07 花盗人
- 1 名前:07 花盗人 投稿日:2004/12/24(金) 00:43
- 07 花盗人
- 2 名前:07花盗人 投稿日:2004/12/24(金) 01:02
- 「ごっちゃん、あれ見て。綺麗」
同僚が背後から指差した先に、黄色い花が咲いていた。細い木の枝の先に蕾が和菓子のようにわだかまっている。最初に思ったのは、美味しそう、だった。
同僚は身軽にブーツの踵を鳴らして、木の下へ回ると軽く手を伸ばし、止める間もなく枝を手折った。それから蕾へ顔を寄せて大きく息を吸い込み、にっこりとした。
「いいにおい」
小首をかしげて、枝を差し出すから、あたしも仕方なく匂いをかいだ。
「ツツジのにおいがする」
家の近所にはツツジの生垣があって、春になると乱れ咲いた。近所の小学生たちは咲いたツツジをむしって、蜜を吸った。あたしも例外じゃなかった。
「ツツジってこんなんなの?」
「わかんないけど。蜜のある花なのかもね」
「へえー。ごっちゃんて物知りなんだねえ」
溜息を吐くように言って、彼女はもう一度においをかいだ。植物に詳しいのは山登りが好きだった父の影響だった。
「名前わかる?」
「ソシンロウバイかな。多分だけど」
- 3 名前:07花盗人 投稿日:2004/12/24(金) 01:10
- ぽかぽかする日差しの公園を歩く。
昼休みなのか弁当をいれた巾着をさげたOLがぶらぶらとしている。ベンチにはネクタイを緩めて寝そべるサラリーマン。この公園を横切ると近道になるので時々利用していた。でも同僚の誰かと歩くのは初めてだったかもしれない。
「東京って緑ってか公園?多いよねえ」
「そう? フツーだと思うけど」
「そうだよ。ここだって公園って言ってるけど森みたい」
彼女は大げさに手を広げてくるっと回った。森は大げさだったが、広葉樹が植えられた敷地はちょっとした迷路だ。奥のほうはホームレスが占拠してるので近付かないほうがいいとも言われている。彼女の感覚では入り口から全体が一望できないような大きな公園は、もはや公園の範疇から外れるそうだ。
ざぁっと風がわたって、紅葉が風に待った。12月のこんな時期にまだ落葉してないのは不思議だった。
- 4 名前:07花盗人 投稿日:2004/12/24(金) 01:22
- 「また謝んなきゃいけないのかなぁ…」
彼女がポソッと言った。彼女にしては珍しく少し鬱が入った声音だった。
「また謝んなきゃいけないんだろうねぇ…」
どうでもいいことに聞こえるように細心の注意を払って応えた。
日差しは気持ちよかった。あたしたちはなるべくいやなことを遅らせるようにのろのろと歩いた。
「どうしてああいうことやっちゃうんだろうねえ…」
彼女はまたそう言って花に頬を寄せる。あたしたちが非難がましくなるのも仕方がない。あたしたちはあたしたちには全く落ち度がないことで、とにかく頭を下げまわっていた。一緒にユニットを作っていたあたしたちや、一緒に仕事をしていた娘。はともかく、キッズまで頭を下げるのは、悲壮を通りこして滑稽でさえあった。
「今頃なにしてんだろうねえ…」
「さぁ…」
彼女があたしたちの頭を下げる姿を見てるのかどうかは知らない。見てどう思ってるかなんか、もっと分からない。心を痛めているのだろうか。いたたまれない気持ちでいるのだろうか。それとも安堵しているのだろうか。一括送信された謝罪メールを見る限り、最後のそれがきっと一番近い。
- 5 名前:07花盗人 投稿日:2004/12/24(金) 01:28
- 「花泥棒は罪じゃないって知ってる?」
「……え?」
唐突なあたしの言葉にぎょっとしたように彼女は手折った枝を見た。蝋細工のような花がぷるんと震えた。
「素敵だなって美を愛でる心に罪はないんだってさ」
あたしの言葉に彼女はさっと顔を赤らめた。彼女は頭が良かった。今はいないあの人よりも、もっと。
あたしたちはそのまま無言で、公園を歩いた。心なしかさっきよりも早足になっていた。
……みんながなっちたちの歌をうたってくれるって、なっちうれしくってさぁ……
みんなバカだと思った。
空はいやなぐらい青かった。
- 6 名前:07花盗人 投稿日:2004/12/24(金) 01:28
- -了-
- 7 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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