6 These Days
- 1 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:42
- 6 These Days
- 2 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:42
-
「のんちゃんが膝に乗るのもあと少しだね」
おとめ組のコンサート前の楽屋で、私はふと口に出した。
いつも指定席のように、私が座ればその上に乗ってきた。
背が伸びたからか、それともそれ以外の要素のせいか、だんだん大きくなっていく彼女を私は感じていくことができた。
そして、もう3月後半。
おとめ組のコンサートもこれでおしまいだ。
そして、のんちゃんの卒業は8月だから、あと5ヶ月すれば、もう彼女はここからいなくなる。
のんちゃんは、膝に座ったまま、私を見上げた。
だけど、すぐに首を元に戻して、言った。
「そうれすね…」
寂しそうに。
もしかすると泣いてるんじゃないかってくらいの声で。
そして、のんちゃんは膝からぴょんと飛び降りた。
- 3 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:43
- 「もうすぐ始まるのれす」
振り返らずに行ってしまった。
もう少し時間あるのにね。
そんなのんちゃんが、私は大好きだった。
開けっ放しのカーテンから差し込む夕日。
そう言えば、初めてのんちゃんが膝の上に乗ったときも、こんな時間だったね。
もうすぐ4年になるのかな?
- 4 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:44
- ◇
「辻、ほら、泣かないの」
新曲の歌収録の時、こっぴどくつんくさんに怒られたんだろう。
ブースから出てきたと思うと、いきなり泣き出したのんちゃん。
私はまだこの時、「辻」って呼んでたんだね。
先輩メンバーだけじゃなくて、4期メンバーも心配そうに見つめる中、私はのんちゃんの肩に手を回し、彼女を部屋の外に連れ出そうとした。
「圭織……」
「大丈夫。一応教育係なんだし」
裕ちゃんにそれだけ言い残した。
歌収録は4期から順にやっていたから、まだみんな終わってない。
みんなに迷惑をかけるのは忍びなかった。
加護ちゃんがついてきそうな勢いだったが、すぐにつんくさんに呼ばれ、ブースへと向かっていた。
レコーディングスタジオってあまり私は好きじゃないの。
無機質っていうの?
なんか機械ばっかり置いてあってさ。
病院とかもそうだけど、使い方もわからない機械に囲まれるのって、緊張するよね。
もっと、緑とか、そういうの。
デジタルじゃなくて、命を感じるものがいいよね。
- 5 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:45
- そんなわけで、勝手にどんどん階段を上がって上がって…
どんどんどんどん
エレベーターを使えばよかったなと後悔したのは、3階くらい上に上がってからね。
でも、圭織はまだ若いから。
そうよ、この時まだ18歳だったんだからね。
屋上への階段をのぼる。
屋上って言ってもさ、地面はコンクリートで、結局緑なんてないんだけどさ。
見える景色も東京だから、ビルばっかりだし。
でも、この時間、私はこの場所が最高に楽しい場所になることを知ってた。
時計を見ると、五時を少し過ぎたところ。
ばっちり。
のんちゃんはいつの間にか泣き止んでいた。
でも、不安そうな目で私の顔を覗き込んでいた。
きっとさ、こんなところにいきなり連れてこられてさ、今から何をされるか怖かったんだろうね。
教育係を任されて、最初に私がよろしくって言った時の顔と同じ。
後から聞くと、私のじっと見つめた顔が、怖かったかららしいんだけどね。
- 6 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:45
- ドアを開けると、真っ赤な世界が目に飛び込んできた。
灰色のコンクリートであるはずの地面は、赤い絨毯を敷き詰めたよう。
この時間はね、この先に立つ2つの高層ビルの間から、夕日が差し込むんだ。
のんちゃんの顔ったらなかったな。
お口をぽかんと開けてさ。
「綺麗でしょ?」
のんちゃんは首をコクコクさせるだけで。
さっきまでの涙の後がほっぺに光っていた。
私の考えの甘かったところは、ここにはベンチが無いことだった。
こういう時に立ってるのは何か嫌だった。
地べたに座るのもね……
仕方なく、大きな丸いタンクから出ている太い管に腰掛けた。
買ったばかりのロングスカートだったけど…
「ほら、辻、ここにきていいよ」
のんちゃんの服まで汚すわけにいかないから、私は膝を指して言った。
だけど、ものすごく不安そうな目で私をじっと見るのね。
「ほら。いいよ。辻が座ってくれないと、私が座った意味無いじゃん」
我ながら訳のわからない言い方だったね。
でも、のんちゃんはそっと私の膝の上に乗ったんだ。
私はお腹に手を回して、のんちゃんの手を握ったの。
- 7 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:46
- すごい小さな手だった。
今じゃもう、私と変わらないくらいかもしれないけど。
