46 フランダース
- 1 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:39
- 46 フランダース
- 2 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:40
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昔、ある所に「なっち天使国」という国がありました。
え? どれくらい昔かって? そりゃあ随分昔の話ですよ。いいじゃないですかそんなこと。何? リアリティがない? 娘。小説としての必然性がない?
うっさいわボケ! そんなんいちいち詰めてたらネタになんねーだろ! 大体必然性って何ですか? その曖昧な言葉にどれだけナイーブな作者たちが心を痛めているかわかってんのか! たまには素直に小説読めやゴルァ!
……オホン。少々取り乱してしまいましたか。とにかくこの物語は、「なっち天使過ぎて夜も眠れないよ国」でのある一人のかっけー少女の冒険活劇なのでした。
- 3 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:44
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「では姫様、次のお写真を…」
ここは「なっち次のドラマが楽しみだね王国」の王宮。
タキシードに身を包んだ初老の執事が、玉座に座った「なっちの天使性
についてぜひ朝まで語ろう国」の王女・安倍なつみにアルバムを渡す。
「…誰だべこいつ? なになに、『マネータイガー王国』の王子・エー
サク? だめだめ、落ち目っしょ? 大体こいつが森脇のこと語る資格
なんてないべさ」
「もう誰も愛さない」や「君のためにできること(ゴーストのパクリ)」
をリアルタイムで見ていた人間にとって耳を塞ぎたくなるような台詞と共
に、捨てられるアルバム。
「いい加減にしてください。一刻も早く王を迎えることが列強各国に囲ま
れたわが『なっち(以下略)王国』の急務なのですぞ」
「そんなこと言ってもさあ、ときめかないもんはときめかないんだからし
ょうがないべ」
執事の苦悩も何のその、なつみは玉座にふんぞり返ってそう言った。
「姫様!」
「あ、何? 怒る? 怒る? 執事はそうやっていつもなっちのことい
じめるんだよね。もういいべさ。もしもーし、お母さん、お母さーん!」
王族にしか見えないと噂の腕時計(通信機つき)によって、母と会話しよ
うとするなつみ。それを見た執事はオヨヨと泣き崩れた。
「うっうっ、情けないですぞ姫様。このじい、姫様がお生まれになられた
頃より王宮に仕えておりますが、姫様のことを思わない日は一日たりとも
ありませぬぞ。それを、あああ」
目の前で涙を流す年寄りをうざった……いや、哀れに思ったなつみは、あ
る提案をした。
「しょうがないべ。じゃあ、なっちの願いを叶えてくれた人となっちは結
婚するよ。それでいいっしょ?」
- 4 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:44
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翌日。
王都の広場に、こんな立て札が立てられた。
「夕陽を捕まえてなっちに見せてくれたら、結婚してもいいべさ。
なっち」
- 5 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:47
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天使のような美貌を持つなつみと結婚できるということは、当時のこの国
において最大のステイタスであった。もちろん、この少女とて例外ではな
かった。
「夕陽を捕まえる、か。かっけー!」
なつみと結婚したいのか、ただ夕陽を捕まえるという言葉に惹かれただけ
なのか、その少女は巨体をどすどす言わせながら王宮へと走っていった。
少女が王宮に辿り着くと、そこには長蛇の列が。遥か向こうで、皮ジャン
を羽織った男が熱烈になつみにプロポーズしているのが見えた。
「なつみ! 俺と結婚しようぜテンキュー! 俺は友達が200人いるか
ら、202人で食事会ができるぜファッキンライト! お前への愛はニュ
ーヨークにもロンドンにもない、『LIV』にある! オールウェイズ!!」
その時少女に第六感が走った。
ダメだ! こいつとなっちがくっついたら朝までプレス(ry して朝帰り
をフライデーに撮られた結果、事務所に干されてなつみの芸能活動自体がピ
ンチラン(ry ! それだけは阻止しなければ、じっちゃん(吉澤五十六
74歳 清掃業)の名にかけて!
