30 群青日和
- 1 名前:30 群青日和 投稿日:2004/12/25(土) 02:54
- 30 群青日和
- 2 名前:30 群青日和 投稿日:2004/12/25(土) 02:55
- あの空を、目指すんだよ。
亜弥ちゃんはあたしに、確かにそう言った。
- 3 名前:30 群青日和 投稿日:2004/12/25(土) 03:06
- 切り立った崖の向こうは、どこまでも青い空。
亜弥ちゃんはその深い青をまっすぐに見つめていた。
彼女が手にしてるのは、何の変哲もないただのママチャリ。
でも彼女が言うには、魔法の自転車らしい。
曰く、空を飛ぶ魔法がかかっているのだ、と。
亜弥ちゃんは毎日のように、崖の際にママチャリを止めて、向こう
側の空を見つめていた。
そんな彼女は変な子だけど、それに飽きもせず付き合い続けている
あたしも相当変だ。まあ、よく変だとは言われるんだけど。
だからこそ、亜弥ちゃんの言葉をそのまま受け止められたのかもし
れない。
ある日彼女はあたしに、こう行った。
「愛ちゃん、今日、あたしは飛ぶからね」
「うん、そっか」
あたしはただ、そう答えた。
常識的に考えてあの崖から飛ぶ、という行為に付随する結果はわか
りきっている筈だった。なのに彼女を止めなかったのは。
彼女はあの空を目指していた。
そしてあたしは、きっと彼女が文字通りに青い空に吸い込まれてい
く様を、見たかったんだと思う。
- 4 名前:30 群青日和 投稿日:2004/12/25(土) 03:12
- そして。
亜弥ちゃんが、ママチャリに跨ってペダルに足を掛ける。
彼女の視界に広がるのは、群青。
あたしも、彼女と同じものを見ていた。
だから、彼女が飛べると、信じて止まなかった。
じゃり、という音とともにママチャリが滑らかに走り出す。
崖の際までの緩やかな下り坂を、亜弥ちゃんは容赦ない加速で駆け
降りていった。
そして刹那、全ての重力から開放されたように、あたしには見えた。
翼の生えた、魔法のママチャリ。
亜弥ちゃんは、群青に溶けていった。
- 5 名前:30 群青日和 投稿日:2004/12/25(土) 03:16
- 抜けるような青い空を見るたびに、思い出す。
何もかもから解き放たれたような、彼女の後姿を。
青と融けあいひとつになった、亜弥ちゃんのことを。
空から注ぎ落ちる陽光は、冬のものなのにやけに眩しくて。
目を細めて仰ぎ見た空は、深い深い群青に染められていた。
今度、あの崖に行ってみよう。
あたしは、ママチャリに跨り彼女と同じように空に溶ける自分の
姿を、想像した。
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