12 20th story

1 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:48
12 20th story
2 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:49
夏の終わりだというのに、そこは蝉の声がやけに響いていた。

真希とあさ美は二人、その喧騒の中、無言で手を合わせていた。
目の前にあるお墓。
そこにはピースサインをぴったり引っ付けた二人の少女の写真があった。

3 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:50


スポットライトが二人に当たる。
あさ美はすぐ後ろで、真希はステージ袖からそれを見ていた。
一色に染め上げられたコンサート会場の中で、二人は最後の言葉を発した。

言葉に詰まりながら、時には二人で笑いあいながら。

あさ美は二人とステージ上で抱き合い、真希はステージをはけた二人と抱き合った。

台風の予報がでていたにも関わらず、月の綺麗な夜だった。
二人は、まるで妖精のようにその光の下を駆けていった。
輝かしい未来がある。
その時は誰もそれを疑わなかった。
4 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:51


「こら、辻!加護!」

圭織の声が楽屋に響く。
名前を呼ばれた二人は、苦笑いを浮かべて並んでいた。

「どうして紺野のパンを勝手に食べたの?」
「だって…ねぇ?」

怒る圭織の前で二人顔を合わせる。
あさ美は半分泣きそうな顔でその横に立っていた。

「お腹、すいちゃってさ…丁度そこに見えたから、つい…」

亜依は口元に手を当てながら、ぼそぼそと言った。
希美も同じ仕草をして頷く

「それなら一言紺野に言いなさい!黙って食べるなんて泥棒と同じでしょ」
「はーい」

二人はぺこりと頭を下げる。
また今度買ってくるから。
そう言っていた二人だが、あさ美は結局食べられた分を返してもらうことは無かった。
5 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:51
そう言えば、こんなこともあった。
あさ美は思い出す。

「ねえ、今度のオフ、渋谷に遊びに行こうよ」

さくら組とおとめ組で別々にコンサートをしている時、希美からメールが入ってきた。
なぜ自分なのかわからなかった。
亜依でもひとみでも梨華でもない、自分だったのか。

もちろん返事はオーケーであり、二人は遊びに行くこととなる。
その帰りだった。
駅で電車を待っている時に、希美がボソッと言った。

「夕陽ってさ、綺麗だよね」
「だね…」

突然のことで意図がわからなかったが、とりあえず相槌を打った。
すると希美はこう言った。
6 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:52
「どうせ沈んじゃうのに、どうしてそこまで綺麗なんだろうね」
「どういうこと?」
「あさ美ちゃんは知ってるでしょ?ゆーしゅーのびって言葉。
のんは漢字もわかんないんだけどさ。あれって、最後がよかったらそれでいいみたいな意味なんだよね?」

丁度電車が到着したため、なぜそんなことを言ったのか聞くことはできなかった。
だが、思い返してみると希美は直感していたのかもしれない。
自分たちの将来と、あさ美たちの将来を。
7 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:53

真希が知らせを受けたのは、事件のあった翌日だった。
その日、真希はオフだった。
だからといって出歩くこともせず、家でごろごろしていた日。
バイクの音とポストの口が開くガタンという音が聞こえたので、何の気なしに郵便ポストを見てみると一枚の葉書があった。

「暑中お見舞い申し上げます」

独特の字ではがきいっぱいに書かれた言葉。
その周りには二種類の字が縦に、横に、斜めにならんでいた。
差出人はWと一文字だけ書かれていた葉書。
真希自身、メンバーとはずっとお正月から会っていたため、改めて年賀状などを出したことが無かっただけに、ちょっとうれしかった。
もしかして他のみんなにも届いているのかと、携帯を探したとき、着信音が響いたのだった。

8 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:53
事故だった。とみんなは言う。
ホテルの部屋を抜け出した二人は、屋上にいったそうだ。
二人同じホテルなのに、別々の部屋をあてがわれた二人。
それは四六時中一緒にいる二人のプライベートを考えた事務所側の配慮か、ホテル側の事情かどうかわからない。
だが、仲良しな二人には余計なことで、示し合わせたかのように二人同時に部屋を出ると、コンサートまでのわずかな時間で屋上に上ったのだ。

