8.れいなの通販生活
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:06
- 8.れいなの通販生活
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:06
- ミ☆☆☆
お届けものでぇす。モーニング娘。がダンスレッスンに使っているスタジオのドア
が、そんな声と一緒に開きます。
田中れいなはぴょんとドアに飛びつくと、足踏みしながら小包を受け取りました。
両手にちょうど乗っかるくらいの大きさで、真っ白でピカピカ光る包装紙にくるまれていました。
今すぐにでも包装紙を破って中身を確かめてみたいのを、れいなはぐっとこらえました。
れいなはいつだって好きなものは最後に取っておくタイプです。
そうやっていつもさゆにお弁当のデザートを取られちゃうけど、こればっかりは譲れません。
ぐっとこらえてガマンの子なのです。
小包の箱をスタジオの隅っこに置いてあるバッグの中に丁重にしまいます。
「田中、もういい?」
夏先生がちょっと歳を取った声でいいます。
「はい!」
今夜はいよいよあの商品と対面できるんだ。
そう思うと自然とれいなの声は弾みます。
ダンスレッスンのやる気もまんまんというものです。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:06
- ミ☆☆☆
住所に「モーニング娘。のいるとこ」とさえ書いておけば、日本じゅうどこだって
運送会社のお兄さんがやって来て荷物を届けてくれるよ。
そう教えてくれたのは、れいながけっこう尊敬している先輩である紺ちゃんでした。
なんでも辻ちゃん加護ちゃんが加入した時に、年がら年じゅうお腹空いたお腹空い
たといってる2人のために、事務所が運送会社さんとケーヤクしてくれたんだそうです。
れいなはいつだって忙しくって家にいないし、
お母さんだっていつも家にいるわけじゃありません。
フザイシャウケトリとか、
めんどくさいことを気にしなくてもいいシステムを作ってありがとう、と
れいなは気が向いたときに事務所とつんく♂さんにお礼をいっています。
お風呂にも入ったし、お母さんがアイロンをかけてくれたパジャマにも着替えました。
お風呂上がりにしか着けないメガネをかけて、さあ準備万端です。
先月、やっぱり通販で買ったペーパーナイフをきらりと構えて、小包をくるんでいる
包装紙をていねいに切って開いてフタを上げます。
プチプチシートに包まれて、とうとうあの商品がれいなの手の中にやってきます。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:06
- 本日のお買い上げはは商品ナンバーZB0494A、レーザー脱毛器です。
これさえあればもうカミソリも脱毛クリームもいりません。
れいなにはまだ使い道がないけれど、そのうちきっと役に立ちます。
そうだ。これは尊敬してやまないみきねえにも是非貸してあげなくちゃなりません。
きっと、みきねえは喜んでれいなの頭をわしゃわしゃしてくれるに決まっています。
レーザー脱毛器の金ピカボディを眺めながら、れいなはほうっ、と熱い熱いため息をつきました。
時計の針は夜の2時を回っています。
よい子とアイドルはもうとっくにおねむの時間だけれど、
みきねえを尊敬してやまないれいなは悪い子とアンチアイドルを目指しているので
夜更かしなんてへいちゃらです。
リモコンのスイッチを入れると、時代遅れのブラウン管が、ぶうんと音をたてます。
お母さんが新しくプラズマ液晶テレビを買ってリビングに置いちゃったので、
いらなくなったブラウン管をれいなの部屋にくれたのがすべての始まりでした。
生まれて初めて自分専用のテレビを手に入れたれいなは、よろこんでいろんな番組を見ました。
そんなときです。れいなは通販番組と出会いました。
真夜中のブラウン管の中で映る商品はどれもピカピカ光っていて、まるで宝物みたいでした。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:07
- れいなはあっという間に通信販売にはまりました。
今日は来るかな。
明日は来るかな。
そうやってドキドキして、ようやく届いた商品を手にしたときの「やったー」とい
う気持ち。
それまでブラウン管の中でしか見たことがない商品が実際に自分の手に入る「よっ
しゃー」という気持ち。
こんな気持ちは毎日のように学研のおばさんを待ち続けていたあのとき以来です。
ミ☆☆☆
通信販売とは一期一会です。
さあ、今晩はどんな商品と出会えるかな。
れいなはわくわくしながらテレビの前にお行儀よく正座しました。
引越し会社のCMが終わって、テレビから聞きなれたテーマソングが流れてきます。
れいなのドキドキは最高潮です。
でも、妙です。
テーマソングが終わっても、ちっとも番組が始まりません。
それどころか、ブラウン管がザーッといって砂嵐を映し始めます。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:07
- テレビが壊れちゃったのかな?
