1 オープン・ハート  Open Heart

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/19(月) 00:10
オープン・ハート  Open Heart
2 名前:オープン・ハート 投稿日:2004/07/19(月) 00:11
 
「ほれほれ」
目の前にハート型のペンダントをぶらさげて振ること二、三回。
愛ちゃんは別に手を延ばそうともせずに「何やの?」とだけ訊いた。
「プレゼント」
わたしがそう言ってやっと、愛ちゃんは興味を示してくれた。

ぱちり、と蓋を開けて見せる。
「空っぽやで」
「この中に自分の大切なものを閉じ込めておくの」
「ほぉ」
「そしてそれを身に付けて、一日そのことが誰にもばれなかったら」
「願いでも叶うんか?」
先に当てられてちょっと嬉しい。わたしはぶんぶん勢い良く頷く。
「ありがとな。でも亜弥ちゃん、以外と子供じゃのう。えっへっへ」
愛ちゃんのほっぺをつねる。そしてペンダントを首にかけてあげた。



モーニング娘。さんの中で高橋愛ちゃんってば浮いてる?
そう思ったのは最近で、それから良く注意して見てみれば確かに
あまり他の人との会話とか笑顔がないように見えました。

なんて言うか、ほっとけない。同い年だからなおさら。
ハロープロジェクトのお仕事とかで会うことでもあれば、わたしは
とりあえず愛ちゃんに話しかけてみたりして、まぁだんだんと
仲良くなり、今はこうして誕生日でもないのにプレゼントをしたり
するくらいにはなって来たわけです。
3 名前:オープン・ハート 投稿日:2004/07/19(月) 00:12

「愛ちゃんは何をお願いするつもり?」
「言うたらダメなんやろ?」
「バレてダメなのは、中に入れるものとかけて過ごしてることだよ」
「そうやなぁ」唇に指を当てる愛ちゃん。「また星が見てぇ」

思ってもなかったお願い。まぁ新しい冷蔵庫が欲しいとか物理的な
お願いよりは良いのかもしれないけれど、でもそれはわたしには
どうにも出来ないよ、愛ちゃん。小さくため息をついた。
 

 
都会に居るから気にならなかったんですが、ある夜からすべての
星の光が届かなくなる、という事件が起きました。
最初こそニュースでも大きく取り上げられましたけど、今はもう
何か進展でもない限り大きく取り上げられることもないでしょう。

すべての星が消滅した、ようではないそうです。一枚の天幕に
広げたように見える星空も、じつはそれぞれ地球からの距離が全然
違ってて、すべてが同時に見えなくなることはないそうです。
地球をおおう大気の膜に何らかの原因がある、という説が有力だと
言うことを昨日、家に帰ってから見たニュースで知りました。



しばらくはドラマの撮影とかそれに関連した雑誌のインタビューで
モーニング娘。さんに会うことはなかったのですが、久々の歌番組
共演のとき、わたしは楽屋におじゃましました。
4 名前:オープン・ハート 投稿日:2004/07/19(月) 00:14

「こんにちは。お久しぶりです」
皆さん口々に「元気だった?」とか「髪切った?」とか声をかけて
くれる中、愛ちゃんはひとり壁に寄りかかり体育座りで読書。
実に暗い。

愛ちゃんの隣の壁にわたしももたれて体育座り。
「なに読んでんの?」
「亜弥ちゃん、なかなか上手くいかねぇよう」
きょとんとするわたしに襟を広げ、ちらと覗かせてくれた胸元には
わたしのあげたペンダント。ピンクのハートがちょこんと。
「仕事中はつけられねぇし、かと言って毎日が仕事やし」
本気で唇を尖らせる愛ちゃんにくすくす笑ってしまったわたしは、
右肘の一撃を脇腹へとくらってしまうのでした。


 
シャワーから出て来ると携帯電話が震えてた。ちょうどメールが
届いたところで、差出し人は愛ちゃんだった。
どうせいつも通り絵文字だけメールかくだらなくて笑えるメールの
転送だろう、とわたしは濡れた髪をバスタオルでくるむ。先に保湿
処理しないと肌がかぴかぴになっちゃうもの。

