37 ダークマター

1 名前:37 ダークマター 投稿日:2004/03/19(金) 12:39
道重さゆみは観察する。
頑張ってる高橋愛さんに、口を開けてる小川麻琴さん
一生懸命な石川梨華さんに、面倒臭そうな吉澤ひとみさん。
明らかに頑張ってる人と頑張っていない人が居るのに、
モーニング娘。としての世間の評価は何も変わらない。

そして導かれた結論。
集合体になった場合に限り個々の運動量の差を無くして
しまう何かが存在しているに違いない。
そして道重さゆみは命名する。

「ダークマターねぇ。」
亀井えりは聞こえるようにため息を吐いた。また始まった。
久々の休みにわざわざ呼び出されて何かと思えば。
「あるはずない。だって見えないもん。」

昼下がりの寂れた喫茶店。かすかにクラシックが流れる中
お客さんは三人、つまり私達だけ。
道重さゆみがカフェオレをちゅっ、と吸った。
「見えなくても空気は存在するよ。」

亀井えりがカフェラテをちゅっ、と吸った。待ってました
とばかりに反撃する。
「空気には質量があるもん。存在が立証できるわ。」
「さゆの言うダークマターには質量があるの?」
「私達個々の質量の合計と、全員一緒に測った質量。」
「それに明白な差でもあれば存在を認めてあげる。」
道重さゆみは黙ってしまった…。
2 名前:ダークマター 投稿日:2004/03/19(金) 12:40
「測るにゃ。」
それまでずっとメロンソーダにぶくぶく空気を流し込んで
いた田中れいなが口を開いた。
「個々の質量の合計と、全体での質量を。」

後日さっそく作戦開始。
方法は簡単。全員が揃うハロモニ収録時の控え室入り口に
質量計測器を置いておき、個々の質量を測る。
最後は全員を質量計測器に乗せて測れば終了。
「そんな言うほど簡単かなぁ…。」
「終わったよ。」

いつの間にか亀井えりの側に現れた道重さゆみの、
その手のひらには一枚の紙切れ。メンバー全員の
質量と言うか体重と、全員での質量が記載されていた。

「うそ…。」
得意気な道重さゆみの横で、亀井えりは絶句する。
集合体モーニング娘。の質量は個々の質量の合計よりおよそ
40kg程重い、という結論がそこにあった。

「ほらね。」
亀井えりは唇を噛む。こんな筈ない。どこかにミスがある。
どこかに…。そしてひらめいた。
「このデータはあてにならないわ。」
「だって測った時間が違うもん。」
「時間の経過で個々が変化したのよ。きっとそう。」

「…えり、ずるいよ。」
「40kgだよ。わずかな時間で変化する質量じゃないのに。」
「最初から認めるつもりなんて無かったんだ。」
3 名前:ダークマター 投稿日:2004/03/19(金) 12:40
道重さゆみが顔をくしゃくしゃにする。次の瞬間、その
大きな瞳からぼろぼろと涙がこぼれ始めた。
「私なりに一生懸命考えたのに…。」

「まかせるにゃ。」
道重さゆみの後ろからぴょこんと現れた田中れいな。
涼し気な瞳を細め、笑みを浮かべていた。

そして一週間後のやっぱりハロモニ収録日。突然目の前に
積まれた書類の束に、亀井えりは眉間に皺を寄せた。
「…何よ、これ。」
「一時間おきに計測した集合時と個々の質量一週間分。」
「この数値からそれぞれの近似値を出した。」
「それを元に個々の質量の合計を求めてみたわ。」
「結果、集合時の質量にやっぱり40kg程足りなかった。」

亀井えりの顔が青くなる。何も言い返さない。
「…解った。ダークマターは存在するって認めてあげる。」
やがて吐き出すように呟いた。

「次の問題はどう取り除くか、だよね。」
ダークマターを取り除かない限り、個々でどれだけ活躍
しても、モーニング娘。全体の評価には繋がらない。

「まずは探しましょう。」
「ダークマターに質量があるなら、引力もあるはずよ。」
亀井えりが人差し指を立てた。その先には青いビーズが一粒、
こじんまりと乗っかっている。
「ダークマターに比べて無視できる程の質量の物体。」
「皆が居る場所でこれが床に落ちる速度を計測するの。」
「速度の違う場所があれば、ダークマターがある筈。」
4 名前:ダークマター 投稿日:2004/03/19(金) 12:41
まだ続きそうな亀井えりの言葉は、道重さゆみに遮られた。
「無理だよ。私達にだって質量があるんだから。」
「私達の引力が作用するからデータにならないよ。」
ふたりがそっと振り返る。そこにはお手上げという
ジェスチャーをした田中れいなが居た。
「思いつかないにゃ。」

「かくてダークマターは謎のまま、か。」
道重さゆみがふっと呟いた。
「まだ40kgだけどさ、もし増加し続けたとしたら。」
「…人気が減少し続けるにゃ。」
「その前に辞めちゃえば良いんじゃない。」
「重くなり過ぎたダークマターの引力から逃れられない。」
「その頃にはブラックホールに進化してるかも。」
「そしていつかビッグクランチ。爆発、拡散、解散。」
ってあれ?

「もしかしてビッグバンじゃない。」
三人が同時に呟く。
「始まりにゃ。」
「しばらくは光の速さで膨張。じっとしてましょうか。」
「そうね。観察する事さえ干渉になっちゃうかも。」
そして笑った。

控え室の向こう側。ハロモニ司会者の安倍なつみがちらちら
三人の様子を伺っている。最近のあの子達おかしい。
なっち達の体重なんか調べてどうしようって言うのかしら?

FIN.

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