24 ランドリー

1 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:37
24 ランドリー
2 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:38
太陽が傾き始めると商店街は制服姿の高校生達で溢れ、一日のうちで最も賑やいでいる時間となる。
そのメインストリートから一本奥へと曲がると一気に昭和の匂いがしそうな佇まいへと景色を変える。
その細い道を歩いていくと、一見喫茶店のように思える茶色い外観の店が見えてくる。
その建物に窓はないというのに何故かアメリカ映画で見るような郵便受けはしっかりと扉の横で地面に突き刺さっていたりする。
3 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:38
そんなこの店が気になって仕方なかった柴田は、毎日のようにバイトへの道すがらここを通り、足を止めていた。
けれどどんなに眺めてみても店から人が出てくる気配はない。どんなに耳を澄ませてみても中からは物音ひとつ聞こえてきはしない。
結局何も情報を得られないままにペダルに足を掛けてバイト先へと向かう日々が続いていた。

けれど今日の柴田はいつもの柴田とは一味違う。
それまではただ見つめているだけだったが、今日という今日はこの扉に手を掛けそしてその中にどんな世界が広がっているのか
是が非にもこの目で確かめてやるぞ、という頑なな決意を持っているのだから。

自転車から降りて、緊張し始めた鼓動を落ち着けるためごくりと息を呑みそして扉に手を掛ける。
朝はもうとうに始まっているというのにやけに静かな通りに、小さく木の軋む音が流れた。

「…あれ?」

が、どんなにノブを引こうとも、逆に押してみようが扉は開かない。
せっかくありったけの勇気を振り絞ったのだからそう簡単に引き下がるわけにはいかない、と両手を掛けて引いてみるがやはり開く気配はない。
4 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:38
そんな柴田の姿を見かねたのか、その店の斜向かいにある饅頭屋から店主らしき白髪の男が声を掛けてきた。

「お嬢さん。その店はまだ開いてないんだよ。太陽が傾き始めた頃になって開く店なんだから」

柴田が振り返ると、その男と目が合った。
やはり今の言葉は他でもない柴田へと向けられた言葉らしい。

「あ、ありがとうございます…」

とは言ったものの、太陽はまだ南中高度に達してさえいない。
営業している事が分かって嬉しい反面、これから夕方までの半日近くが途轍もなく長い時間のように思えて眩暈がした。

「…太陽と入れ違いで開くのかぁ」

何気なく口にしてみたのだが、その響きは有り得ないくらいカッコイイ。
そう思うと一気に期待で胸が膨らむ。
人には言えないようなそれはそれは壮大なドラマがあるに違いない。
そうでなくとも店主が拘りに拘った理由の一つや二つ潜んでいるに違いない。

「あぁ何かうきうきしてきちゃったぞぉー」

誰もいない宙にそんな言葉を告げながら自転車のスタンドを蹴っ飛ばし颯爽と乗り込む。
あっという間に柴田の頭の中は自分勝手な妄想に占拠されてしまっていた。
5 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:39


平屋建ての向こうへと溶けていく太陽を背に、自転車をかっ飛ばしていた。
スカートではないのをいいことに立ち漕ぎで前傾姿勢で兎に角しゃかりきにかっ飛ばしていた。
一漕ぎ、息吐き、一漕ぎ、息吸い、右足、息吐き、左足、息吸い。
急げ。太陽が沈んでしまう。急げ。どうせならこの目で見たいじゃないか。太陽が沈むのと入れ違うように開くところを。
前へと伸びた自分の影を追い掛けるようにペダルを踏み込む。
いつもとは反対側からあの細道へと入る。
手押し車を押す老人とすれ違うと店の茶色い壁が目に入った。
少しずつぼんやりとしていく空を切り裂くようにブレーキ音が響く。

数時間前と同じように自転車を降りその扉に手を伸ばす。
引っ張った事に対しての扉の撓るような音。
ぐっと手に力を込めて引く。
6 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:39
けれどやはり扉は開きはしない。