乳液とかクリームとかひと通り塗り終わってからメールを読んだ。
「星が見えるで」
それだけ。って言うかメールでまで訛る必要ないのに。
わたしはベランダへ出て夜空を見上げた。夜風が心地良かった。

「見えないよ」
念のためニュースも確認してからそう返信する。でも愛ちゃんから
返事はなくて、わたしは考えてしまう。迷うなぁ。
もしかしてこれ、心の救助信号、なんてことないよね?
メールじゃなくて電話をかけてみるけど、出なかった。もう!
5 名前:オープン・ハート 投稿日:2004/07/19(月) 00:14

ふた駅先の愛ちゃんの家を目指して小走りに駅へ。乾きかけの髪は
ぼさぼさ、汗だらだらで保湿も台無し。なんでわたしってば
ここまでするの? そう自分に問いかける。不思議と不思議だわ。
でも悪い妄想しか浮かんで来ないんだもの!

駅への階段を駆け上がろうとして足を止めた。両手に箱を抱えて
降りて来る姿を見つけて。
「愛ちゃん!」
叫んでしまった。ひっくり返った声で。
「あれ、亜弥ちゃんでねぇの。こんな夜中にどっか行くんか?」
気が付けばわたし、階段に座り込んでた。



「どうぞ」と麦茶を差し出す。部屋片付けておいて良かった。
こんな時間に遊びに来たら、もう帰れないって解りそうなものなのに、
愛ちゃんは泊まりの用意なんか何もしてきてなかった。
「明日も仕事なんじゃないの?」
「そんなことよりこれ見て、これ」
って全然聞いてなぁい。愛ちゃんはきれいにかけられた包装紙を
ビリビリに破いて箱を開け始めた。

「じゃじゃん」
「天球儀?」
事件以来品薄状態だってニュースでは聞いたけど、実物を見るのは
初めてだった。ガラス張りの黒い玉。以外と大きいなと思った。
「そうや。亜弥ちゃんからのペンダントのお返しに思うて」
 
言葉に詰まる。耳を疑う。
だってこの天球儀ってば、あのペンダントより遥かに高そうだし、
箱を開けたのだって愛ちゃんだし、何より星が見たかったのも
わたしじゃなくて愛ちゃんでしょ!
6 名前:オープン・ハート 投稿日:2004/07/19(月) 00:16

そんなわたしを置き去りに愛ちゃんと言えば、「見てや。ここの
ボタンを押しながらな」とひとりすっごく楽しそう。
モーニング娘。さんの中で愛ちゃんが浮いてる理由が、何となく
解った気がして、わたしは小さくため息をついた。
「あれ、ため息? あんま嬉しくなかった?」
「うん。嬉しいよ、嬉しいけど。違う、嫌いとかそんなんじゃなくて」
「好きやなかった?」
「好きだよ。好きだけどぉ」

「それより何でさっき、わたしからの電話に出なかったの?」
「電車の中では携帯電話は使っちゃいけねえって言うやろ」
そのくせ変にモラリスト。大胆なようで、繊細な神経の持ち主で。



星の光が消えてから、若い人の自殺が急激に増加していると統計が
出たとニュースは伝えます。原因不明の事態が未来への恐怖とか
絶望とかを感じさせているから、なんて言葉を添えて。
もしかして、それを知ってて星を願ったとか? まさか、ね。 

「星の光ってな、うちらよりずっとずっと前に生まれてるんやて」
「知ってる」
「きっと色々な喜びや哀しみを見てきてるって思うんよ」
「どうしたの? なんだかロマンチストじゃない」



愛ちゃんはペンダントの中に、何を閉じ込めたんだろう?
夜空を見上げるその整った横顔を見ていたら、それがすごく気に
なってしまった。
7 名前:オープン・ハート 投稿日:2004/07/19(月) 00:17
 
 おわり  End
 
8 名前:オープン・ハート 投稿日:2004/07/19(月) 00:17
 
9 名前:オープン・ハート 投稿日:2004/07/19(月) 00:18
  
 リテイクの許可快諾、ありがとうごさいました
 

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