18 グッバイ、ルビーチューズデイ
- 1 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:31
 
-  18 グッバイ、ルビーチューズデイ 
 
- 2 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:32
 
-  仕事が終わって町へ繰り出すと、そこは一面夢の世界。ユートピア。桃源郷。 
 フォクシーなお姉さんも居れば、クールなお兄ちゃんも居るし、 
 ダンディーでハンプティーでダンプティーなおじさんたちも居る。 
 歓楽街のネオンは私をやたらに誘うし、やけに近い雑踏は私の頭に響いて、 
 すべてが私を「ウェルカム!」と歓迎してくれていた。 
  
 私はそんなユートピアを「フォクシー!」と叫びながら歩くのが好きだった。 
 時々、好みなお姉さんを見つけては「オゥ!フォクシーレェイディー!」と言いながら肩を組み、 
 「ウィーアーソウルメイト!」とかなんとか言いながら、クールなお兄ちゃんたちの群れに突撃して、 
 一億玉砕し、ダンディーでハンプティーでダンプティーなおっさん達には、 
 「おっちゃんなかなかええケツしてんな、いくらならヤる?」と逆に詰め寄ったりした。 
  
 でも、それは所詮ユートピア。  
- 3 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:32
 
-  どこにも無い世界は当然どこにもあるはずが無く、目の前にあるユートピアは、 
 まじまじと見つめてみると当たり前にくだらない現実だった。 
  
 でも私はそのユートピアが欲しかった。どうしても手に入れたかった。 
 どこにも無い世界が唯一存在する場所。それは私の脳みその中の奥の奥。 
 そしてそのユートピアに行くのにはカギが必要。カギを買うにはお金が必要。 
 お金を得るためにはお仕事をせっせせっせと一生懸命にやるしか方法がなかった。 
  
 ユートピアを夢見て、私は夢見る乙女だった。 
 夢見る乙女は、夢のためならどんなに辛い事でもやってのける。  
- 4 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:33
 
-  「ねぇよっすぃ、ちょっと来て来て」 
  
 舌足らずなこの声は、のの。 
 私がここでののの要求に応じてそちらへ向かうとして、 
 それが一体、ユートピアという夢へ、私をどれほど近づけるのだろうか? 
 興味が、無い。全く興味が無い。私の興味はただ私の夢に、ユートピアにある。 
  
 「ねぇちょっと!来てよ、よっすぃ!」 
  
 ここで更に私がののの要求を無視するとして、 
 それが一体、ユートピアという夢へ、私をどれほど遠ざけるのだろうか? 
 そう考えると恐ろしくなった。私に関わる全ての事は、私の夢の実現に関係している。 
 私がユートピアへ行けるのか、どうか。それは全てこの、ののの要求に応じることによって決まる。 
 そうに違いないと思った。きっとそうなんだと2度思った。それにしてもそうなんだと3度思った。  
- 5 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:34
 
-  「何?」 
  
 「何?じゃないよ!あ〜あ、最初呼んだときに来てくれれば、 
  梨華ちゃんの鼻毛が飛び出してる決定的瞬間が見れたのに〜。もったいない」 
  
 「ちょっと!やめてよ!のの。恥ずかしいじゃん」 
  
 私は愕然とした。梨華ちゃんの鼻毛。梨華ちゃんの、鼻毛。梨華、ちゃんの、鼻毛。鼻毛! 
 私としたことがあまりにもバカだった。ユートピア、ユートピアと頭でっかちに考えていたばっかりに、 
 こんなに身近かつ神聖な、そして最も重要視しなければならない物を見落としていた。 
  
 そう、梨華ちゃんの、鼻毛だ。鼻毛! 
  
