14 ダークサイド・オブ・ザ・スプーン

1 名前:14 ダークサイド・オブ・ザ・スプーン 投稿日:2004/12/24(金) 02:18
14 ダークサイド・オブ・ザ・スプーン
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/24(金) 02:18
「れいなさあ、スプーン曲げ出来る?」
突然、吉澤さんにそんなことを訊かれた。
「なんですかそれ」
わたしはきょとんとした表情で訊き返す。

なんでも、ずっと前に番組で超能力の企画をやって以来、吉澤さんはスプーン
曲げに凝っているのだそうだ。
「そん時は出来たんだけど、あとで家帰ってやってみても全然出来ないんだよ」

それはいわゆる『バラエティスプーン』ってやつじゃないだろうか。
そう思ったけど、可哀想なので黙っておいた。

「でもなんでれいなに訊くんですか?」
「なんか超能力ありそうじゃん」
そうなのだろうか。よく分からない。

夕食にカレーを食べているとき、ふと昼間に吉澤さんの言っていたことを
思い出した。
「んんん……」
わたしはスプーンを構えると、妙に芝居がかった動きで大袈裟に撫でてみた。
当然、何も起こらない。

「……」
なんか死にたくなるほどはずくなったので、慌てて残りのカレーを食べて
しまうとさっさと片づけてしまった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/24(金) 02:19
翌日、矢口さんがいつもの3倍くらいの勢いで爆笑していたので振り返ると、
石川さんが楽屋に入ってきたところだった。
見ると、石川さんの顎がいつもの3倍以上の勢いで曲がっている。

今後の対応についていろいろと協議がはじまって、楽屋が思い雰囲気に
包まれた。
わたしはこっそりと吉澤さんを連れ出すと、昨日のことを話した。吉澤さんは
クビを捻ると、
「れいな、こういう話がある。赤ん坊がベッドの中で手を伸ばして、ガラガラを
振る。たまたまその時、母親が部屋の明かりを付ける。赤ん坊は、自分が
柄柄を振ったから明かりがついたのだ、とそう思うだろう」
「……?」

石川さんの顎だけじゃなくてこの人の頭も曲がってしまったのか?
そんなわたしの思いも知らず、吉澤さんは、
「しかし、れいながスプーンを曲げようとすることでなにかが起きることは
あり得ることかも知れない……」
そう言うと、吉澤さんは真剣な眼差しでわたしを見つめた。
「いいか、このことは誰にも話しちゃいけない。悪用されたら世界の危機に
繋がるかも知れないんだから」
「はあ……」
わたしは溜息をつくと振り返った。楽屋の開けっ放しの扉から誰かが身を
隠すのが見えたような気がしたけど、誰だったんだろう。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/24(金) 02:19
翌日。
いきなり空がごろごろと呻きだして、にわか雨が降り出した。
不思議なことに、雨粒はわたしにぶつかる寸前に曲がって落ちていった。
お陰で全く濡れないで済んだ。スプーンのことと関係しているのか、それは
分からないけど、なかなか悪くない。

楽屋でしばらく過ごしてから、なんか誰もはなしかけてこないなあという
ことに気付いた。
「あれ、そういやれいなどうした?」
矢口さんがいった。わたしは「ここにいますよぉ」といいながら手を挙げた。
みんなわたしのほうを振り向いたが、不思議そうな表情でまたきょろきょろ
としはじめた。

なんでなんで? まさか、ひょっとして……。
みんなの視線がわたしに届く前に曲がってるんだ。しかし、なぜ……。

「れいな休みなんじゃないですかー」
絵里がなぜかニコニコと笑いながら言った。
その足下におかれたバッグから、銀色のスプーンが顔を出しているのを
わたしは見逃さなかった。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/24(金) 02:19
おわり

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