美海の花
- 1 名前:美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:22
- 美海の花
- 2 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:25
- ほんとうに、彼女は死神を見たんだろうか。
私にはわからない。わたしには―――
◆ ◆ ◆ ◆
「斎藤、お金かしてくれないかなあ」
「クリスチャンディオールのリップ買ったら、すっからかんでさ」
また、美貴と亜弥が美海をいじめてる。
美海とは中学の同級生。それほど仲がよかったワケでもない。
私は新体操部のキャプテンをやってたけど、
美海は地味な園芸部にいたっていう話だった。
記憶に残らない女の子。美海はそれほど地味だった。
「―――あ、あんまり持ってないの」
「いいから出せよ! 」
美海は美貴に突き飛ばされて、私の足もとに転んでしまった。
床に打ったらしく、美海はヒザを押さえて顔をしかめる。
この不良2人には、クラスの子も迷惑してた。
「やめなよ! 」
気がついたら、私は両手をひろげて美海をかばってた。
べつに、美海を助けたいとか、いい子になりたいなんて気持ちじゃない。
ただ、これ以上、傍観してる自分が許せなかった。
クラスの子は、心配そうに私を見つめてる。
- 3 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:26
- 「へえ、いい子ちゃんなんだね。高橋は」
「だったら、あんたでいいや。お金かしてよ」
「い・や・だ」
私がはっきり言うと、さすがの不良も困ってた。
ほんとうは怖いよ。だって、2人とも背が高いんだもん。
っていうか、私の背が低いんだけどね。
「ったくよー! 今日は気分がわりーな。美貴、フケちゃおうよ」
「そうだね。斎藤! あんた代返しときなよ! 」
不良2人は机を蹴っ飛ばして、どこかへ行ってしまった。
怖かった。あの2人に殴られるかと思った。
殴られるなんて嫌だよ。おかあさんにも叩かれたことないのに。
女の子って、対立やケンカが嫌いなんだよ。
「あ、愛ちゃん。―――ありがとう」
よかった。美海のヒザ、たいしたことなかったんだね。
◆ ◆ ◆ ◆
- 4 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:27
- それからというもの、美海は私に接近してきた。
私といっしょにいれば、2人にいじめられないと思ってるのかな。
そんなことはどうだっていい。慕われれば嬉しくなるもんだ。
いつの間にか、私と美海は仲よしになっていた。
「愛ちゃん、早く帰らないとまずいの? 」
「なんで? 」
高校に入ったら、私は新体操をスッパリやめた。
足首のちょうしが悪いなんてのは口実で、私は遊びたかったんだよ。
だから、クラブ活動なんてしないで、授業が終われば家に直帰。
でも、やることがないと、すごくタイクツだった。
「新しい花壇を作るの。よかったら手伝ってくれない? 」
「花壇? まさか、美海、また園芸部に? 」
こいつはたまげた。美海は高校でも園芸部に在籍してるらしい。
そんなに園芸が好きなら、専門コースの高校に行けばよかったのに。
ここは普通科だから、美海にとってタイクツな授業もあるだろう。
「えっ? 中学のとき、おぼえていてくれたの? 」
「そそそそそ―――そういったワケじゃなくて」
変に誤解されるのも嫌だったけど、美海を傷つけたくないし。
あー! もう、私はA型。優柔不断なんだよなー!
でも、まあ、花壇を作るなんて、ちょっとおもしろそうだな。
- 5 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:28
- 「それじゃ、部室で着替えようよ」
私は手をひかれて、園芸部の部室に行った。
ここで、汚れてもいいように、作業着に着替えるらしい。
そういえば夏だってのに、美海はいつも長袖のブラウスだ。
アザとか疵とかがあるのかな。何となく気になるなあ。
「へえ、ここが園芸部の部室なんだ」
体育倉庫の裏にある古いバラック。それが園芸部の部室だった。
部室の中は肥料や腐葉土が積まれていて、半分しか使えるスペースがない。
それでもきれいに整理されており、美海の几帳面な性格が出てるようだった。
「愛ちゃん、これを着て」
美海に渡されたのは、洗い古されたツナギだった。
洗剤を使っても落ちないシミが残っていたけど、
きれいに洗われたツナギからは太陽の匂いがする。
私はなんだかウキウキして、ツナギに着替えた。
「ねえ、美海―――うっ! 」
ふり向いた私が見たのは、美海の背中にある無数の傷痕だった。
どれも古い疵みたいだけど、中には縫合したものもある。
誰がこんな傷をつけたんだろう。まさか、あの2人が?
