二番 「れいなの通販生活」
- 1 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:12
- 二番 「れいなの通販生活」
- 2 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:12
- 「あさ美ちゃん、お誕生日おめでとう」
あさ美の誕生日の朝、見慣れた顔の女性が大きい箱を抱えて玄関に現れた。
この日は運良くと言うべきかそれとも運悪くと言うべきか土曜日で、目覚まし時計をセットせずに眠っていたあさ美は彼女の鳴らすチャイムで目が覚めた。
「…おはようございます…」
「うわー不機嫌上等だねー」
「…何の用ですか?こんな早くに」
「あ、うん。
君のお祖父様からプレゼントを届けるよう仰せ付かってね」
「プレゼント…」
「そう。プレゼント」
「…そのためにわざわざ北海道からきてくれたんですか?」
あさ美が問うと彼女はにこっと笑みを浮かべた。
「わざわざじゃないよ別に。
あたしはただ迎えに来た車で空港まで送って貰って、手配済みのチケットで飛行機に乗って、そこにも迎えの車が来てて
プレゼントと一緒にここに送られてきただけだよ」
「…すいません。お祖父ちゃんが無理ばっかりさせて…」
「いやいや。お陰でタダであさ美ちゃんに会いにこれる訳だし。
ラッキー、ラッキー」
「…ありがとうございます」
「いいえー。
あ。それでこれ、プレゼントなんだけど、一緒に手紙も預かってて。はい」
差し出されたのは白い味気ない封筒。
「ありがとうございます」
「ん。
いい誕生日になるといいね。
じゃあまたね」
「はい。また」
- 3 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:12
- 彼女の後ろ姿を見送って、ふぅと一息吐く。
玄関に一歩上がっただけのこの大きい箱を奥に運べるだろうか不安が過る。
「…ここで開けようっと」
ビリッとガムテープを剥がして中を覗き込んだあさ美は、一瞬たじろぐ。
「…………死体……な訳ないよね…。
お祖父ちゃんがマフィアだったなんて話聞いたことないし…」
とは言ったもののそうじゃないと決まった訳でもない。
触る勇気は出ず、けれどダンボールを強引に破り開け、死体なのかマネキンなのかそれともそのどちらでもないのかを確認する事にした。
口許にてのひらをかざしてみる。
呼吸なし。
只今の確率、死体1:マネキン1:その他1
外傷や注射の跡などがないか見える範囲を丹念に探る。
頭部・腕・足・首筋にそれらしきものはなし。
只今の確率、死体1:マネキン2:その他2
部位のつなぎ目を探す。
結合部なし。
只今の確率、死体1:マネキン1:その他3
脳内パニック寸前のあさ美はやっとの思いで先ほど受け取った手紙のことを思い出した。
そこに何か書かれてあるに違いない。そうじゃないと困る。
- 4 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:13
- 封筒の中には一枚の便箋があり、そこに綴られた文字の優雅さがやや癪に障るくらいだったが、読まないと得られなかったであろう情報があったので相殺する事で落ち着いた。
その情報は三つ。
一、少し特殊ではあるがこれは紛れもなく人間である
ニ、月に一度残りのパーツが送られてくる
三、名前はれーな
あさ美は、破れかぶれになったダンボールに座るれーなを見つめながら首を傾げる。
人間と言われても先刻確認した限り、生きているようには思えなかった。
それに残りのパーツと言われても、見た目は完全体で何が足りないのか分らない。
月に一度と言うからには、一度きり、「生命」が送られてくるという訳ではなさそうだ。
少なくとも、心臓移植なんていうグロッキーな現場を目撃するのは避けられそうである。
ともかく、何もしなければ何も起こらなさそうだと思い、あさ美はれーなを奥の部屋へと引きずり、壁に凭れ掛けさせて後は極力視界に入れないようにする事にした。
- 5 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:13
- それから一ヶ月が経過した六月のある日、学校帰りのあさ美を玄関先で待ち構えている彼女の姿を見つけた。
「大谷さん」
「こんにちは、あさ美ちゃん」
「どうしたんですか?」
「うん。君のお祖父様から手紙を預かってね」
彼女は見覚えのある白い封筒をひらひらとさせる。
「…またお祖父ちゃんってば大谷さん遣って。郵便でいいのに」
「まあまあそう言わないで。
これでもあの方なりにあさ美ちゃんの事心配してるんだろうから。
手紙じゃ君は素っ気無いらしいからね。元気かどうかも分からないって」
「…」
「ま、元気そうでしたよと伝えておくから。
んじゃ、はいこれ」
「…ありがとうございます」
「ん。またね」
「はい、また」
彼女が乗り込んだ車が見えなくなった後、鍵を開け家の中へと入りながら封筒の中から便箋を抜き取る。
そこにはただ一文、こう書かれてあった。
「おはよう」と優しく微笑み掛けてあげる
何が残りのパーツなのか、ぴくりともしないれーなに何がおはようなのか、解せないけれどそこは優等生のあさ美さん、その文章に則りマリア様スマイルを浮かべ、優しく声を掛けた。
「おはよう」
すると、れーなの目があさ美を捉え、あさ美がそうしたように微笑み、口を開く。
「おはよう」
- 6 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:14
- 翌七月、あさ美が期末試験を全教科終えて家に帰って来ると、いつかのデジャブのように彼女の姿がそこにはあった。
