7 月夜の雨

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:04

月夜の雨
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:06

金魚が水槽の中を元気に泳ぎまわっています。
酸素ポンプがぶんぶんと音を立てています。
先程から降り出した雨が窓ガラスを弱々しく打ち付けています。
夜の教室は月明かりだけが一様に灯っています。
不思議な天気だ。キツネでも出てきそうだ。
こんこんだけに。

英語以外の成績がまた一番になってしまったとき、
それを見て両親が満面の半笑いを浮べた時、
私はお布団から抜け出して
この夜の教室で朝日が昇るのを待ちます。
そして朝日を見たら家に帰りお布団の中に戻ります。
あさ美だから。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:08

でも最近は少し違っています。
教室で、ぼぉっと金魚を見て
金魚の顔マネを研究してみたりしません。
何もせずに時計を見つめていると、
ゆっくりとドアを開けて、さゆが入って来るのです。
時々、私みたいにこの教室にくるのです。

さゆは部活の後輩です。
だからさゆは私の事を知らない訳ではないのですが
私の事はどうやら眼中にありません。
「さゆは紺野先輩なんかには手の届かない程の可愛さなの」
と真顔で言っていると絵里ちゃんから聞きました。

さゆは恐らく精神を病んでいます。
雨は止んでいないのに。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:09

さゆは決まった時刻には来ません。
いつも寝坊したとか言って遅刻してきます。
もちろん待ち合わせしている訳ではないけれど。
私はなんとなく腹が立ちます。

「さゆ、おはよう。それともこんばんは。かな?」
私の挨拶を無視してさゆは
当たり前のように私を窘めるのです。
「先輩はバカですね」

一瞬、私はさゆの胸ぐらをぎゅっと掴みたいような気分になります。
が、私は臆病なのでそんな事は出来ません。
空手で茶帯を持っているのに怒る事さえ出来ません。
きっと人を傷つけるのが恐いのです。
恐ろしいのです。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:10

「ねえ、なんで私がバカなの?さゆよりもバカなの?」
さゆに優しく訊ねます。
もちろん無視です。さゆはまるで夢の世界の住民だ。

さゆは薄ら笑いを浮かべて言います。
「先輩は成績さえ良ければ全てが上手くゆくと思ってますね。
世の中そんなに簡単じゃないです」
「じゃあどうすれば上手くゆくの?」
と訊ねるとさゆは嬉しそうにいいます。
「さゆはバカだけど、とってもカワイイから大丈夫なんです」
私は唖然とします。

私もカワイイししかも賢いよ。と反論したくなりましたが
不毛な言い争いになるだけなので堪えます。
私は争いを好みません。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:13

「もうひとつ先輩は英語よりもバカなところがあります」
「英語よりも?そんなのあったっけ?」
私が驚いているうちに、さゆは移動していたので
私は虚空に向かって言う形になりました。

さゆはそれが聞えなかったのか無視したのか、
何もなかったように言葉を繋げます。
「世の中はすごく複雑なんです」
「さゆ、それって当たり前でしょ?」
「そうです。それは紺野先輩自身もなんですよ」

さゆはいつの間にか背後に回っていました。
逃げようとしたけど動けません。
いつの間にか私の手足がイスに固定されています。
いつの間に?
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:15

「先輩のここ見たかったんです」
そう言うと私の大事な部分に触れる。
「さ、さゆ!」
「先輩の身体に興味あるんです」
そして強引に両手で押し広げようとする。
私は必死で抵抗する。でも駄目だった。
体勢が不十分な私はさゆの為すがままだ。
さゆに大きく痛いほどまで広げられる。
真っ赤な粘膜がさゆの目に晒される。
恥かしくて死にそうだ。身体が熱い。
「やっぱりすっごく複雑に出来ていますね」
月の光でさゆの目がきらりと光る。

さゆは嬉しそうに微笑んでいるけれど
その顔はどこか無機質で青白くて
なんだか人間ではないみたいでした。
「触ってもいいですか?」
さゆがゆっくりと指を入れる。
さゆの指先が私の敏感な部分に触れる。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:17

「すっごいですよ先輩。雨が降ってるみたい」
さゆの指が私の体内を泳ぎまわります。
声にならない声が出てしまいます。
「うふふ。暖かいですね。先輩の中って」
私の意思とは無関係に
自然とぬらぬらと体液が溢れてきてしまいます。

