52 333の女
- 1 名前:52 333の女 投稿日:2004/12/26(日) 22:58
- 52 333の女
- 2 名前:52 333の女 投稿日:2004/12/26(日) 22:58
- 『明日昼3時麻布十番駅近スタバに集合』
なんて強制的なメールを夜中に貰って、気が付けばちゃんとこうしてカフェモカをすすってるあたり、自分はいい人だなぁと思う。
「何で麻布十番なんですか?スタバなら他にもいくらでもあるのに」
「うん、東京タワーに行こうと思ってさ」
「…それならもう一個向こうの駅前にした方が歩く距離短くて済んだんじゃないっすか」
「甘いなぁよっすぃー。
家に帰るまでが遠足。目的地に着くまでもデート」
矢口さんは真顔でそんな俺様理論を展開する。
「んじゃま、そーゆーことで、行くかー」
すくっと立ち上がられて、条件反射で慌てて立ち上がってしまった。
「て言うか、東京タワーなんて見慣れてるんじゃないんすか?」
「あー、東京タワーを見慣れるなんて概念が矢口にはないから」
自動ドアをくぐりながらそう言われる。
何だか口調が「東京タワーを見慣れる?まだまだ子供だねぇ。365日顔が違うんだよ。今日の東京タワーは今日しか見れないって言うのに分かってないねぇ」という意味合いを含んでいるように思えてならない。
「あーおいらこっから東京タワー行ったことないや。まいっか。真左に見えたら曲がれば」
「…すごいアバウトっすね」
「そう?間違ってないと思うけどなぁ」
すたすたすたすたまっすぐに道を行く。
ほんとに真左に見えるまで直進する気だ。
まぁ別にいーんだけど。
- 3 名前:52 333の女 投稿日:2004/12/26(日) 22:59
- 「あのー」
「んー?」
「デートと言った割にはせかせか歩いてますけど…一目散じゃないっすか」
「いやだってさ、日が沈みだすとカップルでごった返しそうじゃん?
そうなると目立つからちょっとでも早めにと思って」
だったら朝にすればよかったのにと思ったけど口にはしなかった。
昨日も遅くまで仕事だったみたいだし。
でも変装とは呼べないそのかっこうでこの12月26日の東京タワーなんてシチュエーションで目立たないあるいはばれないとでも思っているのかと思うとそれはそれで疑問なんですけど。
「あーいい感じに見えてきた。じゃあこれ渡ってあっちから行こう」
「はいはい」
「何だよよっすぃー。もっとうきうきとかしろよー」
「…してますよしてます」
ああ、子供のお守りってきっとこういう感じなんだろーなぁって言うか、どっちが年上なんだか…。
「よし」
「ん?」
坂道を上り切ったところで矢口さんは立ち止まる。
展望台へのチケット売り場まではまだ少し歩かなきゃいけないのに。
「はいこれ持ってちょっと下がって」
差し出されたのは矢口さんのケータイ。
「へ?はい?」
「東京タワーのてっぺんと矢口の頭とが丁度おんなじになる角度で一枚カシャッとよろしく」
「おんなじにって…」
「だからこう、見上げるアングルで、グラビア仕様で」
矢口さんは腰をかがめながらもの凄い鋭角でケータイを構える仕草をする。
- 4 名前:52 333の女 投稿日:2004/12/26(日) 23:00
- 「…なるほど」
そういう事か。
そりゃ人が増えると目立つでしょうねぇ…こんなところで仁王立ちの矢口さんにそれをありえない態勢で撮る吉澤、なんて。
これはとっとと撮って一刻も早くここから立ち去るのが無難っぽいな。
何故って。もう既に立ち止まると迷惑なくらい人がいますから!
「分かりました。んじゃいきますよー」
「いつでもオッケーだぞー」
何だか周りがごちゃごちゃ言ってきてる気もしたけどそれは自意識過剰ってものですよと自分を諭して画面を見ながら角度を合わせる。
「1.2.3.ダー」
「普通はいチーズとかだろー」
「いいじゃないっすか別に。ちゃんと撮れましたから。ほら」
「何だよー足まで入ってないじゃんー」
「そんなのこの至近距離じゃ無理ですって」
「じゃあ遠くからもう一枚…」
「勘弁してくださいよー…。離れても通行人入っちゃって全身は撮れないと思いますよ」
「まぁいいや」
「それどうするんですか?」
「んー辻に送る」
「辻に?」
「こないださーまぁた言いやがったんだよー矢口さんほんとちいさいですねぇって。
だからおいらは巨大化できるんだぞって言いたくなってさぁ」
「…」
出来てませんから!ただの視覚効果ですから!と言いたいところだけど辻とそのレベルで張り合える矢口さんの精神年齢に免じて言わないことにした。
終われ
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