85 空色のクレヨン

1 名前:85 空色のクレヨン 投稿日:2004/12/28(火) 19:01
85 空色のクレヨン
2 名前:85 空色のクレヨン 投稿日:2004/12/29(水) 23:39
まだ肌寒さの残る夜に、あたしごとーとよっすぃと、梨華ちゃんの家に集まった。
名目は梨華ちゃんの卒業祝い。あたしの家からお酒を運んできて3人だけで。
何だか凄く懐かしいっていうか、あー、昔はこの三人で四六時中つるんでたな、とか。
「何かいいね」って梨華ちゃんが言って、あたしが「そうだね」って笑って
よっすぃも「久しぶりだよね」って嬉しそうで。
ビールの缶を次々と空けながら、三人でちょっと思い出話に耽ってみたりして。
「あたし達もいつのまにかお酒が飲める年になったんだねぇ」って
よっすぃがしみじみ言うのを、そうだねぇなんて聞いて。まだお酒が飲める年は梨華
ちゃんしかなってないんだけど。

やっぱり盛り上がる話は昔の話。まだあたしも娘。にいて、三人で毎日
バカみたいにはしゃいでた頃。もう3年も前の話。
「あの頃のうちらって本当、ガキだったね」よっすぃが言うと
「でも楽しかったね」って、ちょっと斜め上を見つめて梨華ちゃん。
「楽しかったねぇ」って私が言って、またビールが空く。

目の前にその頃の景色がみるみる蘇ってくる。本当にみんな子供で
毎日忙しくて大変で、楽しくて、三人でいつまでも一緒にいるって、ずっと娘。でい
るって疑わなかった――
梨華ちゃんやよっすぃの、夏の青空みたいにカラっと晴れ渡った笑い声が
耳の奥の奥の、記憶の栓の隙間から聞こえてくる。

もう、梨華ちゃんも卒業かぁ。
娘。も変わるし、みんなどんどん変わっていくなぁ、とか思って、また缶が空いて。

んあ、もうビールが切れた?次は焼酎?
3 名前:85 空色のクレヨン 投稿日:2004/12/29(水) 23:40
ごっちんが焼酎を取りに廊下に出て、部屋の中には私石川とよっすぃーの二人だけ。
よっすぃーは何だかいつもの元気がないみたいで
一人でちびちびとビールを飲んでいる。
いつもならここでよっすぃーが「にげー!」なんて言って
私とごっちんが笑うところなのに。

ごっちんはいつまでたっても戻ってこない。
料理が得意なごっちんはきっと私達のためにおつまみなんかを作っていて、
多分それはもうすぐ離れてしまうことでギクシャクしている
私たちに気を遣ってのこと。
ここで昔ごっちんがしたのと同じようによっすぃーを元気付けてあげなきゃ
だめなんだって頭ではわかっていたけど、なかなか上手くいかない。

「私、ごっちんの手伝いしてくるね」って言って
つい逃げようとした私をつかまえたのは、他でもないよっすぃーで、
私は思わず「あっ」と声をあげた。
「梨華ちゃん、本当にいなくなんの?」
よっすぃーは外人みたいな目を潤ませて、私の瞳の奥をじっとのぞきこむ。

私はほんとにいなくなっちゃうんだろうか。
私と、ごっちんと、よっすぃーの三人で過ごした真っ青な空みたいな日々を思うと、
そんなこと全然信じられなかったけど、
実際にはもうごっちんは私達のもとにはいなくて、もうすぐ私もいなくなる。

外はザアザアと雨の音がうるさい。
4 名前:85 空色のクレヨン 投稿日:2004/12/29(水) 23:41
思わず梨華ちゃんの手を取ってしまって、あたしはすげー恥ずかしくなる。
なんだよこのシチュエーション、別れた彼女でも追ってるってか?

そんなあたしの手を梨華ちゃんは振りほどかなくって、
あたしはますますなさけねーって気持ちになる。
でもそうやって黙ってたって、二人とも何も話すことなんてない。

気まずくなってどうしようもなくなった辺りに、ようやくごっちんが戻ってきた。
ごっちんは相変わらずの腕前を見せて、うまそーなおつまみを運んでくる。
梨華ちゃんはあたしが料理に気を取られてる隙に掴んでいた手をほどいて
「トイレ」とかなんとかごにょごにょ言って廊下に出てく。
ごっちんはあからさまなため息をついて「とりあえず、飲も」なんて言ってる。