「…すいません」
深々と頭を下げるあさ美に彼女は少し困惑した。
「ちょ、ちょっと。何いきなり謝ってるのよ」
「だって…またお祖父ちゃんに頼まれてきたんですよね…?」
「そうだけど。
なんとびっくり。この前発覚したホットな情報なんだけどさ。
君のお祖父様、君とあたしを結婚させたいらしいよ」
「………わたしも大谷さんも女なんですけど」
「ねぇ。ほんと素敵なお祖父様だよね」
「…どこが素敵なのか疑問ですが。
それより、その」
「あーうんうん。手紙ね手紙」
お馴染みの白い封筒を受け取る。
中にはやはり便箋が一枚入っていて、そこには一文、力強くこう綴られてある。
「れーなは可愛い」と褒めてあげる
「おはよう」だけを覚えて、微笑むことだけを知っているれーなに、出来るだけの笑顔を向ける。
「れーなは可愛い。可愛いよ」
あさ美の言葉にれーなは嬉しそうに口許を緩めた。
- 7 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:14
- 八月、夏休み真っ只中のカラッカラに晴れた日、再び彼女がやって来た。
「暑いの苦手なのにお疲れ様です」
「いえいえ。
君の顔見れば暑さ寒さも吹き飛びますよ」
彼女はにこやかにそう言って、いつものように封筒を差し出した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あ。上がってお茶でも飲んで行きませんか?」
「ありがたいお誘いだけど、飛行機の時間あるから今度の機会に」
「そうですか」
「ごめんね。じゃあ、またね」
「はい、また」
彼女はいつものようにあさ美のお祖父様が用意した車で空港へと引き返して行く。
溜め息一つを吐きながら便箋を見ると、今回も一文だけが書かれていた。
「れーなの馬鹿」と冷たく言う
声に出せるのは「おはよう」だけで、微笑む事が出来て、嬉しいという事を知っているれーなに、冷たい目、冷たい声で呟く。
「れーなの馬鹿」
突然そう言われたれーなは立ち上がり、あさ美の両肩を掴んで、その目をきつく睨み付けた。
- 8 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:14
- まだべとつくような暑さの残る九月、涼しい顔をした彼女がいつものようにあさ美の帰りを待ち構えていた。
「おかえり」
「ただいま、です」
「そう言えば、君のお祖父様、何だか少し元気がなさそうに見えたけど、喧嘩でもした?」
封筒と一緒にそんな言葉まで貰ってしまう。
「いえ。喧嘩も何ももう二年以上会ってさえないですし」
「そっかー」
「はい」
「まあさ、たまには帰っておいでよ。
みんな君に会いたがってるし」
「…はい」
「ん。約束だよ。じゃあ、またね」
「はい、また」
恒例の今月の一文は、少し捻りが効いていた。
グーチョキパー
「れーな」
あさ美の声に僅かに顔を上げる。
「ジャンケン、知ってる?
グー、チョキ、パーって」
口に合わせて右手で形を作る。
れーなは返事をしない。
きょとんとしているのはいつもの事で、それが分かっていない顔なのかそうじゃないのかあさ美には判断できない。
ならば、と右手を引いて、元気よく声を上げる。
「ジャンッケン!ポイッ」
五本指とも広げられたあさ美のてのひらの向こうに、れーなの右手の人差し指と中指が見えた。
「あ、れーなの勝ちだよ。ね?分かる」
れーなは頷いて、楽しそうに笑った。
- 9 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:14
- 十月、衣替えのあったその日、彼女はやはりやって来た。
「おー冬服いいねー」
なんて親父臭い事を言いながら。
「こんにちは」
「こんにちは。
はい、手紙」
「ありがとうございます」
「ん。
ねえ、ほんとにお祖父様と何にもない?
昨日なんてさー、一言も発せずにこれ、手渡す訳よ」
「いえ、わたしは何も」
「ならいーけど。
冬休みにでもさ、一度戻っておいでよ。
君の顔みたら少しはご機嫌直るだろうし」
「…はい」
「お願いね。じゃあ、またね」
「はい、また」
地位も権力も手に入れた人間がいまさら何の不自由があるって言うんだ。
そんな事を思いながら便箋を取り出す。
いつものように達筆な一文。
「さよなら」を告げる
「おはよう」と微笑む事が出来て、嬉しいという事を知っていて、怒る事と楽しむ事が出来るれーなに、その送り主であるお祖父様の姿を重ねながら、あさ美は声低く、投げ掛ける。
「さよなら」
れーなはその言葉を反復し、立ち上がる。
「さよなら」
- 10 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:15
- れーなの足は一直線に台所へと向かい、流しの下の包丁を手にする。
「れーな…?」
目を泳がせるあさ美の前まで来たれーなの右手が、呆気なくあさ美の心臓を突き刺した。
れーなの足下に横たわるあさ美は声を発する事なく動かなくなった。
れーなは跪いて真っ赤に染まったあさ美を抱える。
れーなは泣いた。
両目を真っ赤にして泣いた。
- 11 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:15
- お
- 12 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:15
- わ
- 13 名前:二番 「れいなの通販生活」 投稿日:2005/04/09(土) 00:15
- る
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