16　ぺいんといっとごーるど

1 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:47

16　ぺいんといっとごーるど

2 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:47

春宵一刻値千金と言うけれど、春の一時は宵でなくても気持ちいい。
寒くも無く暑すぎたりもしない。
日差しは柔らかで、花がいたるところで遠慮がちに顔を見せる。
自宅の南向きの窓に面した机の上で、真希は日がな一日ぐったりと突っ伏していた。
お日様はそろそろ西に傾いて、もうすぐ夕暮れ。

殆ど鳴らなくなった携帯が脇にぽつんと置かれている。

決して彼女に仕事が無いというわけではない。
そういうわけじゃないけど、仕事が一時期より格段減ったのは確か。
最も選ばなければ仕事なんていくらでもある。
でも、真希にはそれが足掻きみたいに感じられて嫌だった。
事務所はもちろん真希をして足掻かせようとするけど
彼女は自分のしたい仕事以外を殆ど断った。
いわゆる、歌うこと以外の仕事を。

事務所は真希の自分勝手にカンカンに怒った。
弟が弟なら…って。それは真希にとっても耳が痛かったけど。
彼女はこの春に入ってやたらとやる気を無くしていた。

事務所の東奔西走も分からなくはないけど
ちょっとどうでもよくなっていた。
クビにするならしてください。
格段に増えたオフのある一日の夕日を見ながら、のんびりと考えるのだった。

3 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:48

色々な事が真希の頭にあった。
ハロープロジェクトのこと。
モーニング娘。は２つに分かれ、安倍は抜け、もうすぐ辻と加護も抜けるらしい。
小さなユニットが把握しきれないくらい作られる。みんな泣かず飛ばず。
どんどん細切れにして切り売りにしてゆく。
消耗品みたいに。
別にこれという意見があるわけじゃないから、事務所への抗議でもなんでもない。
ただ、なんとなく嫌だった。ハロープロジェクトが終わりに向かってると感じずにはいられなかった。

それから市井のこと。
彼女の結婚には、やはり祝福をしなければいけない。
祝福してる。でも、心にはぽっかりと穴が開いたようで、なんとなくやりきれない。
一つの時間がそこで終わったみたいな感覚。

それに真希自身のこと。
もう、アイドルとしてはとうに薹がたっている。
そんなことは分かってるし、自分もやはり終わりに近づいてる。
ハローにはまだ若い、可能性の塊の子供たちが大勢いる。
彼女達が表に踊りだす時には、自分は夕日のように沈んでいるだろう。
それもいい。

4 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:49

真希にしては多すぎるくらい、色々なことが頭を巡って
なんだかどうでもよくなってしまった。

自分って何だろう。
ラブマシーンで華やいでデビューして、そのまま、右も左も分からぬまま
谷底に続くレールの上に乗せられたみたい。

どうせ落ちるなら、少し線路をはみ出してみたい。

穏やか過ぎる春の日差しは
真希に心地よい睡魔を促がす。



うとうと。

空は夕焼けも盛りで、赤とかオレンジとかそれよりも
金色の光が空一面をのたくっていた。

真希は鮮烈な、綺麗過ぎる金の空を見つめていた。





◇　　　　　　◇　　　　　　　◇

5 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:49

さあ、やってきた。夕焼け空の伝道師。
世界のアイドル、後藤真希だ。
某制汗剤のコマーシャルよろしく、いやそれ以上に大きな後藤真希だ。
超高層ビルだってひとまたぎ。名づけて巨まき。
さあさあ、軽快なステップだ。
天頂でそ知らぬ顔で輝いてる太陽を
一番綺麗な夕焼けに染めるのだ。

まず、手に持っている弾けない飾りギターを振りかぶって
太陽を叩き落す。ガツンとね。
それで、西側の調度いい所まで太陽を落とすのだ。
太陽の高い夕焼け空なんてちゃんちゃらおかしい。

太陽が落ちたら、今度は塗るのだ。
ビルみたいに大きな缶に入った金色のペンキで。

塗りたくれ！
でっかいハケで。
空をどんどん染めていけ！
はみ出したって気にするもんか。
雲も金色。山の端まで金色。

6 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:50

もっと豪快に。

飛び散ったペンキで当たり一面金色。
でも金一色じゃあ芸が無い。
ここからは赤やら紫やらオレンジやら、そんな色を丁寧に重ねていけ。


ヴァー。真希に絵の才能を期待しちゃいけない。
全部ぶちまけちゃえ！

どうだ、綺麗な夕焼けになったよ。
金色で、赤くてオレンジで紫で。
もうすぐ日は沈むみたいだけど
こんなに綺麗に沈むじゃないか。

満足、満足。



◇　　　　　◇　　　　　　　◇

7 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:50

久しぶりに鳴った携帯の音で目を覚ますと
日はとっぷり暮れていた。
突っ伏していた顔を上げて暫し黒い空を見る。
それから、携帯電話に手を伸ばす。

ｆｒｏｍ矢口

今度のハロコンにはこいよ！
みんな待ってるから。

ｂｙモーニング娘。一同


よく見ると、似たようなメールが安倍や保田や
中澤、松浦からも。

「よけーなおせわ…」

8 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:51

呟いた真希の表情もどこか嬉しそう。
真っ暗な部屋だけど、東から上った月がやけに綺麗。
日が沈んだ後には綺麗な月。
春の日はこれだから気持ちがいい。

「真希ーごはんー」

下から母親の呼び声。

「んあーい」

返事をして、立ち上がった。
携帯をベッドの上に投げ出して、伸びを一つ。
アイドルとして斜でも、まだまだやる事はあるでしょう。
そう思うと、アイドル歌手も楽しく終われそう。

「いっちょ、金ピカに染めますか」


誰もいない部屋で呟いて
何だか嬉しくなって、階段を駆け下りた。



終わり

9 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:51

（　´ Д ｀）＜まだまだやるよ

10 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:51

（　´ Д ｀）＜夜は長いよ

11 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/03/15(月) 13:52

（　´ Д ｀）＜日はまた昇るよ