82 電車の中の二人

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/29(水) 12:27
82 電車の中の二人
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/29(水) 12:27
都心から離れると、街の光もまばらになり、窓から見える景色は暗闇だけになった。
私はそんな何も無い景色を眺めているより、君の横顔を見ていた。
だけど、君は私を見ることなく、暗闇を眺めていた。

「次で降ります」

その言葉が二人時間が終るまでのカウントダウンを始めた。
言いたいことはある。言わなきゃいけないことがある。
だけど、君の横顔がそれを喉で止める。
「あー」「うー」と言葉を繋げる私に気づいた君はにっこり笑うだけで。
その笑顔が余計に言葉を繋げる勇気を奪う。

「何でもない」
「そうですか」

君の視線はまた真っ暗闇を向いた。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/29(水) 12:27
会いたいって思ったから。
ただそれだけ。
会うための言い訳作りに借りたDVDを見て、今度でいいですよと言った君に、私は駅にいるからってメールした。
仕事帰りの君は疲れた様子も、うざったい様子も見せずに。
いつもどおりの笑顔でこんばんはと言う。

こんばんは。そう返した私の言葉が君に届いたかわかたない。
君が向かう改札に黙って着いていって。
私が帰るのは反対方向なのに。
君は私が乗るべき電車が発車するのを何も言わずに見送ってくれた。
そして、私が君と同じ電車に乗ろうとすることを止めることはしなかった。

窓の外に光が増えていき、電車が止まり、私たちはホームに立つ。
冷たい風が正面から一回強く吹きつけた。。
言いたいことの一つも言えず、逆に君は私に「矢口さんが乗る電車はあっちのホームに来ますから」と言う。

「わかった。ごめんね急に…」
「いいえ、全然…」

立ち止まる君。
立ち止まる私。
言うべきときは今だった。
君に会いたかったからって、たったそれだけでもいい。
だけど、私の勇気は0.2ミリボールペンの先よりもちっさくて。
じっと顔を見ているだけで、自然に言葉が出てくるわけなんて無い。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/29(水) 12:28
「吉澤、帰りますね」

君は言う。
私の言いたいことがわかってるんじゃないの?
私に何とかそれを言わせようとしてるんじゃないの?って。
そう思うのはただの過信。ただの妄想。

私は頷くだけで。
もう少し一緒にいたいなんて言えるわけも無いし、もう少し一緒にいたとしても、私はキッと言えない。

「帰りますから」

もう一度念を押すように言って、君は私に背を向ける。
その瞬間に、君の顔が怒っているように見えたのは、私の思いすごしかどうか、わからない。

改札をくぐる背中。

駅の階段を下りていく君の後姿が消えるまで、私は足を止め、何度も振り返る。
だけど、決して君は振り返らなかった。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/29(水) 12:28
おしまい
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/29(水) 12:28
ごめんなさい
7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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