- 6 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:28
- 「み、見ないで」
「美貴と亜弥にやられたの? 」
私が問いつめても、美海は首を横にふるだけだった。
美海の体の傷痕は手首にまであり、それで長袖なんて着てたんだ。
許せない。もし、あの2人だったら、私はぜったいに許さない。
「もう、いじめの範囲じゃないよ。これは傷害事件。警察に行こう」
「ちがうの! これは―――これはおとうさんに」
◆ ◆ ◆ ◆
- 7 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:29
- なんてことだ。美海は中学生のころから、おとうさんに性的暴力を受けてた。
そういえば、美海のおかあさんは、小さいころに死んだって聞いたな。
こんな大切なこと、美海はともだちだから話してくれたんだ。
嬉しいのと美海がかわいそうなので、気がついたら彼女に抱きついてた。
「愛ちゃん、ナイショにしておいてね」
「こんなこと、人に言えるわけないよ」
美海の話によると、おとうさんは最近、家に帰ってこなくなったらしい。
乱暴されることがないからいいけど、お金とか困るんだろうな。
私にできること、何かないかなあ。お金だけは援助できないけど。
「あたしにできることがあれば―――」
「―――いいの。それより、今晩、2人だけで秘密の花壇を作らない? 」
「秘密の花壇? 」
なんでも、焼却炉があったところに、小さなスペースがあるらしい。
フェンス際の誰も近づかない場所。ここなら無断で使っても怒られなさそう。
美海はそこに、私との秘密の花壇を作りたいらしい。
どうも、「秘密」とか「2人だけ」っていう言葉に弱いんだよなあ。
こういったスリルがある秘密は、ものすごく魅力的に思えた。
- 8 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:30
- 「それじゃ、これから作業の講習でーす」
そうだよね。夜なんて暗いし、昼間に作業方法を教えてもらわないと。
私と美海は腐葉土とレンガを、職員室前にある花壇へと運んでいった。
園芸部は幽霊部員ばかりで、実質的に動いてるのは美海だけらしい。
「花壇を作るのは難しくないの。たいへんなのは、お花を育てること」
花壇を作るには、まず、少しだけ掘って、周囲にレンガを並べてゆく。
レンガを置くことで、腐葉土が流出するのを防ぐのだそうだ。
腐葉土を敷いたら種を植え、上から少しだけ土をかけておくらしい。
あとは、腐葉土が乾燥しないくらいに、水をかけてやればいいそうだ。
「しっかり根づくまでは、雨で流されちゃうの。
だから天気が悪いときはビニールシートをかけてやる」
こりゃ、けっこう疲れる。でも、お花が咲くと思うと、なんだか嬉しくなるな。
こんな作業を毎日やってたら、マッチョな体になっちゃうよ。
そういえば、美海の体は、いじめられてるわりに筋肉質だった。
私たちは時間を忘れて作業をつづけ、気がついたらもう夕方だった。
「愛ちゃん、今日は終わりにしよう」
「今晩、何時にする? 」
後かたづけをして、部室で制服に着替える。
美海とは同じ方向だから、いっしょに帰ることにした。
◆ ◆ ◆ ◆
- 9 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:31
- いつも私はバス通学だけど、
今日は美海と話がしたくて歩くことにした。
美海はいろんなことを話してくれた。
学校の裏口のカギが壊れてるなんてこと。
バレー部のS先輩と、バスケ部のM先輩がつきあってること。
そんなレアな話、よく知ってるなあ。
「愛ちゃん、死神ってしってる? 」
「死神って、あの死神でしょう? 」
「見たことあるの。あたし」
美海の話によると、おかあさんが亡くなったとき、
黒いマントを着た死神がやってきたそうだ。
美海は泣いておかあさんを守ろうとしたけど、
抵抗むなしく死神につれていかれたんだそうだ。
「誰も信じてくれないけどね」
そりゃそうだ。マジで話したら、頭がおかしいって思われる。
でも、美海の話は、ヤケに説得力があった。
ほんとうの話には、説得力があるって誰かが言ってた。
もしかすると、死神の話もほんとうなのかもしれない。
- 10 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:31
- 「愛ちゃんは信じる? 」
「うーん、わかんない。でも、説得力があるね」
私が率直に感想を言うと、美海は嬉しそうにうなずく。
美海も実話に説得力があるって話、知ってるのかなあ。
あれ? 美海って、こんなにかわいかったんだ。
「それじゃ愛ちゃん、今晩10時ね」
「うん」
私は美海のうしろ姿を見ながら、今晩の秘密に胸をふくらませた。
◆ ◆ ◆ ◆
- 11 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:32
