15 れいなの通販生活
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 23:53
 
-  15 れいなの通販生活 
 
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 23:54
 
-  「これさ、超便利だよ。れいなも頼んでみたら?」 
  
 そんなことを言いながら絵里が、通販のカタログをわたしにくれた。普段滅多にわたしに話しか 
 けることのない絵里だったから変だなとは思ったけれど、ちょうど欲しいものがあったからあり 
 がたく受け取っておいた。 
 厚さは英語の辞書くらい。表紙には子供の落書きのような文字で「つうはんせいかつ」と書かれ 
 ていた。かばんに入れるには少々難儀な代物だったけれど、何とかそれを持って帰った。  
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 23:54
 
-  ところが、そのカタログには私の欲しいものなんて載ってなかった。 
 その代わり、家に帰ってカタログを開いてはじめて、その中身の奇妙さに気がついた。 
 最初のページには説明書きのようなものが記されていた。 
  
 ・「その日」のうちに届きます。 
 ・欲しいものなら、何でもお届けします。 
 ・一日につき、一商品までです。 
 ・健康のため、使い過ぎにご注意ください。 
  
 嵌められた。 
 そう思った。カタログは日めくりカレンダーのように、いくらめくっても日付の書かれたページ 
 しか出てこない。書かれている電話番号に電話したって、絵里が「ぐぇへへへ」とか言ってわた 
 しをからかうに違いない。素直に騙されたわたしが凄く情けなくて、涙が出てきそうだった。だ 
 からこそわたしは、目の前にあった携帯を手に取った。 
  
 電話に出てきたのは絵里とは明らかに声質の違う女性だった。それでも、 
 「すみません、カタログの商品を注文したいんですけど……」 
 と受話器の向こうの人物に告げた。カタログに商品なんて載ってない。でも、「欲しいものなら 
 何でも」とカタログには謳われていた。ならば。  
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 23:55
 
-  次の日から、わたしの欲しいものが次々に届き始めた。 
 ぬいぐるみ、ipod、プラズマテレビ… 
 時には「パンダ」なんていう無茶な注文もした。けれども、翌日には大きな檻に入れられたパン 
 ダが届けられていた。さすがに持て余してしまい、夜中にこっそり外に逃がしてやった。 
 またある時は「アメリカの大統領」と冗談で言ったら本当に次の日玄関の前に見たことのある外 
 人が立っていた。特に用事もなかったので、そのまま帰ってもらった。 
 とにかく注文したものが来ない、なんてことはまったくなかった。 
  
 不思議なことに、段々とカタログが薄くなってゆく。 
 指定した日付のページがなくなっているからだった。 
 まるで最初からそのページが存在していなかったように、綺麗に。すっぽりと。 
 そして、何でも届くという便利さからわたしは毎日のようにこの通販カタログを利用していた。 
 絵里から貰った時にあった厚さは、今では大学ノートくらいにまで減っていた。 
 それだけならまだいい。 
 まるでカタログと比例するかのように、わたしの体重も同じように落ちていたのだ。 
 何故か。理由はよくわからなかった。ただひとつだけわかっていることは、もうこのカタログな 
 しでは生きていけないということだった。 
 日を記した紙が消えるたび、自分の体重が減るたびに通販を注文することへの渇望は強くなって 
 ゆく。そして。  
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/18(月) 00:02
 
-  カタログがただの一枚の薄っぺらい紙になってしまった時に、発作は起こった。 
 欲しい。欲しい。欲しい。 
 あのカタログを手に取り、そして自らの望むものを手に入れたい。砂漠に舌を晒して、そのまま 
 放置しているような痛覚が、全身を襲う。 
 ふと見てみた鏡に映った自分、それはよくホラー映画に出てくるモンスターそのものだった。 
 絵里に、絵里に会わないと。あのカタログを、もう一度貰わないと。 
 オフの日ににも関わらず、わたしの足は自然と絵里の家に向いていた。 
  
 「どうしたのれいな、そんなに叩いたら、ドア壊れちゃうよ?」 
 絵里はいつものように半笑いの表情でわたしを迎える。そんな彼女の表情にはいつもなら嫌悪感 
 すら抱いていたのに、今日は彼女がたったひとつの光明にしか見えなかった。 
 「絵里お願い、あのカタログ欲しい!」 
 肩を掴み、ありったけの力で絵里を揺する。けれども彼女は顔色ひとつ変えなかった。 
 「あれねえ、もうないんだ」 
 その言葉は、わたしから全てを奪うには十分な破壊力を持っていた。 
 「な、何でなかとね!」 
 「ないものはないよ。ごめんねえ」 
 かっとなって、絵里をそのまま床に押し倒そうとする。けれどもいとも簡単に跳ね返され、逆に 
 わたしが彼女に組み伏せられる形になった。 
 「ダメじゃんれいな、説明書き読まなかったんだ。健康のため、使い過ぎにご注意くださいって 
 書いてなかった? あれね、すごく中毒性があるんだよ? 一部では読む麻薬、って言われてて」 
 体の血がすうっと引いてゆく。麻薬と言う単語が耳の奥で刺々しくひっかかった。 
 「な、なんでそんなものれいなに?ひどい、ひどいよ!」 
 すると絵里は、いつものように「グェヘヘヘ」とだらしなく笑って、 
  
 あのカタログを見せた。 
  
 今度は自分の血液が急沸するのを感じだ。あれだ、あれさえあれば! 
  
 「早よ、早よそれをよこすばい!」 
 「やだよー、れいな廃人になっちゃう」 
 そう言う絵里は凄く嬉しそうで、絵里はわざとわたしを廃人にするためにこのカタログをよこし 
 たことにはじめて気づいたのだけれど、もうどうしようもなくカタログを欲しているわたしには 
 何一つ抗うことなど出来ないんだなと思った。  
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/18(月) 00:03
 
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- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/18(月) 00:03
 
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- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/18(月) 00:03
 
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