そして、夕日の中で彼女たちは屋上から落ちた。
なぜ落ちたのかわからない。
ビルの間から真っ赤な夕日が見えていたから。
フェンスの前にパイプがいくつも階段状に並び、フェンスの上に座ることができたから。
だけど、そのフェンスが錆びてぼろぼろで、力を加えると簡単に折れてしまったから。
それらは全て憶測でしかなかった。
折れたフェンスとその先に広がる死への扉。
現場に残された手がかりはそれだけだという。

9 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:54
運良く木が下にあったため、死にはしなかった。
しかし、発見されたときには、真っ赤な血溜まりの中に二人折り重なるように倒れていたという。
夕刻の赤い光は、古代神話で太陽の流している血として例えられているという。
太陽は自分だけでは飽き足らず、この二人にまで血を要求したのだった。


病院に運ばれた二人は数日後、目を覚ました。
希美に至っては一時心停止まで陥ったが、何とか一命を取り留めていた。
全身を包帯で巻かれて眠る二人。
何より、二人は記憶を失っていた。
自分たちのこと、周りの人間のこと、何一つ覚えていなかった。
覚えていたのは、お互いの名前だけ。
のの、あいぼん。
二人は自分の存在を確認しあうかのように、お互いの名前を呼び合った。
10 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:54


「空になりたいのです」

希美がそういったのはもう、包帯も取れ、松葉杖で歩けるようになってからのことだった。
あさ美の顔も覚え、亜依と三人で話していた時だった。
あさ美が昔の二人のことを話していると、ふとそう言ったのだった。

「どうして?」

あさ美は尋ねるが、希美は窓の外に広がる青空に目をやると、それきり黙ってしまった。

あさ美は後に後悔する。
あの時、自分が帰ったことを。
最後の事件が起きたのは、その夜だった。

二人の心境は誰にも理解できなかった。
なぜ彼女がそんなことをしたのか、誰にもわからない。
自分の居場所。
それを失った人間の心境を。
限りなく自分に似ている他人の中にしかそれを見つけられなかった者の心境を。
11 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:55

病院を抜け出した二人。
二人は死んだ。

どこから持ってきたかわからない。
ガソリンをかぶり、二人は自分たちに火をつけた。
輝かしい未来が待っていたはずの二人は、その生を輝かしく閉じたのだった。

12 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:56


「バカだね」

真希は言う。

「ほんとバカだよ」

再度真希は言った。その目には涙が浮かんでいた。
二人の両親は、ぜひ二人で埋葬してくださいと、ここに墓を立てた。
あの事件からもう一年が経っていた。
写真の二人は、最高の笑顔だった。
それが余計に憎らしくて、悲しくて。

いつの間にか傾いた夕日がバケツに入った水の中に浮かぶ。
真っ赤な、血のようなそれが嫌で、真希は写真をあさ美に持たせ、墓石にバケツの水をかけた。
そして、あさ美は包みから二つの鉢を取り出した。
コスモス。
お墓参りにはそぐわない花だが、二人の愛くるしさと似た花。
その美しさから、ギリシャ語の美しい、綺麗という言葉が名前の由来ともなっている花。
そして、二人が一年かけて育てていた花。
墓の横をそっと掘り、あさ美はそこに植え替えた。
ピンク色をしたかわいらしい二個の花を。
13 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:57
「まだ、明るいけどこれやりますか?」

あさ美がかばんから一本の筒を取り出す。

「そだね、さすがにここで夜まで待つのはと怖いからね」
「でも、二人の幽霊なら歓迎です」
「ははは、そーかもね」

真希は笑いながらあさ美からそれを受け取る。
ポケットから取り出したライター。

「お線香なんて辛気臭いの、辻も加護も嫌いでしょ」

墓石に呼びかけ、真希は導火線に火をつけた。

煙と大きな音が二人を包む。
夕方の真っ赤な空に、うっすらと七色の花火が広がった。
14 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:57
「やっぱよく見えないな…」
「いえ、きっとお二人には見えてますよ」

あさ美は言う。
「そっか、よかった」と真希は答える。
そうして、二人はもう一度手を合わせた。

あさ美の胸に光る十字架のチョーカー。
「クリスタルのいってんものなんだよ」といって、あさ美が希美からプレゼントされていたものだ。
あさ美はそれを外し、墓石に置いた。

「いいの?」
「はい。もう…私には必要ないんです……」

真希はそれ以上何も言わず立ち上がった。
15 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:57
おしまい
16 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:58
20番目のお話
17 名前:12 20th story 投稿日:2004/07/29(木) 23:58
全ての作者様ありがとうございました

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