「あぁもぉ。開かないし」
「開けたいの?」

独り言だったはずがすぐ後ろで返事がした。
ばっと振り返ると上から下まで真っ白な服を着た女が立っていた。

「え?あ、はい…」

その人があまりにも落ち着いた様子だったので柴田もその空気に飲み込まれた形で素直に頷いてしまった。
柴田の頭の中に飛び散ったハテナマークを回収するかのようにその女はポケットから鍵を出して、二人の顔の高さまで上げて見せた。

「んじゃあ開けるねぇ」

ガチャっと軽い音がしてそれから扉は呆気なく開かれた。
7 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:39
「どうぞ?」

扉を押さえて振り返る。

「…いいんですか?」

何故か急に後ろめたくなってそう訊いてしまった。

「勿論。寧ろ歓迎ですよぉ。滅多にお客さん来ないからねぇ」

笑った顔が猫みたいだった。
閉鎖的な店構えだからてっきり店主も内向的な暗い感じの、それでいて人が不思議に思うような所に執着心を持っていたりする人に違いないと
思い込んでいた柴田には彼女の笑顔は想定範囲外だった。
しかしだ。まだ彼女が店主だと決まったわけではない。
いざ確かめるんだ、柴田。

「あの」
「はい?」

仄暗い店の奥へと目を向け指を指す。

「このお店の責任者さんですか…?」

否定して。お願いだからただのアルバイトですよと笑って。心の中でそう祈りながら問い掛ける。

「ええ、一応」

現実というものはいつも無情である。しかしうなだれている場合ではない。それよりも重要な事があるではないか。
この店は、何の店だ?
8 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:40
店の奥へと歩いていく彼女の後を追いながらくるくると内装を見回してみるが特定出来る物的証拠のようなものは見当たらない。
強いて言えば細々と宗教団体を導いているような印象といったところだろうか。

短い廊下が終わるとその先には十畳程の部屋が広がっていた。
丸い木のテーブルに椅子が二つ向かい合って置かれている。

「お客さん?それとも冷やかしさん?それとも迷子さん?」

手前にある椅子を引いてそこへ座るよう柴田を促す。

「えーと…。どれだろう…」

彼女は向かいへと回りそちらの椅子も引いて腰を下ろす。

「て言うか、ここが何のお店なのかも分かってないんですけど…」
「…ああ、そこからかぁ」

漫画でしかお目にかかれないような手をぽんと打つ仕草をする。

「うちはですねぇ」

緊張で心なし喉が渇いているように感じる。
彼女の言葉に小さく相槌を打ち次の言葉を待つ。
9 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:40
「お客さんにはランドリーって呼ばれてるみたいなんだけど。
 まぁいわゆる、アナタの記憶消してあげます、です。
 …なんて言われても信じられないよねぇさすがに」

そう言うと彼女は立ち上がり奥の棚から硝子瓶らしきものと紙、それとボールペンを取り出した。
柴田は彼女の言葉をあまり理解出来ずにただその様子を目で追う。

「まずこの紙に消したい記憶を書いて、えーっとそうだなぁ…じゃあ昨日の夕飯、何を食べたか覚えていますよね?」
「え、は、はい」
「それをこっちに書いて貰って。あと、こっちには昨日の夕飯って書いてもらえます?」
「はい…」

紙とペンを受け取る。一枚に「寄せ鍋」もう一枚に「昨日の夕飯」と綴り彼女に差し出す。
すると彼女は昨日の夕飯と書かれた方の紙を瓶に入る大きさに折り、その中へと入れた。
遠目では分からなかったが、瓶の中には水のように透明な液体が入っているようだ。
もう一枚は二つ折りにしてテーブルの上に置かれた。
10 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:40
「で、こうやって中に入れて…あとは」

