でゆっくりと走り出す。弧を描くように。
待ってろ、まっつー。
今まで超えたことのない160cmの高さに向かって、わたしは
右足で思い切り、地面を、蹴った。

◇◆◇

「ごっちん?」
「だいたいわたし達が決めることじゃなくて」
わたしはまっつーから目を逸らし、小声で、それでも言い
続けた。
「なっちが選ぶかどうか、じゃない」
なっちと名前を意識して強める。
まっつーは「それは」と呟いて黙った。最低だわたし。

◇◆◇

踏み切りと同時に背中をそらす。かかとに軽い衝撃。あっ。
わたしの身体がどさりとマットに落ちた直後、からんと
バーが落ちる音が聞こえた。
負けた。
まっつーはどんな顔でわたしを見てるんだろう?
悔しくて、動けなかった。

◇◆◇

言葉で言い負かして、それで勝ったつもり?
仕方ないでしょ。負けを認めてなっちから手を引けば良かった?
威勢良いね。でもその割に負けた瞬間から、一歩も進んでない。
黙っててよ、わたしが背負ってる荷物の重さ知らないくせして!

◇◆◇

それからまっつーとはぎくしゃくする日が続いて、
なんだか何をしても面白くなくて、どこかもやもやしてて、
その理由を認めたくなくて、わたしはうずくまり声に出す。
「もう疲れた誰か助けてよ」
でもまっつーも誰もわたしなんて見てなくて。

◇◆◇

部室に戻るとなっちだけだった。平均タイムの計算をしている
ようで、視線が電卓とノートを行ったり来たりしていた。
「まっつーのこと、聞いたよ」
わたしがそう言うとなっちは手をとめた。上げた顔は困った
ような笑顔を浮かべていた。
鼓動が速くなる。聞いてどうするんだ。聞いたらおしまいだ。
どっちでもどっちか失なう。なっちか、まっつーか。
でも。
「ねぇなっち、今」
私は聞いた。
「好きな人、居るって本当?」
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/22(木) 20:09
◇◆◇

大急ぎで着替えて駆け出す。まっつーはさっき帰ったばかり。
まだその辺に居るはず。ペース配分も何もない全力疾走に空気が
のどにつかえそうな感じ。スカートを翻えす。バッグを抱え直す。
制服の群れを追い抜く。まだ居ない。角を曲がる。居た!
「まっつ―――――!」

◇◆◇

「ごっちん、私。振られちゃった」
ランニング後のクールダウン中に後ろからの声。
振り返ると笑顔で、だけど目が潤んでるまっつーが居た。
「安倍さんね。今好きな人が居るんだって」
まっつーが前に出る。わたし達は久し振りに、本当に
久し振りに並んで、一緒に歩いた。
「ごっちんの言った通りだったね」
前を見つめるまっつーの顔は、なんだかとてもきれいだった。
「私達が決めることじゃなかった」
「まっつー」
そう呼びかけるのがやっと。まっつーはぽん、とわたしの
背中を叩いた。

◇◆◇

メダルをぶら下げたまっつーは本当に嬉しそうだった。
わたし達はずっと一緒だった。今日のためにまっつーが
どれだけ練習をいっぱいしてきたか良く知ってる。
まっつーは絶対手を抜かない人だった。
出来るまで、納得いくまで、何時間でも飛び続けていた。
まっつー。わたしの親友。
どうして同じ人を好きになっちゃんたんだろうね。

◇◆◇

「ごっちん?」
びっくりしたように振り替えるその背中に手をかけ、崩れる
ように座り込んだ。伝えなきゃ。でも苦しい。吐きそう。
「ほら立って歩く。走った後はクールダウンでしょ」
まっつーに手を引いてもらいながら、さっき追い抜いた子達に
不思議そうな顔で見られるの感じながら、わたしは言った。
「まっつー、わたしも」
「私も?」
「わたしもなっちに振られた」

◇◆◇

「ばかだね、わたし達」
「自分達だけで盛り上がって」
「恥ずかしいっすね」
「上手くいくと思ったんすけどね」

◇◆◇

照れたようななっちの笑顔に、私の中で何かが崩れる。
「誰にも言わないでね」
なっちの指差す先、窓の外に居たのは、梨華ちゃんだった。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/22(木) 20:10












「あ―――――っ!」

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