「ちょっと待ったー!」
「がふっ?!」
少女はどっちかというとガオシルバー似のその男めがけて走っていった。現
在スーパーリバウンド中のその巨体が、男の体を弾き飛ばす。
- 6 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:49
- 男はどこまでもゴロゴロと転がっていきそうな勢いだったが、そこはやは
り米軍基地で喧嘩の毎日。立て直して少女に駆け寄った。
「何しやがるこの白熊! 俺は1000人いるチームのヘッド、いや「L
IV王国」の王子・押尾マナブだぞ!」
「誰が白熊だ! あたしには吉澤ひとみってかっけー名前があるんだ!!」
火が出そうなほどの睨み合いをはじめる押尾とひとみ。なつみに求愛するた
めに列を作っていた群衆たちも二人の激突に色めき立つ。
「大体だ。夕陽を捕まえるなんてグレートなことができるのは、世界中どこ
を探してもこの押尾マナブさまだけだ! おめえは自分の顔のホクロ七星で
も天体観測してな!」
「言ったなこんちくちょう! 後でマンションの玄関前で土下座するような
破目になっても吠え面かくなよ!!」
「二人とも、喧嘩はやめるべさ」
それまで醜い争いを眺めていたなつみが、二人の間に割って入る。
「なつみ。俺は必ず夕陽を捕まえてみせるぜ。そしてお前のハートにプレゼ
ントフォーユーだ。テンキュー!!」
気障な台詞を残し足早に立ち去る押尾。ひとみはそんな押尾の後姿を睨み
つけ、そしてなつみに言った。
「あたしは絶対あんなハッタリヤローに負けない。夕陽を捕まえて、安倍さ
んと結婚するんだ!」
「期待してるべさ」
まるで天使のような微笑を見せるなつみ。ひとみは密かに「あなたの犬に
なりたいワン!」と尻尾を振りまくったのだった。
- 7 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:51
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城下町の「みちよの酒場」に寄るひとみ。やっぱり冒険の成功の可否は
仲間探しからだよね、とドラクエV丸出しの考えからだった。
壁に挟まれたい変態な少女や一日中自分のことをかわいいかわいい言っ
ている不憫な少女など、多彩な能力を持つ人間たちの中から、ひとみは二
人を選ぶ。
歩くスーパーコンピューターという異名を持つ、紺野あさ美。
そして荒ぶる人間発電所、辻希美。
「わかりました。わたしの知識を存分に使って下さい」
「あー、腹減った」
やる気のありそうな天才と、やる気のない馬鹿。でもやる気がなさそう
な奴ほどいざという時には役に立つもんだと、太っ腹なひとみ(大して深
い意味はない)は太平洋のような心で二人とも迎え入れた。
店内には、女主人が残される。
「まいどありっ・・・…て、うちの出番、たったのこれだけかいな」
みっちゃんいい子なのにね。
- 8 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:52
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「西へ行って八段アイスを食べれば、夕陽が捕まるよきっと」
「いや、わたしの計算によると、そこの出店でかぼちゃプリンを食べると
夕陽の捕獲率が飛躍的に向上するという答えが出ていますが」
だが結局二人とも食べ物の話が第一なのでちっとも役に立たなかった。
ひとみは二人を仲間に選んでしまったことを早速後悔するのだった。
「二人とも頑張ってくれないとさあ、あたしが安倍さんとあんなことやこ
んなことができなくなっちゃうんだよねー。つうかさっさと働けこの八重
歯チビとふぐっ面!」
「らってじまんすんらもん!」
「ハンバーグしかわからなかったのに・・・…」
さめざめと泣き始める二人。その時、ひとみの何かがぷつっと切れた。
「こぉの、バカヤロー!!」
ひとみは頑固一徹ばりのビンタをお見舞いした。二人の頬に、夕陽の
ような真っ赤な紅葉が咲く。
「あたしはお前らが可愛くて叩いたんやない、憎くて叩いてんねん!」
何故叩かれたのか、そして何故関西弁なのかわからぬまま、ひとみの
迫力に圧倒される二人。この瞬間彼女たちにとってひとみは、カリスマ
になった。
「吉澤さん……わたし、感動しました!」
「よっすぃーに一生ついてくよ!!」
ひとみは、最強のパートナーを得た。
- 9 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:55
-
それから夕陽を探し求める日々がはじまった。
時に校舎の一階と三階でキャッチボールをし、時にスクーターで女友達
のもとに駆けつけ、そして時には地下闘技場でハーフの外人と戦ったりし
た。恋人の父親の死体を裏庭に埋めたりもしたし、アイドルのマネージャ
ーの仕事も経験した。ある時は自らの記憶を何者かに奪われたりもしたが
そこは娘。小説の主人公率ナンバーワン(当社調べ)、気合で何とかピン
チを切り抜けた。
希美とあさ美はそんなひとみをおかしを摘みながら応援していた。
そんな血の滲むような努力にもかかわらず、夕陽を捕まえることはでき
なかった。
「ちっくしょう…このままじゃ安倍さんがあの大根役者の毒牙の餌食に…
…!」
沈みゆく夕陽の映える湖のほとりで、ひとみは膝をつき地面に拳を叩き
つける。
「大丈夫だってよっすぃー。夕陽を捕まえるなんてバカなこと誰も出来な
…ふがっ?」
物語の根底を揺るがすような希美の爆弾発言を、とっさの判断で未然に
防ぐあさ美。ナイスジョブ、こんこん!