きゅっと蓋を閉める。そしてバーテンダーのように両手を瓶に添え、まるで心の中でよし、と気合を気合を入れるかのように頷きそれを上下に振り始めた。

「兎に角シェイクッ。只管シェイクッ」

その腕の振りに引き摺られるようにして繰り出されるヘッドバッキングに思わず引いてしまいそうになったがそこは気合でなんとか持ち堪えた。
指の隙間から見える瓶の中をじっと見ていると次第に液体に溶けるように紙が切れ切れになっていく。
どれくらいか振り続けるとその瓶をテーブルの上に置いた。
中ではまだ渦が巻かれていて細かくなった紙がその渦の中へと姿を消そうとしている。
フェードアウト。正にそんな感じに紙は一片も残さず消えてしまった。

「さて。では本題。あなたは昨日夕飯に何を食べましたか?」
「…」

記憶を辿ろうと頭の中をぐるっと一周してみる。
すぐに思い当たると思ったのだが何故か見当たらない。
昨日の足取りを辿ればきっと思い出すだろうと考え、バイトを終えたところから順に追っていってみる。
しかし。見事に、綺麗にそこだけ記憶が飛んでしまっているではないか。
11 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:41
「…思い出せない…て言うか食べたのかどうかも定かでは…」
「では正解です。ジャジャ−ン」

テーブルに置いた方の紙を広げ柴田に見せる。そこには確かに柴田の字で寄せ鍋と書かれていた。

「まぁ、これが私の仕事なわけです」

惚ける柴田。微苦笑する彼女。

「…ありなんですか…そんなの…」

記憶を失ったのは紛れもなく柴田自身で、つまりトリックなんて言葉では説明がつかない事くらいはよく分かった。

「んんー…どうでしょうねぇ。
 まぁ、こんな仕事ですから堂々とは出来ないと言いますか…。だから太陽が沈むのを待って店を開けるんです」
「ダカラ…?」
「お天道様に顔向け出来ないって言葉知ってる?そーゆー仕事だからねぇ。
 だけどこの仕事は私にしか出来ないものだしやめるわけにもいかないし。
 自分への言い訳でもあるんだけど、だから太陽と共存しない事にしてるの」
12 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:41
だから、なのだろうか。
廊下もこの部屋も仄暗い。この店の中にさえ太陽は昇らないとでも言うのだろうか。

「で、どれでしょうか?」
「…え?」
「お客さん?冷やかしさん?迷子さん?ってやつ」
「ああ…」

柴田には消してしまいたいと思うような記憶はない。この店がどんな店なのか気になっていただけで冷やかすつもりも毛頭ない。
毎日のように通っていたのだから迷い込んでしまいましたというわけでもない。

「…どれでもないです…。ただ」
「ただ?」
「…人のためにやっているんですよね?」

柴田には凡そ分かりはしないがきっと世の中には彼女の事を必要としている人がいるんだと、だから彼女はこの仕事をしているんだとそう思いたかった。
しかし彼女は押し黙る。
13 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:42
続く沈黙を破ったのは慌しく開いた扉の音。それと駆け込んでくる足音達。

「むらっ」

そのうちの一人は彼女の両肩に手を置き大きく溜め息を漏らした。

「良かった…間に合ったみたいだ…」
「…もしかして…」
「そのもしかよ。早く隠れてっ」

駆け込んできた二人は壁際にある棚を引き始める。ずずっと擦る音を立てて数十センチ程ずらすと今度はそこの床板を外していく。
何が起こったのか分からず見ているとそこにはキッチンにある床下収納と同じくらいの穴が空いていた。
彼女は膝を抱えるようにしてそこへ入る。そしてまた床板が置かれ棚が押し戻される。

「お客さん?」
「あ、いえ…あたしは…」
「…まぁいいわ。悪いけど巻き込ませてもらうわよ」

一人はそう言うと先刻まで彼女が座っていた椅子に座る。もう一人は後ろへ下がり壁に背中を寄り掛からせた。
テーブルには彼女が手にしていた瓶。
その中の液体が揺れた。と同時にまた扉が開いた。
それを気に止める様子もなく寧ろそれを合図にするかのように柴田の前に座った女は瓶に手を翳し何やら話し出す。
14 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:42
「最近体の調子が良くないでしょう?黒い靄が見えるわ。一度お医者さんで診てもらうべきじゃないかな」

