55 Road to Story

1 名前:Road to Story 投稿日:2004/12/27(月) 01:19
55 Road to Story
2 名前:Road to Story 投稿日:2004/12/27(月) 01:20
 あの人が結婚すると聞いて、私はただ口元で笑いながら、あぁ、そうなんだって言った。
周りのメンバーは満面の笑顔で「おめでとー!」とか「この幸せもの!」とか言って無邪気に彼女の頭を叩いてる。
そんなメンバーに囲まれた彼女も、心から幸せそうに笑っていた。
「どうしたの?」
他のメンバーと違って、呆然とその様子を見ていた私に、梨華ちゃんが話しかけてきた。
今日はハロプロのメンバー全員がいる。
「え、いや、別に、どうもしてないよ。ただちょっと…びっくりしただけ」
そう、びっくりしただけ。
こうなる事は、彼女があの人と付き合ってるって知った時から、いつかくることだって分かっていたはずだ。
私は、そうだよ、と自分に言い聞かせて、笑ってみせた。
「梨華ちゃん、結婚式、一緒にいこっか」
「うん!」
梨華ちゃんも私の笑顔に応えてくれた。

 「ねぇ、よっちゃんさん。私さぁ〜、好きな人いるんだ」
彼女の家に初めて泊まりにいった時。夜、寝る時に、言われた言葉。
 彼女がモーニング娘。のメンバーになってから、私たちは急速に仲良くなった。
初めは何となくギスギスした態度をとっていた彼女だったけど、日に日に心を開いていって、メンバーもそれを受け入れた。
私とは特に、気が合うようになった。
そう感じていたのは、私だけかもしれないけど。
 初めてのお泊りって事で、妙に緊張していた。
一緒の部屋で夜を明かすとか、至近距離で寝るとか、想像しただけで、ドキドキが止まらなかった。
彼女にとっては普通のお泊り。でも私にとっては、特別だった。
 でも、やっぱり彼女にとってはそれがただの"友達"とのお泊りに過ぎないって言うことが、その一言でよく分かった。
3 名前:Road to Story 投稿日:2004/12/27(月) 01:20
 好きになるととことん一直線。
それこそ、意外と行動を起こさない私と違って、彼女は積極的だった。
その人と同じ番組に出た時は、猛アタックしていたし、メールアドレス交換するのにだって、時間はかからなかった。
私は、彼の話をしている時の彼女を見るのが辛かった。
でもそれ以上に、彼女が彼と喋ってる時の顔の方が嫌だった。
私には見せない顔。彼にしか見せない顔。
そんな顔は見たくなかった。

 でも、私の想いだけが空回りで。彼女にとって迷惑極まりない事だったから、告白なんか到底する気にもなれず。
次々と他のメンバーが脱退していく中、私たちはモーニング娘。に残り。
いつの日か年月が流れていた。
 思ったより順調に続いていた二人。
そんな二人を見て、私もとっくに彼女への想いは諦めていた。そのつもりだった。
でも、そんな時に、彼女からのモーニング娘。脱退発言。
なんだろうと思ったら、やっぱり結婚だった。
 諦めていたはずの彼女への想いが、思い出したかのように、疼いた。

 結婚、という形で来るとは思わなかったけど、前々から考えていた事を、私も実行する事にした。
後はつんくさんにちゃんと意思を伝えて、認めてもらうだけだ。
 芸能界をやめる事を考え始めたのは最近ではない。
いつやめても良かったが、それでは彼女と会える機会が確実に減ってしまうから、だから今までメンバーとして続けてきたのだ。
その代わり、彼女がやめる時は自分もやめる。
ずっとそう思ってきた。
4 名前:Road to Story 投稿日:2004/12/27(月) 01:21
 結婚式での彼女はとても綺麗だった。
元々綺麗で整った顔立ちがいっそう美しくなっていた。
彼女も、その隣にいる彼もとても幸せそうだった。
私も光ったドレスに身を包まれながら、その二人を見て、心なしに微笑んだ。

 彼女から呼び出しを食らったのは、彼女がモーニング娘。をやめてから三ヶ月ほど経った頃だ。
もうすぐ私が脱退と言う時期。
話があるといって久しぶりにご飯を食べに行った。夜景が綺麗なホテルだった。
 結婚後会うのはこれが初めてで、久しぶりに見る彼女は何となく大人になっていた。
「結婚生活はどう?」
「んー、まぁまぁ。思ったより価値観があわなかったりで、最近はしょっちゅう喧嘩しちゃってるかな」
そう言って少し寂しげに俯く彼女。
彼とうまくいっていないという事に、嬉しく感じてしまう自分。
 それから暫く他愛ない世間話をしていた。彼女が娘。をやめてからのメンバーの様子など。
彼女の楽しい結婚生活を聞かずに、良かったと思う。
「よっちゃんさぁ、何で芸能界やめちゃうの?」
「うん?…まぁ、いろいろあって、だからいろいろ考えて、こうしよう、って思ったかな」
「ふーん…。何か、複雑そうだね。私と同じで結婚でもするのかと思った」
彼女はおどけて見せたが、あまり乗らない私をみて、笑みを消した。
「…ごめん」
そういってから暫く沈黙が流れた。夜景を映すガラスに、彼女の顔が映る。
5 名前:Road to Story 投稿日:2004/12/27(月) 01:21
 「実は、もう一つ、言いたい事があったんだ。よっちゃんには、一番に報告したくて」
そう言ってから彼女は息を飲み込んだまま、じっと黙ってテーブルを見ていた。
妙にドキドキした。
 だいぶ間をおいて、彼女はグラスに揺れるワインを飲み干した。
「妊娠、してるんだ」
そういって、少し照れくさそうに笑った。私には見せない、彼にしか見せない顔。
私は心に穴をあけられたような気分になった。
結婚を聞いた時とはまた違う感じ。特に、今は目の前に彼女がいる。
どんな顔をつくっていいか分からない。でも何か言わないとおかしい。
 半分混乱気味に、私は渇ききった喉から、やっとの思いで声を出した。
「そっか…おめ、でとう」
さよなら。
今度こそ心から思った。
さよなら。
もう私にチャンスはない。
結婚がうまくいってなかったらもしかして、とか自分のいいように考えたりして、変な期待をしていた自分が馬鹿だった。
もう、この恋にはさよならをしなくてはいけない。
6 名前:Road to Story 投稿日:2004/12/27(月) 01:22
 会計を済ませて、彼女の車が止めてある地下の駐車場まで行った。周りには誰もいなかった。
冷たい空気が頬に触れる。
これで、彼女と会うのは最後にしなくてはならない。
本当は、結婚を聞いた時から、いや、好きな人の話を聞いた時からそうしないといけなかった。
これ以上もう、友達としても、やっていける自信がない。
 「よっちゃんはどうやって帰るの?送ってこうか?」
「いや、タクシーで帰るよ。」
「そっか」
「……それじゃぁ」
彼女の顔をまともに見ないまま、踵を返した。不覚にも、泣きそうだった。
「よっちゃん」
突然、彼女に呼ばれて、足を止めた。
「…ごめんね」
その言葉に、私は思わず振り向いた。涙が出ていたけど、気にしなかった。
「ううん。…幸せにね、みきてぃ」
精一杯の笑顔で言ってから、エレベーターに乗った。
最後に、頷く彼女の顔が見えた。何もかも知っていたかのような顔だった。
少しだけ、寂しそうに見えた。


FIN
7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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