32 幽月欺鏡
- 1 名前:幽月欺鏡 投稿日:2004/12/25(土) 12:00
- 32 幽月欺鏡
- 2 名前:幽月欺鏡 投稿日:2004/12/25(土) 12:01
- 梨華ちゃんへ
へへっ、手紙って書いてみるとなんだか恥ずかしくなっちゃうよね。
まだ書き初めたばっかりなのに……顔真っ赤にして書いてます。
言葉が足りなくてよくわかんないところがあるかもしれないけど、そこは勘弁してよね。
アタシ達が出会ったのは高校の入ったばっかの時。お互い地元から離れた高校だったから友達がいなくてさ、
クラスに全然馴染めなくて入学したてのウキウキした感じなんてすぐに冷めちゃってた。入学して一週間は
出席順番順で席に座ってたからアタシ達全く接点なかったよね。正直席替えの時まで名前はおろか苗字も覚えて
なかったもん。でもさ、やっぱりあの席替えって運命だったんだよねぇ。梨華ちゃんは席替えなのにくじ運悪くて
最初と同じ席引き当てちゃってさ。あの人可哀相だな、なんて思ってたらアタシがその後ろ。類は友を呼ぶっていうか
やっぱり運命だったんだよね。
その日の昼休み、一緒にご飯食べよ? って声かけてよかったと思ってる。多分アタシがああやって声かけて
なかったらアタシ達こんな関係になってないよ、うん。そこはアタシに感謝だね、ってそれはいいんだけどさ、ハハ。
それから意気投合していって仲良くなって、ね。今思い出すと恥ずかしいなぁあの頃は、なんてね。
その年の冬休み、梨華ちゃんの家に遊びに行ったとき初めて告白してくれたよね。病気のこと。腎臓の病気を患ってて
週に三回人工透析しに病院に通ってること。中学の時そのせいでイジメにあって地元から離れた高校に進学したこと。
病気のこと、正直ビックリした。でも、ひとみちゃんなら告白しても大丈夫だと思ったから、って言われた時すごく嬉しかったよ。
アタシあの時は梨華ちゃんがどれだけ苦しい思いをしてるかなんて少しも想像できなかった。だって梨華ちゃんの
普段の笑顔からは、到底そんなこと考えられなかったから。
- 3 名前:幽月欺鏡 投稿日:2004/12/25(土) 12:01
- アタシが透析してるところが見たいって言っても断固拒否してた理由がわかった。あんなに苦しそうな梨華ちゃん、
見てらんなかった。たかだか興味本位で見たい見たい言ってた自分のことがすごく嫌いになったもん。アタシ初めて
人工透析を見た日、家に帰って泣いたんだよ。あんなに苦しんでる梨華ちゃんに自分は何もできないことが悔しくて。
でも梨華ちゃんはあんなに苦しい思いをした後でもアタシに会う時はいつも笑顔だったよね。普段よりは弱々しかったけど、
すごく優しい笑顔で。つい泣きそうになったアタシに、泣かないで、って言った時の笑顔は今でも鮮明に思い出せるよ。
梨華ちゃんって強いな、っていつも思ってた。ホントだよ。
お医者さんに他の治療法を聞いたら、治すには移植しかないって聞いた時決心したんだ。アタシが治す、って。でも
お医者さんに言ったら拒絶反応やらなんやら難しい話をされて、最後に可能性は極めて低いって言われた。それでも
いいです! って言った時のお医者さんの驚いた顔、今思い出してみると笑っちゃうな。すぐに検査してもらったんだ。
それまで何度もアタシ達の運命を感じることがあったけど、あの時ほど運命感じたときはなかったよ。アタシの腎臓、
移植できるって言われた時すぐに梨華ちゃんに報告したよね。アタシが嬉しくて嬉しくて涙流してた時、梨華ちゃんは、
ひとみちゃんに迷惑賭けらんないよ、って言って泣いてた。何度説得しても梨華ちゃん聞いてくれなくてさ。
最後にアタシ達抱き合いながら泣いてたよね。生きよう、って言ったら、うん、って言ってくれてアタシまた涙が出てきちゃってさ。