 いやしかし、梨華ちゃんの鼻毛に対して鼻毛だなんて失礼極まりないもいいとこだ。 
 私はここで梨華ちゃんの鼻毛のことを「フラワーヘアー」と呼ぶことに決めた。 
 こないだ辞書で引いたから分かる。鼻はフラワー、毛はヘアー。 
 ユートピアという夢に目覚めた頃から洋楽かぶれになった私は、 
 ことあるごとに辞書を引いていた。今となってはどんな物でも英語で分かる。 
 一種の帰国子女みたいなものだ。私は。そうなんだ。そう思う。  
- 6 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:35
 
-  ところで、梨華ちゃんのフラワーヘアーだ。 
 これこそが、私の捜し求めていたユートピアに他ならなかった。 
 とこにも無い世界、しかし梨華ちゃんの鼻の中にきっと存在するだろう世界。 
  
 今まで私の夢見ていたユートピアはまやかしだった。 
 私が真実のユートピアに近づくことを恐れたあまり、 
 世界が用意した、壮大なる偽装工作だった。 
  
 今なら分かる、 
  
 ユートピアとは、梨華ちゃんのフラワーヘアーのことなんだ! 
  
 私は感極まった。ぽろぽろと涙がこぼれそうになったけど、涙は流すもんじゃない。 
 チューブのボーカルの人が言ってた。張り詰めて、最後に流れるものなのだ。 
  
 「ねぇ、よっすぃー、大丈夫?涙目なんだけど? 
  そんなに梨華ちゃんの鼻毛見れなかったのが辛いの?」 
  
 辛いんじゃない。私は。嬉しいんだ。ユートピアが。そんな近くにあるなんて。 
 私は梨華ちゃんの顔をまじまじと見つめる。涙がこぼれそうになる。でも泣かない。  
- 7 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:36
 
-  「ご、ごめんね、よっすぃ!私の鼻毛なんかで良かったらいつでも見せてあげるから! 
  ね?だから泣かないでよ。お願い。梨華の一生のお願い」 
  
 胸の前に手を組んで私を見つめる梨華ちゃんはヤバイぐらいかわいい。 
 ああでもダメだ。そんなこと言わないで。梨華ちゃんのフラワーヘアーを私に見せないで。 
 梨華ちゃんのフラワーヘアーを見てしまったら私は、どうすればいい? 
 私は何を生きる糧にして、これからの生活を営んで行けば良いと言うんだ? 
 嗚呼ダメだ。そんなのダメだよ、梨華ちゃん。 
 私は梨華ちゃんのフラワーヘアーが見たいんじゃない。見たいんじゃなくて。 
 私には、どこにもないけれど、そこに確実にある、 
 梨華ちゃんのフラワーヘアーという存在が重要なんだ。見たいわけじゃないんだ。 
 そうなんだ。きっとそう。だから梨華ちゃん。お願いだから私にフラワーヘアーを見せないで。 
  
 そんなことされちゃうと私、きっと、自分が保てない。  
- 8 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:37
 
-  「きゃあ!」 
  
 「ちょ、よっすぃ!鼻毛が見れなかったぐらいでそこまでしなくても!」 
  
 「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」 
  
 私は梨華ちゃんを殺すしかない。どこにも無いけど、そこに確実にあるはずの世界は、 
 私の手で、どこにも無いけど、そこに確実にあったはずの世界に換えてしまわなければいけない。 
 そうしなければユートピアじゃない。私の求めるユートピアなんかじゃない。 
  
 「……く、るしい、よ、よっすぃ」 
  
 「ちょっと…、よっすぃ。ね、冗談でしょ?もう分かったからさ、面白かったから、 
  新しいギャグなのは分かったから、もういい加減やめてよ!」 
  
 止めない。私は止められない。視界に映る、梨華ちゃんの顔はどんどん真っ赤になっていく、 
 私を止めようと必死になって、腕をひっかいたり、引っ張ったりしているののの顔も真っ赤で、 
 その目からは涙がボロボロとこぼれている。 
  
 わかんない奴だ。涙は流すもんじゃない、つってんだろ。 
 チューブのボーカルの人のこと、バカにすんなよ。  
- 9 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:38
 
