13  パンがひとつならわけわけね

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 12:53
 
 13  パンがひとつならわけわけね
 
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 12:54
わたし達は湾岸の景色見える場所に来た。
裸足で砂踏めば、生きている気がした。
「絵里ぃ――――――!」
れいなが叫んだけれど、返事はなかった。
「絵里ぃ――――――!」
わたしも叫んだけれど、やっぱり返事はなかった。

打ち寄せる波がわたしの足をくすぐった。
「さゆ」
れいなに呼ばれて、わたしは振り返った。
夕焼けにれいなが重なってて眩しかった。
「探そう」
わたしは頷いた。
「絵里は絶対ここにいる」

絵里が姿を消したのは今朝だった。
さよならとだけ書かれた葉書がわたしとれいなの元に届いて、
何これと電話をしてみたらもう繋がらなかった。
「たぶんこっちに鍵がある」
そう言ってれいなが摘まんだのは、真っ白い便箋だった。

れいなの後ろについて砂浜を歩いた。右手に水平線が見えた。
「思い出すね」
わたしが言うとれいなが「うん」と答えた。
この場所で映画を撮影したのが、もうずっと昔のことに思えた。
「絵里ぃ――――――!」
思い出したようにれいなが叫んだ。
「絵里ぃ――――――!」
わたしも叫んだ。

わたし達がまた実際駆け出しで、ぎこちなくよそよそしかったとき。
朝から夜までのお仕事で、とてもお腹が空いていたとき。
「パンがひとつならわけわけね」
絵里が散切ってくれたひとかけを三人で食べた。
味はもう忘れたけれどみんなすごくいい顔になってて、
それから、いろんな事も教えあえるようになった。
いつまでも三人でならば人生楽しんで行けそうだねって、
そう思ってたのはわたしとれいなだけだったのかな。

いつの間にか、空見上げれば星達が居た。
「もうこんな時間になっちゃった」
潮風に向かって歩く背中に呟くけれど、返事はなかった。
鼻をすするように音が聞こえて、泣いているのかもと思った。
「もういっかい電話してみる」
亀井絵里の名前を呼び出して電話をかける。―――繋がった!
「れいな」
「居た」
声をかけたのとほぼ同時だった。れいなが走り出した。
砂浜の端っこに、小さく人影が見えた。携帯電話を持っていた。

「来てくれたんだ」
微笑む絵里にれいなが「笑ってる場合じゃないよ」と言った。
そしてこぶしを振り上げた。
次の瞬間、絵里に抱き着いてわんわん泣くれいなが見えた。

「謎よく解けたね」
絵里がわたしに向かって言った。
「たまたま便箋を火で炙ったら字が浮かんできた」
「でもさゆってばエスパーかと思った」
わたしが「どうして?」と聞くと絵里は、
「切った携帯電話の電源オンにしたらいきなり鳴るんだもん」
と言った。

「どうしてこんなことしたの?」
顔を上げたれいなはもう泣いてなかった。
きっと潮風が涙を乾かしたんだと思った。
「ごめんね」
「ごめんじゃなくてどうしてって聞いてるの!」
絵里はれいなの頭を撫でながらもう一度「ごめんね」と言った。

わたしには絵里がこんなことした理由がなんとなく解った。
きっとそれはわたしだってれいなだって、誰だって胸に抱えてる。
今回は謎が解けたけど、次は解けるか解らない。
貧しいときに受けたパンは、命ほどの価値がありましょう。

「パンがひとつならわけわけね」
絵里を見つめて言った。
絵里はまた「ごめんね」と言って目をそらした。
誰も帰ろうは言い出さず、しばらく潮風に吹かれていた。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 12:54
 
 
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4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 12:55
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5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/30(金) 12:55
 
 
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