5 サンセット・イニシエーション

1 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:22
5 サンセット・イニシエーション
2 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:23
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とっても簡単!
道具も準備も一切なし!!

☆恋が叶うおまじない☆
よく晴れた日の日没前、
お互いのテンションが最も高いタイミングで
好きな人に想いを伝えます。
あなたの想いはきっと相手に届くはず。
夕日に見守られながら恋を実らせましょう。
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3 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:24
「なんでよ」

圭織の責めるような口調が耳に痛い。

「まさか矢口が、そんないたずらするなんてさ」
「いたずらじゃないんだよ」
「そっか……」
「そうだ」

圭織は咳払いをすると、表情を戻した。

「まさか矢口が、犯罪者になるなんてさ」
「ひどくなってるし……」

そこまでしてないじゃんか!

「しかもコンサート中。なに考えてんのよ!」
「ごめんなさい」

おいらは素直に謝った。
4 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:24
「なんであんなことしたのか話してちょうだい」
「おまじないだったんだ」
「おまじない?」
「よく当たる占いサイトで見つけたやつ……」
私は自分の携帯をいじって問題の画面を呼び出した。
それを見た圭織はふぅっとため息。

「これを……信じたわけね?」
「うん」
5 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:25
「いつまでも友達のままでいい……そう思ってた。
なっちが卒業するって決まるまでは。

なっちがもうすぐ卒業しちゃう。
これまで仕事で毎日一緒にいたなっちと離れ離れになっちゃう。
そう思うといてもたってもいられなかった。

そんなとき、
このおまじないを見つけたんだ。
6 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:25
お互いのテンションが最も高いときっておいらたちの場合
やっぱりコンサートの時だろう。
夕日に見守られながらってことは……

野外コンサート

だよな。野外コンサートっていうと夏しかない。
なっちの卒業まで残っている野外コンサートは……

「げぇ……たったこれだけぇ?」

そう、なっちに告白するチャンスはほんのわずかだった。
7 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:25
結論から言うと一回目は失敗した。
おいらはなっちに向かって

「大好きーーーー」

叫んだんだよ。でもスピーカーの音がうるさくって全然聞こえないの……。
マイク通してしゃべったらお客さんに聞こえちゃうじゃん。

次のコンサートは絶対に失敗できないって思ったんだ。

野外コンサート。
日没まで。
声を使わずに想いを伝える。

やっぱりさ、おいらたちが一番確実に気持ちを伝えるんなら

キス

するのがいいよね?
それで、コンサート中に1回、なっちにキスしちゃおうって決めたんだ。
8 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:26
コンサートが始まる。
大爆音と派手な照明に当たってボルテージはぐんぐん上がっていった。

歌っている途中、何度も何度もなっちを見た。
にこにこしながら歌ってるなっちの表情……最高にかわいかった。

今回のコンサートには一度だけ、お客さんに向かって照明がわっと明るくなる瞬間がある。
その眩しくなった一瞬をついてキスをすれば、誰も気がつかない。
あと3曲。
その後が勝負。
9 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:26
なっちは汗をかいていた。おいらも汗をかいていた。
お客さんの強大な声援を受けて、めっちゃ楽しいライブ。
あと2曲。

もう少しでなっちにキス。

ドキドキが止まってくれない。
赤や緑や青や黄色に照らされたなっちが眩しい。
あと1曲。

もうなに歌っているのかもわからない。
自分がどこにいるのかもわからない。
ただ、ステージの端になっち。

おいらとは真逆のフォーメーション……。
10 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:27
曲が終わって
照明が
落ちた。


今だ!


おいらは思いっきり走り出した。
持ち場を離れて駆け出したおいらをみんなが見る。
メンバーの視線……。
でもおいらは走った。

曲のイントロが流れ出す。
お客さんが一緒に盛り上げてくれる。
11 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:27
「なっちーーーーーーー!」

なっちがこっちを見た。
突進していくおいらを見て、びっくりした顔。

次の瞬間
夕日がステージに一直線にさしこんで
照明が一気についた。

全てが光に包まれた。

おいらは
キラキラ光るなっち目がけて
めいいっぱいジャンプした。

なっちはとっさに目をつぶった。

大きな音と光の中で



おいらはなっちにキスをした。
12 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:28
なっち……大好きだよ。
もうどうなっても構わない。
気持ちを隠し続けるなんて無理。
想いが溢れそう。




