23 24

1 名前:23 24 投稿日:2004/12/24(金) 23:07
23 24
2 名前:23 24 投稿日:2004/12/24(金) 23:24
 大人の子供の境目がどこかって聞かれたら、あたしは迷わず24歳と答えるだろう。

 聖者の行進が目抜き通りに流れる。サンダクロースの扮装をした学生たちが、にこやかに子供たちに風船を配る。どこからともなく福引のガラガラを回す音。街はどこまでも賑やかで、あたしはなんだか泣きそうになった。こんな時期、こんな時間に商店街にいるなんて何年ぶりだろうか。北海道を出たのが15歳のときで、それ以来だからもう8年になる。小学校に入学したばかりの子供だってもう中学生になっている。
 あの頃のあたしは自分が永遠に24歳になることは無いんじゃないかと思っていた。勿論、今迄だってひとつずつ年齢を重ねてきているのだから、いつかはその年齢になることは知っていた。だけど、理解してはいなかった。あたしはもう23歳で、次の夏が来たら24歳になる。裕ちゃんが、モーニング娘。のリーダーになった年齢だ。あのときは裕ちゃんがとても大人に見えた。でも、23歳の自分はまだ、いやになるぐらい子供だった。
3 名前:23 24 投稿日:2004/12/24(金) 23:52
 本屋の前を通りかかると、ふいにあたしの名前が目に飛び込んだ。反省事務所通い、って。記事タイトルを一覧にした電車用の吊り広告が、ガラス扉に貼ってあった。記事の扱いもそんなに大きくなくて、あたしを凹ませた。大きければ大きかったでまた凹むんだろうけど。

 なんでもいいから書いて
 なんかあるでしょ、言いたいこと
 作詞が趣味て言ってたよね

 何でもいいからさ、軽い気持ちで
 ほんと素直な言葉でいいんだよ

 人のせいにしたって仕方がないけど、あたしはあまりにも無知だった。好きなアーティストの綺麗な言葉たちを引き写したあたしの作詞は、何万部かを売った写真集やエッセイ集やその他の印刷物に載った。ラジオでも流れた。他の人の真似をするのは、あたしにとっては悪いことじゃなかった。つんくさんが歌うように歌い、夏先生が踊るように踊り、台本の通りに喋り……あたしの仕事に、あたしのものは何ひとつなかった。ただ、あたしがそれに気がついてなかっただけだ。
4 名前:23 24 投稿日:2004/12/25(土) 00:12
 たかが言葉にそこまでの価値があることを知らなかった、と言えば嘘になる。あたしだって印税という言葉ぐらいは知っていた。自分たちで作詞したら儲かるよねって話題になったのも、一度や二度ではないし、みんな自分で詞を書き溜めてるみたいなことも聞いたことがあった。だけど、あたしたちの詩が実際に曲に使われたことは、まだ無かった。あたしたちはまるでそれが重大な秘密であるかのようにそっと、実は自分でも作詞しているのだと囁きあった。まるでそれがとても大切な秘密であるかのように。だけど、書いたものを見せ合ったことは、ない。

 見せ合ってれば良かったんだろうか。軽く「これってジュディマリのパクリやん!」と笑い飛ばされていれば良かったんだろうか。
 そういえば一番最初に裕ちゃんにノートを見せたときにそういう反応をされて、ひどく傷ついたことを思い出した。

 あたしはいつから自分のものと他人のものを区別できなくなったんだろう。だけど、あたしが真似をした詞たちは、音楽に乗せて浴びるように聞いたあの言葉たちは体中に染み込んでいて、あたしのものじゃないと言われても、とても納得することができなかった。あれは、あの言葉たちはあたしだった。だってあんなにあたしの気持ちを適格に表現しているんだもの。
5 名前:23 24 投稿日:2004/12/25(土) 00:37
 落ち着いて自分の中身を整頓してみると、あたしを構成している言葉の殆どはどこからかの借り物だった。嬉しい気持ちも悲しい気持ちも全部、どこかの歌にもう、ぴったりする言葉があった。言いたいことがすでにもうぴったりする言葉になっているのに、これ以上なにをしなくちゃいけないんだろう。
 結局あたしはまだ、本質的なところで何ひとつ理解しちゃいなかった。罰としての日々。罰としての休暇にも似たのんびりとした日々。買い物リストを見て溜息を吐く日々。サンタにぶつかる日々。

「すみません、メリークリスマス」

 ぶつかったサンタは早口で謝りながらあたしに風船をひとつ渡すと、手を振って人ごみのなかに消えていった。黄色い熊の形をした風船がふわっと空へと逃れようとする。上向きのベクトル。
 こうやって、ただ年齢を重ねていくだけでは大人になんかなれない。
 来年、24歳になったあたしが、あの頃の裕ちゃんよりも大人になることなんかできっこない。
 言葉があたしのなかから生まれてくることなんかない。

 当たり前のことができない。
6 名前:23 24 投稿日:2004/12/25(土) 00:42
 聖者の行進が目抜き通りに流れる。サンタクロースの扮装をした学生たちが、にこやかに子供たちに風船を配る。どこからともなく福引のガラガラを回す音。街はどこまでも賑やかで、あたしはなんだか泣きそうになった。

 大人と子供の境目がどこかなんてもう分からなかった。




-了-
7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

Converted by dat2html.pl v0.2