急に何を言い出すのだろうと思っていると、斜め後方で足音が止まった。

「おい。ここにこの女がいるだろう」

恐る恐る少しだけ振り返ってみると、いかにも怪しそうな黒尽くめでサングラスという出で立ちの男が写真を見せていた。

「どこへ隠した?」

低く尖った声。

「さあ…?残念ながら存じ上げません」

びくつく柴田を尻目に目の前に座る女は柔らかな顔でそう返答する。
男は部屋の中を一見する。視線から推測するに探しているのは窓だろう。
しかし窓も人が入れそうな場所もない事に苛立ったのか舌打ちをして踵を返した。

「…邪魔したな」

足音が廊下へと出、そして扉の外へと消えたのを聞き届けると後ろにいた女は確かに男が出て行ったのかを確認するため扉の方へと歩みを進める。

「大丈夫。もういないよ」
「そう」
15 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:42
二人はまた棚に手を掛ける。
先刻と同じようにして中にいる彼女を外へと出した。

「ふぅ…緊張感あるねぇ」
「馬鹿。何暢気な事言ってるのよ。あんた自身がもっと危機感持っておくべきなのよ。分かってるの?」
「分かってますよぉ。ごめんね、迷惑かけてさぁ」
「迷惑なんて言ってないでしょ。何よ、今更」

目の前で起きている事の状況を把握出来ていないでいる柴田は一人、やっぱりこの店には人には言えないようなドラマがあるんだと目を輝かせていた。

「で、どうする?」

一人の視線が柴田の方へと注がれる。

「…どうするも、ねぇ…」
「目キラキラさせてるわよ…」

一人は腕組みをする。もう一人は頭を掻いた。彼女は涼しい顔をしていて、顔色を変えずにまた白い紙を一枚柴田の前へと出した。

「そこにむらためぐみって書いてもらえる?」

聞き覚えのない名前だった。だから素直に言われるがまま書いてしまったのだが、その紙が彼女の手の中に収まった時ふと思い当たる。
16 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:43
「あ…もしかして…」
「私の名前です」

答えながらその紙を瓶の中に沈める。

「聞きたそうだし教えてあげますよ。その代わり、全部忘れてもらう事になりますけどねぇ」
「なっ」

思わず立ち上がり瓶を目掛けて手を伸ばす。
けれど二人に肩を押さえ込まれ再度着席させられた。

「ずるいっ…」
「んんー、まぁ何と言われましょうと仕方ない事なんでねぇ」

膨れっ面の柴田を見ても彼女の表情変わりはなし。

「じゃあさっきの答えから行きましょうか」

蓋をした瓶をゆっくりと遠心力を使うようにして回し始める。

「人のためかもしれないし、私のためかもしれない」

渦が起こり出すと水面が穏やかになるのを待つかのように手を止める。
17 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:43
「この力はね、うちの家系で何代も受け継がれてるものなんだよ。
 理由は知らないしいつからそうなのかも知らないけど、この力を受け継ぐ者の第一子に備わるもので、
 私は父が持っていた力を受け継いだんだけど…」

そしてまた回し出す。

「父はこの力を持っていたせいで、連れ去られてモルモットにされてしまった。
 だけど父の体を隅々まで調べても科学的に証明できるものはなかった。
 じゃあ、次は?」

緩やかに渦を巻く瓶の中で紙が少しずつ液体に溶け始めた。

「私の番なんだって分かっている。だけどだからって逃げ出すわけには行かない。
 父の仇を討つと言えば聞こえはいいかもしれないけど。私に何が出来るのか分からないけど。
 ただ、その研究をやめさせたい。私がそうしないと今度は私の子供が標的にされるから。
 あ、言っとくけどまだ独身だからね。今はいないよ、子供」

