17 手のひらの遊び
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/01(日) 20:10
- 17 手のひらの遊び
- 2 名前:17 手のひらの遊び 投稿日:2004/08/01(日) 20:11
- 世界はちっちゃくて丸いガラス玉みたいなんだって。
「絵里ちゃん、お誕生日おめでとう」
さゆはそう言ったんです。
私の誕生日は寒い寒い日ですから。
さゆがいてくれると暖かくて嬉しい。
さゆの小指の先から漏れ出す緩やかな音楽が
二人を包んであったかくしてくれるからです。
街がチカチカとキレイなネオンで飾られているんだけど
さゆの真っ黒なお目々はそれよりか、キレイ。
さゆの歌ってくれたクリスマスの歌は、調子が外れているので
口からこぼれ出す淡い光の線と、それで描く天使さまの絵も、何だかボケているのです。
でも、とってもキレイなのです。
おうし座の角の上に二人で座って、街を見下ろすと
さゆの光がチカチカと降り注いでいるので、夜は穏やかに更けてゆくのです。
私も、お礼にと思ってコーヒーのご馳走をしました。
さゆのカップにミルクを注ぐと、その渦がゆらゆらとカタチを変えながら
湯気と一緒に舞い上がって、だんだんと羽を開いたかと思うと
ミルク色の蝶ちょになってヒラヒラと飛び立って
月の前を横切り飛んでゆきました。
私はさゆに聖書を読んで聞かせました。
何を書いているのか、私にも殆どわかんないんですが
とにかく聖書はふりがながふってあるので、私にも読めるんです。
さゆは嬉しそうに聞いてくれました。
月の裏側にある大時計を覗き込むと、もう今日は終わりそうな時間でした。
「ああ、絵里ちゃんのお誕生日、終わっちゃうね」
さゆが白い息を、残念のカタチに吐き出しながら言いました。
「今日楽しかったぁ。ありがとう」
私が言うと、さゆは照れくさそうに笑いました。
- 3 名前:17 手のひらの遊び 投稿日:2004/08/01(日) 20:11
- 「まだ、プレゼント渡してないよね。
何がいい?絵里ちゃんのお願い、なんでもきくよ」
「そう?」
「うん!」
「なんでも?」
「なんでも!」
ちょっと考えてる間に、月の大時計がボーンボーンと鳴りだしました。
どうやら日付が変わっちゃったみたい。
「じゃあねぇ、明日、世界を滅ぼしちゃうとか」
さゆは大きなお目々を少し開いて、面白そうに笑いました。
「どんなふうに?」
「あー、そこまで考えてなかったぁ」
ちょっと恥ずかしくて私も笑います。
「じゃあねぇ、凄くキレイな人たちが凄くきたなくなるように。
すごくよごれた人たちがきれいになるように。
すごくシアワセそうな人が悲しくなるように。
すごくフシアワセな人がとってもシアワセになるように」
さゆは声を立てて笑いました。
「おもしろそう。やってみようか」
さゆは、さっき私が読んでいた聖書を手に取りました。
それから、そのページを一枚ちぎり取ると
それを手の中でくしゃくしゃと丸めます。
手をおもむろに開くと、くしゃくしゃな紙がむくむくと膨れ上がって
だんだん大きくなっていきました。
それがしだいに人の形になっていって、とうとう
一人の天使さまのカタチになりました。
背中に白い羽が生えていて、肌は元の紙と同じような白さ。
顔はさゆとそっくりで、両目はさゆと同じような真っ黒でした。
天使さまはさゆの手のひらを離れてふわふわと浮いていました。
「うわぁ、すごいね。その天使さま、どうするの?」
「あした、絵里ちゃんのお願いごと、かなえてくれると思うよ」
さゆはいたずらっぽく笑いました。
天使さまは星の夜の暗がりに飛んでいってしまいました。
「どんなふうになるのか、楽しみじゃない?」
「楽しみだねー」
- 4 名前:17 手のひらの遊び 投稿日:2004/08/01(日) 20:14
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「そういえば昨日は絵里ちゃんのお誕生日だけど
今日はクリスマスイブなんだね」
「そうだよ、だからもう一回ケーキ食べよう」
「うーん、でも私もう眠い」
「じゃ、一緒に寝よ」
「うん」
夜の階段を降りて、静かな街のベッドに二人でもぐりこむと
すぐさゆは眠ってしまいました。
私は、あしたどんなことがおこるのかわくわくして
なかなか眠れませんでした。
キレイなガラス玉が粉々に砕ける夢を見ました。
世界はちっちゃくて丸いガラス玉みたいなんだって。
おわり
- 5 名前:17 手のひらの遊び 投稿日:2004/08/01(日) 20:15
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- 6 名前:17 手のひらの遊び 投稿日:2004/08/01(日) 20:15
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- 7 名前:17 手のひらの遊び 投稿日:2004/08/01(日) 20:15
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