大変です。れいなはほとんどパニックになりました。
梨華ちゃんをぶん殴る時のみきねえを真似してテレビをばんばん叩きました。
<聞こえるか!>
突然テレビが喋り始めたので、れいなはびっくりしてひっくり返ってしまいました。
ブラウン管の中にいたのは、れいながあんまり尊敬していない先輩、吉澤ひとみさんでした。
でも、やっぱりちょっと妙です。
白い肌がなんだか薄いブルーに見えるし、ホクロも少ないみたいです。
第一、服がもうありえません。
梅宮のオジサンが若い頃着てたみたいな銀ピカのツナギです。ダサイを通り越して
バカみたいです。
「吉澤さん、イタイ仕事やらされちょるねえ」
思わず感想をいったときです。ブラウン管の中の吉澤さんがぱっと表情を明るくしました。
<おお、いたのか!>
テレビとお話できるようになったとは知りませんでした。
れいなはITってすごいなあと感心しました。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:07
- <キミは現地の子か!?>
「れなは博多っ子とぉー」
<聞こえているんだな。よし!>
吉澤さんの後ろの壁にはいっぱいのメーターが埋まっていて、なんだか忙しげにく
るくる動いています。
たまにメーターがパンと割れて、小川さんによく似た泣き声が聞こえます。
<君は、この星の幼生体か?>
「れいなは妖精たい!」
吉澤さんは梨華ちゃんを噛み潰したような顔をして<やむをえんか>とかいってます。
「吉澤さーん?」
<知っているなら話が早い。私は銀河警備隊端っこ支部隊長、ヨシザワ・ゴマ・ザ・ベーグル。
君にお願いがある>
銀河警備隊!
小さいころからいつか出会うものと信じていた名前に、れいなは背筋をぴんと伸ば
しました。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:07
- <いいか落ち着いてよく聞いてくれ。
運が悪いことに、君たちの星は宇宙の地上げ屋に目を付けられてしまった。
景色のきれいな星を見つけては生き物を皆殺しにして、
金持ちにインテリアとして売っ払う最低の連中だ
もちろん、我々はヤツらの母艦を撃破した。
しかし、打ち出されたカプセルまでは止められなかった。
おそらく、すでに連中の『配達員』が1人、地上に降りている!
ヤツらの手口は巧妙だ。
通信販売会社の配達員を装って、さも贈り物のように現地の人間に小包を渡す。
包装紙にはナノマシンがしこまれていて、触れられた瞬間手からその生物の全データを読み取る。
コンマ1秒後にはその星の生物を全滅させるウィルスを自動生成し、空気中に撒き散らすんだ。
夜行性のヤツらは夜遅くまで起きている人間を狙う。
おそらく君の元にもやってくるだろう。しかし、君は私の話を聞いた。
食い止められるはずだ。
君が、ヤツらの野望を叩き潰すんだ!>
これだよ、これ。
れいなは汗ばんだ手のひらをぎゅっと握りました。
れいなは常々どうして自分がプリキュアに選ばれなかったのか不思議でしかたあり
ませんでしたが、銀河警備隊に選ばれていたんじゃ仕方ありません。
いまだにセーラームーンになろうとしてる後藤さんには悪いけど、選ばれたもんの勝ちです。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:08
- <いいか幼生体、『配達員』には気をつけろ!
商品は絶対に受け取るな!>
それを最後に、プチンといってブラウン管が黙り込みました。
入れ替わりに、窓からコンコンという音が聞こえます。
カーテンをあけると、そこにはでっかい女の子が立っていました。
「お届け物なの」
その子は、さらさらで真っ黒な髪の毛と、やっぱり真っ黒な目をしていました。
蛍光ピンクで腰にでっかいリボンがついたヘンなドレスが妙に似合ってます。
口元のホクロもちょっぴり膨らんだほっぺたも、あんまり道重さゆみに似ていて、
れいなは口をあんぐり開けました。
「お届け物なの」
さゆがまた窓ガラスをノックします。
その片手にはピカピカの包装紙にくるまれた小包があります。
これはさゆじゃありません。
さゆはれいなからデザートをパクりこそすれ、何かくれることは決してありません。
お誕生日にだってくれたのはスマイルだけでした。れいなはそれはそれで満足でしたが。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:08
- 『配達員』だ!
「どうしたの?」
「うっさい、帰れー!」
れいなが怒鳴ってやると、さゆは平気な顔でカラカラと窓ガラスをあけます。
きっとお母さんが昼間に掃除したとき、鍵を閉め忘れていたに違いありません。
ばかばかばか。
お母さんに対してこんなに腹が立てたのは、みきねえにもらったエッチな雑誌を
学習机の上に置かれたとき以来です。
「通信販売は、きらい?」
『配達員』はカーペットの上をのしのし歩いて、れいなの方にやってきます。
「やだやだ、あっち行け!」
れいなはベッドの上の毛布を『配達員』に投げつけました。
『配達員』がもぞもぞしている横をすり抜けて、窓からベランダに飛び出します。
部屋のほうを見ると、『配達員』が毛布をかぶったまま腕をぶんぶん振り回しています。
れいなを探しているに違いありません。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:09
- 逃げなきゃ!