「そんな弱音を吐かないで下さい。昔の偉い人が言ってました。『諦めた
ら、そこで試合終了ですよ』って」
そりゃあスラムダンクの安西先生だろ、という突っ込みをする気力さえ、
今のひとみには残されていなかった。
がっくりと項垂れるひとみ。そんな彼女の目に、あるものが飛び込んで
来る。
ひとみの表情に、輝きが戻りはじめた。
「……これだ! 辻、紺野、今すぐ安倍さんをここに呼んできて!!」
- 10 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:57
- 30分後。
「なっちをこんなとこまで呼び出して、一体何の用だべ?」
理由も分からぬまま辻と紺野に呼び出され、少々不満げななつみ。だが、
ひとみの笑顔は微塵も揺るがない。
「いいからいいから。さあ、おいで!」
ひとみはなつみの手を取ると、強引に湖に足を踏み入れた。
「ちょ、ちょっと何するべさ! 足が濡れるっしょ!」
なつみが声高に訴えるのを無視して、ひとみはずんずんと湖の奥へと進
んでゆく。水深はかなり浅いものの、二人の足元は湖水によって水浸しに
なっていった。
「まさか、夕陽が捕まえられないからって、なっちと心中!? バカなこ
とはやめるべさ! なっちドラマにも出なきゃいけないし、セカンドシン
グルだって…」
「見て下さい」
ひとみは立ち止まり、湖面を指差した。
湖面に広がるのは、橙色の、大きな円だった。波に揺られてゆらゆらと
形を変えるそれは、まるで生きているかのように見えた。
「綺麗だべ…でも」
しばらくその様子に見とれていたなつみだが、ふと我に帰るようにこん
なことを言った。
「こんなにでっかくちゃ、お城で飼えないべさ」
- 11 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 22:59
- 「おい、セバスチャン!」
しかしひとみはなつみに微笑を絶やさぬまま、ぱちんと指を弾く。
希美が、何かをひとみに向かって投げつけた。物体は予想を遥かに越えた
速度でひとみの顔面に直撃した。
「てっ! 何すんだよ!」
「誰がセバスチャンだよ、よっすぃーのバカ!!」
ひとみは希美に投げつけられたものを拾い上げて、咳払いをしてからなつ
みに手渡した。
「これで、夕陽を掬ってみて下さい」
恐る恐るその物体−洗面桶のようなもの−に手を伸ばし、言われた通りに
夕陽の浮いている湖水を掬う。なつみの手にあるものは、湖に浮かぶ円をさ
らに小さくしたような、丸い夕陽だった。
「あ…捕まえた」
信じられない、といった表情でなつみは目の前の少女に視線を向ける。ひ
とみの姿は夕陽の光と影によって、幾分シャープなものに見えていた。まさ
に加入当時の(ry
「安倍さん……あたしと、結婚してくれますか?」
「喜んで……だべ」
湖の中心で赤い光に照らされた二人の姿はまるで一枚の絵画のようだった。
- 12 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 23:00
-
そんな光景を、冷ややかに見ている影もまた二つ。
「ひゅーひゅー、めでたしめでたしってやつですか」
「まあまあのんちゃん」
むくれる希美をなだめにかかるあさ美。
「でもさ、洗面器をお城の中に持ってったら中身の水はただの水になっち
ゃうんでないの?」
「大丈夫だよ」
「何で?」
「のんちゃんは桶持って走ってて無我夢中で気付かなかったかもしれない
けど」
あさ美はにっこり微笑んで、言う。
「あの桶、オレンジ色なんだよ」
夕陽が、ゆっくりと地平線に溶けていった。
- 13 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 23:03
- 一方、同じ夕陽を死に物狂いで追いかけている男がいた。
三日三晩寝ずに地平線に向かって走っていた男。
「ハァハァ…ちくしょう、いくら走っても、ちっとも追いつけないじゃね
ーか…ファッキンライト」
真のパンク魂を持っているものならば、必ず夕陽の沈む場所に辿り着け
る。押尾はそう信じて止まなかった。だって俺、押尾よ? と、似つかわ
しくないプライドを抱きながら。
しかしそれももう限界だった。押尾は荒れ果てた大地にスライディング
・キスをぶちかます。
く、くそったれ…平山あやも藤本綾も杉本彩も円城寺あや(女優)も…
全部俺のもんだ…でももう眠くなっちまったよパトラッシュ…
ゆ、夕陽が、目に……しみるぜ…
赤く掠れてゆく押尾の意識。その時、天からなつみに良く似た天使たち
が舞い降りてきて、お塩の体を持ち上げる。神を称えるラッパが鳴り響き、
お塩は真っ赤な空に吸い込まれていった。
お塩マナブ、天に召される
- 14 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 23:03
- 1
- 15 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 23:03
- 0
- 16 名前:46 フランダース 投稿日:2004/03/21(日) 23:03
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