34 オレンジ
- 1 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:15
- 34 オレンジ
- 2 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:16
- 冷たい風がカーテンを揺らし窓の向こう雲の切れ目から
差し込む夕日が二人を包む。
最高にロマンチックなシチュエーションだと思う。
矢口の部屋に来てるのが藤本ということをのぞけば。
二人は言葉を交わすでもなく、ただ壁に背中を預けて
緩やかに流れる雲を眺めていた。
- 3 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:18
- 「矢口さん。梨華ちゃんのこと好きなんですよね?」
ゆらゆらとまるで時が止まったかのようなの静寂を
最初に破ったのは藤本だった。
「は? なに言ってんの?」
胸に走った衝撃を藤本に気づかれないように、矢口はいつものような
明るい笑顔を繕う。
石川が好きだという気持ちは前からあったが
誰にも気づかれないようにずっと胸の奥にしまっておいたはず。
それをどうして―
「どうしてわかったか?」
「えっ?」
心を読まれたのかと驚きを隠せない矢口は藤本を見据える。
- 4 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:19
- 「隠してるつもりだったんですか?」
「え、やっ、別に…」
藤本の見透かした口調が矢口の動揺を誘う。
「認めたってことですよね?」
藤本はいつになく意地の悪い微笑みを浮かべる。
「安心してください。誰にも言いませんから」
「だから違うっつってんだろ!」
矢口は軽く唇を噛み藤本を睨みつけた。
「美貴も同じです」
なおも睨みつける矢口の耳もとで藤本が悪戯っぽく囁いた。
- 5 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:20
- 「えっ?」
「好きです、石川梨華が。」
言ってはいけない言葉をあっさり言ってしまった藤本に
矢口は一瞬目を細めると冷たい視線を浴びせた。
「あ、勘違いしないでください」
藤本はオレンジ色の空を見つめながら独り言のように呟く。
「美貴も言うつもりありませんから」
いつも強気な藤本の表情に陰りが見えたような気がした。
藤本から放された言葉に複雑な思いが交差する。
- 6 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:21
- 「で。どうしたいわけ?」
矢口の言葉に藤本はしばらく薄い笑みを浮かべると
ふいに近づいて、その唇が矢口に触れる。
「ば、ばかっ、何すんだよっ!!」
矢口は一瞬、何をされたか理解できず頭の中が真っ白になった。
「簡単なことですよ」
そう言ってのぞき込んだ藤本の目がいつになく真剣だった事に
矢口は思いつめたその表情を静かに見つめ返した。
- 7 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:22
- 「ミキティ…?」
眩しいくらいに夕日が差し込み二人にそっと影をおとす。
「共犯者になりませんか。」
藤本の目が狂おしい程の光を放ち
矢口は自分と同じ目をもつ藤本の想いを知る。
「いやなんですよ! 梨華ちゃんが誰かのものになるのが!」
「ミキティ…」
「たとえそれが矢口さんでも!」
- 8 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:23
- 息が詰まるくらいまっすぐな藤本を前に、矢口の中にもそういう気持ちが
あることを認めざるをえなかった。
「…オイラもだよ」
自分から告げることはできない。
想いを抱くことも嫉妬にかられることも許されない。
「ほんと、気がヘンになりそうだよ…」
藤本はため息まじりにそうつぶやくと、ちらりと矢口を見た。
「なに?」
「もう、限界なんです」
「な…」
何がと言いかけて矢口はその言葉の意味を理解した。
「ち、ちょ…!」
藤本の手が矢口の肩を捕らえると、そのままその手が背中にまわされた。
矢口は体をよじって引き離そうとするがその力を弱める気配はない。
- 9 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:24
- 「やっ、離せよ!!」
「誰かにしがみついてないと、梨華ちゃんを抱きしめてしまいそうに
なるんです!」
藤本が叫ぶのと同時に矢口を抱きしめた両腕に
よりいっそう力が込められたのが分かった。
「矢口さんなら分かってくれますよね。」
まっすぐに矢口を見つめる藤本。
見透かしたかのような藤本の言葉が矢口の心に突き刺さる。
風の音が響く。
オレンジ色の光が何かを狂わせていく。
どれほど狂おしい想いを抱いてもそれを告げることはできない。
藤本も、矢口も。
- 10 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:24
- 「だからオイラを選んだってこと?」
「ちょうどよくないですか?」
藤本は悪戯な笑みを浮かべてそう言い放つと再び静かに唇をよせる。
矢口はそっと目を閉じその背中に手をまわすと
心の奥底で少しずつ何かが目を覚ましていくのを感じた。
「共犯成立、ですね」
にっこりと微笑む藤本に矢口は何かが音を立てて崩れていくのが
はっきりとわかった。
- 11 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:26
-
石川に手を出すやつは許さない。
石川が一人を選ぶことも許さない。
たとえそれが自分でも。
夕日が綺麗に空を染める。
もしこの部屋に夕日が差し込まなければ結果は違っていたのだろうか。
いや、たとえこの部屋で夕日を浴びてなかったとしても
石川を好きという事実は変わない。
雲の切れ目から差し込む光が除々に弱々しくなってゆき
やがてオレンジ色の空が二人の想いを支配する。
- 12 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:27
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- 13 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:28
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- 14 名前:34 オレンジ 投稿日:2004/03/18(木) 20:28
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