お向かいの塀づたいに道路に飛び降りると、れいなは一目散に走り出しました。
「れーなーぁ」
後ろから間延びした声が聞こえます。れいなは慌ててスピードアップしました。
「れーいーなーぁー」
間延びした声はまだまだ聞こえてきます。
れいなは泣きそうになりながら必死で走りました。
「れーぇいーぃなーぁー」
「やだやだやだやだっ!」
腕をぶんぶん振り回しなら、れいなは夢中で走ります。
なのに、なんということでしょう。
いつの間にか目の前に灰色の壁がそびえたっています。
追い込まれてしまいました。もう逃げられません。
どうしようどうしようどうしよう。れいなはその場で足踏みしました。
「れーぃなぁ」
のそっと、塀の影から『配達員』のさゆが出てきます。
れいなはもうどうしようもなくなって、ぺたんと尻餅をつきました。
「はい、お届け物なの」
れいなはぶんぶん首を横に振ります。
『配達員』のさゆは不思議そうな顔をします。
「どうしたの? れいなは通信販売が好きでしょ?
こんなに夜遅くの通販番組をチェックするくらい、大好きなんでしょう?」
さゆが差し出してくる小包は七色にピカピカ光っていて、これまで見たこともない
くらいキレイな包装紙でくるまれていました。
あの中にはいったいどんなすごい商品が入っているんだろう!?
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:09
- ちょっとすると手を伸ばしてしまいそうになる自分を、れいなはあわてて叱りつけました。
ダメです。あれを触ったら最後、みんなが死んじゃうのです。
「・・・だめやけん」
「なぁに?」
聞こえないよ、というように『配達員』さゆがにっこりと笑います。
「どうして? れいなは通信販売が大好きでしょう?」
なんだか喉にビー玉がつっかえたような気分になって、れいなはぐっと息をのみました。
「ソレ触ったら、みんな死によるっていうけん、だめっちゃ!
そりゃ、れなは、通販好きっ、やけど、
愛の囚人のヤグチさんも、ピンクがウザい石川さんも、あんまり尊敬してない
吉澤さんも、ぜんぜん尊敬してない小川さんも、正直苦手なタカハシさんも、
ご飯おごってくれる新垣さんも、お菓子わけてくれる紺ちゃんも、
あと、あと・・・っ!
尊敬してやまないみきねえも、なんもくれん絵里も、デザートパクってくさゆも、
みんな、みんな、大好きやからっ!
だから、みんなが死によるようなことはせんもん!」
「ソレが聞けてよかったよ」
れいなの頭の上から降ってきたその声は、さゆじゃありませんでした。
「よっと」といって塀の上から飛び降りてきたのはヤグチさんでした。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:10
- 「ども、愛の囚人です」
「もーいーぞお」というヤグチさんの声に、塀の影からぞろぞろたくさん出てきます。
銀ピカの服を着てヅラをかかえた吉澤さんが小川さんと肩を組んで、
「あんまり尊敬されてませーん」「ぜんぜん尊敬されてませーん」と笑っています。
ものすごく微妙な笑顔です。
梨華ちゃんや新垣さんはさゆと同じ格好をしていました。
さゆにしては足が早いと思ったら、何人かで入れ替わってたみたいです。
何が起こったのかわからないれいなはキョトンとするしかありません。
「こら、れいな」
ヤグチさんがぽかりとれいなの頭を叩きます。
「ここんとこのお前はなんだ。
ダンスレッスンだって気が抜けてるし、いつも寝不足で眠そうじゃねえか。
いつまでもそんなじゃオイラが困るから、みんなでひと芝居うったんだよ」
あれは全部お芝居だったのでしょうか。
でもじゃあ、テレビに映った吉澤さんはなんだったのでしょう。
れいながきょろきょろすると、全身アキバ系で決めた紺ちゃんが奇跡的なリズム
で口笛を吹いていました。
なんだかまた喉にビー玉がせりあがってきて、れいなは鼻をスンスン鳴らしました。
みんなが忙しいっていうことは、れいなはよく知っています。
みんな、本当はとても疲れているんです。ヤグチさん以外は。
みんな、本当はちょっとでも家で寝ていたいんです。ヤグチさん以外は。
「おら、泣くんじゃねえよ」
誰かが優しくそういってれいなの頭を撫でてくれます。
れいなはわんわん泣いて、何度も何度も「ごめんなさい」をいいました。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:10
- ミ☆☆☆
お届け物でぇす。そういって楽屋のドアが開きました。
きちんと時間指定しているから、お昼休みが始まる時間とぴったりです。
わざとデザートだけ残したお弁当をテーブルの上に置いて、れいなは落ち着き払って
配達員のお兄さんから小包を受け取りました。
「今度はなに買ったんだよ」
本当は早寝早起きが大好きで毎朝牛乳を飲んでいるみきねえが聞いています。
れいなはにこにこ笑って小包を持ち上げました。
「じゃっじゃじゃーん!」
本日のお買い上げは群馬名物焼きまんじゅうです。
もちろん、れいなが大好きなメンバー全員の分がそろっています。
通販番組は予約録画で観ることにしたけれど、れいなはやっぱり通信販売が大好きなのです。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/15(金) 01:10
- おしまい
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