90 最終回
- 1 名前:90 最終回 投稿日:2004/12/28(火) 21:42
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90 最終回
- 2 名前:90 最終回 投稿日:2004/12/28(火) 21:45
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じっとり流れる汗をぬぐう。
深呼吸。
よっすぃの出すサインを何度も確認する。
あと一つ。一つとれれば全てが終わる。
おいらは気持ちを落ち着かせようと胸の前をぎゅっと握る。
それから澄み渡る空を見上げる。
今までのことが走馬灯のように思い浮かんで、少しずつ心が冷静になってゆく。
ここまで長かった。幾多の苦難があった。
おいらは目の前の最後の打者を帽子の奥からじっと見つめる。
同時にカオリの唇がきゅいっと持ち上がった。
- 3 名前:90 最終回 投稿日:2004/12/28(火) 21:59
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「はぁ!?」
ハロモニ収録後にやおらカオリに拉致られたあげく唐突に始まってかれこれ3時間に及んだモーニング娘。
リーダーの心得直伝にいい加減ブチ切れそうになっていたおいらは、突然の告白に椅子から転げ落ちた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃん」
「いや驚くって。カオリがマンパワーを作らせたなんて」
「だって卒業ソングだし、少しはワガママ言ってもいいかなって」
「それにしちゃカオリっぽくないし、それに楽天の応援歌とか意味わかんないし」
「あら、それでいいのよ。野球に関係するものってリクエストしたんだから」
「でもカオリ野球なんて全然知らないじゃん。おいらも全然だけどさ」
「昔から最終回は野球と決まっているのよ」
「うわマジで意味わかんねー」
「でね、折角だからうちらでやってみようと思うの。今でも国民的スポーツは野球だしねっ」
カオリの電波発言には慣れているはずのおいらは頭を抱えた。
確かに人数は足りている。
おぼろげな記憶では9人いればチームができるはずなので、今のメンバーなら3人補欠か……
と思いを巡らせたところで根源的な疑問が湧き上がる。
- 4 名前:90 最終回 投稿日:2004/12/28(火) 22:02
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「いやさ、野球やるってどことやんの?」
「そんなのこれに決まってんじゃない」
カオリが引っ張り出してきたのはハロー!プロジェクトオールスターズのCDで、
揃いも揃ったり46人の、学校でいったら約一クラス分の人数が一同に写っていた。
「まぁたしかに4、5チームくらいできるけどさ、娘。とかキッズで分けると可哀想じゃない?」
「何言ってんの矢口。この世界は弱肉強食なのよ」
「ハハハ、そ、そうだねー」
「あとね、カオリはもう卒業間近だからね、ソロ組と組むからよろしく」
「なんですとぉー!?」
「矢口、リーダーの座は戦って奪いとるのよ」
カオリはおいらの目を見てニヤリと不敵に笑った。
丸っきしバカな話だったけれど、カオリがやる気を出したところをヒサブリに見たオイラはちょっとうるっと泣きそうになった。
まあでもそこは抑えて好勝負を誓ったんだ。
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- 5 名前:90 最終回 投稿日:2004/12/28(火) 23:07
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激闘の末勝ち上がったのはうちら娘。とソロ組Aで、そして今は九回裏二死二塁三塁。
うちらが一点リードしてる状況で、最後のバッターは奇しくもカオリだった。
ヒットが一本出ればサヨナラの場面。
ピンチといえばピンチだけれど、カオリはこの試合5打数無安打しかも全部三球三振で、
まるで最初っから当てる気が全くないようにも見えた。
それでも最後まで気は抜けない。
ようやく気が静まったおいらは唇をきゅっとかみ締め顎を引いて思い切って振りかぶり、渾身の一球を投じた。
カオリがフルスイングする。
ボールにかする気配すらない。
続いてもう一球投げる。
気持ちいいくらいの大空振り。
ソロ組のベンチが明らかに消沈しているのが見える。
それでもカオリは悠然と立ちバットを構えおいらを見据える。
ああ、あの眼だ。
長いこと見なかった、自信に満ち溢れ何ものをも恐れず決して退かない強い眼差し。
おいらはその視線に飲まれないように必死に歯を食いしばり最後の球を全力で投げた。
- 6 名前:90 最終回 投稿日:2004/12/29(水) 00:05
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風が巻いた。
バッターボックスでたっぷり三回転したカオリは少しよろめいて、バットを杖代わりにしてようやく止まる。
おいらの投げたボールはちゃんとよっすぃのミットに収まっていた。
勝った。
現実感の無い想いが、マウンドに向かって走ってくるメンバーの笑顔によって少しずつリアルに感じられる。
あっという間に輪が出来ておいらはあれよあれよと宙を舞う。
おいらは中空を不安げに上下させられながら、気になってカオリのほうを見る。
カオリは微笑みながらゆっくりとこちらのほうへ歩み寄る。
そして、バットで天を指し、大音声で見るもの全てに向かって叫んだ。
「モーニング娘。は永遠に不滅です!」
そのとき、轟音とともに空が割れた。
圧倒的な光量の前に視界が白く塗りつぶされる。
徐々に視力が回復し、上空にまばゆい光に包まれて銀色の物体が浮いているのが微かに見えた。
カオリが上に向かって手をかざすと、カオリの体はふわりと浮かび上がる。
「カオリ!」
おいらは叫んで届くはずの無いジャンプを繰り返す。
呆けた様な他のメンバーも我先にと口々に想いを叫んで、みんなでジャンプを繰り返す。
カオリはそんな様子を嬉しそうに見渡して、ちぎれんばかりに手を振って、
「みんなありがと、じゃ、またね」
おいら達を見つめるカオリの表情はどこまでも優しくて晴れやかで、
皆は抱き合って支えあっておいおい泣きながら、カオリが空に吸い込まれていくのを見つめていた。
- 7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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