53 融陽(ゆうひ)
- 1 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:03
- 53 融陽(ゆうひ)
- 2 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:04
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「ああ、W(ダブルユー)ですか? あれはちょっと思い出したくない過去ですね。恥ずかしいって言
うか、ああいうユニットを組んでたって知られたくないって言うか。ええ。はい。あの…あゆさん、い
るじゃないですか。そう、浜崎あゆみさん。あの人、昔子役だったんですよね。それから女優の中谷美
紀さんも二人組のアイドルユニットでデビューしたっていう話で。そうですね、似てますね。でも加護
は、元Wの加護亜依でなくて、加護亜依って昔Wってユニットを組んでたんだってね、って…」
- 3 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:05
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手元のリモートコントローラーの照準を、静かに合わせる。
テレビはぱちっと小さな音を立てて、それから沈黙した。
加護亜依。
今や国民的人気を獲得したと言っても構わないくらいの勢いを持っている、アイドルアーティスト。
彼女のブレイクは「第二のラブマシーン」と呼ばれ、ジリ貧だった事務所は彼女のおかげで再び活力を
取り戻した。事務所の中でもどうやら加護亜依さまさまらしく、事務所も強気に彼女と娘。の元メンバ
ーなんかを抱き合わせブッキングしているという。
まあ、強制的に事務所を追い出されたあたしには、まったく縁の無い話だけれど。
- 4 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:06
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もう彼女は、あたしの手の届かない世界の住人なんだ…
彼女の活躍を耳にし、目にするたびに遠い気持ちにさせられる。
その度に耳を塞ぎ、目を覆おうとしたけれど、この業界にいる限りは情報の流入を抑止することは不可
能に近い芸当だった。
そのうちあたしは、自ら進んで彼女の情報を欲するようになっていった。
ついさっきも、長寿番組であるトークショーに彼女が出演するという話を聞き、控え室のテレビをつけ
たところだったのだ。
自虐的行為と言われてしまえば、否定のできない話ではある。
何のために、と聞かれてもきっと答えることなんてできないだろう。
けれど最後はどうしようもない嫌悪感に襲われ、目を背けてしまうのだった。
いつもながらに、自分が情けなくなる。
- 5 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:07
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あたしはあたしの道を選び、
彼女は彼女の道を選び取った。
それでいいじゃないか。
結果的に彼女は成功し、あたしはこんな業界の隅で生きざるを得ない。
でも、自分の選択は間違いなかった。
胸を張ってそう言えた。
なら、どうして心に広がった砂漠はいつまで経っても消えてくれないのだろう。
- 6 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:07
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「希美さーん、本番10分前です」
「わかった」
部屋の外から聞こえてくるスタッフの声にそう返事すると、あたしは糸引く闇のような思考をやめて、
控え室のドアに手をかけた。
- 7 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:08
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「なあのの、ホンマに気持ち、変わらへんのか?」
「のんは嫌だよ。そんなことするくらいなら、死んだほうがマシ。あいぼんは、そんなことまでして
売り出して欲しいの? そんなことするために、娘。のオーディション受けたの?」
「ちゃうわ!!」
「うちかて、こんなんしとうない。せやけど、断ったらWはしまいや!」
「じゃあお終いでいい」
「そんなに売って欲しいんだっら、あいぼん一人でやんなよ」
- 8 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:09
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あたしの腕を掴もうとする、白くて頼りない手。
それを無理やりに解いて、そしてあたしたちはお互いの半身であることを、やめた。
いや、きっとあたしが彼女の半身であることをやめたんだ。
だから、彼女の腕を払った。
どんな理由があっても、それだけは変わらない事実なんだ。
控え室を出る。
廊下の照明が、ぼやけてまるで夕陽が融けてるみたいに見えた。
あたしは少しだけ天を仰ぎ、それから長い廊下をゆっくりと歩き始めた。
- 9 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:09
- ゆ
- 10 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:09
- う
- 11 名前:53 融陽(ゆうひ) 投稿日:2004/03/22(月) 00:10
- ひ
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