あたしのグラスが空になったのを見て、ごっちんがドクドク焼酎を注いでくれたけど、
正直あたしはもうグラグラだったりしてて。
それでも外にしとしと降ってる辛気臭い雨にイライラしたから、ぐいっと一気に飲み干した。
「結構高いんだからね」って不満を言うごっちんを尻目に、もう一杯あおる。
そしたらもうわけわかんないくらいにふらふらしてきて
近くにあった棚に倒れこんだ。
色々頭に降ってきて、それを見てたごっちんが爆笑してる。

それ見てたらあたしまですげーおかしくなってきて、一緒になって笑った。
そしたら最後にもう一つ頭に降ってきて、ごっちんはますます笑う。
「何これ?」ってあたしが聞くと、ごっちんは「クレヨン?」ってまた疑問形で返す。
でも多分ごっちんの答えであってる。空色のクレヨン。
5 名前:85 空色のクレヨン 投稿日:2004/12/29(水) 23:43
ものすごい音がしたから、私は慌てて部屋に戻った。
よっすぃーがなんか色んなものの下敷きになってたから、慌てて助け起こすと、
そんな私に気づかないようにごっちんとよっすぃーの酔っ払い二人は笑ってる。

突然「雨うぜー!!」なんてよっすぃーが叫びだして
支えていた私の手を振りほどき、ベッドの上にのぼった。
手をめいいっぱい伸ばして何をしてるのかと思ったら、
真っ白な天井を水色のクレヨンで塗りつぶしていた。

「ちょっと何やってるのよ!またお母さんに怒られちゃうじゃん!」
そんな私の怒鳴り声にもよっすぃーは「いーんだよ」なんて適当に返す。
助けを求めてごっちんを見たら「あはっ」って笑顔を返された。
脱力して「何で水色なのよ…」って言ったら「違うよ、空色だよ」と何故かごっちんが答えた。
そう言われてみると、とたんに空の色に見えてくる。
「大丈夫だよ、梨華ちゃん」とごっちんが言う。
「別にあたし達がいなくっても、よっすぃがまだ残ってるんだもん。モーニングは平気」

そんなごっちんの言葉に気を取られてるうちにも、天井はどんどんと空色に染まっていって
ビールだけですっかり酔ってしまっていた私の目には、
まるで本当の空が広がっているように見えた。
「すげーよっすぃ、本当に空作っちゃったよ」
思う存分私の部屋に落書きしきったよっすぃーは、そのままベッドに倒れこんで、
大空を見上げるようにしていびきをかき始めた。

真夏の空のようにカラカラと笑うごっちんはすっかり天井の空色に溶け込んでいて
私も思わずつられて笑ってから、私もこの二人みたいに大空に溶け込んでいるだろうかと思った。
次第にテレビのニュースや雨の音が意識から遠ざかっていって、私はそのまま眠りに落ちた。
6 名前:85 空色のクレヨン 投稿日:2004/12/29(水) 23:44
梨華ちゃんとよっすぃの笑い声を連想させる空色の天井や、
まだまだ残ってる焼酎のビン。ビールの空き缶。
悲惨な状態の梨華ちゃんの部屋には、すっかり熟睡中の二人。
あたしはそんな二人をまたいで窓際に行く。

「すっごぉ!」
雨の音がしないなぁなんて思ってたら、いつのまにか窓の外は真っ白に覆われていて
それがあまりにも綺麗だったからとりあえず二人を起こすことにした。
何度も叩いていると、ようやく梨華ちゃんだけが起きて、
同じように「すっごい!」なんて感嘆の声をあげる。
梨華ちゃんと一緒にしばらく外を見ていると
寝ぼけたよっすぃも「寒い」なんつって起きだしてきたから、三人で雪を見た。
青空の下で雪を見るってのもなかなかいいもので、すっかりそれを満喫しきった後、
二人はもう一度眠りに落ちた。

あたしはまだ飲み足りなくて、二人には「高いんだよ」なんて言っていた安物の焼酎を
グラスに注ぐ。
テレビからは馴染みのないニュースキャスターの声で「明日は東京全域晴れの模様で」
なんて言葉が流れてきて、あたしはそれに「今も晴れてるよ」って呟いて一人で笑った。

んあーってあくびをしたら、あたしも眠いんだってようやく気づいたから、
最後に一杯だけ飲んで寝ることに決めた。
ぐっすりと眠る二人の寝顔を見ながら、あたしはさっきのよっすぃのように勢いよく焼酎をあおる。

しんしんと降り積もる銀世界の真ん中で、あたし達はずっと青空に包まれている。
7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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