なっちは驚いて声も出ない。
ただ、大きな目でおいらを見てる。

曲のイントロが終わって歌が始まる。

戻らないといけない。

おいらはなっちに背を向けて
自分の持ち場に帰っていった。
背中に、なっちの歌声が聞こえた。


夕日が沈むところだった。
13 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:28
はいっ、これが今回のいたずらの全てです。
圭織……ごめんなさい。仕事中なのにあんなことして……」

圭織は長い髪をかきあげた。

「私に謝られても困る。
 スタッフもお客さんも気づいていなかったみたいだから
 もういいよ。
 それにしても矢口の勇気には感服だね
 よく告白したよ。すごいと思う」

圭織はそう言って立ち上がった。

「ああ、そうだ」
14 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:29
立ったまま話し出す。

「あのおまじないだけどね、
 あれはおまじないっていうよりも心理学だな」
「心理学?」

「心理学では『興奮状態の人は、恋をしやすい』なんてことがあるんだよ。
 ダットンとアロンの実験でね。断崖絶壁にあるつり橋を渡り終えた直後の人にアンケートをする。そのアンケート結果から、つり橋を渡った後の人は恋に落ちやすいって結果が出たんだ。つり橋を渡った直後の人は、怖い思いをして興奮状態にあるじゃない?ドキドキしててわけわかんなくなっちゃって、そこにかわいいコがいたら『このコにドキドキしているのかな?』って思っちゃう。
 興奮する原因はなんであれ生理的喚起、つまり人間の体の反応は同じなんだ。簡単に言うとどんな原因でも心拍数があがるという結果は同じ。怖くてドキドキしても恋してドキドキしても人には区別がつかないわけね。原因不明の興奮状態に陥ると、人は無意識のうちに自分の情動を外部要因に帰化しようと必死になる。何を自分はドキドキしてるんだって必死に原因を探索するわけね。
15 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:29
 それで目の前に人が立っていたとする。この人が自分のドキドキの原因かも知れない。恋をしていると勘違いするわけね。原因は何だと思って、目の前の人物の魅力を一生懸命探し出すわけ。これを認知的探索という。身近にいる人の魅力って、探せばそこそこ見つかるじゃない。結果、本当に好きになる。
 斜陽のコンサート中の興奮状態でキスなんかされたらドキドキしちゃうでしょう。なっちはそれで『ああ、自分は矢口が好きなのかもな』って意識しちゃったんだよ。意識し出したらもう止まらない。どんどん矢口のことがかわいく見えてきちゃう」


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「え?」
「反応が鈍い」
16 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:29
「いや専門的過ぎるから……」

本当はよくわかっていた。
ずっと前から知っていた。

「難しかった?」
「まぁ、いいたいことはわかった」

勘違いから始まる恋もある。

「なっちは、恋をしていると勘違いしてる。
 おいらは……」

なっちを
だまして……

「それでも幸せになりたかった」
17 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:30
嘘でもいい。
勘違いでもいい。
そう思ったはずだった。
なのに今さら……

「矢口?」

涙が出てくるなんて。

「おいらずるいことしたよ!
 あんなおまじない信じて、
 なっちの気持ちを無視して。
 すげぇ自分勝手なことばっかり……。
 こんなの、本当に好きって言えないよ!」

どうして自分は
引き返せないところまで来てから
後悔しているんだろう。

あのときの勇気は嘘。
あのときの想いは、
自分の恋心はみんな嘘。
18 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:31
「ねぇ矢口。
 気持ちに、本物とか偽者とかってあるの?」
「……え?」
「かわいいと思ったから見てた。
 一緒にいたかったら一生懸命話しかけた。
 気持ちを知ってほしいと思ったから告白した。
 矢口がしたことに嘘なんてないよ。
 それに……」
「それに?」
「きっかけはどうでもいい。
 今の気持ちを大切にしてやらないと。
 今のなっちは……本気で矢口が好きだよ」
19 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:31
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「えっ?」
「鈍い……」
「圭織……」
「よかったね矢口。
 そのおまじない、結構効くよ!」

圭織が出て行き、
なっちが
入ってきた。
20 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:31
その笑顔……

あのときの想いが
あのときの勇気が
よみがえってくる。

「やぐちぃ〜」

歌っているときの満面の笑顔も好きだけど、
照れ隠しに微笑むなっちもかわいいよ。
21 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:31
なっちが抱きついてきた。
いつもとちょっと違う暖かさ。

「ねぇなっち?」
「ん?」

夕日の中で、
伝えた想い。
本物だって、
誓うからさ!

「なっち!大好き!!」
22 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:32

-The sunset initiation proved to be a real magic-
23 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:32
おわり
24 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:32
25 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:33
26 名前:5 サンセット・イニシエーション 投稿日:2004/03/14(日) 01:33

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