「辻さ、つんくさんに怒られたんでしょ?練習してこなかったやろって」
「辻は……練習したんれす……でも……」
「ほら、泣いちゃ駄目だって」
握った辻の手をぶらぶら動かす。
そのまま、勝手に恋のダンスサイトの振りなんかしてみた。
最初は力の入っていた手だったけど、だんだん抵抗するどころか、一緒になって動かし始めていた。
だんだん面白くなって、二人で歌まで歌い始めて。
きっと傍から見たら変な事やってるんだろうなと思いつつも、のんちゃんが元気よく歌っていたので、私はしばらく続けた。
「ほら、歌って楽しいでしょ?辻は歌うの好きでしょ?」
コクンと頷いたのんちゃん。
「私もさ、一番最初の時さ、同じこと言われたんだよ。
自分では完璧だって思ってたけど、すごく怒られてさ。
全然駄目って言われたら、自分が否定されたみたいな気持ちになるよね」
のんちゃんは黙っていた。
赤い絨毯は、その色を濃くしていっていた。
- 8 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:47
- 「その時、私はつんくさんから言われたんだ。
『君らはプロなんやから、がんばりましたやったらあかんねん』ってね」
「それから私は必死にやったな。みんなに聞いて、つんくさんにもどんどん質問して。
後は、周りから盗むことを覚えた。人がやってるいいって思うことをさ、意地張らずにやってみた。
そしたらさ、だんだんわかってくるんだよね。まーまだつんくさんには結構怒られてるけどさ」
のんちゃんの肩が震え始めた。
私はかまわず続けた。
「とりあえずさ、私と練習しよっか。辻ができるようになるまで付き合ったげるからさ」
「え……れも、いいらさん…」
「気を使わなくていいよ。私は辻の教育係なんだからさ」
のんちゃんの肩に顔を乗せ、ギュッと抱いた。
のんちゃんの体の震えで、私の視界が小刻みに動く。
それから私達は、二人で練習したんだ。
なっちが私達を探してここにくるまで。
その時にはもう、日は沈んでしまい、辺りが真っ暗になってたね。
- 9 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:48
- ◇
それからのんちゃんはよく私の膝の上に乗ってきたね。
最初は遠慮がちだったけど、いつの間にか指定席みたいに。
私が立ってたとき、無理に私を座らせて、その上に座ったこともあったよね。
あれからもう4年経つんだ。
大きくなるわけだ。
もう今年には17歳になるんだね。
もう、のんちゃんは私の手から離れて行っちゃうんだよね。
膝の上に乗ってきてくれることもないんだね。
親の気持ちってこんなものなのかな?
私が東京へ出て行くことになった時、両親はこんな気持ちだったのかな?
窓から刺す夕日は綺麗で。
ボーっと眺めていたら…
だんだん夕日がぼやけてきて。
自分が泣いてるんだってわかった。
- 10 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:48
- 「もーすぐ時間れすよ」
横から声が聞こえた。
私は袖で涙を拭いて、そっちを見た。
「泣いてたんれすか?」
「泣いてないよ。目が痒かっただけ」
いつの間にかのんちゃんは部屋に入ってきてて。
私の顔をじっと覗き込んでいた。
それから、何も言わずに私の膝に飛び乗った。
「辻はね、いいらさんが大好きれすよ」
「うん……私も大好きだよ」
目を見て言ったらマジで泣いちゃいそうだったから。
のんちゃんが背中向いててよかったな。
- 11 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:49
- 「行こうか」
「はい」
膝から降りたのんちゃんと、手を繋ぐ。
二つの影が、夕日に照らされ、壁に伸びていた。
私とのんちゃん。二人の影が。
やっぱり背が伸びたんだね。
細長く伸びたのんちゃんの影は、私の肩より上にあった。
昔は肩までしかなかったのにね。
「いいらさん?」
私の手を引くのんちゃん。
「あ、ごめんね。行こう」
私を見上げるのんちゃんにそう言って、私は足を進めた。
扉を閉め、廊下にでるともう夕日は差し込まなくて。
蛍光灯の明かりだけが灯っているそこを、駆け出した。
- 12 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:49
- 「飯田さん、遅いですって。始まっちゃいますよ」
手を大きく振って言う藤本に、ごめんねといって、ステージ袖へ。
もうみんな揃ってて、私達が最後だった。
ごめんねともう一度言って、円陣に加わる。
繋いだままの右手を真ん中に出した。
みんなが次々に手を上に乗せる。
最後に私は左手を乗せた。
- 13 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:49
- おしまい
- 14 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:50
- W
- 15 名前:6 These Days 投稿日:2004/03/14(日) 01:50
- !
Converted by dat2html.pl 0.1