-  ほとんど完全に動かなくなった梨華ちゃんの、むやみに豊かなおっぱいとおっぱいの間に、 
 私のお気に入りのシースナイフをそっと立てる。音もなく吸い込まれて行く切っ先と、 
 そこから反対に噴き出てくる真っ赤な血液が、やたらにキレイだ。 
  
 私の手を無茶苦茶やっていたののは、いつの間にだか部屋のすみに居て、 
 ブルブルブルブルと奮えていた。おいおい、ののはブルブルじゃなくて、てへてへだろ、 
 とか独り言を言いながら、ののは苦しくないように、ナイフで一突き。 
 ののの貧しいおっぱいとおっぱいとの間に突き刺さってそびえるナイフは、 
 キリストを磔にしたクロスの様。 
  
 全てが終わった後、改めて部屋を見回す。一面真っ赤だ。 
 私の手も真っ赤。服も真っ赤。しかしそれにしても赤すぎる。 
 そう思って窓を見ると見事なまでの夕焼けで、しばし見とれる私。 
  
 こういう時は何て言うんだっけ。こないだ辞書で引いたから分かる。 
 ルーム、ブラッディー、ルーム。なんだかヘビメタみたいだけれどピッタリだ。  
- 10 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:39
 
-  私は梨華ちゃんを見つめる。梨華ちゃんはこうなることで、私のユートピアとなりえた。 
 こちら側から見ると、梨華ちゃんの鼻の穴は小さくて、可愛らしく、暗闇に支配されている。 
 そこに、梨華ちゃんのフラワーヘアーがある。見えないけれど確実にある。 
 私はふいに恐ろしくなった。今ここで梨華ちゃんのフラワーヘアーが見えてしまったら。 
  
 バカみたいに心臓が早く打つ、見ちゃいけないと思うほどに、梨華ちゃんの鼻の穴に、 
 視線がガンガンとくぎ付けになっていくのがわかる。どうしよう。私はどうすればいい。 
  
 ガチャ。 
  
 ふいに部屋の扉が開いた。振り返ると飯田さんが居た。私はホッとした。 
 飯田さんはルーム、ブラッディー、ルームを見つめて、ただ呆然としていた。  
- 11 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:41
 
-  「飯田さん」 
  
 声を掛けると、一瞬ビクッと身体を震わせた後、私を見つめた。 
  
 「今日は何曜日ですか?」 
  
 「……火曜日だけど……、それより」 
  
 私は飯田さんの声を遮るために「フォクシー!」と叫んだ。やけに久し振りな気がした。 
 気持ちが良かった。そして、笑顔で飯田さんに「ありがとうございます」と言った。 
 飯田さんのお陰で梨華ちゃんのフラワーヘアーを見ずにすんだのだ。 
 これは感謝せずにはいられない。 
  
 だけどこのままじゃあまだ完全じゃない。 
 私の求めてるユートピアを完全な形にするには、こうするしかない。  
- 12 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:42
 
-  私はこんな時なんて言えばいいのか知っている。こないだ辞書で引いたから。 
 さようならはグッバイ。真っ赤なは、レッド、いや、ルビーの方がおしゃれだな。 
 今日は火曜日、チューズデイ。こんな時、私はこういえば良い。 
  
 「グッバイ、ルビーチューズデイ」 
  
 そう言って、これまた私のお気に入りのワルサーP38を額に押し当てた。 
 涙は、いまなら流してもチューブのボーカルの人に怒られないだろうと思った。  
- 13 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:42
 
-  −了− 
 
- 14 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:44
 
-  (0^〜^0)本当は 
 
- 15 名前:18 グッバイ、ルビーチューズデイ 投稿日:2004/03/15(月) 22:44
 
-  (0^〜^0)こんなこと 
 
- 16 名前:18 投稿日:2004/03/15(月) 22:44
 
-  (0^〜^0)したくなかった 
 
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