手を伸ばして止めようにも、右腕も左腕も捕らえられていてそうさせてはくれない。

「で、今の怪しげな人はその組織の関係者だろうねぇ。
 いつも突然来るのよねぇ。いやーねぇ困るわぁ。今度から要予約って書いときましょうかねぇ」
「馬鹿な事言わないの」
「う、すいません…」

粒入りの缶ジュースを飲む時のように縦に振り出す。
18 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:43
「…そろそろここも引き上げなきゃ駄目そうだねぇ」
「そうね…ったく、どこから嗅ぎ付けて来てるのよ、あいつ等」
「まぁこっちもあっちの人間の事は大分把握してるからお互い様でしょう」
「いい機会だし、今度は守りだけじゃなく攻めの方も考えてみるのもいいんじゃない?」
「うん、そだね」

やがて散り始める。
 
「あのー…あたしの存在、忘れかけてますよね…?」
「おお、ごめんなさいねぇ。すっかり忘れてたわ」
「あのー、何で二人は良くてあたしは駄目なんですか?」
「ん?」
「あたしは忘れなきゃいけないのに、二人は全部知ってるし、て言うか親しそうですよね?どうしてですか?」

手が止まる。液体の中を巡る紙の欠片が明らかに少ない。もう半分は消えてしまっているのかもしれない。

「…それはね」

三人共が柴田を見据えた。
一つ強く瓶を縦に振った。ジャカッと音がした。

「知らなくていい事だよ」

酷く冷めた声だった。やけに綺麗な微笑みだった。
19 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:43
「―――だからきっと体調のせいで運気が下がっているのよ」
「…え?」
「あなた全体を覆う靄が見えます。これは内側から来るもので間違いないでしょうねぇ。
 何かあってもないにしても一度診てもらうべきですよ。まぁ私はしがない占い師ですから強要は致しませんがねぇ」

目の前に座る彼女は瓶の中を覗き見ながらそう言う。
そういえば先刻も何かよく似たような事を言われていたような気がする。
その記憶と今とを結び合わせてみる。辻褄は合うようだ。
ただ、それを言っていたのはこの人だっただろうか。
何か不可思議な気がして周りを見回す。
順番待ちをしているのであろう女の話し声が廊下から微かに聞こえている。
それ以外何もない。この部屋には柴田と彼女だけだ。

「所詮は占い。信じるも信じないも決めるのはあなた自身ですからねぇ」

にこやかな笑顔に心の深いところから何かが押し出されるような感覚がする。けれどそれを何と呼ぶのか思いつかない。

「他にも何かありますか?」
「いえ…」
「では、お体にお気をつけて。ありがとうございました。また機会があれば是非お越し下さいませ」

そう言われては立ち上がるしかない。立ち上がったからには踵を返すしかない。
廊下に出て歩みを進めると順番待ちをしていた二人組とすれ違う。
足取りはそのままに奥へと入って行った二人の声に耳を澄ませてみる。
20 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:44
「よろしくお願いします」
「はい。ではえっとそちらにお座り下さい。あ、すいませんねぇ席一つしかなくって…」
「いえいいんです。私はただの付き添いですから」
「では何を占いましょうか?」
「えーっと――」

やはりここは占いの館のようだ。そう自分に言い聞かせ、一瞬胸を掠めた違和感を振り落として扉を出る。
空はもうすっかり夜の色に変わってしまっていた。
スタンドを蹴り、乗り込む。ハンドルもサドルもひんやりとしていた。
眩い光を放つメインストリートからは若い男達の笑い声や話し声が響いてきている。
まだ少し肌寒く感じる風を切りながら家路を急ぐ。
きっと今頃母親は夕飯の支度を終え、未だ帰らない柴田の帰りを待っているはずだから。
21 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:44
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22 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:44
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23 名前:24 ランドリー 投稿日:2004/03/17(水) 04:44
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