99 初雪
- 1 名前:99 初雪 投稿日:2004/12/29(水) 18:25
- 99 初雪
- 2 名前:99 初雪 投稿日:2004/12/29(水) 18:27
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「雪だ」
うっすらとまどろんだ意識のなかに、子供っぽい声が入ってきた。
「ほら、麻琴。雪だよ、雪」
「ううん」
眠い目をこすりながら、声の方を見た。
先に起きた愛ちゃんが、窓を全開にして身を乗り出している。
外は雪が降っていた。綿のような雪が、ふわふわとゆっくりと舞っている。
愛ちゃんは振り返って、
「雪や、雪や」と声を張り上げている。
「ほら、麻琴もはやく起きて」とニコニコ笑いながらせかす。
「愛ちゃん寒いから窓閉めてよ」
私は赤ん坊見たく丸く縮こまって、鼻のところまで布団にもぐった。
「東京で雪なんてめったにないのに。もったいないから麻琴も見なよ」
「私はいいよ、寒いし。眠たいし」
「雪国で育ったとは思えん」
愛ちゃんは呆れたような笑顔を見せた。いつの間にか訛りが戻っている。
「よし、あーしが真琴に雪を取ってきてあげる」
と、両手を窓の外に差し出した。
雪をすくおうとそのままじっとしている。
「うわ、どんどん解けていってまう」そう言いながらも、まだ雪をすくおうとしていた。
「ばかだなぁ、愛ちゃん。雪なんかすくえるはずないのに」
「わからんで」彼女は振り返らずに返事をした。
そしてしばらく、小刻みに震えながら窓際で粘っていた。
「ああ、だめや。もう無理」
- 3 名前:99 初雪 投稿日:2004/12/29(水) 18:30
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愛ちゃんはびちょびちょに濡れた両手を、私のほうにかざして言う。
引きつり気味の笑顔を浮かべていた。
「もういいから、窓閉めて」私は少し呆れて言った。
「はい」彼女は硬く手を握った。
それから、愛ちゃんは握ったままの手で、ぎこちない仕草で窓を閉めた。
そして、
「うわああ、ちべたい」
と言って布団の中に滑り込んでくる。
「こんなに手が、かじかんだのは久しぶりや」
赤くつやつやになった震える手を見せながら、笑った。
「私が暖めてあげるから」
私は愛ちゃんの手を私の手で包んで、布団の中に入れた。
「うん」
愛ちゃんは、満足したような、安心したような、そんな穏やかな表情を見せた。鼻の頭が赤くなっている。
「また、電車とか止まってしまうんやろか」
だんだんと訛りがひどくなっていく。
私は声を立てて笑った。愛ちゃんもそれにつられて笑った。
意味もなく二人で笑いあった。
愛ちゃんが、一緒に上京してきた地元の友達のような、そんな錯覚がした。
しばらくして、愛ちゃんはまた目をつぶった。
静かな寝息が聞こえてきた。
布団の中で握った手に少し力を入れると、彼女も握り返してきた。
愛ちゃんの手は、いつの間にか暖かくなっていた。
- 4 名前:99 初雪 投稿日:2004/12/29(水) 18:32
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終
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