101 雪の日
- 1 名前:雪の日 投稿日:2004/12/29(水) 15:32
- 101 雪の日
- 2 名前:雪の日 投稿日:2004/12/29(水) 16:25
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「あ」
里沙ちゃんがふと、口を開けて窓の外に顔を出した。
「雪だ」
雪は燦々と降り積もってゆく。
あっと言う間に向かいの建物の屋根を白く覆いかぶさると、外を銀世界へと染めていった。
ぼた雪は、止まることを忘れたみたいに空から舞い降りる。
次々と、天使の羽根のようにアスファルトの上に降り立つと、すっと溶けた。
その情景は東京ではなかなか見られないもので、昔は見慣れていたけどとても幻想的だった。
誰かが言った。
「外、行かない?」
今室内にいるのは5期のみんなだけだから、提案者は限定される。
そやね、と愛ちゃんが乗ると、美味しいかな?と言う麻琴の声がした。
「麻琴、食べたら体に悪いよ」
「え〜」
雪が降ると思い出すことがある。雪の日の、ちょっと不思議な出来事を。
- 3 名前:雪の日 投稿日:2004/12/29(水) 16:27
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*****
「できたぁ」
それは私がまだ小学校低学年だった頃。
毎年のように激しい積雪量を記録する中、私は一人で雪だるまを作っていた。
クラスでオリジナルの雪だるまを作って自慢することが流行っていて、
私もみんなと同じように自分だけの特別な雪だるまを作ろうと奮闘していた。そして遂に完成した。
ドラえもんみたいな足がちょっぴり心もとない、憎い奴。
木の枝で出来た手、その空へと翳された先端の小さな手袋も可愛い。
被された赤い帽子は、ちょっと小さすぎるけど。
「ダルマサンタ!」
そう私は名づけた。達成感からその場を走り回る。
ザッザッザッと音が鳴り、その音さえも私の気分を良くした。
でも調子に乗るものじゃない。私は雪に足を取られて転んでしまった。
「いたーい……。あ」
コートのボタンが一つ、取れてしまった。どうしよう。
少し考えた後、私は自分の思いつきに笑ってしまった。
ボタンをもう一つ引っ張って取ると、ダルマサンタの目にした。
「えへへ……」
ダルマサンタも、笑ったように見えた。
- 4 名前:雪の日 投稿日:2004/12/29(水) 16:28
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次の日は晴れていて、太陽光が雪に反射して眩しい。目がチカチカした。
私はダルマサンタのオブジェを手に、ダルマサンタを作った場所へと急いだ。
一歩一歩進むごとに、ブーツと雪がぶつかり合う音がして気持ちがよかった。
「あれ?」
ダルマサンタが、昨日まではいたはずのダルマサンタがいなかった。
誰かが壊しちゃったのかな?
幼い私は涙を流しかけた。辺りをキョロキョロと見回す。するとすぐに見つかった。
道路脇に、昨日と同じポーズで立っていた。
「?」
どうして動いたんだろう?
疑問が頭の中いっぱいに広がったけれど、私は気にせずにダルマサンタに駆け寄った。
傍によると、私は今日の目的である、装飾品を取り出した。
「サンタと言えばプレゼント箱だよね」
ダルマサンタの横に置くと、その上にあった手が、自然と下りてきた。まるで、
「あく……しゅ?」
そう、握手を求めているかのように。私はその小さな手を握ると、上下にやさしく振った。
「あ、いいもん見〜っけ!」
道路の上に置かれた、光る何か。口にちょうど良さそうな大きさ。
私はすぐにそれを拾いに体を伸ばしたけど、そこで転んでしまった。
- 5 名前:雪の日 投稿日:2004/12/29(水) 16:29
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「また転んじゃった……」
口ではそう言いながらも、私は笑っていた。
体をゆっくりと起こして、その光る何かを拾い上げた。ビールビンの蓋。
裏返しにしたりして眺めていると、激しいクラクションが聞こえてそっちを向いた。
「!!」
道路を走ってきた車が目の前まで来ていた。
突然の出来事とそれに対する恐怖のせいか体が動かない。
周りの景色がスローモーションで回り始める。死んじゃうの?
でもそのとき、ゆっくりと、ゆっくりとダルマサンタが、私の前へと倒れこんできた。
え、口を開いたけど自分の声さえも、今は聞こえない。
ゆっくりと迫ってきた車のタイヤに、雪が巻き込まれていく。
チェーンも無かった車は、動きが止まった。
色んな複雑な感情が私の全身を支配した。
もしかして、ダルマサンタは、私を助けるために……自分が?
車の中から男の人が出てきてすごく怒られた。
私はそれに対してひたすら謝り続けたけど、それはその人への言葉ではなくて、
私の代わりに命を捨てた、ダルマサンタにだった。
すごく申し訳なくて、私は泣いた。泣きながら尚も謝り続けた。
ごめん、私のために。ありがとう……。
- 6 名前:雪の日 投稿日:2004/12/29(水) 16:30
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*****
アスファルトの上に雪は当然ないけれど、そこら中の建物の屋根は白く染まっていた。
結晶は留まるところを知らず、私達に降りかかった。
みんな手すりとかに積もったそれを集めて雪球にしている。
暑い日差しに溶かされて崩れたんだと言う人もいるかもしれない。
場所が変わったのは私の勘違いだと言う人もいるかもしれない。
私だって一度そう考えたことがある。でも、
「ダルマサンタ作ろ〜!」
「なにそれー」
「麻琴知らないの〜?」
「あぁしも知らん」
「私も」
ダルマサンタが自己を予期して道路脇に動いて、助けてくれたのは私の中で事実だから。
「サンタクロースの格好した雪だるま。だからダルマサンタ!」
『知らないよ〜』
雪が降ると思い出すことがある。雪の日の、ちょっと不思議な出来事を。
夢見心地の、出来事を。
- 7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
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もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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