65 「突然ですがニュースです」

1 名前:65 「突然ですがニュースです」 投稿日:2004/12/27(月) 22:02

「突然ですがニュースです」

2 名前:65 「突然ですがニュースです」 投稿日:2004/12/27(月) 22:03
暇になると、彼女はいつもこう言う。

私は別に何も喋んなくても気にはならない。だけど彼女は黙っている間の空気が嫌らしい。
彼女は様々なニュースを出す。ある時は大言壮語な大嘘を。ある時はくだらなく些細なことを。
つまり、私にとってはどうでもいいことばかりを提供してくれる。そして、今日のニュースは?

「今日未明、わたくしエスパーになりました」
「へぇー」
「やっばいよ。マジ心読んじゃうよ」
「へぇー」
「じゃあ、ミキティーが今何考えてるか当ててあげようか」
「どうぞ」

よっちゃんさんは頭を抱えて悶絶。そして絨毯の上をローリング。
「ちょっと、埃たつからやめてよ」
「うむむむむむ……」
構わず寝転がる。

「わかった!」
動きが止まる。
「なに?」
私が訊くと嬉しそうにこちらを向いて、
3 名前:65 「突然ですがニュースです」 投稿日:2004/12/27(月) 22:04
「私のことが好きぃーっ!」
どどーん、なんて言いながら私に向かって指をさした。
「あのさー……まぁいいや」
「飽きすぎ! つっこめよ! 嫌味なくらいに色々つっこめよ!」
「飽きるよ、そりゃ。毎日、毎日あんたのツラ見てれば」
「うわぁー倦怠期! 仮面夫婦!」
「ごめんなさい、あなた。私、他に好きな人ができましたの」
「なんだと! ボクが一生懸命働いてる間に君はそんなフシダラなことをしていたのか!」
「隣の松浦さんの旦那様、優しいんですもの」
「ミキ子! ボクを捨てないで!」
「じゃあ明日も早いし帰るわ」
よっちゃんさんの腕が私の肩にまわったので、この遊びも終わりの時間。

「いやだぁー色んな意味で置いてかないでぇー!」
「明日6:00入りなんだから、よっちゃんさんも早く寝なよ」
「心が読めたー! ミキティーは───」

ドアを閉める直前、彼女はそう言った。
4 名前:65 「突然ですがニュースです」 投稿日:2004/12/27(月) 22:06
……むかつく。きっとこのドアの向こうで彼女はほくそ笑んでるに違いない。
だけど、ここで私がドアを開けてしまえば彼女の勝ち、思惑通りだ。
私は大人だ。些細なことなんて気にしない。笑って済ませられる。

だからメールで返す。

『突然ですがニュースです』
『なになに!?』
『わたくし、今日未明エスパーになりました』
『なんだってー! じゃあ私の心読んでみて(はぁーと)』
『吉澤ひとみさんはアホです』
『んがぁぐっぐぅ。てか心よんでねぇー!』
『あんただって読めないジャン』
『読めるよ。つーか透視できるよ』
『んじゃやってみ』
『ミキティーは今、にやけながらドアの前でメールを打っている』

ケータイの画面に唇の両端が上がった私の顔が反射してた。
恥ずかしくなってほっぺたをつねる。
5 名前:65 「突然ですがニュースです」 投稿日:2004/12/27(月) 22:07

『じゃー私も一つ超能力を』
『おぉーやってみ』
『吉澤さんチのドアがへっこむっていう摩訶不思議な超能力』

「うわぁー! ちょっと待って!」


ドアを開けた彼女の顔には「しまった」と書いてあった。

「かっちぃー」
「んがぁー悔しい」

ん。すっきり。
このドアのラインが、まんま私たちのライン。

「んじゃね。また明日」
「……また明日」

よっちゃんさんの情けない顔が好き。
いつもは冗談で全部誤魔化しちゃう大人ぶったよっちゃんさんも好き。
誰にでも優しい顔で微笑んじゃうよっちゃんさんが好き。
本当のよっちゃんはわからない。それでも私は彼女の色んな顔、全部が好き。
6 名前:65 「突然ですがニュースです」 投稿日:2004/12/27(月) 22:08

「明日は覚えておけ!」

ほらね、今度は怒った顔。

「暇があったらおぼえておくよ」

彼女の顔を見ないように、後ろを向いて手を振る。

私の顔が見えなくなったら彼女はどんな顔をするんだろう。
私が本当に突然のニュースを知らせたら、彼女は一体どんな顔をするんだろう?
だけど私が乗ったエレベーターが閉まるまで、彼女のドアが閉まる音は聞こえない。
年中無休のニュースは何時だって肝心なことは教えてはくれやしない。でも、明日は明日のニュースがある。
それじゃあ、また明日。閉まったドアの向こうに小さく手を振ってみた。



                                    おわり
7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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