- 私が午後10時に自転車で学校に行くと、すでに美海は作業をしてた。
畳1枚くらいの花壇がみっつ。すでに腐葉土を敷いてるところだった。
「美海ちゃん、待てなかったの? 」
「そうなの」
なんとなく出鼻をくじかれた感じだけど、それじゃ私がパンジーを植えよう。
私は小指で腐葉土に穴をつくり、そこに種を入れ、美海が腐葉土をかけてゆく。
パンジーはギッシリ咲いたほうがきれいだから、間隔を狭くして穴をあけた。
ところが、何か硬いものに当たって、穴があかない個所がある。
何かと思ってほじくり出すと、それは口紅みたいだった。
「くりすちゃんでぃおーる? 」
私は懐中電灯で、口紅を照らしてみた。
そこには「クリスチャンディオール」とロゴが入り、
それは亜弥が自慢してたリップみたいだった。
「なんでこんなところに? ―――まさか! 」
「そのまさかよ」
美海は種を植えたばかりの花壇を手で掘り起こす。
すると、そこからは、若い女の死体がでてきた。
あまりのことに、私は声もでなかった。
花壇に埋められてたのは、美海をいじめてた亜弥だった。
- 12 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:33
- 「みみみみみみ、美海ちゃん! これって―――」
「いじめられるの、もう嫌だったし」
美海は隣の花壇も手で掘り起こした。
そこには、美貴が全裸で埋まってる。
ついに、美海はリベンジをしたんだった。
これで美海をいじめる人がいなくなった。
「そ、それじゃ、この花壇には? 」
「おとうさん。あたし、2回も中絶したんだよ」
「美海ちゃん、自首して! 事情を話せば警察だって―――」
「愛ちゃん、これでいいんだよね。あたし、まちがってるかなあ」
ああ、美海は壊れてたんだ。
もう、善悪の区別もつかなくなってる。
このままじゃいけない。何とか美海を救わないと。
だって、私たちはともだちなんだもん。
「美海ちゃん、これはいけないこと。わかる? 」
「そんな! ―――愛ちゃん、信じてたのに」
美海は悲しそうに泣きだした。
その泣き声が、夏の夜空に響いてた。
救いたい。このあわれな美海を。
- 13 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:34
- 「警察に行って、ちゃんと話そうよ」
「だめだよ。もう死神がきてるし。3人のときだって、死神がきてたんだよ」
美海はおびえるように、私の背後へ目をやった。
家では性的虐待。学校では執拗ないじめ。
これでは、まともな神経じゃいられないだろう。
死神は美海の妄想だとは思ってても、
背後を凝視されたら、こっちまで怖くなってゆく。
「し、死神がきたときって、かならず誰かが死ぬの」
そ、それって―――まさか、美海は私を殺す気なの?
もう、美海は善悪の区別もつかないんだと思う。
それに、私を殺してしまえば、何の証拠も残らない。
「み、美海ちゃん、まさかあたしを―――」
「そんな! 愛ちゃんを殺せるわけないよ。ともだちでしょう? 」
そう言った美海は、私の制止をふりきり、外階段から校舎を昇ってゆく。
美海はいったい何を考えてるんだろう。私にはわからない。
- 14 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:34
- 「美海ちゃん、待って! 」
「死神がきたら、誰かが死ぬのよ」
美海はそう言うと、校舎の最上階から身を躍らせた。
黒いシルエットが無造作な音をたてて私の横へ落ちてくる。
飛び降りた美海は、全身を強く打ってる。この高さじゃ助からない。
「み、美海ちゃん! 」
「し―――死神―――には、 ―――あたしがついてく」
それが美海の最期の言葉だった。
◆ ◆ ◆ ◆
彼女はほんとうに死神を見たんだろうか。
END
- 15 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:35
- み
- 16 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:36
- う
- 17 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:36
- な
- 18 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:37
- か
- 19 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:37
- わ
- 20 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:37
- い
- 21 名前:23 美海の花 投稿日:2004/08/02(月) 23:38
- い
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