面会時間とっくに過ぎてて、看護婦さんに恥ずかしいところ見られちゃったよね。
手術室に入る前、すごく緊張しちゃった。梨華ちゃんが治るならって思ったら、なんだから嬉しくて。期待が、希望が、
未来が、アタシ達を待ってると思うともう嬉しくてさ。治って退院したら、また一緒に遊ぼうって。映画見て、パフェ食べて、
プリクラ撮って……。明るい未来しか見えてなかったもん。だから手術後のお医者さんの一言が信じられなかった。
- 4 名前:幽月欺鏡 投稿日:2004/12/25(土) 12:02
- 手術は失敗しました、お医者さんから言われた時アタシ達全く理解できなかったよね。理解できなかったのかしたくなかったのか
って言われると後者なのかもしれないけど、事実を受け止めた時アタシ達抱き合いながら泣き崩れた。互いにゴメンの
言い合いして、ずっとずっと泣いてた。何にも考えられなかった、ただただ泣いてた。
しばらくして元の生活ができるようになっても、前みたいな関係には戻れなかった。互いに手術のことが頭に残ってて、
アタシも見舞いには行けなくなった。いや、行けなかった。行かなかった。梨華ちゃんは未だに苦しんでるっていうのにアタシは
結果的に何もできなかった、むしろ梨華ちゃんに変な希望を持たせちゃった分残酷なことをしてしまった。手術と透析のせいで
明らかに生気の無くなった梨華ちゃんはそれでもアタシに微笑んでくれて、それが逆に辛かったんだ。
そしてもう一つの真実にアタシは耐えられなかった。腎臓は二つしかない、つまり
一つ移植してしまえばもうチャンスはない。それを知った時アタシ何も考えられなかったもん。もうアタシは梨華ちゃんを
助けることができないって、ただそれだけが頭の中で回ってて。
もうどうなってもいいと思った。梨華ちゃんが救えないなら全てがどうでもよくなった。どうでもよくて、死んでもいいなんて……。
だからこそ、この方法を選んだんだ。そういうことだから、ね。
お医者さんへ
アタシの残りの、最後の腎臓を梨華ちゃんに移植してください。
お願いします。
今更だけど、梨華ちゃんのこと好きでした。
ホントに今更だよね、でもどうしても言いたかった。
生きてるうちに言えってね、ハハハ。
ごめんネ。
P.S 今回の手術は絶対成功する、アタシが保証するよ。
だから、生きてよね。アタシの分もさ。
梨華ちゃんの体の中で、アタシも生き続けるから。
吉澤ひとみ
- 5 名前:幽月欺鏡 投稿日:2004/12/25(土) 12:02
- 三枚の手紙は吉澤のジーパンのポケットにねじ込まれた。
首にナイフを刺し、既に鼓動の止まっている吉澤は抵抗することもなく横たわっている。
手紙の著述者は立ち上がり冷たい月光と共に吉澤を見下ろすと、吉澤の見開かれた瞳を面倒くさそうに閉ざしてやった。
携帯電話を取り出し、ゆっくりと一のボタンに親指を押し当てる。
二つ目の番号を押した後深く息を吸い、全て吐き出す直前に最後の番号を押した。
呼び出し音が鳴りその刹那、やや早口ながらも落ち着いた口調の男が出る。
彼女の頭の中の台本が音を立てて捲られていく。
彼女の演劇の第二章の幕は、間もなく開かれたのだった。
「救急車お願いします! 友達が首にナイフを刺して倒れてるんです! 早く来て下さい! でないとひとみちゃんが―――」
- 6 名前:幽月欺鏡 投稿日:2004/12/25(土) 12:02
- 完
- 7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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