体液は月の光に照らされてキラキラ光っています。
まるで川みたいです。
私はその流れに流されて行くのです。
金魚が水槽を緩やかに泳いでいました。
雨音はほとんど聞えません。
かわりに私の体液がポタポタと床を叩いて
小さな水溜りを作っています。

私は病んでいないのに。
いつの間にか雨は止んでいた。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:18

私は大きな声を上げたかったけど、我慢しました。
かわりに教室中には私の小さなうめき声が静かに響き渡りました。

「先輩って敏感ですね」
さゆは本当に嬉しそう。


さゆになりたい。人の心に鈍感になりたい。
さゆみたいに平気で誰かを傷つけたい。
さゆみたいに何も考えずに生きたい。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:19

「さゆが治してあげます。先輩の全てを」
さゆに治せる訳が無い。
さゆは躊躇無く私の身体の奥深くに指を差し入れる。
「ああっん」
思わず声が出る。さゆが嬉しそうに微笑む。
「さゆにはわかるんです。先輩は病んでいますよ」
身体から雨が降る。
病んでいない。私は病んでいない。
普通の可愛くてしかも賢い女の子だ。

私の中でさゆの指が動くたびに
私の身体は敏感に反応した。
私は黙ってさゆに身を任せていた。
私は気付いている。私は病んでいる。
涙がこぼれてきた。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:20

我に返った。空は白け始めていた。
「さゆ?さゆ・・・」
さゆは笑顔で私を見ていた。
奇妙な沈黙の中で見つめあっていた。
水槽の金魚は何も言わず、酸素ポンプだけが、
ぶーん、ぶーんと、音を立てています。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:21

「先輩は虫歯ですよ。ちゃんと歯医者に行ってください」
私の口から出した指をテイッシュで拭きながら言う。
指先は私の唾液でふやけているみたいだ。

あのじんじんとした痛み。
どうやら奥歯が虫歯になっているみたいだ。

「さゆは歯医者に行かないの?」
「さゆは完璧だから大丈夫です。先輩は?」
さゆの完璧ほど不完全なものは無い気がする。
私の完璧も大した事ないけど。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:23

「私は歯医者の先生が今日で治療は終わり。
って言ってくれるなら行こうかな?」
おどけた調子で言ってみた。

「今日で終わりだから、明日から来なくていい
なんて言う先生はいませんよ」
さゆは真剣に答える。
「明日で終わりなんて嘘。あれは大嘘ですよ。
いつまでも通わされますよ。きっと」

さゆは真顔で私を見て言ったので
なんとなく大袈裟に強く頷きました。
歯医者さんも商売だから全ての歯を治すまで
私を通わせるに違いない。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:25

「あーあ。夜中にお豆腐なんか食べなきゃ良かった。
しかもお砂糖かけて」
「あはは。バカですね」
「私って本当にバカみたい。笑っちゃう」
ふたりで力いっぱいに上擦った声を上げて笑いました。

道重は楽しそうに私の髪を一撫でして言います。
「明日は今日のくり返しですね」
道重は私の頭を見つめてそう言いました。
そうかも知れない。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:26

「明日、先輩は歯のちゅじゅちゅかあ」
さゆが噛んだのを聞いて私は笑ってしまう。
「手術だなんて言わないよ。普通は治療でしょ」
「あれ?そうかあ」
さゆは頭を掻く。なんだか可愛い。

「もう、さゆってバカなんだから」
「さゆはバカでいいんです。じゃあそれ食べてくださいね」
さゆはお土産を置いて手を振って出て行きました。
包みを丁寧に開く。飴だった。

おイモ味かあ。虫歯が酷くなりそうだな。
でも食べちゃうんだろうな。私ってバカだから。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:27

雨は先程よりもさらに弱くなり
あと五分もすれば消えてなくなりそうです。
夜月は相変わらず教室の中を
意味も無く照らし続けています。

気付けば私の髪はくしゃくしゃになっていました。
だから梅雨は嫌いだ。またヘアーアイロンしなきゃ。

まあいいか。明日は明日だね。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:30
  

    FIN
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:31
ういいーん
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 22:31
はにいっぱい

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