陽が、沈む。

1 名前:13 陽が、沈む 投稿日:2004/03/15(月) 01:27
13 陽が、沈む。
2 名前:13 陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:29

夕陽がもの悲しく感じられなくなったのは、いつからだろう。
だからといって美しくも思えないのだけれど。

そんなことを、思う。
3 名前:陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:32
眼鏡をかけて、時計をみる。
ずいぶん日が長くなっていることに今更ながら気づく。
毎日、同じような生活を送っているとそういうことがほんとに分からなくなる。
そんなことだけは、昔と変わらないなぁ。
くっくっと笑う。

昔の、毎日毎日誰とも知れぬ客人を寒々とした挨拶で迎えるだけの日々と。
今の、毎日毎日誰も訪れぬ屋敷の中で寒々とした日常を過ごすだけの日々と。
退屈な日々であることに変わりは、ない。
4 名前:13 陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:33
でも、あの頃は夕陽がなんとなくもの悲しく思えたのだけれど。
広い部屋の中にぽつんと置かれたベッドの上、記憶をたぐる。

窓から入り込むおれんじ色の光が、何の遠慮もなく私の肌をなめている。
5 名前:13 陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:36
ふと気づく。

――そうか。
確か、あの頃夕方には妹のあさ美がいつもピアノを弾きながら賛美歌を歌っていて。
私はそれを聞くのがとても楽しみで。
でも、光を背に受けて綺麗な声で歌っているあの子はあまりに、神々しいまでに美しくて。今にもどこか遠くにいってしまいそうで。
私はそれを聞くのがとても辛くも、あった。

だから、夕陽をもの悲しく感じてたんだな。
6 名前:13 陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:39
戦闘、開始。

そんなことを告げるまでもなく、魂と肉体の闘いは決着がついて。
あまりにたやすく天使の羽根はもぎとられて。
私はこの世で最も尊いものを最も卑しい欲望で、汚した。
何も生まぬ交わり。
同じ村田家の血をひく同士の。
同じ牢獄に閉じ込められた同士の。

あさ美が賛美歌を歌わなくなったのがいつなのか―覚えていない。
おれんじ色の光は、今隣で眠る彼女の肌の上にも容赦なく指を這わせている。
7 名前:13 陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:41
「めぐみ、お姉さま‥‥?」
目を覚ましたのかな。
心細げに私の名を呼ぶ妹の肩を、ふんわりと抱く。
「ん?大丈夫、私はここにいるからもう少しお休み――」

ああ。
黒い髪がかかる、この子の白い、細い肩に――私はまた、欲情している。
思わず降らせる口づけに応える、この子の、か細い、綺麗な声に――私はまた、欲情している。
心細げに潤ませる、この子の、黒い、大きな瞳に――私はまた、欲情している。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/15(月) 01:44

陽が沈む。
どこかで獣の遠吠えが、した。


   fin.
9 名前:13 陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:45
10 名前:13 陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:46
11 名前:13 陽が、沈む。 投稿日:2004/03/15(月) 01:47

Converted by dat2html.pl 0.1