77 午後静止

1 名前:77 午後静止 投稿日:2004/12/28(火) 15:37
77 午後静止
2 名前:77 午後静止 投稿日:2004/12/28(火) 15:38
紅白前の楽屋。
うつらうつらしていると、隣からまっつーの歌声が聞こえた。
すごく不機嫌そうな歌声に思わず吹き出すと、予想通りギロリと睨まれる。
「なにさごっちん」
「童謡なんだからもっと楽しそうに歌いなよ」
「童謡だから楽しくないの!」
まっつーはそう一喝すると、また歌の練習に戻った。
なんだかんだで真面目な子だなぁと思う。

それにしても静かだなぁ。
二人の楽屋は広々としていて、まっつーの歌声が聞こえる以外には、他に音もない。
……はずだったのだが、どどどどど、という音がどこからか聞こえてくる。
それがだんだん近づいてきて、
「ごっちーん!」
辻加護が二人そろってあたしにダイブしてくる。
それから少し後れて、娘。のメンバー達がぞろぞろとあたしたちの楽屋に入ってきた。
ごっちん遊ぼうぜぇなんてよっすぃーの声や、
二人だけなんてさびしーっていう梨華ちゃんのキショイ声やらが、楽屋にあふれ出した。
まっつーなんてますます不機嫌になって、必死に歌に集中しようとしているのを辻加護あたりに邪魔されてる。
あたしも久々の盛り上がり方にうっせーなーなんて思ってちょっとうざかったけど、
眠かったから、気付いたら寝てた。
3 名前:77 午後静止 投稿日:2004/12/28(火) 15:40


次に目が覚めると、あたしの周りには誰もいなくなっていた。
びっくりするくらいの静寂の中で、あたしはポツリと椅子の上。
人の気配がまるでなくて、ここの空間だけ時間が止まってしまったかのように錯覚する。
そう言えば、あたしはなんでここにいるんだっけ。
うんうん唸りながら必死で考えて、そう言えば私はモーニング娘。の一員なのだと思い出した。
そうとわかったら、あたしが一人でこの部屋にいる必要はない。
みんなを探しに行くことにした。

よっすぃー! 梨華ちゃーん! やぐっつぁーん!
大声で叫びながら延々と続く白い廊下を歩き続ける。
しばらく歩いてみたが、結局誰にも会えなかった。
私が諦めて腰を下ろすと、偶然そこにはベンチがあって、隣に辻加護が座っていた。
「Wでーす!」
「は?」
だぶりゅ? 突然の意味不明な言葉にあたしははてと首をひねる。
「ごっちん、わたしたちはもうモーニング娘。じゃないのです!」
「は? いや、何言ってるのかわかんないし」
「わたしたちはこれからずっと一人ぼっちなのです!」
「そんなハモッていわなくても……」
しかも手までつないじゃってるし。
そんな状態で一人ぼっちとか言われても信じられないよ。
「仕方ないなぁ、ここは飯田さんに任せましょう」
またしてもハモりながらそう言うと、目の前に突然圭織があらわれた。
4 名前:77 午後静止 投稿日:2004/12/28(火) 15:44
「ごっちん……」
「どした、圭織?」
年下のあたしに甘えるようにすがりよってくる圭織を不審に思いながら頭をなでてやると、
彼女の体が半透明なことに気付いた。
「圭織ももうすぐこっちの世界にきちゃうの」
「こっち? どっち? え、ここのこと?」
何もわかっていないあたしをみて、圭織はおおげさにため息をつく。
「うん、この世界はモーニング娘。をやめた人にしか来れないから」
「やめたって? え、圭織やめるの? っていうか、あたしってもうやめてるの?」
そう口に出してから、あたしはたくさんのことを思い出した。
パラパラって小気味よく記憶が戻っていく様子は、
試験勉強を諦めてしまったあたしが教科書をめくるのに近かったような気もする。

そうだった、あたしはもうモーニング娘。じゃない。
気付くと、いつのまにか隣には梨華ちゃんが泣きそうな顔で立っていた。
「うわ、いたの?」
「ひどいよごっちん」
「あ、ごめん、でもなんか色が薄いから。圭織より薄いじゃん」
「ほんと!?」
「うん。梨華ちゃんが地黒じゃなかったらもう完全にわかんないね」
「ひどいよごっちん!」
そうやってふざけ合いながら、あたしはたまらなくなった。
一人ぼっちだって今さら実感した。
よっすぃーに会いたい。やぐっつぁんに会いたい。
完璧な梨華ちゃんや圭織に会いたい。
Wじゃなくって辻加護って呼びたい。

いつのまにかみんな周りからいなくなっていて、あたしは一人ぼっちになる。
時間の止まったうららかな午後に、あたしは一人取り残される。
5 名前:77 午後静止 投稿日:2004/12/28(火) 15:54


目が覚めると、楽屋は相変わらず騒がしかった。
夢を見たような気がするし、ぐっすりと眠れた気もする。
梨華ちゃんとよっすぃーはこの年になってもじゃれついていて、
それにあたしまで巻き込もうと、にやにやした顔で近づいてくる。
辻加護に絡まれたまっつーは言葉では文句を言いながらも、その顔は笑っている。
まっつーもなんだかんだでこういうの好きなんじゃん。
圭織は……ちょっと緊張してるのかな。
リーダーとして最後の大舞台だもんね。
多分あたしにはわかんないようなことを色々考えてるんだと思う。
すごく短かったけど、圭織がリーダーの娘。にいれたことはあたしの誇りだよ。

気付くと梨華ちゃんとよっすぃーは目の前まで来ていて、椅子に座った私を挟むようにして、
また会話を始めた。
「あとどれくらいで始まるのー?」
少し大きめの声で聞いてみる。
「なんだよその眠そうな声! ごっつぁん、まだ寝る気かぁ?」
やぐっつぁんがすごく楽しそうな声で言葉を返す。どうやら美貴ちゃんと遊んでいるらしい。
隅っこのほうでは、紺野が何かへまをやらかしたらしく、ゴロッキーズが笑いに包まれている。
何をしたのかはわからなかったけど、紺野のことだから、なんて何となく想像がついて、
あたしまで笑ってしまった。

あたしは、隣から聞こえるまっつーの歌声や、それを邪魔する辻加護の笑い声や、
昔から変わらない梨華ちゃんとよっすぃーの会話を聞きながら、やっぱりうっさいなーと思う。
だけど、それが妙に心地よくて、私はもう一度、今度こそ安らかに眠る。
6 名前:77 午後静止 投稿日:2004/12/28(火) 15:55
おわり
7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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